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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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大いに悩む

 一夜明けて、「やっぱり寝る前にゲームをすると眠りが浅いなー」と呟きながら洗顔、朝食、着替え等の支度を済ませて、いつもの時間に部屋を出る。一学期は登校時間を一定に保てていたのだが、それも二学期になって来ると慣れてしまうというかダラけてしまうというか、雑になって来た。これで三学期に入れば僕はどうなってしまうのかとも思ったのだが、時間にうるさいオンラインゲームをやっている以上、どうあっても遅刻するほどダラけることはないのではないかと思っている。なんだかんだで校則は守りたいし、あと教師に目を付けられたくもない。現状、数学の教師に目を付けられているため、これ以上、肩身の狭い思いをしたくないのだ。


「おはよー」

「おは……よう」

 教室に入った途端にクラスメイトの女子に挨拶をされてしまい、焦り、そしてドモり気味になりつつ返事をする。


「あのね、立花君。二時間目、数学でしょ?」

「……え、ああ。そうだったっけ」

 なんで僕のクラスの時間割って数学が一時間目と二時間目なんだろう。あとの一回は午後だし、バランスが悪いというか朝のもう一つは四時間目ぐらいに入れておいてくれるとバランスも取れると思うのに。

「宿題でどーしても、どーしても、解けないところがあって。教えてくれない?」

 なんでこう、人っていうのは助けてもらったら、今後もずっと助けてもらえると思うのだろうか。そうやっていつまで経っても自立しない気でいるんだろうか。『Armor Knight』の対人戦の野良マッチングだったら味方だったプレイヤーが次の対戦では敵になっていたりもするっていうのに。


 けれど、向上心というものは目には見えない。大樹さんほどの人であれば、頼っているのかそれとも努力しようとしているのかの判断ぐらい付くのかも知れないが、僕にはそれは見分けられそうもない。だから、ここで賭けに出て突き放して失敗したら、それはそれで大変面倒なことになる。


 向上心もない、努力もせずに困っていれば助けてもらえると思っているだけならば、いつかその甘い考えにしっぺ返しが来るが、それは僕ではない。だったら、教えておいた方が無難だろうか。しかし、こんな損得を気にして人の頼みやお願いを聞く自分というのは嫌な気分だ。人見知りが原因にあるとしても、心を開いた相手には感情をこれでもかと押し付けるし、ゲーム内なら人と話すのもさほど難しくないので、どうにかして現実でも保身に走らずに物事を決められたら良いのに。


「教えても良いけど、なんで?」

「宿題の答え合わせ、今日は私の列からになるかも知れなくて。日にちの出席番号で決めるかもだけど、この前は私の一つ横の列で終わったから」

 彼女の席がどこなのかすら曖昧なのだけど、こうして言うのだから事前に準備をしておきたいということなのだろう。遅刻して来た時は、テキトーに選んでいたっぽいけど、あれは授業中の問題だったからな。あの数学教師なら宿題の答え合わせなんて最初の十分ぐらいでちゃっちゃと済ませたいと思い、列で当てる可能性はあり得る。

「ちょっとのミスでも、指摘して来るから……怖くて……問題、解けはしたんだけど、その、式に自信が無くて……友達にも見てもらって大丈夫とは言われているんだけど……私、あの先生が苦手で」

「答えは出てるんだ?」

「宿題ぐらいはちゃんとやるし……嘘、御免、嘘言った。数学だけはちゃんとやるの間違い。他はちょっと手を抜く時もある」

 正直である。けれど、手を抜いていたとしてもそれで授業に付いて行けているのであれば、それはこの子の勉強スタイルであるので、そこに僕が指摘する隙もなければ、そもそも理由すらない。


 撤回しよう。答えまで導き出せているのなら、そこまでちゃんと努力しているという証拠だ。これで「答えを写させて」レベルだったなら、理沙以外は無視していただろう。


「あの先生、ちょっと怖いからね」

「そう! 間違えたらどうしよう、ってなって、いつもビクビクしているから」

 数学への苦手意識って結局のところ、教師に半分以上の原因があるようにも思える。初めから数学が得意という人と、途中から数学が好きになったという人というのは異なるベクトルから一つの共通点に至っている。となると、途中から数学が好きになった人っていうのは、その感情に至るまでの過程が必ずしも存在するわけで、そこで大きな要因となるのはどう考えても教師、そして友達辺りが妥当ではないだろうか。

 特に中学に上がってすぐに算数から数学に変わった時の印象が強く残る。ここで怖い先生に当たれば、大体ずっと数学が嫌いになる。理沙がまさにそれだった。あと僕の場合は中学の歴史担当の先生が怖くて嫌いだったので、しばらく成績が伸び悩んだ。

 数学の教師に求められるのはいかにして公式を頭に叩き込ませるかとか、日本語では無く数字という扱いにくいものを題材にしてどう説明するかなので、他の科目より教えるのは大変そうなのは分かるんだけど。

「どこが分からないの?」

 僕は鞄を自身の机に置き、すぐさま女子の元に戻って訊ねる。

「ここ! この一問だけ、ずっと答えと式を眺め続けているんだけど……取り敢えず、代入したら答えが出るのは分かるのに、どうしてこの式になって代入することになるんだろうって、ずっと悩んでいて」

 設定されている条件通りに数式を立ててはみたものの、どうしてその数式になるのか分からないって感じらしい。

「答えは合っているよ」

 綺麗に纏まっている。

「でも」

「問題が、この答えを求めて来ている意味が分からない?」

「それ!」

 この子は一々、リアクションが大きい。あと近くで大声を出すのはやめて欲しい。

「数字だと分かりにくいから、物に変えてみるとか。あとは――」

 勉強のコツなんてよくは知らない。数学が得意だってだけで教えるのは不得意だ。けれど、以前にウケが良かったせいもあって大雑把な教え方では不評を買いかねない。だからよけいに丁寧な解説になってしまう。これは泥沼にはまってしまっているのではないだろうか……。

「あ! だからここがこうなるってこと?」

「そういうこと」

「はぁー、良かった! ありがとう、立花君。これで数学の時間をなんとか乗り切れそう」

「……ノートで要点はちゃんと纏めてあるし、今までの問題の答え合わせだってちゃんとやっているし、間違っているところは自分でもう一度、解き直している。もっと自信を持つべきだと思うよ。君の努力は形になっているよ。ここで気を抜かないのならの話だけど」


「……立花君って、取っ付きにくいけど基本、優しいよね。人気者にでもなりたいの?」

「え、いやいや、違うよ。人気者になんかなりたくないよ」

 謙遜ではなく、本気でなりたくない。この子の“人気者”っていうのは、女子の間での人気者っていう、そういうフレーズも含まれている。


「僕は人見知りだから、あんまり人と話すのも得意じゃないし、騒ぐのも好きじゃなくって、本を読んで過ごすのとか、あとはゲームをやっている方が落ち着くぐらいだし」

 明かさなくてもいいことだ。これは僕を心配してくれているみんなにしか伝えていないことだし、今まで隠していた。


 だけど、あんなにも強く倉敷さんが言うものだから……ちょっとだけ、期待をした。

 分かっている。倉敷さんはあの容姿で、文武両道を果たせているから認められるのだと。多少の陰口も耐えられるメンタルをしているのだと。僕なんかが真似をすれば、火傷をする。傷付いて、苦しんで、言わなきゃ良かったって後悔する。なのに、挑戦してしまった。

 だから、今の内に自分に言い聞かせる言葉を探す。「よく眠れていなかったせいだ」というものから始まって、次々と言い訳を考えて行く。それで自分を守る。自分を守る防壁にする。そうすれば、思い出してもある程度は苦しまずに済むから。


「へーゲームとかするんだ? もしかして、アニメや漫画も見たり読んだり?」

「……一応」

「意外。立花君は本を読むイメージはあったけど、そういうのは手を出さないと思っていたから」

「まぁ、あんまり前に出して言える趣味じゃないから」

「それはそうだけど、人の趣味を良いとか悪いとか、そんな風に言えるほど自分は大層な趣味を持っているのかーって。そう考えたら、意外でもドン引きはしないかなー」

「……それ、僕だからでしょ。いかにもオタクっぽい人が言ったら、受け入れられないでしょ」

「そりゃー……そうかも。でも、なんかこう違うんだよね。キモいとかキモくないは別として」

 そこは別なんだ……。

「オタク全開でネットやアニメの用語や名言を口にして、現実から逃げ出している人は、うわーって思っちゃうけど、普通にゲームのこと話せて、普通にアニメや漫画も見たり読んだりするのは、別にどうとも思わなくない? 私も漫画読むし。アニメは……まー、見方っていうか、どう見たら面白いのかを言ってくれると、ちょっとは見ようとは思うし。ゲームは有名なのしか分かんないし、あと難しそうで手が出せないけど、なに言っているか全然分かんないのにゲームの話ばっかりしなきゃ、平気なんだよね」

「それは君だけなんじゃない?」

「いや、割と女子全員そんな感じだよ。たまーに、ほんとーに苦手って子も居るけど、立花君はそういうの勘付いて話さないだろうから、良いんじゃない?」

 僕だから許されているのか、それとも僕みたいな人ならば許されるのか。僕は特例中の特例で基本的に『ただしイケメンに限る』なのか。よけいに複雑になってしまった。教えていた数学よりも難しい。

「取り敢えず、ありがとう。ちょっと話せて楽にはなった……のかな」

「こっちこそ数学を教えてくれてありがとー。立花君の趣味は、ちゃんと黙っておくから安心して」

 果たして、この子の口はどれほどの堅さであるのだろうか。一週間と持たずに話してしまいそうな予想を立てておく。そして、僕の趣味が明るみになった際の、逃げる方法を今から考えることが必要だろう。

 女子のネットワークってほんっと、どこから流れて来るのか分からないから。冬美姉さんや花美に挟まれて育ち、ついでに理沙と一緒に育った僕には、その異常な伝達速度をよく知っている。

 かと言って、男のネットワークも捨てたもんじゃない。なので、趣味が明るみになり僕が更に高校で生き辛さを感じたなら、報復はさせてもらう。それでよけいに自分の首を絞めることになると分かっていても、仕返しはする。

 これは男だろうと女の子だろうと関係ないことのような気もするけれど。


「悩み事が多すぎて疲れる」


 自身の席に座り、僕は机に突っ伏しながらそう呟いた。

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