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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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一回を求めて

「立花 涼さん、トランクから機材を取り出すのを手伝ってもらっても良いか?」

「え、あ……はい」

「すまない。少しばかり、足をやられてしまってね」

「足……足?!」

「左足の骨に少しばかり違和感がある。折れてはいないが、ヒビでも入っているのだろう。ログアウト後、応急処置はしたが、やはり踏ん張ると痛むのでな」

「それで運転していらしたんですか!?」

「車のペダルはどちらも右足で踏む。左足に違和感があってもなんら運転に支障は出ない。しかし、危険運転ではないが、控えるべきだとは思っていたよ」

 片足を庇うような仕草なんて一つも見せていなかったから、神楽坂さんには“痛み”が伴っていないんだと思っていた。若い世代の脳への強い刺激が勘違いを起こすことで、ゲーム内の怪我を100%ではないにせよ、どこかしら現実に引きずってしまう。ならば、神楽坂さんは生年月日を見た上では、アラサーだったので、そういった強い刺激が脳に与えられても、引きずることはなかったんだな、と……けれどそれは、違ったらしい。

「人と言うのは不思議な生き物だ。協調性に引っ張られたのか、排他的な一面に痛みを覚えたのか。私ぐらいの歳であっても、起こることは起こる。また一つ、良い研究材料を得られた。自らが体感しなければならないとは思わなかったがね」

 左足に痛みを覚えながら車を運転していた神楽坂さんは、恐らく僕にこのことを話したら、乗車しないだろうと踏んで隠していたのだ。やはり大人はズルい。重要なことをあとになって言う。

「怒っているのか?」

「これだから年上は、大人は嫌いなんです」

「そういう君も、いつかは大人になる」

「それは、そうですが」

「だから、子供の間にしかできないことを楽しむことだ。勿論、大人にも大人の嗜みはあるが、それでも子供でいられる時間より大人でいる時間の方が長い。だったら、短い子供でいられる時間を、悔いなく過ごすことだ」

「……たとえば?」

「愛し合う意味を知ってみてはどうだ?」

「臨床心理士が不純異性交遊を推奨するなんて思いませんでした」

「確かに、悪いことを教える大人の図ではあったな。だったら、恋をしてみれば良い。恋愛を望んでみても良い。いわゆる青春だな」

 僕の通っている病院の臨床心理士と同じようなことを言う……って、この人も僕みたいな人を中心としたカウンセリングを行える臨床心理士だったか。

 神楽坂さんは優しい笑みを浮かべたまま僕の行動を待っている。ちょっとだけ恋愛について考えたような、そんなフリをしたのち、僕は車から降りて、その後ろに回る。そして神楽坂さんがトランクを開けた。


「これって……」

「医療用だよ。私なりに考えた末の、試作機ではあるが」


 この方法なら、可能かも知れない。少なくとも、脳死ではないのなら……その心の深奥へと入ることができる。ただし、「土足で」という言葉を付け足さなければならないけれど。


『お前は、彼女が日に日にやつれて行く姿を見ていないだろう!?』

『テメェは見た目で女を好きになったわけじゃねぇだろうが!』

『健康だった彼女の体が衰えて行く様を見ても、悲しく思っては行けないと言うのか!?』

『なら、女を放り出そうとしている理由はどこにあるんだよ!!』

 軽機関銃で弾幕を張り、パラディンの防御システムが無感情にそのどれもに反応し、弾いて行く。しかし、そうすることで損傷ゲージは空にできないかも知れないが、状態異常ゲージは確実に満たされて行く。アサシンがパラディンと距離を取り続け、そして軽機関銃での攻勢を止めない限り、これは続く。バイオは尖鎗の穂先が射出されることを見ている。それで拾えそうだった刀は弾き飛ばされた。だから、その射出について注意していないわけがない。サールサーク卿がもし同じように穂先を射出し、軽機関銃を弾こうというモーションを見せたとしても、バイオは意地でも軽機関銃を守るように操縦するだけだ。


 速度では装甲を外したパラディンが勝っている。距離も詰めようと思えば詰められる。でも、アサシンはそれよりもトリッキーに立ち回る。近距離まで迫られても、防御と逃げに徹してしまえば、凌げないこともない。

 なにより、防盾を失っている点がサールサーク卿にとっては痛手である。防盾さえあれば、まだ軽機関銃の弾丸を凌ぎ、突撃も出来た。防御システムを使わずに済んだかも知れない。でも、シャロンによってそれを壊された。だから、攻撃的に立ち回れ、且つ防御に隙の無いようにと展開した。それが仇となっている。

『彼女の傍に居続けてなにが残る!?』

『俺に訊くんじゃねぇ!』

『彼女を地獄に突き落とした張本人が言う台詞じゃないな!』

 パラディンはしかし、突き進むしかない。防御システムの状態異常ゲージが満たされる前に、アサシンを撃墜するしかないんだ。

『俺が遠因にある。俺が全ての始まりだってのも認める。だが、俺の知っているテメェは、諦めるような言葉を口にするはずがないんだよ』

『何年、待ち続けて来たと思っている!?』

『何年だろうと待てば良いじゃないか』

『軽々しく言うな! この月日が、歳月が、どれほどの重みとなっているか!』

『自分が愛している女を重みと言う時点で、やっぱりテメェは俺の知っているテメェじゃねぇよなぁ!!』

 サールサーク卿が費やして来た日々は、御巫さんのために捧げられ続けて来た。それだけ長い間、諦めることなく御巫さんの傍に居続けた。


 なのに、どうして今になって、諦めようとしているのか。


 誰かに(そそのか)されたようにしか思えない。

「……朽葉。お前しか居ないか」

 “誰か”という曖昧な表現は遣わなくて良い。まずそうとしか考えられない。サールサーク卿が『RoS』に名前を貸した時点で、あいつが心の隙間に、闇に、スッと入り込んだのだ。そして静かに囁き、壊す。どうにか保てていた心を、意図も簡単に崩壊させる。


 だとしても、どうしてサールサーク卿じゃなきゃならないのか。どうして僕じゃないのか。朽葉の嫌がらせの全ては、僕へと繋がるはずなのに。


「考え込んでいないで、運んで欲しいのだが」

「あ……御免なさい」

 僕はそこで間を置いて訊ねる。

「でも、サールサーク卿は外の音が聴こえます」

「ああ、それは聞いた。だから、病室には入らない。廊下で待機する。君の友人が、サールサーク卿を引き戻すその瞬間まで」

 勝負が終わって即、病室に入るという算段らしい。なんとも卑怯というか、姑息というか、なんだか悪いことしているようにも思えるのだが、御巫さんに近付けるタイミングはその直後ぐらいしかないのだ。負けて、放心している最中しか、サールサーク卿の御巫さんを守ろうとする意志の隙を抜けられない。


『どうしてお前は、いつもいつも俺の前に立つ?!』

 パラディンがアサシンに詰め寄り、尖鎗がその腹部を掠めた。

『テメェの前に、俺が立っている?』

『違うとでも言うのか?』

 ここに来て、パラディンを操縦するサールサーク卿の腕前が上がっている。さっきまで逃げと防御に徹していたバイオのアサシンに、良いように振り回されていたのに、速度も、そして無駄なモーションも全て排除するかのようにして、より一層の加速を得ている。だから今のような近接攻撃にまで及ぶことが出来た。

 速い。ヴァルキュリアほどじゃないけど、もうアサシンのスラスター性能では逃げ切れない。

『……ちげぇ。ちげぇんだよ、松本』

『なにが違う!?』

『俺はテメェの前に立ってねぇ。お前が、俺の前に立っているんだよ。ずっとずっと、俺の前に、立ち続けて……真っ直ぐで、実直で、誠実で、真面目で、俺とは全然違う苦しい生き方をしているクセに、そのレッテルに苦しんでいるはずなのに、お前は人生を楽しんでいた。逆に俺は、不貞腐れて、自分のことが嫌いで、後ろ向きで、人に悪者扱いされることに文句を言わずに勝手に諦めて……それでテメェと話していて、いつもいつも……憧れていたんだ』

『憧れていた……?』

『勝てる要素なんてどこにもねぇ。負ける要素しかない。そんな俺が、陰でお前が光。だけど本当に眩しい光に対して、俺はそれに値するだけの陰になっているのか……怖かった。なにが陰だ……俺はただ、お前と一緒に肩を並べて立ちたかった。同じように、苦しい生き方をしてはいても、そのレッテルに挫けず、頑張りたかった』

 アサシンのスラスターが先ほどより明らかに大きな音を響かせる。

『だから、松本。邪魔をする気はねぇ……テメェに言われたんなら、関わらないでいようって、思った。でもな、すっげぇ悩んで……お前と戦う理由、自分にずっと問い続けて、やっとこさ見つけられた。遠因だとか、彼女だとか、そんなもんはずっと俺が引きずる苦しみだ。それを放り出したいからって理由じゃ戦えねぇ。だから……俺は、素直に勝つことにした。たった一度でも良い。テメェに、ただこの一回だけで良い。勝って、テメェの目を覚ましたい。テメェにどれだけ恨まれるかは分かんねぇがともかく、ずっとずっと溜め込んでいた、テメェに勝ちたい。その思いだけだ。ただ……それだけだ』


「オーバードライブ……しばらくの間、スラスターとバーニアの性能が上がる……代わりに終了後、それらが大幅に低下。今のランクだと、時間制限は20秒」


 その短時間に、全てを詰め込んで、アサシンがパラディンを押し飛ばした。

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