その場で決める
『その程度か、小僧。これでは子供とじゃれ合いと同等よのう』
刃による切り返し、叩き付け、薙ぎ、斬撃、どれもこれもを二本の直剣でいなしつつ、ここぞとばかりに不意の一撃をカリキュレーターはアサシンへと繰り出す。それを間一髪逃れたところに続け様に来る剣戟の数々に、先手を取っていたはずのアサシンが後手後手に回る。激しい斬り合いの末に、力強くアサシンがカリキュレーターを刃で直剣ごと押し退け、崩れたバランスの中でエネルギーライフルを撃つ。離れようとしたカリキュレーターの肩に掠める形ではあるが命中し、ミスターは曲線を描くように機体を下がらせて、その後のビームは全て避けて行く。
『ホントに爺さんか?』
『老いぼれをあまりからかわんでくれたまえ。まだ、本気では無いのだろう?』
カリキュレーターが直剣を背部に収納し、肩に掛けていたスナイパーライフルを片方、構える。
『凸スナは勘弁願うな』
突撃して来るスナイパーをそう呼ぶ。FPSでは高めの殺傷力を備えるスナイパーライフルを腰に抱えて移動し、反動覚悟で中距離で撃つというスタイルだ。ワンショットワンキルの精神から逸れはするが、遠距離からのヘッドショットや命中率よりも、中距離での距離減衰の少ない一撃が相手を行動不能にまで陥らせる。当て方さえ工夫すればワンショットワンキルにもなり得る。だから凸スナは怖い。反動でやや動きが鈍った直後に撃破することが求められる。
ミスターはそれを『Armor Knight』内でやろうとしている。持っているのはエネルギー式であるため、実弾より貫通力が高い。ついでにミスターのことだから『雷』のエンチャントだろう。動作不良に陥っているところに続いてスリップダメージを与える『炎熱』のエンチャントで斬り掛かって来るに違いない。
『しかし、小僧? 私が素直に貴様を狙うとは限らんぞ?』
『どういう意味だ?』
『こうして向かい合っているように見えて、実はその先に居る貴様の仲間を狙うかも知れん、ということじゃのう』
慌てて僕はみんなの視点を借りつつ、各々の機体の位置を把握する。
「パラディンがヴァルキュリアを捕まえていたのは、このためか……!」
ヴァルキュリアが抵抗しているけれど……この配置は、直線で結べてしまう。カリキュレーターの位置からヴァルキュリアを狙撃することが可能だ。
「しかも実弾じゃなく、距離減衰の無いエネルギー式。やろうと思えばやれてしまう、それが問題なんだ」
出来ないだろう、出来るわけがない。けれど、もしも出来たとすれば? そんな“もしも”がミスターには出来るのでは、という可能性がバイオには効果的なのだ。
『どうする、小僧? ワシに撃たれに行くか、それとも仲間を見捨てるか』
『無茶苦茶言ってんじゃねぇぞ』
アサシンがカリキュレーターに斬り掛かって行くが、もうその攻撃パターンは把握したと言わんばかりの最小の動きでかわしつつ、位置取りを一向に譲らない。
『焦りは禁物じゃ。しかし、手に取るように分かる。追い詰められている時ほど、人は焦った動きを取るものであろうよ』
ミスターの言うように、アサシンの動きが明らかに短絡的な物になっている。どれもこれも避けやすく、そしてモーションが分かりやすい。だからこカリキュレーターは絶対に位置を譲らない。
『くっそがぁ!』
『ほぅら、焦っておると、自身の防御が疎かになるぞ』
アサシンが刃を振り切ったところにカリキュレーターのスナイパーライフルの銃口が、その眼前に向けられる。
『人生なにがあるか分かったもんじゃねぇな』
『なにを言って――』
カリキュレーターがエネルギー式スナイパーライフルをその場に放り出して、離脱する。アサシンのはるか後方から飛んで来たロケット弾がカリキュレーターの離脱先、機体に当たるか当たらないかの擦れ擦れで障害物上へと着弾し、爆発が起きる。
「まさか……」
視点をシャロンに切り替える。
『当てるつもりだったのに、これだから距離減衰は嫌い。直撃させられないから……誰かさんと違って』
この距離だ。“狂眼”は使えていないはずだ。だから、本当の本当に目測で撃ったらしい。ならばそのタイミングをどう見計らったか。それはパラディンの動きを“狂眼”で見通し、隙を突いたのだろう。そしてその隙は、サールサーク卿がわざと見せてヴァルキュリアを近付かせるための隙だったに違いない。シャロンはその隙を、接近ではなく、遠方への攻撃に使った。
『ねぇスズ? シャロンはどこに目掛けてロケランを撃ったの?』
「ミスターの居る方向」
正直にルーティからの質問に答える。『Armor Knight』の武装の飛距離がSFらしく現実離れしてあるとはいえ、いくらなんでもこの距離でロケットランチャーをぶっ放せるのはシャロンだけだろう。
『おおよそ、人とは思えん怪物の力を垣間見た気がするのう……』
爆発の煙を直剣で振り払いつつ、カリキュレーターがアサシンの前に姿を現す。直撃はしなかったが爆発の衝撃と更に炎、そして障害物の礫が飛び散ったことで、機体のあちこちに損傷を示す汚れや傷跡が出来ている。
『人の仲間を怪物呼ばわりする割に、声が震えているんだよなぁ、爺さん』
エネルギーライフルを腰に差し、アサシンはカリキュレーターが放り出したスナイパーライフルを拾う。
『違うんだよ。あんたは狙う側になんてなってねぇんだ。俺が、俺たちが狙う側なんだよ。そこんとこハッキリしてねぇようだからこうして口にしておいてやったが、耄碌していたとしてもさっきの強烈なインパクトで、ちゃんと頭には入っただろ?』
『全て演技だったとでも言いたい口振りじゃのう』
演技なわけないだろう。どれもこれも全て本気だ。そして、全てその場その時の判断だ。カリキュレーターがスナイパーライフルを構えたことに動じたのも、バイオがアサシンを駆ってどうにか狙撃を阻止しようと試みたのも、そこからシャロンがロケットランチャーを撃ったのも、どれもこれも狙ってやったことではない。それどころかバイオとシャロンは個人通信すらしていない。
「二人で対人戦を荒らしていたんだっけ……にしても、この距離で当てようとするか……普通?」
バイオはサポート、シャロンが戦場を掻き乱す。それを僕はティアと共に味わっていたじゃないか。だから一対一に持ち込んだ。今回も一対一に持ち込まれてはいたけれど、シャロンはバイオの位置を決して見落とさず、バイオもまたシャロンの状況や位置については把握していたのだろう。
つくづく、この二人とはもう一度、戦いたいとは思わない。いや強いことには変わりないんだけど、一対一を所望する。チーム戦になると、押し負けるような気がしてならないから。
『小僧にスナイパーライフルが扱えるとは思えんが』
『はぁっ? 俺がこのゲームをやる前にやっていたのはFPSだ。リスキルもされたしやった、芋スナもやった。そんな芋スナ野郎を後ろからナイフでキルするのもやった。正直なところ、どのスタイルも戦法も楽しくってやめられねぇって具合だったな。当然、凸スナもやったことがある。自分の好きな武器でキル稼ぎするのは作業だ。でも、武器を一周したあとに突拍子も無いことをやるってのは、その時々で違いがあったってもんだ』
重心のズレた機体を揺らし、アサシンのスラスターがガスを噴射する。
『で、爺さん? あんたの脳味噌は『オラクルマイスター』のルーチンワークに染まってどれぐらい経つ?』
『……現実では突然のアクシデントには慣れておるよ、小僧』
ミスターは動じず、逆にバイオの喧嘩を買ったかのようなハキハキとした言葉を発し、カリキュレーターをアサシンへと突撃させる。
『素っ気ない対応を取ったのがそれほどに癪に障る?』
一方、シャロンはヴァルキュリアを拘束している鎖を乱暴に振り回すパラディンに四苦八苦しているようだった。
『貴様があの男に組する理由はなんだ?』
『それは教えられない』
『どうやら腕利きではあっても、頭は悪いようだ』
『人のことを真正面から頭が悪いって言うあなたは性格が悪そう』
ロケットランチャーをアーマースカートに収納して、水平二連ショットガンを持ち直し、ヴァルキュリアが鎖に抗うように宙を駆け巡る。しかし、パラディンはヴァルキュリアの行く方向とは逆に柄を振るい、見事なまでに彼女の機体の移動を制限し、エネルギーランチャーで牽制を加える。
「とっておきのロケットランチャーを意表を突いて、パラディンにぶち当てない辺り、望月らしいっちゃらしいけど」
この献身の裏側にあるのは、義理の兄への純粋なまでの敬慕の念だ。つまり、バイオのためにシャロンは今、戦いに臨んでいる。と言うことは、そもそもパラディンに噛み付くことも噛み砕くことも考えてはいないのだ。アサシンがカリキュレーターを撃墜するまでの時間稼ぎ。彼女はそれしか考えていない。
「僕には……分からない」
心の赴くままに機体を動かして、それでも尚、“愚者”にならずに正気を保っていられるシャロンの精神面の強さを僕は到底、理解できそうもなかった。




