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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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抱えていたことを全て捨てて

 接戦とはとても言えないが、パラディンにヴァルキュリアが善戦している中で、カリキュレーターは障害物上から機体を落とし、アサシンがスナイパーライフルを抱えながらそのあとを追う。照準を定めない反動を含めたビームが空を貫くが、カリキュレーターを捉えることはない。その代わりに大きな隙が生まれてしまったアサシンにカリキュレーターが脚部収納からダガ―ナイフを取り出し、投擲する。二、三本ほどアサシンに命中するが、構わずアサシンは突撃を続けて、二度目の射撃を行う。


 空中でバランスを取りつつカリキュレーターはかわし、続いて落下しつつ向かって来るアサシンに機体を回転させながら二本の直剣で切り掛かる。対してアサシンが大きく機体をズラして落下することで、擦れ違いざまの二発の剣戟をかわす。翻ったカリキュレーターが直剣を一本、背に収納し直し、エネルギーライフルでビームを連発する。


 落下する機体に急ブレーキを掛けるようにして制止したアサシンが続いてフラットスピンを行いつつ避け、更に振り返って上空から見下ろしているカリキュレーターを捕捉する。躊躇わずスナイパーライフルの引き金を引き、直後にカリキュレーターがブーストを掛けてこれを避け、そして滑空しながらアサシンとの距離を詰めて来る。曲線を描き、ステップダッシュも加えた移動は、スナイパーライフルのみならず通常の銃火器でも狙いを定めるのは至難の業だ。ましてや反動の大きいスナイパーライフルでは、距離も詰めて来ているカリキュレーターも含めて、バイオは危険と判断したらしく、ブーストを掛け直し、現在の距離を維持しようと試みる。


『随分と後ろ向きな行動ではないか。ワシにもまだ銃は残っておるぞ?』

 カリキュレーターが肩に掛けていた実弾式のスナイパーライフルを構え、腰で抱えるようにして逃げるアサシン目掛けて弾丸を放つ。

 紙一重でかわしたアサシンに、続け様にビームが浴びせられ、たまらずバイオは逃げることをやめて機体を反転させる。

『ウゼーな』

 同じようにアサシンもビームを撃つが、紙一重でかわしながらカリキュレーターが一気にブーストを掛けて距離を詰めて来る。

『貰ったぞ』

 重力を借りた分、かなりの速度と化した剣戟がアサシンの胸部を二度、切り裂く。クリティカル距離だったかどうかはバイオの視点で見ていなかったから分からない。けれど、確実に耐久力は削られたはずだ。

『ぐっ……ぁ、がっ……!! まだまだ!』

 バイオは苦痛の声を上げながらも、操縦を続け、アサシンの肩から煙を撒き散らす。肩の武装は煙幕……アンブッシュの時とそれは変わらない。逃げる際にでも張っていればビームを浴びることさえ無かったはずだ。けれど、近付かれているこの瞬間を、バイオはきっと待っていたのだろう。

『目潰しをしたところで、マップ画面で小僧の位置はお見通しじゃよ』

『知ってんよ、爺さん。だが、それは俺だって同じだって話だ』

 二本の直剣が煙幕を払うために振るわれたのとほぼ同時に、ガンッという鈍い音が響く。


 カリキュレーターの胸部にアサシンが抱えたままだったスナイパーライフルの銃口が接している。先ほどの鈍い音は、この接触時の音だったらしい。


「煙幕を張ったのは狙撃を防止するわけでも逃げるわけでも無くて、銃口を押し付けるため?」

 これは……ミスターも一本取られただろう。煙幕なんて視界を遮るため、逃走のため、そういった意味合いで用いることがほとんどだ。そこから攻撃に転じるプレイヤーも居るには居るが、大抵が近接戦闘に持ち込んで来る。特に今のような、アサシンとカリキュレーターが近付いているような状況下では、煙幕を張って相手がマップ画面に意識を向けている間に近接戦闘を行うのがテンプレとも言える攻撃の展開だ。なにせ煙幕を張った側だって相手の位置をマップ画面で把握せざるを得ない。そんな視界からの情報がシャットアウトされている中で、煙幕を張った側ではなく張られた側が即座に近接攻撃の一つでもして来たならば、そもそも煙幕を張った意味すら失われる。


 バイオはカリキュレーターが煙幕を切り払うと踏んだ上で、更にその直剣が振るわれる攻撃範囲外擦れ擦れで待ち構え、振り切ったと同時に機体を前方へと進ませたのだ。


『一手、先を行かれてしま、』

『喋っている暇に逃げられちゃ困るんでなぁ、爺さん!』

 通信途中でありながら問答無用でアサシンが引き金を引く。超近距離で放出されるビームはカリキュレーターの胸部を鋭く穿ち、そして機体全体で連鎖的な爆発が起こる。

『やるではないか、小僧』

 しかしカリキュレーターはまだ撃墜できていない。剣戟がバイオが奪い取ったスナイパーライフルを切り裂き、続いて機体を突進させてアサシンを打ち飛ばす。バランスを立て直す中でアサシンが武装収納から長鎗を取り出し、離れた分だけの距離を一気に詰める。

『せめて足の一本でも貰わんと浮かばれんわ!!』

 姿勢を低く、そしてスラスターとバーニアの調節を行い、長鎗の刺突を降下しつつ避けたところで、カリキュレーターはアサシンの左足に直剣を一つ突き立て、続いてもう一方の直剣で断続的に剣戟を繰り出して行く。バイオは機体の足を動かしてカリキュレーターを押し退けようとし、更に上昇して無理やりにでも引き剥がそうとするが、右足を集中的に狙い続ける機体からは全く逃れられそうにない。

『クソが!』

『年寄りに遣う言葉では無い。まずお主は、その言葉遣いを矯正するべきだ』

 半分、ミスターは素の自分を曝け出してしまっていたが、バイオにはその違和感を処理できるだけの余裕は無い。仕方無くといった具合で、アサシンは長鎗の穂先を真下に構えて、カリキュレーターの頭部目掛けて突き降ろす。


 刹那、頭部から機体を貫かれながらもカリキュレーターが最後の剣戟をお見舞いし、アサシンの右足が一気に凍り付き、砕け散る。だが、カリキュレーターは長鎗を引き抜かれると機能を停止し、地上へと落ちて行く。


『っ……ぐ……ちっ、爺さん。やっぱあんた、手を抜いていやがったな?』

 機体に起こった衝撃をコクピットで感じ取りながら、バイオが苛立ち混じりに言葉を吐き捨てる

『さぁどうじゃろう? 今更、そのようなことは分からんよ』


 スナイパーライフルの銃口がカリキュレーターに接触した時だ。あの時、ミスターがやる気になった。手を抜いていたと言われればそうかも知れないが、しかし、あの瞬間からバイオを、アサシンを撃墜する気の操縦に切り替わったのは確かだ。

 ミスターは本気で挑み、本気で負けなければならない。そういった制約があった。サールサーク卿に気取られずに負けるのは難しく、そしてバイオに本気で挑んで、勝ってしまってもならないという二律背反にも似た状態で、非常に難しい葛藤があったに違いない。けれど、ロケランの弾が虚を突く形で飛来し、更には煙幕の先に待っていたのは奪われたスナイパーライフルの銃口だった。恐らく、“面白い”と思ったのだ。そしてそこから先は、自身に課せられた制約や、悩まされていた葛藤などを捨てた。だからこその、動きだった。


『リョウの兄貴も一回、敵機体と密着したら、なかなか離れようとしない粘着質なところあるよねー』

『ミスター・ルールブックはオールラウンダー。どれもこれも平然とやってのける。君に出来て、奴に出来ない理由も無いだろう。リョウ君に比べれば、随分と動きは鈍いが』


 それはそれで僕を過大な評価である。ミスターの方が丁寧な操縦であったに違いないし、僕のような無茶は絶対にしない。ほぼ無傷のままでアサシンに撃墜されるという構図が、ミスターとしては納得できなかった部分があったからこその、抱えていたこと全てを投げ捨てての捨て身だったのだ。

「到着……あっ」

 目的地に着いたところで、僕は小さく声を漏らす。

「ミスターの現実の容姿について、なにも聞いていなかった……」

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