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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
283/645

行動

***


 倉敷さんの突発イベントと呼ぶべきかゲリライベントを凌ぎつつ――僕にとってはギャルゲー並みの突発的なことで、倉敷さんと顔を合わせるたびに微妙な雰囲気になりかねないので、脳はゲーム寄りにこの案件を処理したがっているらしいので、それに任せることにした。今でも現実味が無い……疲れるなぁ。


『どう、スズ? 聞こえる?』

「通信は良好だよ。あとは外出先でも使えるかなってところかな」

 ルーティの通信を、現実の立花 涼として聞き取る。『Armor Knight』からの声をそのままヘッドセットに流れるように『NeST』とワイヤレスで接続して、あと色々と手を加えたのだがどうにか室内では扱えるレベルに至ったようだ。

 ヘッドセットは良好なので、あとは小型HMDとの接続だ。ARゲームを遊ぶ際にはこの小型のHMDを用いる。精神も体の動きも、その全てがゲーム内に落とし込まれるHMDよりもはるかに小さく、眼鏡というかサングラスのような形をしている。体を動かす形でゲームの世界に没入するARゲームは革新的ではあったけれど、道路や進入禁止の場所でさえもゲーム世界となってしまうために交通事故や不法侵入のリスクが高まるとされ、あっと言う間に廃れてしまった。遊べる場所、範囲さえしっかりと指定してしまえば、スポーツとさほど変わりないし、AR競技なんかも海外では盛んなんだけど日本じゃそれこそコアなゲーマーしかプレイしていない。

 今回はARゲームを遊ぶわけではなくレンズに『Armor Knight』の世界を映し出す。この同期に時間を喰っていて、さっきからVRMMOの世界のフレームレートは安定しない。勿論、レンズ全体を映像出力させるわけではなく、ちゃんと現実の景色も見られるように画面のサイズも調節する。

「ちょっと繋ぎ方が遠回し過ぎるのかな。普通にワイヤレスで繋げば良いか」

 そうなると『NeST』への負荷が大きくなりそうだけど……でも、このタブレット端末はVRゲームの高負荷にも耐えられるように作られているんだから、通信と映像の出力程度で置き物――文鎮化するとは考えにくいか。

「接続の仕方を変える。一回、リロードするからちょっと待って」

『うん』

 作業を進め、ヘッドセットと小型HMDを再起動させる。

「ルーティ?」

『聞こえるよー』

「映像は……改善されたな。フレームレートも安定した」

 ほぼリアルタイムでゲーム内の景色を映し出していると思う。多少のラグはある……か? 対戦専用サーバーに移れば、処理の負荷も軽減されるだろうからそれまでの辛抱かな。

「通信はオープンチャンネル――合同通信で、プレイヤーごとに個人通信を設定……あと、個人通信の中も細かに設定……で、声量で通信制限……これで呟きが、下手にみんなに伝わるってことも防止……これで良いかな」

 小型HMDは使い方がいつも使う物と多少異なるので、個別の設定が必要になって来る。そしてその更に細かな設定も必要だ。考えただけで合同通信、個人通信に勝手に切り替えられ、通信をシャットアウトして独白することも出来るVRゲームはやっぱり凄いな、と。

 ちなみにこの小型HMDは家に帰った際に、冬美姉さんから借りて来た。大学生になってからARゲームにちょっとだけ手を出していた時期があって、それを憶えていたので無理を承知で言ったのだけど、文句一つ言うことなく貸してくれた。


『でも、シャロンやバイオさんの対戦を見られないなんて残念だね』

「だからこうしてカメラ係を頼んでいるんだよ。こっちはこっちでみんなの視点に切り替えて、対戦を見るから気にしないで」

 みんな――ルーティとティアとにゃおとオブシディ。四人には東西南北の席を位置取ってもらった。

 対戦そのものを観戦可能にするか否かはサールサーク卿に一任していたわけだけど、上手くミスターが話を持って行って、可能にしてくれた。おかげでルーティたちが観戦する位置でマップ全体を見ることが出来る。観戦だと、プレイヤーがコンソールを用いればズームも出来る。多少、遠くてもカメラ技術にさえみんなが長けてさえいれば問題無い。問題があるとすれば、そのコンソールの操作を僕が出来ないというところだろうか。みんなの視点に潜り込む設定だけでも結構な手間だったし、了解を得るのも大変だったので、文句を言える立場にはないからそこは目を瞑るしかないだろう。


 その点だと、にゃおとオブシディは観戦経験が多い分、安定して戦闘を見ることが出来そうだ。逆にルーティとティアは不安だな。


『大事な対戦の日に家から急な用事が入るってどういうこと?』

「急だったんだから弁明のしようもないよ。でもこれが、バイト先やらもっと別のところへ行かなきゃならない用事だったら、こんなヘッドセットと小型HMDで移動なんて考えたくない」

 ティアには若干ながら怪しまれているようだが、乗り切らなければならない。


 僕がログインしない理由は、ミスターがログアウトしたあとの誘導をするため。けれど、それが可能になるのはシャロンとバイオのどちらかが全力でミスターと戦うこと。そしてミスターが全力で応戦し、全力で負けなければならない。その後、すぐにミスターは対戦サーバーから退室する形でログアウトし、僕と現実で連絡を取って、御巫さんの入院している病院を目指す。


 ミスターはプライベートな情報をゲーム内では伝えては来なかった。それは最低限のマナーであり、同時にそこからネットに情報が拡散することを避けるためだ。誰がどこで聞いているかも分からない。昨今の携帯機器はほとんどがネットを介しているが、VRゲーム内で現実の住所や居場所を口にするよりはまだ秘匿レベルは高い方だ。ウィルス感染でもしていない限り、メールや電話を盗み見されることはない。『NeST』はガチガチに守られているが、スマホも『NeST』の技術の応用でかなり固い守りとなっている。それでもウィルスは抜け穴から入ろうとはして来るだろうけど、怪しいサイトを踏んだりしたことがスマホでは一切無いので、そこは心配しなくて良いのではと思っている。まさかの事態も考慮するべきかも知れないが、そこまで気にしていたら僕たちはスマホで安心して連絡もアプリも使えやしないので、あまり重く考えていては動くことさえままならない。


 僕もまた、御巫さんの入院している病院については明かしていないし、自身の住所もミスターには伝えていない。けれど、ミスターが今、どこでログインしているかは予め聞いている。そのログインする場所は予め僕が指定した。折角、ログアウトすることが出来ても病院に向かうのに時間が掛かっては意味が無い。場所を指定した場合、その近くの病院のどこかに御巫さんが入院しているというアタリは付くだろうが、それだけでは動けない。近くの病院に総当たりをしても良いだろうが、ミスターは職に就いている。働いているということは、自身の悪評が流れることを好まない。怪しい人物として通報されては、ミスターが培って来たあらゆる信用が地に落ちるということだ。


 要するに互いに最小限の情報しか提供せず、現実で顔を合わせてようやく互いが持っている重要な情報を共有し、病院に向かうというもの。少々、回りくどくはなってしまうが個人情報とはそれほどまでに大切に扱わなければならない代物なのだ。そして、互いに持っているカードを切る場面は決して間違えてはならない。


「バイオさん……じゃなくて、僕が現実側でプレイヤーネームを口走っているとかなり怪しい――この格好だけでもかなり怪しいんですから、こっちからはプレイヤーネームじゃなくて本名を遣わせてもらいます」

『はっ、監視されているみたいで好かねぇなぁ』

「啓二さんがそう言うと思ったので、僕は対戦について一切、口出しはしません。アドバイスも指示も出しません。見守るだけです」

『テメェが俺に指示を出せる立場ってのが癪だな』

「僕も啓二さんの視点を見るのは反吐が出そうになります」

 僕に喧嘩を売る元気があるなら、少なくとも緊張はしていない。サールサーク卿に対戦を申し込まれた際には色々と悩んだはずだけど、それについては啓二さんどころか望月も一切、話してくれなかったから、気になっていたんだけど……いや、今も気に掛かるんだけど。

「望月? さっき啓二さんと話をしたけど、僕はその戦闘に指示もアドバイスも出さない。出すとしたら、想定していない武装が出て来た時の解説ぐらい、かな。ArmorからKnightに変わって、知らない武装が増えた分、向こうに知識の差で有利ってのは良くは思わないから」

 ただ、対戦相手とランク差があった場合、低い方のランクに合わせて武装の調整が行われるのでミスターとサールサーク卿の機体もそれなりに弱体化はされている。けれど、そんなのは『オラクルマイスター』としてギルド単位で対戦、ミッションをこなして来た二人には大した問題にはならない。

『うん』

「あと、負けたとしてもすぐログアウトするのは駄目だ。今回は多分、僕たちと戦った時みたいなことになる」


 恐らく、“痛み”を伴う戦いになる。


『心配してくれているの?』

「そりゃぁ、ね」

『私は立花君が、変な格好で外に出て、周囲からの視線に耐えられるのかどうかの心配をしているところだけど』

「……うん、それはもう、頑張るしかないかなって」

『変なところで頑張るんだね』

「一言よけいなんだよ」

『……これで、ちゃんと全て上手く行くのかな』

「…………言い切ることはできないよ。どれもこれも、上手く行くなんてそんな虫の良い話、この世には無いんだから」

 絶対、どこかでミスは出る。なにより、成功率の低い賭けに出ている時点で僕とミスターは沼に片足を突っ込んでいる。這い上がれるか、それとも両足まで浸かり、そのまま底無しに沈んで行くかは、全ては誰も知らない。神様がこの世に居るのなら、きっと神様だけが知っているだろう。


「さぁ、踏ん張ってもらわないと」


 僕は呟き、席を立って『NeST』を鞄に入れて席を立つ。目の前のパソコンの電源を落とし――小型HMDやヘッドセットの接続、あとはVRゲーム内から送られて来る映像の出力の仕方についてネットで調べたりするために用いていただけなので、さほどこのパソコンが大切なわけじゃない。


 ネカフェの個室から出て、支払いを済ませてエレベーターに乗り込んだ。勿論、ヘッドセットと小型HMDは付けたままで。

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