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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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掴んだのは

『ちっ!』

 落ちて行く刀へ向かって、アサシンが頭部を下へと向けて、一気に降下する。

『させるか!』

 同じくパラディンも急降下を開始し、アサシンをエネルギーランチャーで牽制しながら追い掛ける。

「『炎熱』のエンチャントが付いている刀が降下限界を越えたら、拾えなくなる。それまでになんとか……!」

 あれはいわば虎の子だ。あの刀がなければアサシンがパラディンに打ち勝つ要素が消失する。バイオも分かっているからこそ、刀をもう一度、手にするためにパラディンとの交戦を中断して拾いに行ったのだ。

『この速度なら間に合うわ!』

『お願い、間に合って!』

 ティアとルーティの願い通り、アサシンは降下限界に至る前に刀へと近付き、手を伸ばす。


『目の前で希望を奪われる気持ちをお前にも味わってもらおうか!』


 アサシンの後方で尖鎗を構えたパラディンが、穂先を射出する。アサシンがもう少しで手に掴み取ろうとしていた刀はその穂先に強く打ち付けられて弾き飛ばされ、降下限界を越えて落ちて行ってしまう。


『クッソ、がぁ!!』

『だが、これぐらいでは俺が味わい続けて来た苦しみには程遠い』


 急停止し、更に翻ったアサシンの眼前にパラディンが詰め寄り、射出した穂先を巻き取った尖鎗を横薙ぎに振るい、打ち飛ばす。

『もっと苦しんでもらわなきゃ釣り合いが取れない』

『釣り合いってなんだ? 苦しみを天秤に掛けるんじゃねぇ!』

『重さは人それぞれだ。お前は軽く、俺は重い。天秤は必要不可欠なことだ。光と陰、そうやって喩えて来たお前なら分かるはずだ』

 アサシンが武装収納から直剣――ソードを抜いて、パラディンに切り掛かる。その剣戟のどれもを装甲の塊が弾き、パラディンは必死にソードを振るい続けるアサシンを嘲笑うかのように、動かず、ただ見つめ続ける。

『足掻いても足掻いても、手応えの無いこの状況。お前の中には絶望の二文字が浮かび上がっているんじゃないか? だが、俺があの時に感じた絶望は、これよりも深い』

『ゲームで起こったことと、現実で起こったことを重ねたところで、重さも深さも違うに決まってるだろうが!』

 剣戟に対して、パラディンは尖鎗の一振りでアサシンを打ち飛ばす。刺突を繰り出さないのは、バイオを弄んでいるからだ。気持ちが昂ぶったところで、バイオがこれでもかと苦しみ、絶望したところで始末する。そういう筋書きがもうサールサーク卿の頭の中には出来上がっている。

「交渉は終わった。医師として活動していたことが功を奏したな。名前と略歴を調べ上げられたが、すぐさま院長に取り次いでもらい、そこから担当医の許可も下りた。臨床心理士としてのキャリアでは、認めてもらえていなかったことが不愉快極まりなかったが、とにかくは機材を運ぶ準備は整った。そっちはどうだ?」

「……駄目かも、知れません」

「駄目? 駄目だと? 立花 涼さん」

 辛辣な言葉を浴びせられるだろう。この賭けを持ち出したのは僕なのだから、相当の言葉をぶつけられる覚悟をしなければならない。

「君の友人は、諦めているのか? その意志は、その覚悟は、そしてその目は、もう死んだと言うのか?」

「……いえ」

「ならば、君が先に諦めてどうなる? 当の本人が諦めていない以上、我々が諦めるのは全てが水泡に帰してからにした方が良い」


『そろそろ分かっただろう? もうなにもかもが無駄だと』

 パラディンがアサシンのソードを弾く。咄嗟に武装収納の刃で前方を薙ぎ払い、僅かに出来た隙に武装収納から新たに取り出そうとしているモーションを狙って、尖鎗が機体の左腕を襲う。アサシンが武装収納と左腕のジョイントを外し、強烈な刺突によるダメージを免れる。けれど、武装収納を切り離したことでアサシンが使える武装はもう限られてしまった。ズレていた重心も元通りになって、次は間違い無く、パラディンの刺突が機体を貫いてしまう。

『苦し紛れも大概にしろ。その諦めの悪さは昔から変わっていないようだが……そうか、昔から変わっていないから、お前はいつまでもガキなのか』

『人ってのは昔から変わらねぇ方が良いってのと、変わった方が良いクソ野郎のどっちかだろ。テメェの場合は、後者だよなぁ』

『変わったことは認めるが、その言葉は訂正してもらおうか』

 連続の刺突をアサシンが紙一重で避けながら、パラディンから距離を取る。

『逃げるのか?』

『少し離れただけで逃げていると思ってんじゃねぇよ。なんだテメェは? そんなに俺に密着していて欲しいのか?』

『気持ちの悪いことを』

『はっ、俺だって気持ちが悪いってもんだ!』

 サールサーク卿の挑発に対し、挑発で返しつつバイオはアサシンとパラディンの距離を見極めつつ、そして高度も確かめながら、右手に握っている武装の銃口を向ける。

「実弾の軽機関銃……そんなの持ち出したところで、全て防御システムに阻まれる」

『やめろ、もう笑えない。そして、つまらない』

『その鉄壁の防御が、テメェの築いた自分自身を守るためだけの殻だってんなら!』

 軽機関銃からテンポ良く断続的に弾丸が発射される。

『どんな手を使ってでも破ってやる! 心底冷え切っているそこを、更に冷やすことになってもなぁ!!』

「冷やす……? まさか」

 軽機関銃から放たれた弾丸は全てパラディンへと命中し、そのどれもが防御システムに阻まれ、機体そのものには一発足りとも届いていない。しかし、最初は黙って弾丸を受けていたパラディンが突然、慌てたかのように動き出し、銃撃から逃れるように動き出す。

『リョウの兄貴ー、なにがどうなっているのー?』

「あの軽機関銃は『氷結』のエンチャントを施されているんだ。遠距離武装にエンチャントを付けるなら『氷結』以外が望ましいし、状態異常も大して期待しちゃ行けない。ちょっとした機体の操縦で銃撃からは逃れられてしまうから。それに狙撃ならともかく、銃撃じゃ狙った通りの部位を連続で当て続けることなんて難しいを通り越して不可能に近い。でも、あのパラディンは装甲全てを自動追従式の防御システムにしている。つまり、パラディンを狙えば、確実に装甲の塊に当たる。どこから撃っても、どの部位を狙っても、装甲の塊が阻む」

『あーなるほどねー。装甲の塊は損傷ゲージと状態異常のゲージを共有している。だから、損傷ゲージは空に出来なくても、“状態異常ゲージが満たされれば全ての装甲が強制破壊で砕け散る”。機体に付け直しても良いけど、それらは分割されるだけでリセットされるわけじゃないから、いつかは限界に達するし、防御を捨てて動けていたパラディンがまた防御に回らなきゃならなくなる』

 守ることがパラディンを駆るサールサーク卿の信条だ。けれど、防御を捨ててでもバイオを潰したいと思っているあの人が、ここでまた装甲を付け直すような選択はしない。

 だって、あんなに綺麗なマクロを組んで、奥の手として用意したのに、それさえも自分で自分を否定してしまったら、現実の苦しみが押し寄せて来る。ゲームに酔っているサールサーク卿にとって、それは苦痛以外のなにものでもない。


『お前はそうやってまた! 俺をコケにするつもりか!』

『馬鹿を言ってんじゃねぇぞ。テメェから吹っ掛けて来た喧嘩だ! 使えるもんは全部使う! それだけだろうが!!』


 武装収納を取り外す間際、ギリギリに掴んだのが『氷結』のエンチャントの軽機関銃。バイオが自ら答えを導き出して取り出したのか、それともあの寸前に選ぶ時間など無く、なんでも良いからと取り出したのがたまたま、パラディンにとってクリティカルヒットする代物だったのか。それは分からない。

 だけど、ほんの少しだけ神様はバイオに微笑んだような、そんな気がした。

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