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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
280/645

付け焼き刃だとしてもスパルタで

***


「見通しが甘い!」

 叫びながら僕はテトラに構えさせたスナイパーライフルの引き金を引く。弾丸は一直線に突き進み、その先で索敵を続けていたバイオの機体に命中する。

『どっから撃って来てんだテメェは!』

「アラート音と警告表示の方向をもっと意識して下さい! あと、もう僕はあなたの振り向いた方向には居ません!」

『ちっ、ウゼェ!』

「このゲームではスナイパーライフル――実弾ですと、現実の武器で表現するならアンチマテリアルの発展系ですけど、VRFPSの対人用スナイパーライフルと異なって、ワンショットワンキルになりません。装甲を貫き、損傷ゲージを削り、防御力の低下と、防御力で威力が低下した数値を耐久力から減らします。部位の破壊には確かに適していますが、ヘッドショットだけで沈黙するVRFPSのスナイパーと一緒にしないで下さい」

 テトラを次の狙撃ポイントまで移動させる。

『芋スナを後ろからナイフで掻き切るのが俺の楽しみだったんだよ!』

「芋スナなんてしていたら、即行でやられますから。VRFPSでも芋スナより厄介だったのは移動できるスナイパーだったでしょう? 芋スナはただ腹が立つだけです」

 一ヶ所にずっと潜み続け、狙撃できるところに人が現れたらキルする。それが芋スナと蔑称されるプレイヤーの行動だ。同じところに隠れているため、居場所さえ突き止めてしまえばこういった芋スナは簡単に裏を掻くことが出来る。たまに少しだけ移動して、もうそこには居ないように見せ掛けることもあるけれど、基本的に芋スナは自身の狙撃ポイント周辺から動かない。


 これよりも厄介なのは、スナイパーライフルを片手に戦場を縦横無尽に駆け巡るタイプのスナイパー。FPSにおけるスナイパーライフルの強みであるワンショットワンキルを常とし、キルしたなら即座に次の地点に移動し、またキルを取ったならまた移動をする。パターン化されている行動であれば、法則を見出して裏取りもできてしまうが、パターンを分からせないためにマップを頼りに、その都度、変化して行く自身にとって有利な地点へと移動を続ける手練れのスナイパーも存在する。


「移動を繰り返すのは現在地を分からなくさせるためでもありますが、一発でも敵から攻撃を受ければマップに表示されてしまう『Armor Knight』ではスナイパーは同時にデコイやマップジャミングなどの武装も備えていることがあります。まぐれ当たりでも居場所が分かってしまったら、狙撃もなにも出来なくなってしまいますから。そして、ワンショットで離脱するのは、アラート音と警告表示によって撃った方向まで分かってしまうからです。当たらなかったら不幸です、外してしまったら終わりです。避けられたなら最悪です。だから逃げます。逃げ優先のスナイパーだと考えて下さい」


 縦横無尽に駆け巡る度胸が無く、芋スナのような誹りも受けたくないスナイパーは基本的に、『Armor Knight』に限らず逃げながら狙撃する。戦法として有効であることと、生存率を上げるためだ。ゲーム内で逃げ腰だからって、現実でも根性無しなわけではなく、それがプレイスタイルとして染み込んだ場合、自ずとそういった動きになる。


 VRFPSで通用しても『Armor Knight』では通じない戦法もあるのだ。現在は狙撃型が不利なシステムなので、改善される可能性もあるが、この不利に傾いている天秤をどうにか中立まで持って行くのが逃走型のスナイパーということだ。


 中には、バレることなんてお構いなしで遠距離からバンバンと撃ちまくって来て、追い掛けたら追い掛けた分だけ距離を取って、追い付こうにも追い付かせない立ち回りをするような中学生も居るんだけどな……あいつはどんなに無傷のままで近付こうとしても近付かせてくれないからな。ホント、中学生が操縦しているとは思えない動きなんだよ。そっちを重視し過ぎたせいで、近接戦闘は隙だらけだけど、あれだけ遠距離の立ち回りが完璧だったら、そりゃ近接戦闘については疎かになる。


 移動を終えて、テトラに狙撃体勢を取らせる。モニターにレティクルが映し出され、更に操縦桿の操作でスコープ倍率を調整する。


「撃ちますよ?」

『ちっ、どこだ!?』

「アウトです」


 引き金を引き、発射された弾丸はバイオの機体を貫き、その機能を停止させる。モニターに出て来る表示をタップして消し、すぐさま出撃ゲート前へと転送される。


「予告しておいて回避行動に移ろうともしなければ、動かない的と同じです」

 出撃ゲート前に同じく転送されて来たバイオにそう詰め寄る。

「んなことは分かってんだよ」

「良いですか、ミスターはこれよりも精確無比な狙撃を行います。それでいて、近接戦闘にも抜かりはありません。ただ、スナイパーとしての腕前よりも若干、近接戦闘での腕前の方が劣るため、どうしても接近しなきゃなりません」

「接近したあとは、どうすれば良い?」

「エンチャントの武装で防衛か、それとも攻勢に出るか。どちらにしたってまともに攻撃を受けることのないように立ち回って下さい。隙は必ず出来ます」

「エンチャントで一番気を付けるのはどれだ?」

「強制破壊の氷結のエンチャントです。氷結ゲージは溜めるのが難しいので、そのエンチャント自体が嫌われがちですが、連続で同じ箇所に攻撃をできるだけの操縦技術を持ち合わせているのなら、脅威以外のなにものでもありません。次に炎熱。分かっていると思いますが、これにはスリップダメージが乗ります。装甲の損傷ゲージなんて関係無く、耐久力を減らして来ます。最後に動作不良を起こす雷電。ですが、これは一定時間さえ経てば解除されるので、凌ぎ切ることはそう難しくありません」

「強制破壊、か……損傷ゲージを無視して氷結した箇所が勝手にぶっ壊れるっていう状態異常……」

 なにやら考え込んでいるようだが、そんな猶予も無い。

「サールサーク卿に喧嘩を売られたんですよね? あなたはそれを買ったんですよね? だったら、もっと狙撃に対応できるようになってもらわないと」

「なんでサールサーク卿と喧嘩するのに狙撃を気にしなきゃならねぇんだ」

「ミスターも参加するからですよ。それでシャロンはオブシディに鍛えてもらっている最中なんでしょう?」

 こっちの予定を無視してミスターはサールサーク卿に悪魔の囁きを行った。その結果、分かりやすいくらいの反応速度でサールサーク卿はバイオに対戦を求めたらしい。それもミスターの居るすぐ傍での話だ。

 話が二人切りで済むならまだ良かったのだが、サールサーク卿はバイオと共に居るシャロンにまで恨みを、怒りを飛び火させ、結果的に2対2の対戦が組まれることになった。このことについてはミスターも想定していなかったらしく、後日、僕のスマホにメールで「困ったことになった」という連絡が来た。

 サールサーク卿と組む以上、ミスターは手を抜けない。あの人は勘が良い。気付かないだろうと高を括れば、必ず気付く。なので、ミスターは全力を出さなければならなくなり、そして同時に対戦中は僕との現実でのサポートを受けられなくなる。


 ただ、僕とミスターのやろうとしていることは水面下で進ませるものであるため、それすら勘付かれたら全てがパァになってしまうわけだけど。戦闘中に、ミスターがボロを出さないことを祈るだけだ……僕と違って嘘をついてもすぐにバレないので、そこにはさほど不安を無いけれど、頭の隅には置いておかなきゃならない。


 オブシディとシャロンが出撃ゲート前に戻って来た。


「どうですか?」

「粗い。どうやってもサールサーク卿には届かないだろうな」

「付け焼き刃になるのは分かっています。彼我の差は歴然であることも分かっています。それでも、マシになる程度には鍛え上げなければなりません」

「君がそこまで躍起になるのなら、俺も手を貸すことには異論は無いが、二人は持ち堪えられるのか?」

 チラッと僕はバイオとシャロンをそれぞれ見つめる。疲れの色が浮かんでいる。それはこのゲームの中でもハッキリと感じ取れた。

「現実での疲労と合わせて、バイオは相当のハンデを背負うことになるかも知れませんが、知識は無駄にはなりません。やれる内にやっておかないと、歯が立たないどころか触れることさえ可能かどうか」

「スパルタで行くしかないということか」

 僕はミスターの狙撃を想定とした立ち回りでバイオを担当し、オブシディにはサールサーク卿の防御と耐久力を想定とした立ち回りでシャロンを担当してもらっている。勿論、サールサーク卿に因縁があるのはバイオの方だ。だからバイオがオブシディと手合わせをするべきなのかも知れない。

 けれど、ミスターの存在が危う過ぎる。幾ら、サールサーク卿対策を立てたとしても、ミスターだけで全てが引っ繰り返される。だからまずは逆から行う。防御と耐久力重視のサールサーク卿の機体とは結局のところ、真正面からぶつかる以外に方法がほとんど無い。シャロンの速度ならグッド・ラックはともかくミスターは撃ち抜けない。となると、シャロンの突破力がサールサーク卿にどれほど影響を与え得るか。それを知る手掛かりにもなる。

「シャロン」

「……なに?」

「“狂眼”だけど、オブシディにはどこまで通用した?」

「ほんのちょっとだけ。意表を突くぐらい……この人、順応性が高すぎる。先読みしているのに先の先読みをされてどうしようもなくなる」

「サールサーク卿も、同等の順応をすると考えて欲しい。一度、二度は通用しても三度目、四度目が通用するかは定かじゃない。絶対に対策を立てて来る」

「先読みしても、それを上回る対処って、頭おかしい」

「あの人はもう既に頭がおかしいんだよ。それを踏まえて立ち回ってもらわなきゃならない。幸い、オブシディは狂っている意味ではない方向で頭がおかしいだけだから」

「それにしたって、人としてどうなの……」

 そこは……確かに一理あるのだけど、もう僕はオブシディにスパルタで行くと言ってしまった手前、引き返すこともできない。


 バイオが口を挟んで来そうだったが、オブシディが僕たちの間にある空気を察したらしく、話し掛けて手前で引き止めた。


「オブシディは強い。でも、サールサーク卿はオブシディに勝ったことがなかったはず。だから、オブシディと鍛えれば少しはサールサーク卿を追い詰められるかも知れない」

 シャロンはしばし考えたのち、なにやら言い辛そうに声を発する。

「私、まだ納得が出来ていないから」

「戦う理由が、無い?」

「だって、私には……分からないから。正しいのか、正しくないのか。そんなの、一つも分からない」

「だったら、分からないことは放り出したら?」

「放り出す?」

「僕はそうしているだろ。大抵、手痛いしっぺ返しが待っているけど、分からないことや嫌なことからは目線を逸らして放り出す。僕のは酷いけど、シャロンなら程度を弁えられるんじゃないかな」

「……放り出す……か」

「戦う理由が分からないんなら、シャロンがなにを守りたいのかで考えたら良い。それは僕にも分かるくらい単純明快なことだよ」

「……うん。私は、兄さんのために戦う。兄さんが苦しそうだから、それを取り除くために。それ以外のことは、取り敢えず考えない……うん、そうだ…………少し、気が楽になった。リョウに励まされるなんて思わなかった」

「それはどういう……確かに、僕も君を励ます日が来るとは思わなかったけど」

「ありがとう。ふふっ、やっぱり嫌いじゃないなぁ、リョウのたまに見せる優しいところは。本当に、たまにしか見せてくれないけど」

「僕は良い子ちゃんの皮を被れないから。誰にでも優しくできない。でも、なんだろうな……人見知りで疑心暗鬼な僕だけど、それを承知の上で、接してくれる人には、こう……君の言うように、たまにだけど優しくできるんだよ」

「案外、人懐っこいってことじゃない? そこは猫っぽい。でも、犬っぽくもある」

「もう動物で喩えられるのには慣れたよ」

「だから可愛がりたくなる。うん、可愛がりたいって思う」


 最近のシャロンは、なんだか僕に甘くなっている気がする。もうちょっと厳しい目で監視していてくれないと、ちょっとだけ不安だ。でも、なんで甘くなったんだ?


 シャロンの顔を浮かんでいる感情を上手く汲み取れなくて苦心しているところでオブシディとバイオの話が終わり、バイオが僕に「もう一回、練習させろ」と言って来たのですぐさま対戦のセッティングを行い、再びの特訓へと移った。

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