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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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人の苦労も知らないで……

 五回ほど特訓を重ねたところで午後十時を回ったので、お開きになった。あくまで時間によるログアウトであって、バイオとシャロンが疲れから「やめたい」と切り出したわけじゃない。二人はこっちのアドバイスにしっかりと耳を傾け、バイオに至っては僕程度の狙撃であったら、ある程度まで予測を立てるまでに至った。マップによって狙撃ポイントは変わって来るが、その特性、有利か不利か、そして条件などを読み解けるようになったのであれば、ひょっとしたらミスターのカリキュレーターによる狙撃にも少しばかりは噛み付くことが出来るかも知れない。

「あと一週間で……は難しいか」

「毎日鍛えられるわけじゃない。付け焼き刃になることは君も承知の上だっただろう?」

「でも、オブシディはこの特訓を無駄とは思わなかったんですよね」

「君の言う通り、無駄なことなら俺はやらないな。向上心を持ち、常にこちらを上回ろうとする気概を持っている。付け焼き刃であろうと、その心情には逆らえないということだ」

「また難しいことを言いますね」

 オブシディが「向上心を持っている」と二人を評価するのなら、まだまだ伸びるかも知れない。ここで打ち止めかも知れないが、それは未確定だ。大きく伸びる可能性だって残されている。


 ミスターが二人のどちらかと本気で戦って、本気で負ける。それが水面下で事を進ませようとする僕とミスターの考えでは、必要な条件なのだが……もしも、そこに至れないなら、せめてサールサーク卿だけでも打ち負かして、解放しなければならない。


「次にログインできる時間が分かれば、また連絡をする」

「ありがとうございました」

 オブシディがログアウトしたところで、僕もまたログアウトする。


「……あー、(だる)い。慣れない戦法で機体を操縦すると、現実でもよけいに疲れているような気がする」

 肉体的な疲労は無いのだが、やはり精神的疲労は拭えない。けれど、それはVRゲームに限らずどんなゲームであっても同じことだろう。一生懸命に続けていたところでゲームオーバーになり、セーブしたのが一時間前のデータだった……なんてことは僕が小学生ぐらいの時にはまだあった。あの時の徒労感や、また同じことをやらなきゃならないのかという落ち込み具合は尋常じゃ無かったけど、それぐらい面白かったから今度はセーブをこまめにしてクリアすることが出来た。

 要するに昔だろうと今だろうと未来だろうと、ゲームの形態は変わろうとそこで消耗する精神力というのは大して変わらないということ。セーブデータの不安だけはほぼ無くなったところだけはありがたいだろうか。昔は記憶媒体が貧弱で、よくセーブデータが消えたらしいし……あとセーブデータそのものが無いパターンのものもあったとか。そういうちょっと古いゲームも、また引っ張り出してやってみたくはある。あれはあれで面白味があるはずだし……多分ね。


「終わった?」


「うひゃぁっはぁーい!」

 午後十時過ぎに変な声を出してしまった。

「なんで、こんな夜遅くに倉敷さんが居るんだよ」

「合鍵を持っているから」

「そこじゃない。そこも色々と言いたいところはあるんだけど、今はそこはどうでも良い」

 もう入浴を済まして就寝へと向かうような時間帯に、どうして僕の部屋に合鍵を使って入って来ているのか。ここが問題点である。

「なに? 君、親と喧嘩でもしたの?」

「別にそういうわけじゃないけど」

 じゃぁどういうわけなんだよ。

「女の子を一人ずつ計二回泊めたことのある立花君に、三回目を求めるだけの話よ」


 ……待って、思考が追い付かない。


 一回目は理沙で、二回目は永山さんだ。それは分かる。分かるけど、そのあとの三回目ってのがちょっとよく分からないですね。


「なんなの? 冷やかしかなにか? 帰ってくれない?」

「冷やかしでこんな夜遅くに来るわけないでしょ」

「いや意味分かんないから。帰ってくれない? ほんと、帰ってくれない?」

 理由はどうでも良いから、帰って欲しい。僕の平穏な一日の終わりに、とんでもない爆弾を投下して来るのはやめてもらいたい。僕だって、散々、人のことを馬鹿にしたり罵ったりはするけれど一応は平和を愛している。いざこざを生み出すことに関してだけは誰よりも長けていると自負している。それでも、好きで人を馬鹿にしたり罵ったり、いざこざを生み出したいわけじゃないから。

「なに? 桜井さんと永山さんは泊めることが出来て、私を止めることが出来ない理由でもあるの?」

「そもそもなんで泊まること前提で話が進んでいるんだよ。アパートの家主さんに見つかったら、一発アウトなんだけど」

 いつも平身低頭というか、ペコペコと挨拶をしているので心象は良いはずなので、滅多なことで家主さんが直に部屋に訪れることはないけれど、その滅多なことが今日この瞬間に起こらないとも限らないじゃないか。

「っていうか、なんで泊まるの? 泊まる理由は?」

「……パパと喧嘩した」

 やっぱり親と喧嘩しているんじゃないか……。

「なんで?」

「昔のこと……もっと詳しく訊こうとしたら、口論になって、それで、ムカついたから出て来たの」

「……あのね、それでどうして僕の部屋なわけ?」

「合鍵を使って入れるのって都合が良いし、友達の家にこんな時間に上がり込むのは、気が引けるから。高校で、家族と仲が悪いって噂が流れるのも嫌だし」

「あ、あーそういうこと。へー、じゃぁ僕は友達よりも扱いやすいからってことかー。そうだよねー僕と倉敷さんの間柄って、友達以下って感じだからねー」

 棒読み加減に言う。いや、言いたくて言ったわけじゃない。なんか気付いたら棒読みになっていた。

「私が立花君を友達以下と見ていたら、その部屋に合鍵があっても入ると思う? 異性の部屋なのに」

 …………あーもう、なんなんだよ!

「ちょっと逆ギレして良い?」

「もうしているでしょ」

「なんで僕の部屋なわけ? やっぱり納得が行かない。永山さんは奈緒に(そそのか)されてだけど、理沙も君も、なんで僕の部屋に泊まろうとするの? ってか理沙は泊まったけど、なんなの? 僕の静かで誰にも邪魔されない穏やかな睡眠時間さえもストレスで埋め尽くすわけ?」

「私と一緒だとストレスなの?」

「それは…………そう、でしょ。僕、倉敷さんと一緒に居ると緊張するって言ったじゃん。そんな人と同じ部屋で睡眠を取るとか、ストレスでしょ」

「うん、言ってみて私もそうだなとは思った」

「だったら、」

「でも、もう友達の家に泊まるって電話で言っちゃった」


 「言っちゃった」じゃねぇよ! 僕の許可を取る前に親の許可取ってどうするんだよ。取るにしても逆にしてくれ、逆に!


「つまり、立花君が私を部屋から放り出したら、野宿するしかないんだけど」

 倉敷さんは困り顔で、やや上目遣いで僕を見つめて来る。

「野宿させるほど立花君は、私のことが嫌い?」

 これを狙ってやっていないから、困る。狙ってやっていたら、これだけ人間観察を続けている僕からしてみれば不自然さをそれとなく感じ取り、「あざとい死ね」と言えるんだけど、倉敷さんはなんと言うか……男女の駆け引きについては絶対と言えるほど無知である。


 そんな自然なお願い事をする姿に僕は立ち眩みを覚え、そして心の中で呟くのだ。


 どうして僕は、こんなにも自然な形でお願いする女の子の表情に弱いんだ、と。

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