表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
279/645

///正義が元より狂気の産物であるならば///

///――years ago 05///


 あの日に起こったこと、その前後の記憶は酷く曖昧だ。残っているのは自転車から放り出された自分。そして彼女。そこだけが眠っている際に悪夢として現れる際、いつもスローモーションで上映される。そして、プツリと記憶が途絶える。俺はその真っ暗闇の中で叫びを上げた瞬間、現実の目覚めへと誘われる。

 毎日が怖ろしい。

 平凡が怖ろしい。

 通常が怖ろしい。

 平穏が怖ろしい。

 なにも起こらないことは平和なことであるはずなのに、心はいつもなにか起こってくれと願っている。それが果たして俺自身になのか、それとも彼女になのか。とにかく、なにかが起こって、この夢か現かすらも分からない毎日を終わらせて欲しい。なんでも良い。なんだって構わない。

 けれど、それを自分で終わらせることができない。俺は呪われている。真面目に生きろと親に言われ、真面目であるという烙印を押され、誠実に生きなければならないという周囲のレッテルによって掛けられた暗示に翻弄されている。そんな俺が、俺自身の手で、全てを終わらせることは出来ないのだ。

 だから不幸を求める。今が不幸なのか、それともこれからも不幸なのかは実のところ、分かっていないが――これ以上の不幸があるのかどうかさえも不明なのではあるが、取り敢えず、なにかが“終わる”ことをずっとずっと求めている。


 終わる? なにが? なにを終わらせたいのだろうか、俺は?


 大学に入学した。それなりに頭の良い大学だ。入学理由は、彼女の病院に近いからと、彼女の入院費をいつか必ず彼女の両親に返済するために良い企業へと入社したいと願ったからだ。

 沢山のサークルから誘いがあった。けれど全て断った。同期に色々と話し掛けられたが全て無視した。


 そんなものに構っている暇など無いのだ。俺は御巫のために面会に行かなければならない。その面会の時間を削ってまでなにかをしようとは思わないし、交友関係を広げようとさえ思わない。


 友人などアテに出来ない。親友が遠因で彼女が眠り続けているのであれば、誰一人として俺は彼女に近付かせてはならないと学んだ。


 だから誰も彼もを追い払った。築いて来た友情? 作り上げた人間関係? どうだって良い。それが遠因だったのだから、俺と彼女はそれから更に遠くへと、逃げなければならない。

 気付けば周りには誰も居なくなった。面会時間の合間に喋っていた友人だった者たちとはもう何年も口どころか顔すら合わせていない。けれどそれがなんだと言うのだろうか。俺は果たさなければならない。罪を償わなければならない。

 あの日のあやまちから全てが始まっているのであれば、そのあやまちの代償がこれであるというのならば、その大きな大きな罪を洗い流さなければならない。だったらこれから先に待っていることが孤独であろうとなかろうと、俺は俺の決めたことをただ進むだけではないだろうか。


 あらゆる余暇の過ごし方を考えた。彼女に語り掛け続けるのも当然ながら続けるのだが、どうしても時間が余ってしまう。だから、その余った時間になにか出来ないものかと色々と始めた。けれどそのどれも、俺の心を満たしはしなかった。余暇を過ごすことはできても、結局、飽きが来てしまう。三日坊主ではないのだが、しかし、毎日のように同じことを繰り返し続けることの連続が、不毛であるような、全て無駄であるかのような感覚に囚われてしまった直後に、冷めてしまう。


 いつしか、面会時間を越えても病院に残るようになった。特別扱いされるようになった。そもそも、御巫が目覚める見込みがないために、ほぼ終末医療向けの、家族やその知り合いが宿泊できるような広めの病室だったこともある。

 病院から大学に通うようになった。

 しかし、就活をすることはできなかった。御巫との時間が削られるのだ。そんなことをしている余裕は無い。しかし、良い企業に入るために良い大学に入ったというのに、就活をする暇が無いとはとんだ誤算だ。幾ら大学の成績を首席で卒業したところで、まともな職にありつけないのでは意味が無い。だからといって、病室にずっと籠もり切りでは彼女の両親に申し訳が立たない。だからフリーターではあるものの、少しでもお金を稼ぐことにした。


 バイト先でも俺は真面目だと言われた。真面目だと言われたからには、真面目と言われる通りに仕事をし続けた。正社員にならないかと持ち掛けられたが、それも断った。ただでさえバイトで御巫との時間が削られている。正社員になれば、フリーターのように自由な時間を取ることは難しくなる。これもまた、誤算である。職に就けば、それだけ御巫と過ごす時間が減る。無くなる。ならば、俺は御巫と居続ける限り、きっと定職に就くことはできないのであろう。


 しかし、それが罪なのだから仕方が無い。


 苦しみから逃れるかのように俺はVRゲームを始めた。悪夢の最中で元親友の言葉を思い出したのだ。要は不安や恐怖の排除だ。内側にストレスを溜め込むことは多くとも、発散できる場所が無い。ならばVRゲームでなら、それが可能ではないかと考えた。しかし、VRゲームにログインしている間は彼女の容態を診ることができない。これは非常に困った。

 困ったのだが、なんとかなった。不思議ではあったが、ログインしていても外の声が俺には聴こえた。看護師の愚痴も、医師の足音も、なにもかもが俺の耳に入って来る。だから愚痴を零した看護師は変えてもらうように心願したし、男性看護師も避けてもらうように言った。

 彼女の口元付近に小型マイクを吊り下げ、HMDに繋げた。通常、HMDではこのようにプラグを接続しても、ゲーム内で外の音を聴くことができないのだが、俺にはハッキリと御巫の呼吸音が聞こえた。

 それだけが俺の癒しだった。ゲーム内において、またも俺は誠実や生真面目、実直なプレイヤーというレッテルを貼られた。だからそれに従った言動を取った。悪意は排除し、正義は大いに讃えた。『オラクルマイスター』のサブギルドマスターになったのは、ゲームを始めて一ヶ月後であったのだが、ギルドマスター曰く「成長が著しい君に、このサブギルドマスターの席は相応しい」と言われた。その言葉通りに俺は成長しなければならないと思い、ただひたすらにゲームに打ち込んで行った。

 勿論、バイトもする。御巫との時間も過ごす。あくまでゲームはその合間だ。不思議なことに、様々なことを余暇でやって来たがこのVRゲームだけは決して飽きが来なかった。ストレス発散には丁度良いだけでなく、そこに巣食う邪悪の排除も出来てしまう。なんと素晴らしいのだろうと思うようになった。


 だが、リアルに戻れば眠っている御巫を見ることになる。ゲーム内では俺の心へ安らぎを与えてくれる呼吸音が、リアルでは(むご)たらしく俺の心を焼く。それでも御巫への話し掛けるのはやめなかった。彼女のことを疎ましくなど思いはしなかった。そもそも、御巫が目覚めるのを待つために俺はゲームで時間を潰すことにしたのだ。どれだけ俺の心を焼き付くそうと、御巫に苛立ちをぶつけるようなことは決してしない。


 御巫を見捨てる?

 御巫を切る?


 そんな人生は想像できない。


 ああそうだ。

 御巫は俺の全てだ。


「春には桜を、夏には海に、秋には山に、冬には雪を。そうだろ? 御巫。俺はいつまでも待てる。いつまでだって待っていてやる。この足を止めていられる」


 だから安心して欲しい。俺は絶対に御巫を一人にして、歩き出しはしない。


 孤独ではない。御巫が居る。御巫が居てくれる。

 そう、これは孤独ではない。


「さぁ、今日も『オラクルマイスター』の活動を始めよう」


 そう呟いて俺はHMDを頭に付ける。なにせやることは沢山ある。まず、リョウだ。あの自己中心的な動きをする悪質なプレイヤーには近付かないように注意喚起をしなければならない。いつかはブラリ推奨プレイヤーとして煙たがられる存在にはなるだろうが、その被害を最小限に抑えたい。そしてなにより『スリークラウン』の紫炎。『クレイジーハンズ』から『スリークラウン』になった際に入って来たオブシディアンはともかくとして、紫炎もリョウと同等か、或いはそれ以上に危険なプレイヤーだ。


 悪は排除しなければならない。

 だから俺は徹底して、悪を断罪する。


 そうすることで、誰かに訪れるかもしれない不幸が、その遠因が無くなるかも知れない。


「だったら、声高に叫ばないわけには行かない」


 狂っているのではない。これはただの、正しい行いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ