激情に揺れる
尖鎗を避け、続いて横振りによって襲い来る打撃もかわしたアサシンが中空で機体を回転させながら戦斧をパラディンに叩き付ける。が、破片のように散らばっていた装甲が一ヶ所に塊を作り、刃が素体へと届くことを阻む。装甲の塊を削るように戦斧を振り抜きながら、ウェイトを殺すようにしてブーストを掛け、アサシンが体勢を整える。パラディンは構わず尖鎗を振ったところから前方へと引き戻し、次の攻撃へと移ろうとしているアサシンへと刺突を繰り出す。スラスターを弱め、左腕の自重に任せて降下したアサシンがこれを避け、今度はパラディンの左足に戦斧を振るう。しかしこの攻撃も、破片へと戻っていた装甲が再び塊となって阻まれる。
「単純な攻撃じゃ絶対に届かない」
損傷ゲージを空にして、自動追従の防御システムを破壊する。それしか方法は無いのだが、パラディンはタンク役を自ら担えるほどの防御力の高い装甲を揃えていたはず。それらが一つに纏まっているとすれば、数回ではなく十数回の試行が必要になる。ひょっとしたら数十回かも知れない。これで相手が一切動かない木偶であるなら、簡単なことなのだが、当たり前だがそうではない。アサシンの行う攻撃の回数分以上の攻撃の機会がパラディンには与えられる。それも防御を気にしない突撃を主体とした動きが可能になる。
『ちっ、正々堂々もありゃしねぇな』
『お前なんかとの真正面からの殴り合いなんて真っ平御免だ』
アサシンは攻撃を繰り返し、パラディンもまた尖鎗を振るい続ける。しかし、アサシンがパラディンの絶対防御を崩せる予兆はどこにも無く、パラディンがアサシンのクセの有る機体を穿つことは難しい。しかし、サールサーク卿はコツさえ掴んでしまえば、アサシンにいつかその尖鎗で穴を空けることぐらい出来てしまうだろう。バイオが圧倒的に不利だ。
『なーリョウの兄貴? ああ言うのって、なんか攻略法ないかなー? 裏技的なさー』
「裏技っていうか、正攻法ならあるにはあるし、バイオもそれには気付いていると思う」
『本当かなー? あたしにはちっとも分かんないよー』
正攻法は、ある。斬って斬って斬りまくるよりも、有効な攻略法だ。問題は、バイオの武装収納の中に“それ”があるかどうか。
中空で繰り広げられる激しい近接戦闘ではあるが、時折、アサシンは距離を置いてエネルギーライフルを撃って防御システムの動きを見ている。サールサーク卿はバイオが距離を置く理由には察しているから、構わず連射されるビームの中を突っ込んで行っている。
『これが、スズの見たかった景色?』
撃墜されて、もう見守るしか術の無くなったシャロンから通信が入る。
「そう思う?」
『このままじゃ兄さんが』
「君のお兄さんは、こんなことじゃ諦めない」
そこでシャロンとの通信が切れる。僕の言葉を信じているのか、それとも、もう話をしたくもなくなったのか。どっちだろう。
「もうすぐ病院に着く。戦況はどうだ?」
「まだ決着はついていません」
僕はヘッドセットを外し、神楽坂さんに返事をする。こうしないとサールサーク卿が合同通信からの繋がりで僕の声を拾いかねないからだ。そのため、小型HMDから見える映像は無音となり、アサシンとパラディンの攻防を感覚的に察することしかできない。
「なら、病室には入れないか」
「はい。サールサーク卿は“外の音”を聞き取れます」
「私たちが入れば、途端に気付かれるということか」
「知らない足音や声がすれば、ゲームを無理やりにでもやめてしまいます」
そうなると、バイオとの因縁は中途半端なところで終わり、そしてサールサーク卿も格下と思っている相手に負けることもないため、結局、“愚者”から救えない。更に、御巫さんへの神楽坂さんによる医療行為も出来なくなる。
「私は病院に入り、これから交渉に入る。上手く行けば車のトランクから機材を運ぶ準備に移る」
「分かりました」
ヘッドセットを付け、音を拾う。
『お前のやっていることは悪足掻きだ。どうやっても俺の機体を傷付けることはできない』
尖鎗の打撃がアサシンの握っていた戦斧の刃を捉え、そして力尽くでその手から弾き飛ばした。
『悪足掻きをしていることぐらい、俺だって分かってんだよ』
パラディンを――正確には防御システムが作り出す装甲の塊を蹴り飛ばして、アサシンは武装収納に畳んでいた刃を展開させ、更に中から刀を引き抜く。
『だとしても、俺は最後まで悪足掻きをやめる気はねぇからなぁ!』
アサシンを奔らせ、左腕を薙ぐように振るってパラディンの尖鎗を受け止める。そして右手の刀が斬撃を繰り出す。
『無駄だ』
『無駄かどうかは!』
刀の刃紋が赤く輝き、熱を帯びる。
『試してみなきゃ分かんねぇだろうが!!』
熱を帯びた刀の斬撃は装甲の塊に阻まれこそしたが、弾き返されずに綺麗に振り抜かれ、そしてアサシンは尖鎗を武装収納の刃で弾き、高度を上げる。
『エンチャント……だ、と……?』
「そうだ。それが正攻法。用意していたわけじゃないだろうけど、入っていたんだ……」
『炎熱』のエンチャントはスリップダメージ。装甲や防御力を無視して耐久力を直接削る。斬撃は装甲の壁に阻まれたとしても、そこに含まれるスリップダメージだけはパラディンの耐久力を削ぎ落とす。けれど、斬撃自体のダメージは装甲の塊に受け止められてしまうから、その数値は微々たるものだ。でも、装甲を全て外したパラディンの耐久力はガタ落ちしている。だから、その微々たる数値が、積み重なれば積み重なるほどに、アサシンがパラディンを追い詰めて行く結果になる。
『どうした、松本? 今の声は少し焦っていたなぁ? ってことは、これは有効ってことだな』
『ゴチャゴチャと、細々と……この俺を、苛立たせるな!!』
機動力では装甲を外したパラディンが上だ。だから、アサシンはその移動先を読んで切り崩して行かなければならない。そんなこと、バイオは百も承知だろうけど、操縦の差は埋まらない。だからパラディンの唐突な回避や、挙動の変化には付いて行けず、尖鎗の刺突は避けられても打撃だけは徐々に対処し切れなくなって行く。
『俺がテメェを苛立たせることはいつものことだろうが。テメェだって俺を苛立たせることは沢山あった』
『開き直るお前のことが大嫌いだった』
打撃を受けたアサシンが、焦らずパラディンに近寄り、斬撃を浴びせる。
『良い子振って無理をしているテメェが嫌いだった』
旋回し、パラディンが片足でアサシンを蹴り抜く。
『顔で判断されるお前と違って、俺はいつだって評価されなきゃならない苦痛を味わっていた』
開いた距離を詰めようとするアサシンに対して、パラディンがエネルギーランチャーを放つ。
『テメェみたいに努力できれば俺だって実力で先生に可愛がられたかった』
ビームを避け、擦れ違いざまにアサシンが刀で切り抜く。
『嫌なこと、辛いこと全部、腹の中に詰め込んで……なのに、俺の前では本音と言いながら真実を口にしないお前が!』
『努力をひた隠して、苦しいことがあっても笑って誤魔化して、なんでも背負い込むクセに俺にはなにも手伝わせてくれないテメェが!!』
『『俺は大嫌いだった!!』』
この攻防の裏にあるのは、バイオとサールサーク卿の感情の激突だ。昔から溜め込んでいたもの、吐き出せなかったもの、吐き出したくても吐き出さない方が良いと思ったものが、激情と共に言葉となって迸っている。
「僕がこんな風に、感情的に戦うことを倉敷さんは見てみたいって言うけれど……」
感情を爆発させたあとに、僕が僕らしく在ることが出来るのかどうか……。
アサシンは引き下がらず、パラディンも勿論、一歩も退くことはない。斬撃に対して、パラディンは回避も織り交ぜて、アサシンの背後を取る。
『その刀は邪魔だ』
振り返りながらアサシンは武装収納の刃を振るうが、数秒遅く、パラディンはアサシンの振り返りに合わせて移動し、尚も背後を取った状態から僅かに高度を上げたところで、握り締められている刀を力強く蹴り飛ばした。




