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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
285/645

互いに手の内を探る時間

 素体は女性型。機体の色は薄い赤色。関節部位は濃紺。そして、全体的にスマートになった機体の腰部を覆うのはヴァルフレアの頃よりも性能の上がったアーマースカート。


 ヴァルキュリアはやや武骨な部分を消し去れていなかったが、ヴァルキュリアは要らない部分を削ぎに削いで、流線形というか空気抵抗を極力、受けないように仕上げている。でも、こうして見ても……防御力はヴァルフレアよりもマシといった程度だろう。そりゃ近接戦闘でも十回ぐらいは凌げそうだけど、強力な一撃であるスナイパーライフルや、オブシディのディエーリヴァが持つような戦鎚だと十回も凌げるかどうか怪しい。死に近いのは確かだろう。けれど、その死を遠ざけるかの如く、軽量で身軽。スラスター性能も上がったことによって、更に速度に磨きが掛かっている。パラディンの周りを飛行していても、サールサーク卿が一切の動きを取れていないのは、単に攻撃を待つカウンターを取ろうとしているからだけではないだろう。単純に、目で追い切れない。グッド・ラックでなければ射抜けない。


 僕だったなら、直感を信じて近付いた際に振り抜くだけだ。サールサーク卿もまさにそれに近いことをやってのけたわけだけど、大隊ミッションで一度見ただけで、あの速度に対応し切れるというのも、なかなかに異常である。手練れというより、狂っている。まさか朽葉のように“異常性”を複数持っているんじゃないかと勘繰ってしまう。


「けど、サールサーク卿は前からこういうプレイヤーだったな」

 呟きつつ、僕は横断歩道の信号が赤になったため、足を止める。


 状況判断が的確で、自身の操縦に微塵の迷いも無く、指示を出す際だって怖気付くこともない。『オラクルマイスター』のサブギルマスとして、十分過ぎるほどの能力を持っていた。僕は感覚的に動かすけれど、サールサーク卿は培って来た経験から動かすタイプ、だろうか。

 感覚的か、経験か。プレイヤーの操縦はどちらかに寄って来る。リグリスなんて完全に感覚的に操縦しているし、倉敷さんはどっちにも足を踏み込める中間に立っている。

 ゲームにどれだけ没頭し、どれだけ場数を踏み、どれだけの経験をしているか。それらを鑑みるなら、サールサーク卿の隙を突くのは非常に厳しい。望月の急加速による突撃が一度目から通用しない時点で分かってしまっていたことだけれど、この手堅いプレイを崩さなければパラディンは撃墜できない。


 ヴァルキュリアが高速で移動し続け、変更した武装の銃口をパラディンに向ける。サールサーク卿の操縦はそこまでの動作には追い付けていない。パラディンとヴァルキュリアが対面した頃には、既に引き金が引かれている。

 しかし、パラディンは前方に防盾を構え、弾丸の接触と同時に生じる爆発を受けつつも装甲と耐久力そのものへのダメージを回避する。

『スズ? あれって、グレネードランチャー?』

「違うよ」

『ならロケランかしら?』

「それも違う」

 ルーティとティアの質問に否定したのち、返事をする。

「あれはカンプピストル。拳銃の大きさで小型のグレネードを撃ち込む。さすがにグレネードそのものを撃ち込めるランチャーより破壊力も命中精度も劣るけれど、相手の虚を突くには向いている」

 でも、カンプピストルを使うならやっぱりグレネードランチャーや、エネルギーランチャーを使った方が良いような気もするけれど……望月はヴァルフレアの時から実弾思考が強かったり、VRFPSの経験から、エネルギー系統の武装より実弾武装を好んでいるのかも知れない。ただ、カンプピストルなんていうコアな武装を選択する辺りには、賛同は出来そうにない。高火力、高打点を望むならカンプピストルは除外して然るべきだ。反動だってグレネードランチャーより大きい。

『珍妙な武装のお披露目会ではないぞ』

『そう? でも私、これが気に入っているから。それに、これも』

 アーマースカートを展開し、その中へとカンプピストルを収納して、別の銃器を取り出す。

『これならぶち抜ける、かな』

 そう言って、引き金を引いた直後に響く大きな発砲音がしたのち、弾丸はパラディンの防盾を大きく抉るものの、貫通することはなく、廃棄された機体の山へと落ちる。

「ハンドキャノン……馬鹿じゃないのか、あいつ」

 超大型回転式拳銃。大口径のマグナム弾を撃つためだけに造られた拳銃だぞ。威力は折り紙付きだけど、発砲音は大きい、反動も大きくて、それを受け流すようにすると照準を外さなきゃならないから連発に向かない。玄人の中の玄人しか使わないような銃だ。それを搭載する必要性を感じない。

『……どうやら、お遊びでゲームをやっている貴様には、指導が必要なようだ』

 また合同通信を使っている。今のサールサーク卿はどうやら自己主張が激しいようだ。

『ゲームを遊びでやっていてなにが悪いの? むしろゲームにそこまで没頭してどうにかなるの? あなたのやっていることは、現実逃避、でしょ?』


 あまりサールサーク卿を挑発し過ぎると、シャロンが望月だとバレるぞ。


 パラディンが防盾を構えながら移動を開始し、ヴァルキュリアがそれを追い掛ける。ヴァルキュリアの速度ならパラディンに数秒で追い付き、追い越すことも出来るのだが、望月はどうやらサールサーク卿の出方を窺っているらしい。カンプピストルとハンドキャノン、水平二連ショットガンの三つの武装を晒した分、パラディンにも尖鎗以外の武装を見せてもらわなければ、ゲームメイクがし辛いのだろう。だからこそ、サールサーク卿はまだ動こうとしないわけだ。ヴァルキュリアが無理やりにでも引っ張り出さなきゃならない分、リスクが大きい。しばらくは均衡するんじゃないだろうか。カンプピストルもハンドキャノンも防盾で凌がずに避ける方針で行くのならば、さほどの被害も出ないだろうし。


 信号が青になったので僕は横断歩道を渡る。映像ばかりに集中していると、車の往来に気付かないかも知れない。だから普段よりも慎重に歩こう。


『ミスターが狙撃地点を変更する。バイオは、気付いていないな』

「気付いていないフリかも知れませんよ」

『コクピット内はこちらかでは見えない。演技なのかそれとも本当に気付いていないのかは君なら分かるだろう』

「ええ、でも僕は啓二さんに口出ししないと言っていますので、コクピット内の視点移動や独り言しか拾えません。あと、気付いているか気付いていないかを大樹さんに教える予定もありません」

『俺からバイオにチャットで指示を出しかねないということか?』

「大樹さんは絶対にやらないでしょうけれど、念には念を入れなければなりません。奈緒はあれでも『スリークラウン』を運営していたサブギルマスですから対戦における情報の秘匿性には理解を示すと思いますけど、理沙や倉敷さんは、チャットを飛ばしそうですし」

『なるほど、だったら全員にバイオとシャロンの状況を伝えることはしない方が良いと』

「そういうことです」

 啓二さんの視点に映像を切り替える。呼吸は整っている、視点移動は……まだ穏やかだ。焦っている様子は無い。こうやって他人の視点を見ると、酔う人も居るらしいけど、僕はどうやら問題無さそうだ。まだ啓二さんや望月があちこちに目を向けていないおかげかも知れないけど。

『さっきより、狙撃の間が空いたな。移動しやがったか。なら、こっちには居ない。次に狙撃しやすい場所は、どこだ?』

 特訓の通りにやってはいるけれど、それがそのままミスターに通用するとは、思っていないことを願う。特訓で学んだ通りに思考していたら、いつか絶対に撃ち抜かれてしまう。早期に気付いて、自分なりの方法でミスターを出し抜いてもらわなきゃならない。

『ははっ、慎重過ぎると言われてしまったのう。サールサーク、お主の言う通りじゃな。消極的に動き過ぎていたかも知れん』

 この感じだと、サールサーク卿からミスターに通信が入ったようだ。ヴァルキュリアと戦っていながら、ミスターの動きが消極的に感じ、訝しむ余裕がある。カンプピストルとハンドキャノンの攻撃に、それほど動じてはいないということだ。予想外の武装を出されて焦る時期はもう通り過ぎていたか。ベテランプレイヤーでもたまに居るんだけどな。


 ヴァルキュリアとパラディン、バイオの機体とカリキュレーター。どちらも戦況が動きにくい状態だ。これは作戦か? そうだとしたら、どちら側の作戦だ? 時間稼ぎをして有利になるのは、どっちだ?

 作戦じゃないとすれば、パラディンを操縦しているサールサーク卿の様子見が終わったら、ヴァルキュリアを操縦しているシャロンがまずいことになりそうだ。

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