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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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ゴミの山

 アパートから病院に向かうには一時間以上掛かる。そんな長時間、対戦が続くとも思えないので移動は先に済ましておいた。あとは対戦の行方を見守りつつ、ミスターがログインしている場所を目指すだけだ。けれど、まだ急ぐ必要は無い。気持ちは先へ先へと行こうとしているけれど、戦況によってはかなり待たされる。さすがに一時間以上は無いとは思うが、最長で三十分程度は見越しておいた方が良い。

 ダイスロールでファンブルを出さずに、クリティカルを出し続けるほどの運があるかどうか。まずミスターが本気を出してもシャロンとバイオのどちらかが撃墜されず、逆に撃墜し、次にミスターがサールサーク卿に見抜かれないように嘘をついてログアウトできるかどうか。

 負ける順番はミスターが先で、サールサーク卿があと。ただし、ミスターだけとしか話は合わせていないため他の三人が想定外の速度で戦況を変えて行けば、全てが台無しになる。


「奇跡だよ、そんなのは」


 そんな虫の良い話が断続的に訪れたならば、僕は神道に染まったって構わない。この粗ばかりしか目立たない作戦のどこかで絶対に(ほつ)れが生じ、そしてそこから全てが瓦解するかも知れない。けれど、僕たちはこの賭けに乗ったのだ。だったら、あとはその神様とやらのお導きのままに全てが上手く行くことを願うしかない。

『始まるわ』

「うん、見えているから安心して」

 スマホを操作するように『NeST』を操作して、それぞれの視点へと切り替えながら景色を眺める。

「マップは『捨て山』か」

 正式なマップ名称は『ダンピングフィールド』。地殻変動で出来上がった山が主戦場ではなく、各国の多くの捨てられた機体の残骸が積み重なって出来上がった、“廃棄物の山”が連なる荒地に近い。空中戦専用マップでありながら、障害物となる大量の廃棄された機体の山で身を隠せるだけでなく、着地も可能なため狙撃も難しくない。サールサーク卿のことだから小細工抜きの『山岳地帯上空』を選ぶと踏んでいたけど、品位を落として言うならばまさかこんなゴミだらけのマップを選ぶとは思わなかった。

『バイオ、これは貴様への皮肉だ。ゴミだらけのこの場所で、貴様もまたこのゴミの一つにしてやろうという私のな』

『妙な意趣返しはいらねぇんだよ』

『私の感じた痛み、苦しみ、悲しみ、怒り。それら全てを貴様にぶつけよう。その痛みに、貴様が泣き叫んでくれるのなら、私は嬉しい限りだ』

『まるで俺の人生に痛みも苦しみも悲しみも怒りも無かったかのように言うんじゃねぇよ。拳で語り合いたいんなら、最初からそうすれば良かったじゃねぇか。遠回しに人を恨んで、苦しめて……それがテメェの抱き続けて来た正義感の成れの果てか?』


 開始前からサールサーク卿のヘイトはバイオに集まっている。これだと、サールサーク卿は真っ直ぐにバイオに向かうか。その方が、当事者同士の戦いになるのだから良いのかも知れない。


『ミスター・ルールブック……私には、あなたがこの戦いに参加した意図が、分かりません』

『ワシには、ずっと探している者が居るのでな。引くわけには行かんのじゃ。『オラクルマイスター』のサブギルドマスターが喧嘩を売ったのなら、その責任を背負うのもギルドマスターの務め。じゃから、掛かって来い。ワシが“見つける”その時まで、若いもんの喧嘩に付き合ってやろう』

 ミスターはシャロンの質問を上手く掻い潜っている。経験が物を言うとはこのことだ。僕はどうやら声色でも嘘をついているかいないかを察せられてしまう節があるようで、さっきもティアに嘘をついた際、勘繰られていた。顔を見られていないのだからバレていないはずだけど……バレていたとしても、バレていないと思わせておいて欲しいところだ。


『ゴミはゴミに。投棄されるべき人間は、投棄すべき場所に。壊して、痛め付けて、苦しめて、そして……死ね』

 サールサーク卿が合同通信で恨みを垂れ流した直後にカウントダウンが終わり、戦闘が開始される。


「サールサーク卿のパラディンは守り勝つ機体、ミスターの機体はオールラウンダー。でも、空中戦とはいえ、これだけ障害物があるマップならミスターは狙撃から入る」

 遠距離が絶対的有利を得られるマップであるなら、ミスターはそうする。というか、狙撃型の機体なら絶対にそうする。ミスターのカリキュレーターは全ての距離において攻撃を可能とする機体。だからこそ、このマップで最善の一手で攻める。それが今まで通りの戦い方だ。それから外れてしまえば、すぐにサールサーク卿に気取られる。


「奈緒? ミスターはどう動いた?」

『狙撃。このマップならあたしみたいな遠距離武装搭載型、或いは狙撃型は真っ先にそうする。障害物で身を隠せるのが大きいからねー。発見されずに、こちらから発見して、あとはその優位性を維持しつつ、状況を見て狙撃ポイントを逐次、移動ってところかな』

 奈緒のトライデントはマップジャマーを搭載していない。敵の攻撃が一発でも自身に命中すれば位置がバレてしまうので、移動先については常に気を付ける。バレてしまったなら狙撃はやめて、遠距離主体の戦いへと切り替える。そもそも、トライデントはそういうスタイルの戦い方をする。カリキュレーターと戦ったのは昔のことだけど、その時とほとんど変わっていないならカリキュレーターもジャミング系統の武装は搭載していないはず。狙撃から遠距離、遠距離から中距離、中距離から近距離。全ての距離で対応を可能としているミスターにとって、居場所が割れたなら戦法を変える程度にしか捉えない。


『すまんのう、サールサーク。ワシにはグッド・ラックほどの目は持ち合わせてはおらん』


 サールサーク卿への個人通信は許可を得ていないので、どう話し合っているかは分からない。けれど、ミスターからは許可を得ているから会話の一端は聞こえる。でも、どうにも違和感が拭えないな。


 奈緒の視点からはカリキュレーターが狙撃体勢に移ったのが見える。問題は、どちらを狙っているかだ。カメラ係になってもらっているみんなの視点に断続的に切り替えつつ、頭の中でカリキュレーターの狙撃地点とその銃口が向けられているであろう先を推測する。

「……僕でも、そうする。望月の機体の速さを大隊ミッションで見せられているのなら、ミスターが狙うのはやっぱり……啓二さんか」

 けれど、戦闘に口出しはしないと言った。ここで撃ち抜かれるか撃ち抜かれないかで、ファーストコンタクトにおけるアドバンテージがどちらに乗るかどうかが決まって来る。

『分かり切っているんだよなぁ、クソジジィ!』

 啓二さんの機体が翻りながら回避行動に移り、直後に訪れた銃弾をかわした。


 安直な狙撃地点選びはスナイパーの死を意味する……と教えた。だから相手に狙撃も扱える機体が居るのなら、真っ先にどの地点に陣取るかどうかをマップごとに推測を立てろとも言った。

 『ダンピングフィールド』は特訓していた際に一度も選んだことのないマップだったけど、啓二さんは咄嗟に対応することができた。これでファーストコンタクトにおける有利不利の決定権は永遠に失われた。

『行けるか、シャロン?』

『バイオが言うなら、やり遂げる』

『なら任せた』

 啓二さんが機体のバランスを整え、次にブーストを噴かせて狙撃された方角へと驀進する。


「倉敷さん? 望月の機体が見たい。どこを飛んでいる?」

『見たいもなにも……速過ぎて、わけ分かんないわよ?』

 視点を切り替えて、望月の機体を倉敷さんに探してもらうが、観戦している位置からはよく分からない。

「パラディンを見て」

『……そういうこと』

 倉敷さんが空中で静止しているパラディンへと視線を向けた。刹那、急加速と急停止、そしてジグザグな飛行を続けながら望月の機体がパラディンの後方を取る。そして、構えた水平二連ショットガンの銃口がパラディンに触れるか触れないかというギリギリのところで止まる。

『まずここで二撃』

『はっ! 後ろを取っただけで勝ったつもりか?!』

 散弾を浴びせる前に望月が危険を感じ、機体を下がらせた。直後にパラディンが振り返り様に尖鎗を横薙ぎに振り抜く。

「今のタイミングだと、撃つよりも先に当たっていたか……?」

 引き金を引くのと、尖鎗の打撃。どちらが早かったのかは僕には判断できない。けれど望月がその“狂眼”の最中で垣間見た、一つ先の未来においては恐らくパラディンの打撃に軍配が上がった。だから一気に退避したのだ。

『悪いが、貴様がどれほど速さに自信を持っていようと、私には無駄なことだ』

 合同通信で声高にサールサーク卿が叫ぶ。

『どういうこと?』

『私は、常に“ここ”に居る。移動もするが、しかし、私という存在が乖離することなどあり得ない。即ち、貴様の攻撃は必ず私へと至る。ならば、私はその至る瞬間に動けば良いだけのことだ』


 一度、二度通用すると思いきや、この人には一度目から通用しないのか。

 先の先を読むというより、後の先――カウンターか。来ると分かっているのなら、そこだけに集中すれば良い。倉敷さんと戦った際も、この“攻撃が自身に至るのなら”という考えによって相討ちになっている。望月にとっては一番、厄介な考え方であり、弱点だ。ヒット&アウェイを得意としている人にとってこれほどやり辛い相手は居ない。


『速度は私の誇り。でも、速度だけじゃどうしても勝てないっていうことは、前に痛感している。だから、それ以外を私は使おうとも思っている』

 急停止した望月の機体が水平二連ショットガンを収納し、続いて別の実弾武装を構えた。


『私と私の機体――ヴァルキュリアは、言われたことを絶対に完遂させる』

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