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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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予想外の容姿

『下らない。無価値な人間だ。私と互角に渡り合おうなどと思い上がりも甚だしい。なにもかもが醜い。綺麗事や強がりを並べ立てたところで、内側にあるものばかりは隠せない』

 パラディンが尖鎗を手元で回し、バランスを整える。その間にサールサーク卿は合同通信でシャロンをそのように貶していた。

「……じゃぁ、あんたは価値のある人間なのかよ」

 小さく呟く。けれど、またこの言葉をサールサーク卿は負け犬の遠吠えと受け取るに違いない。大声で文句を言ったところで、あの人の心にはちっとも届かないのだ。僕が脅しや怒りを向けられても、ちっとも心に響かないのと同じように、心が冷え切っている。全てを遮断している。だからこそ、平気で人を見下す言葉が口にできる。

「シャロンがやられたなら、もうジッとしているわけにも行かないか」

 現実のミスターとどうにかしてコンタクトを取りたいのだが、なかなか良い答えに辿り着けない。けれど、良くはない答えには辿り着いている。そこに賭けるしかないだろう。

 僕はヘッドセットを外して、電話帳に登録している番号に電話を掛ける。


『勝ったと思った瞬間に隙が出来るのは、あなただって同じみたい』


 外したヘッドセットから漏れ聞こえたシャロンの言葉。そして送られて来る映像には瓦礫の中から火を噴き出しながらも蠢き、そして疾走を開始したヴァルキュリアが捉えられていた。右足、左腕のジョイントを外し、頭部パーツもほとんど破損し、胸部については貫かれていて穴が空いている。そんなボロボロの状態でありながらも、その機体は全速力でパラディンへと接近する。


『これは昔、私が言われた台詞。まだ、ヴァルキュリアの耐久力は尽きてない!!』


 パラディンが防盾を構え、そのままシールドバッシュの体勢へと移る。構わずヴァルキュリアはパラディンに激突し、その衝撃でアーマースカートが破損する。

『はっ、今にも自壊しそうな機体で突っ込んで来てなにが出来る!?』

『あなたの盾をぶち壊すことが出来る』

『負け惜しみを』

『負け惜しみじゃないとしたら?』

 パラディンの防盾にヴァルキュリアが左手に握るハンドキャノンの銃口を押し当てた。

『カンプピストルでも良かったんだけど、持ち替えている間に壊れちゃいそうだから。でも、この銃の威力なら盾ぐらいは吹き飛ぶ』

『往生際が悪い!』

 振るわれる尖鎗の打撃をヴァルキュリアは下半身のジョイントを外し、スラスターで機体を僅かに逸らすことで避ける。尚も銃口はパラディンの防盾に押し当てられたままだ。

『生きているんだから、私でもこれぐらいは足掻くの!!』

 ハンドキャノンから放たれた銃弾が防盾の損傷ゲージを意図も容易く削り取ったらしく、穴が空いたところから崩壊が始まる。そもそも、ハンドキャノンをそのような近距離で撃たれてしまえば、大抵の防盾は持ち堪えることさえ困難だろう。


 けれど、ヴァルキュリアは大きな反動で機体が瓦解して行き、ハンドキャノンも銃身から焼き切れ、壊れて行く。


『あとは、お願い……』


 それは、バイオに託された言葉なのかそれとも僕に託された言葉なのか。けれど、それだけ言い残してシャロンは瓦解するヴァルキュリアと共に地上へと落ちて行った。


 呆然としたくなるところだったが、長いコール音のあとに、向こうが電話に出たためにすぐさま現実に戻される。


『もしも、』

「お願いがあるんですけど」


『おや、どうかしましたか? 立花さん。なにか怖いことでも? それとも、逃げ出したいことでも?』

「あなたの先輩の容姿について、教えて欲しいんです」

『容姿……先輩? どうして?』

「詳しくは言えませんが、分かりやすい特徴かなにかを、出来るだけすぐに」

『個人情報はそう簡単に教えては行けないものだと、あなたはいつものように言っていたと思いますが』

 正論である。だけど、もうこの人以外にミスターの現実の容姿を知っている人は居ないのだ。

「僕は……奇跡に縋ろうとしています」

『奇跡?』

「はい。奇跡なんて、起こらないから奇跡って呼ぶんだって自分でもよく思っていることなんですけど……偶然か、はたまた必然か、そのどちらかが思いもよらず、良い方向に傾いただけに過ぎない事象だとも、思っているんですけど……でも、僕は、その……出来ないと決め付けてしまっていては、奇跡に近い偶然も必然も起こらないんじゃないか、と思い、まして……」

『立花さんは、とても素直な人ですね』

「嘘をすぐに見破られることと素直は違うとは思いますし、僕のは、根が捻じ曲がっているとか、そういうのなだけで……」

『立花さんが私の小言を耳にして、それをしっかりと憶えていたことなんて今までありましたっけ? ですが、なるほど……あなたが思い出してくれて良かった。どうにかなるかも知れません。可能性があるというだけで、確実ではありませんが……奇跡が努力と感情を積み上げた先にあるのなら、きっと、この一時(いっとき)に、私の小言を思い出したそれこそが、奇跡の始まりの一つになるのかも知れません。あなたと奇跡の捉え方は異なるようですが』

「努力と感情を積み上げた先……」

『ええ、だって今、あなたは努力をしているんじゃないですか?』

「……はい」

『それで、私の先輩の特徴ですが、恐らくそれほど困らないと思いますよ。努力家で、研究に一途で、けれど人の幸せのために粉骨砕身を続け、自分の行い一つで、ちっぽけでも一つの幸せが訪れるのなら構わないと思っているような人で……確かに人を小馬鹿にするようなところもありますけど、それは自身の容姿を馬鹿にされ続けて来た反動であって、そこまで性格が悪いわけでもないんです』

「容姿を馬鹿にされ続け……?」


『年齢は私よりも二つほど上なんですが、髪の毛は五十代かと思うほどの総白髪、なのに体は中学生男子相応。聞けば、小学生の頃から髪の毛は白かったそうです。中途半端なアルビノ、みたいなものなので免疫力に不安があるとか、他の機能が他者より劣っているというわけでは無いらしいんですが、体が中学生男子相応であるのは、やはりDNAの突然変異以外の何物でもないと、私は思っています。ですが、そんなあの人を、私は誰よりも尊敬していますよ。馬鹿馬鹿しいくらいに無茶なことを言って来ますけど、人としては、強い精神力の持ち主であると、思いますから』


 リラクゼーション施設から出て来た中学生相応の背丈で、スーツ姿の男性が僕を見つけて近付いて来る。頭に被っていた帽子を脱ぐと、そこには容姿不相応な白髪が広がっていた。

「こんにちは……いや、こんばんはかな。立花 涼さん」

 ゲーム内でよく聞いた声だ。


 こんな、僕よりひょっとしたら背の低い人が……ミスター・ルールブック?


「えっと……」

「挨拶には挨拶を。それが礼儀というものではないかな?」

「……こんばんは」

「君は僕のことを見て驚いただろう。けれど、私は君のことを後輩からよく聞いている。そう、とても手の掛かる患者だと、ね。神楽坂 入鹿(かぐらざか いるか)だ。この容姿であるから、よくああいった施設では年齢の確認をされるのだが、免許証を見せると大抵、誰もが驚き、そして謝る。そのたびに私は辟易するのだ。ああ、この体は実に面倒この上ないなと。そして同時に、この体に、私という意思があるのだという実感する」

『どうやら、会うことが出来たようですね……ですが、先輩がどうしてあなたの居るところに? 確か、最近は九州を拠点にしていたと思うんですが』

 僕の手にあるスマホを神楽坂 入鹿さんは手に取る。そして僕にも聞こえるようにスピーカーモードに切り替えた。

「もしもし、後輩」


『こうは……先輩!? 九州で働いていたんじゃないんですか?!』


「東京に行き、東北から北海道に、沖縄を巡ったあと、九州にしばし腰を落ち着かせていたが、ようやく近畿に戻って来た」

 あともう少しで日本の地方を全てコンプリートしそうなことを言っている。

『戻って来た……って、そんな軽く言えることじゃないでしょう?! 自分の職種を考えて下さいよ!』

「医師免許と臨床心理士、外科と小児科、内科、耳鼻科、精神科も一応診ることが出来る。医師免許というのは外科医師免許、内科医免許などと、ちゃんと分けて持っておきたいものだ」

『そうなったらそうなったで、あなたのことですから面倒臭いと言いそうなんですが』

「ああ、それは実に面倒臭い」

『自分の立場を忘れていませんか?』


「なに、飯を喰うことさえ出来れば、好待遇でなくとも臨時医師として入ることは出来る」


『私は先輩が一所に落ち着いていらっしゃらないと不安なんですが』

「君は本当に融通の利かない子だ。しかし、昔ほどではないな。昔はどんなことがあっても、患者に私のことを話すなどという馬鹿なことはしなかったはずだが」

『私にも色々あるんですよ、色々!』

「それはその通りだろう。人生には色々なことが付き物だ。それでは、失礼するよ。なに、万事上手く行けば君のところにも顔を出すよ。ただし、上手く行かなかったならば面倒になって、今度は四国にでも行こうかと思っているところだが」


 そこでスマホの通話を切った。向こうがなにかを言おうとしていたように僕には思えたのだけど、気にも留めていないらしい。


「それでは行こうか、立花 涼さん。機材はもう車に積んでいる。病院の場所を教えてくれさえすれば、あとはカーナビに任せる。君を助手席に座らせるようなことはしない。怖ろしいだろう? 君より背の低い男が運転する車の助手席なんて」

 縦にも横にも首を振り辛い質問だったのだが、僕の顔を見て神楽坂さんは察したらしく、歳不相応な無邪気な笑みを浮かべたのち、駐車場へと足を向けた。

「ああ、そうだ。ゲームの方がどうなっているかは気に掛かる。ちゃんと見ておいて欲しい」

 言われ、僕は外したヘッドセットを再び身に付ける。


 年上に命令されているわけだけど、目の前に居るのが年上にどうしても見えなくて、なんだかその矛盾に心が拒否すべきなのかそれとも受け入れるべきなのかで激しく葛藤していた。

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