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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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下がれず、戻れず

 少なくとも、僕の知っている上ではカリキュレーターの直剣にエンチャントされている属性は『氷結』。多少、強引に攻めても構わない属性。

「でも、一度でも攻撃の機会を与えてしまうと、あの機体は止まらない」

 カリキュレーターのアイカメラが鋭く光を放ち、同時にスラスターからガスが大量に噴出されて機体がバイオの機体へと駆ける。

『アンブッシュからアサシンへと機体名称を変えたようじゃが、精々、名前負けせんように奮迅してもらおうかのう!』

 カリキュレーターが直剣を振るった直後、バイオの機体――アサシンが機体左側へと比重を掛けることで、まず一撃をかわす。続いて重心はそのままに機体をバックダッシュさせて、二撃目を避ける。

『俺の機体は少々、重心がズレていてなぁ! そんな攻撃を喰らう要素はどこにもねぇんだよ!』

 基本的に、機体の中央に重心はあって、それで左右のバランスは維持される。けれどアサシンは重心が左寄りであるため、一般的な機体と違って、中央付近を狙おうとすると逆に避けやすくなる。ミスターであっても、これはやり辛い相手だ。そもそも、機体バランスをわざわざ崩して来るような機体はほとんどのプレイヤーが作らない。自分もまた重心のズレに違和感を覚え、上手く操縦できないからだ。だから基本的に機体の中心を狙うように武装は振るうし、照準を定める。システムアシストもまた、機体の中央に寄るように出来ている。


 だからこそ、それら一切の攻撃はアサシンにとって避けやすい攻撃へと変わる。重心のズレには、バイオは慣れている。そもそもアンブッシュが多脚型で、ゲーム内の重力下において、様々な障害物やマップのオブジェクトに張り付いて移動したり、アンカーを撃ち込み機体のバランスの比重を調整することもままあった。重力、重心、重みのズレというものに強い。強いというか、強くなるようにバイオが努力したに違いない。持って生まれた能力なんて、現実と異なるゲームの中で発揮されることはほぼ皆無なのだから。

 アサシンが武装収納に折り畳まれていた大剣を展開させて、左腕をそれこそバットをスイングさせるくらいの勢いを掛けて、前方を薙ぎ払う。カリキュレーターは距離を置き、続いて腰から構えられたエネルギーランチャーでビームを撃つが、ズレている重心を利用したアサシンの回避の前では一発も当たらない。


 これはマップに救われている。『捨て山』じゃなければ、空中戦において着地できるような場所は無い。飛ぶだけのマップだったなら、アサシンの重心云々は逆にスラスターの操縦に気を遣ってしまって不利になる。三次元的な動きから、一時的ではあれど二次元の動きが出来るだけで、バイオへの負荷は軽減され、だからこそズレた重心の移動はミスターにとって脅威になる。が、ゼフォン戦のような空中と陸地の両方で動き回るような仕様では無い以上、カリキュレーターはいつでも狙撃地点としていた、現在の障害物上から飛び降りることも出来てしまう。


 つまり、障害物上から逃げられたら終わりだ。けれど、ミスターは絶対に下がる。その下がるまでの間に、どうにかして耐久力を削っておきたい。けれど、安い挑発には乗ってもならない。バイオからしてみれば、悩ましい限りだろう。


「僕なら……いや、僕でも嫌だな。考えたくない」


 手立てを幾つか想像してみるが、どれもこれも実際に使える策なのかどうかは分からない。なにより、戦っているのは僕じゃなくバイオだ。歯痒さは拭い切れないけれど、そこはちゃんと理解しなきゃならない。バイオの突拍子も無い行動を見ても、シャロンの無茶な突撃を見ても、頭ごなしに否定しないで、その操縦に意味があるのだと思わないと、いつまで経っても「僕なら」や「僕だったら」と妄想する。

 きっと、僕はこの場この時に至ってもまだ、二人を信じ切れていないのだ。現実では友達、知り合い、気の知れた相手と位置付けることは出来ても、ゲーム内では、認めているのか認めていないのか微妙なところだ。チームプレイは僕も徐々に呑み込めて来てはいるけれど、場面によっては足枷に思うことが多々ある。けれど、これがオブシディやにゃおだったなら、まだ安心して見ることが出来ているのだろう。


 危なっかしい操縦や、無茶な機体構成。そういうのを見るたびに玄人の如く、グチグチと文句を言いたくなる。そんな自分はとても醜い。相手の良いところを見ようとしない。失敗を利用しようという行動に出られない。そんな勇気を持っていない。だから、自分だけが助かりたいと思うような機体になった。それがリョウのテトラだ。


「一番、落ち着いていないのは僕なのかも知れない。ウズウズして、戦いに加われていないことがなによりも……申し訳ないというか、つまらないというか」


 映像の向こう側で繰り広げられているカリキュレーターとアサシン、パラディンとヴァルキュリアの戦闘を眺めているだけなのが、嫌なんだ。当事者じゃないのだから、関わるのはよそうと思ったのに、頭の中はゲームをやりたくてやりたくてたまらなくなっている。

 強者と戦いたい。強くて、強くて、それでいて認め合えるような相手。そんな相手と戦いたい。シャロンとバイオは現状、そんな相手と戦えていないわけだけど、戦っている相手が強者であることは変わりないから……羨ましいと思っているのか?

 それはとても、空気の読めない感情だ。自分がなんのために現実で行動しているかを思い出す。そう、やらなきゃならない。そして、解放しなきゃならない。それを努々、忘れてはならない。


 カリキュレーターは直剣を構え直し、アサシンの懐へと飛び込む。大振りな武装収納の刃ではそこまで潜り込んで来たカリキュレーターには対処できない。けれど、重心のズレがアサシンに味方し、奇妙なバランスと、そこから生まれる姿勢の悪さで剣戟を一つ一つ避けて行き、振りかぶった刃の一撃で再びカリキュレーターを引き下がらせる。下がったところにカリキュレーターがエネルギーランチャーを、アサシンが空いた右手で構えたエネルギーライフルを撃ち放ち、僅かだが互いの装甲を掠める。続いて、エネルギーランチャーのウェイトを殺して、またもカリキュレーターはアサシンへと攻め寄せる。振りかぶった直剣をアサシンが重心のズレから避けようとしたが、バイオはなにやら危険を感じたらしく、そこでバックダッシュをして避けた。

『そのよく分からん姿勢にも慣れて来たわい』

「爺さんのクセに、学ぶ速度が尋常じゃねぇなぁ」

『体は老いているように見えるじゃろうが、脳はまだまだ老いてはおらんよ』

 脳の老化は諸説あるところだが、ミスターの中身は見た目より圧倒的に若いはずなので、バイオの見立て以上には働いている。そもそも脳年齢なんて見た目からじゃ分からない。そして、筋肉の衰えを感じる年齢であったとしても、VRゲームでは脳から、或いは脊髄反射でプレイヤーキャラは動くのだから、「老人だから弱いだろう」というような身勝手な想像は予想外の反応速度で否定されるのではないだろうか。


『こ、の……っ!』

 シャロンのヴァルキュリアは完全にパラディンのアンカーに困り果てている。鎖を撃ち抜こうとしても、サールサーク卿がそれに即座に反応して柄を振るうため、唐突に機体が振り回されて照準を合わせられないのだろう。

『銃器で纏めたのが、裏目に出た』

 この言い方だと、ヴァルキュリアは直剣や短剣、ダガーナイフなどを一切搭載していないのだろう。裏目に出たというより、サールサーク卿に上を行かれたと言った方が正しい。水平二連ショットガンはシャロンの操縦であれば十二分に近接武装に分類しても良いほどの危険性を秘めているし、なにより鍔迫り合いが起こらないという点において、近距離からの散弾はあまりにも近接戦闘において優位に働く。だからサールサーク卿はこうして、アンカーで捕らえて照準を合わせないようにすることで対処しているのだ。遠距離では照準を定められず、近距離ではまだパラディンはなにかを隠しているかも知れない。その“なにか”が判明しない限り、シャロンですら飛び込めない。彼女は割と鉄砲玉のように戦場を駆け巡るタイプで、ヴァルキュリアの速度もそこに付随しているからこそ、この状況はシャロンにとって腹立たしくて仕方が無いだろう。


 重機関銃――ディエーリヴァのガトリングガンでも搭載していたなら、まだ遠距離も脅威となっていたかも知れないけれど、そんなものを搭載したらヴァルキュリアの強みである速さが損なわれる。


「だから、シャロンの覚悟が試される」


 “なにか”に飛び込める勇気。そして、それを前にしても諦めない心の強さ。そしてサールサーク卿を凌駕する意地。それさえあれば、噛み付ける。

 でも、噛み砕くのは難しいかも知れない。

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