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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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利用される繋がり

 場所は確かに指定はしたが、容姿を知らなければ元も子もない。ホテルでは無く、リラクゼーション施設とはいえ警備は厳重。そもそも挙動不審にしているとガードマンに止められてしまう。そして僕は高校生だから、保護者が居ないと分かればそもそも中に入ることさえ許されない。


この施設には温泉もあって宿泊施設としても利用されているため、ネカフェのような自由度は低い。そもそもネカフェ自体が宿泊施設でもないのに宿泊機能を持たせている時点で、なにか色々とおかしいのではあるが、ネカフェのような場所がなければ深夜遅くに電車も走っておらず家に帰れないサラリーマンの方々が低額で雨風を凌いで、休憩するということが難しいから、あんまり強くおかしいとも口には出来なかったりもするのだけど、今の僕はミスターにネカフェでログインするように連絡をしておけば良かったと後悔している。


『やはり、あの男は危険だ。こうして遊び半分で貴様と戦っている場合では無いようだ』

『遊び半分?』

 ヴァルキュリアが急激な角度で切り返し、パラディンとの距離を詰めに行く。バイオとミスターの戦いは終わった。だとすれば、あとはパラディンをヴァルキュリアで落とすだけ。或いは、出来る限り耐久力を削ってバイオに繋ぐ。戦局が変わったのだから、戦法も変わるのは当然だ。

 パラディンは突撃して来るヴァルキュリアに対し、一切の動きを取らず、ショットガンを構えながら静止した直後に盾を構えて、押し飛ばす。引き金を引くより速いその操縦にシャロンはやや狼狽していたようだが、すぐさまヴァルキュリアを引き離そうと加速させる。

 右足に刺さっているアンカーの鎖をパラディンは巻き上げ始め、そして柄を動かしてさっきまでとは明らかに違う――ヴァルキュリアを引き寄せようとするか或いはその穂先が穿っている右足を引き千切ろうとする動きを見せる。


 さっきまでは泳がせていたけれど、カリキュレーターが撃墜されたことでサールサーク卿もチームとしての勝利に拘らなくて良くなってしまった。サールサーク卿も焦っているとも受け止められるが、枷や箍を外してしまったと言い換えると非常に危険である。


 動きを阻害されているヴァルキュリアのショットガンは鎖を狙う。寸前、パラディンがブーストを掛け、更に柄を振るって狙いが乱れるも、散弾の多くが鎖へと命中し、砕け散る。すぐさまヴァルキュリアは加速してパラディンから離れ、翻りながらカンプピストルに武装を持ち替えて、反動を付けつつだが一発、二発とパラディンへと撃ち込む。それらの弾丸を全て防盾で凌ぎ切ったパラディンが新たな穂先を柄に備え付け、尖鎗を持って更に加速する。


『パラディンじゃヴァルキュリアには追い付かない。なにを狙っているの?』

『んー、私には分かんない。リョウは分かる?』

 ティアとルーティの通信が入り、想像を口にする。

「尖鎗は騎馬兵における一般的な装備だけど、なによりも脅威なのは擦れ違いざまの一撃」

『擦れ違いざま? ヒット&アウェイってことなの?』

『違うわ、ルーティ。サールサーク卿がやろうとしているのは、ランスチャージよ』

「望月は近付いて銃で撃って離れる。でもサールサーク卿は、擦れ違いざまに尖鎗で貫く。騎馬兵のなによりも怖ろしいのはそのランスチャージ。馬力と合わさって繰り出される速度の尖鎗は、鎧すら穿つ。繋ぎ目を狙えば、体は引き裂かれる」

 ドラグーン部隊に取って代わられるまでの間、戦争をする上ではそれほどまでに騎馬兵は強力な駒だったのだ。


 馬力はブーストの加速で賄える。尖鎗の狙いを外さなければ、ヴァルキュリアの速度さえも利用できてしまう。静止する前にパラディンがヴァルキュリアに到達してしまえば終わりだ。


『構え方を変えた? まさか、突撃? それって……』

 シャロンは答えに行き着いている。さすがは読書家。中二病なことにも若干ながら知識が及んでいる。ティアはすぐにランスチャージという単語を引っ張り出して来たけど、歴史を習っている上で、そんな戦法はまず覚えないからな。


 ヴァルキュリアが速度を落とし、ステップダッシュを組み込みつつ、先ほどよりもトリッキーな動きを見せる。急加速と急停止による急角度の移動もまた相手を攪乱する上では有効だったけど、加速を逆手に取られるならば、この動きの方がサールサーク卿にとってはやり辛いだろう。


 なにせランスチャージは止まって放てる技じゃない。必ず動き続けなければならない。そして、移動速度は威力を高めるならば直線距離が望ましい。ヴァルキュリアがトリッキーな動きをすることで、まずその直線距離による加速を許さず、更に“擦れ違う”という現象すら起こさせない。

「これなら」


『貴様の後ろで、どうにも耳障りな声がするが』


 一瞬、なにを言っているのか分からなかった。しかし、すぐにそれが僕であることに気付く。「これなら」とは確かにシャロンの視点に切り替えた際に言ってしまった。けれど、個人通信に入ることもない小さな呟きだ。声量で設定している以上、シャロンにも届いていないはずだ。


 なにより、繋げていないのに、サールサーク卿に聞こえるわけがない。


『なるほど、貴様はあの時、私の元に訪れた者か。でなければ、リョウの声が入ってくるわけがない』

 シャロンの視点を切る。

「“外の音が聴こえる”っていう“異常性”の肥大化だ。シャロンと繋げているから、合同通信で僕の声がサールサーク卿に届いている……」

 “異常性”は現実よりもゲームの中の方がその力が肥大化する。ティアのクリティカル距離の読み取りがゲーム内限定であるように。シャロンの“先読み”が現実よりゲーム内の方が正確であるように、バイオの“異常性”が現実では発揮されず、ゲーム内に限ってだけ、システムすら把握しないレベルで気配が消え去るように――この“異常性”は今じゃ一回のミッション、対人戦では人一人に対して一度切りにまで弱まっているが、それでも“異常性”であることは変わりない。そしてルーティの“異常性”もまた、現実よりもゲーム内の方が強く働く。

 つまり、“愚者”に落ちているサールサーク卿には、自身がゲーム内に落ちている病院内の物音だけでなく、通信において繋がっている全員の声が入っている。

「理沙、倉敷さん……あと、大樹さんと奈緒。シャロンとバイオへの通信を切って。アドバイスはしないとしても、コクピット内の会話が聞こえるように設定しているだろうけど、すぐに切って」

 でないと全てが筒抜けだ。ランスチャージについては助言の一つもしていないが、シャロンがヴァルキュリアを操縦する際のその意図についてはティアやルーティに喋っている。それだけじゃない。アサシンとカリキュレーターの戦闘についてもオブシディやにゃおと話してしまった。だから、サールサーク卿には僕たちが思っている以上に、こちらの情報が集まってしまっている。

『賢明な判断だな、ブラリ推奨プレイヤー』


 まさかとは思うが、合同通信をわざわざ介していたのは観戦しているプレイヤーの声が僕との接続からシャロンやバイオの視点に至っている際に、自身に届けられるようにしていたからじゃないだろうな……。


「サール……サーク!!」

 唇を強く噛み締めながら、憎々しくそのプレイヤー名を口にする。シャロンの視点は切っている。バイオの視点も切った。だからこの声は、恐らくだがサールサーク卿には届いていないはずだ。けれどこれで、シャロンの意図は掴み取れなくなってしまった。


 ヴァルキュリアがハンドキャノンでパラディンを牽制しつつ、距離を一定に保っている。しかしパラディンは防盾を構えたまま加速を続ける。ヴァルキュリアは即座に距離を取るために翻り、加速する。その背部にパラディンのエネルギーライフルによる射撃が浴びせられる。ステップダッシュを駆使してそれをかわした。けれど、それではブーストは一度、止まってしまう。パラディンは尚もブーストを掛けつつヴァルキュリアに接近し、尖鎗を前方目掛けて突き出す。


 それをヴァルキュリアが紙一重でかわす。この回避はきっと、シャロンの“先読み”によるものだ。でも、そうじゃない。ランスチャージは、刺突というより激突させる技。だから、パラディンのように腕を伸ばし切るようには突き出さない。

 伸ばし切った腕を横に振って、ヴァルキュリアに尖鎗で打撃を加える。打ち払われた機体はクルクルと回転し、高度を落とす。パラディンが頭部を下にしてヴァルキュリアへと急降下して行く。

 回転しながらもヴァルキュリアはショットガンに武装を持ち替え、バーニアによる姿勢制御によってバランスを立て直し、その銃口はパラディンの方角に向く。


「集中していないと、“先読み”は出来ない……回転している機体、モニターで、パラディンを目で捉え続けるのは……無理だ」


 パラディンはヴァルキュリアへの接近を完了しており、そして尖鎗が機体の腹部を深々と突き刺さり、急降下による加速による威力増加に伴い先端は背部まで至り、貫いた。パラディンは戦果を尖鎗を高々と持ち上げて、見せ付けるようにしながら飛び回ったのち、振り乱し、穂先を引き抜かれると同時に放り出されたヴァルキュリアは『捨て山』の障害物へと叩き付けられ、動かなくなった。

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