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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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短期決戦に持ち込みたいが

 実力が拮抗しているという勘違いをあの二人がするはずはないだろうけど、甘く見過ぎている点は絶対にある。大隊ミッションでサールサーク卿とミスターを出し抜いたという経験が、逆に邪魔になってしまう。あの程度のプレイヤーという感覚が刷り込まれている以上、シャロンとバイオが軽率な行動に出ないとは言い切れない。


「待て、欲張るな。誘っているだけだ」

 パラディンが停止し、ヴァルキュリアはその上空を旋回し続けて、様子を見ている。

「空中戦では、相手より高い位置に居ることが絶対に有利。制空権争いについては、対戦を続けて来た望月なら分かるだろ。気付けよ、“対処の仕様があるから上空を譲っている”。ハンデでもなんでもない、君が飛び込んで来るか、或いは攻撃に出るのを待っているんだ」

 やきもきする。僕ならこの誘いには乗らない。サールサーク卿の手の平では踊りたくないからもっと距離を取って対処する。けれど、ヴァルキュリアを操縦しているのはシャロンだ。そしてアドバイスはしない約束。僕には分かっていても、シャロンには分からないかも知れない。伝えたいが伝えられない。

「……止まれ、止まれ」

 僕の願いの独り言も虚しく、ヴァルキュリアは旋回を中断し、急加速で曲線を描きながらアーマースカートから爆弾の雨――武装であるレインボムをパラディンへと降り注がせる。パラディンが爆弾から逃れるために再び移動を開始する。移動先を先読みしての爆弾の雨ではあるが、それでも空中はあまりにも逃げ場が多い。加えて障害物まで備わっているこのマップでは、幾ら先読みをしたからといって、確実に爆発の海へと追い込めるわけではない。

 パラディンは近場に見えた機体の瓦礫が作り上げた障害物の陰に隠れ、爆弾の雨をやり過ごし、続いて先ほどとは逆方向にブーストを掛ける。ヴァルキュリアが急停止し、パラディンの後方を急加速で追い掛けながら斜め下へと高度を落として行く。

「今のパラディンに近付くのは、急ぎ過ぎだ……」


 ヴァルキュリアが制動の動きに入る。直後にパラディンが翻る。水平二連ショットガンの一方の銃口を突き付けた際には、もうパラディンとヴァルキュリアは向き合う形となっている。そして引き金を引こうとした刹那には、問答無用のシールドバッシュが命中する。機体を降下させつつ、ブーストで再び加速したヴァルキュリアが距離を置こうとしたが、そこに容赦無く腰から展開されたエネルギーランチャーが追い討ちを掛ける。これは掠ることさえなかったが、シャロンに「長距離、中距離でも対応はできる」という印象を与えさせるに足るものだ。


『私以外にも、シャロンの先読みに反応できるなんて』

「超反応でも、直感でもなんでもないよ」

『じゃぁなんで?』

「望月はVRFPSをプレイした経験から、“後方が絶対有利”と刷り込まれている。そもそも、どんなゲームでも後ろを取れば有利というのは組み込まれつつあるし、対戦でも相手の後ろを取るのは有効な手段――裏取りとも言われる」

 モンスターがオブジェクト型のRPGであれば後方から接触すれば先制攻撃で、1ターン目はモンスターは行動できないとか、後ろから攻撃を加えることでダメージにボーナスが加わるとか、そんなボーナスを搭載しているゲームは多い。

 それ以上に、VRFPSでは裏取りと後方を取ることが強い。圧倒的に強い。取るのが難しいことも踏まえて、取ってしまえばまずキルできる。


 そういった一切があるからこそ、後方からの攻撃は絶対に有利であると誤解させられた。


「打撃でもう望月の位置は分かっている。どれだけ速くてもマップ画面の光点だけは逃さない。だからサールサーク卿は攻撃する箇所を限定させるために背中を見せた。後ろから来ると分かれば、あとはもう速度に合わせて振り返るだけだ。だから間に合った」


『でも背後を取らないっていう可能性だって』

「最初の一回は、後ろを取ると踏んだんだよ、経験で」

 だから二回目からはやることを変える。誘い方を変える。ただし、望月だって同じような誘いには乗らないだろう。先読みが通用していないからこその焦りが見られるけど、焦った方が良いのは確かな話だ。

 サールサーク卿もいずれ目の疲れ――速過ぎるヴァルキュリアを無意識であっても敵である以上、モニターに映れば追い掛けてしまい、疲れに変わるだろう。ただ、同時にシャロンにも異常な速度で飛び回り続けなければならないから、疲れが出る。この疲労の差は歴然だ。飛び回り続けているシャロンの方が先にギブアップしてしまう。


 短期決戦に持ち込みたいが、けれどそれよりも中規模になる程度の戦闘。長丁場は不利になる。疲れる前に、仕留めなければならない。


『シャロンに勝ち筋はあるのかしら?』

「サールサーク卿は油断している。そもそも望月がポッと出の新人プレイヤーだからね。優秀なプレイヤーとは思っていても、経験の差から自分より弱いと思っているし、甘く考えているところもあるはずだ」

 シャロンがサールサーク卿を甘く見過ぎていたが、サールサーク卿は未だシャロンを甘く見ている。鋭い一撃さえ入れば、その限りでは無くなるけど……。

『サールサーク卿のパラディンって、他にどんな武装があるの?』

 ティアからルーティに質問して来た相手が変わる。

「尖鎗と、エネルギーランチャー、防盾、防御力の高い装甲、あとは……あとは、なんだ?」

 僕は現在のパラディンの外見を眺める。重脚だ。つまり、武装の重量に合わせて動きやすいように脚部パーツを変えている。元々、重脚だったっけ……? 場合によっては切り替えていたような気もする……あくまで僕が、ブラリ推奨プレイヤーと吹聴される前に何度か戦った時のイメージに過ぎないが、けれど今、重脚であるのならあれだけの武装と装甲だけなのはおかしい。

「……なにか隠しているな。防御力を上げるために、装甲の量を普通よりも増やしているにしても……なにか、もっと、防御に重点を置いているのなら……」

『どうして防御なのかしら? スズは“みんなを守る盾”でもあり、“自分だけを守る盾”でもあったんでしょ? それでブラリ推奨プレイヤーと言われていて、サールサーク卿がわざわざブラリ推奨プレイヤーと同じように、防御に重点を置くかしら?』

「パラディンは、ゲームじゃタンク役がほとんどだよ。攻撃を凌ぐために防御に重きを置く。僕は撃墜されるのが嫌で、長い間、戦場に残っていたかったからタンク役は放棄していたからね。でもサールサーク卿は、純粋なタンク役を務めていたはず。そんなプレイヤーが一年やちょっとで、そう簡単にプレイスタイルを変えるものかなって」

 それも自分の人生を左右するかも知れない対戦で。そりゃ気分転換でプレイスタイルを変えては来ただろうけど、この場でそんな不慣れなプレイスタイルを信頼はしないはずだ。だから長年のタンク役を、タンク役としてのパラディンに拘るはず。そして、そのパラディンになにかしらの改良を加えたとするならば、その武装は形となって現れるまで僕にも分からない。


 かと言って、シャロンにだって意地がある。まごついてはいられない事情もある。サールサーク卿との一騎打ちを即座に終わらせて、バイオの救援に行きたいという強い気持ちがある。


 だから無謀だと分かっていても、突撃しなければならない。

 ヴァルキュリアが急上昇し、パラディンの上空から再びレインボムをばら撒く。それらの爆発圏内から逃れるように空を駆けるパラディンの正面へと先回りし、カンプピストルの引き金を引く。

 躊躇わずにパラディンは防盾を前方に構えたまま突き進み、防盾に接触したグレネードの爆発が起こす煙がヴァルキュリア諸共辺り一面を包み込む。煙の中でどの程度の近接戦闘が繰り広げられたかは定かではないが、先に燻った煙から飛び出して来たのはヴァルキュリアである。それも、なにかしらの攻撃を受けてなのかバランスが崩れている。

『ぐっ』

「バランスをマクロで……ああいや、それは僕が組んでいるマクロだから、シャロンには……」

 自身の機体とヴァルキュリアを混同させてしまった。シャロンもマクロは組んでいるかも知れないが、この状況はまずい。なにがまずいって、未だに煙の中からパラディンが出て来てくれていないことだ。

 姿を現しているならば、攻撃の体勢を取っているのか照準を定めているのかが分かる。でも煙の中では、その判断も出来ない。


 なにより見えないということは“先読みが出来ない”。シャロンの“狂眼”は相手が見えていて働く“異常性”だ。


 瞬間、煙の中から射出されたの尖鎗の先端――穂先がヴァルキュリアの右足に突き刺さり、貫通する。

「アンカーにも、なるのかあの武装」

 鎗から穂先だけを射出し、そこに備わる鎖を巻き取ることで機体を引き寄せる。キューキャットの銃爪に備わっているアンカーと仕様は同じだけど、尖鎗というのが最悪過ぎる。


「尖鎗――スピア―は貫くことに特化しているから、貫くのも容易……それで、ヴァルキュリアを捕まえたってなると、あれはなかなか外せない」


 そしてパラディンは言うまでもなくヴァルキュリアより重い。速度で翻弄しようとしても、逆に機体の右足が引き千切られる。


『貴様は少々、無鉄砲なところがあるようだ。見苦しい限りだ』

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