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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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倉敷さんの電話

 啓二さんの事情は分かった。とやかくは言わず、家族――望月と二人切りにしてあげようと思い、アパートへと帰宅した。

「撒いた種が芽吹いて、毒の実を……か。随分と表現の豊かな人だな」

 サールサーク卿――松本 龍弥さんの言い回しは、随分とネチネチとしている。もっとスマートに言えば、啓二さんもこれほどまで衰弱することもなかったのではないだろうか……いや、親友だったなら、自身を否定するようなことを言われたらなんでもショックだ。いつまでも残る傷痕になる。

「家庭環境に合わせて、親友と縁を切れば、あれほどゲームに傾倒して『人殺しの練習だ』と言いたくなるのも……ちょっと分かってしまうのが、僕らしいというか、なんというか」


 しかし、なんにせよ昔の僕はそれを完全否定した。そして啓二さんに現実を見せた。だったら、ちょっと分かったとしても、同情はしても賛同しては行けない。


 夕食前だし、入浴も済ませてはいないが制服から寝間着に着替え、布団を敷いて寝転がる。天井をしばし眺め、ふと思い出したように干していた洗濯物が乾いているのを確かめて取り入れる。

「毎日のどこかに、痛みを伴う過去があるのは誰だって同じだろうけど」

 フラッシュバックするレベルで言えば、啓二さんのそれはかなりの強烈に違いない。頻度も酷いのではないだろうか。ただでさえ盗塁に失敗した傷痕に苦しんでいる……話を聞けば、それはピッチャーの引っ掛けたボールを思わず打った、啓二さん直後のバッターに深い責任があるのだが、しかし責任の所在を求めないことはスポーツ全てにおいて言えることだ。

「なのに、きっと啓二さんは責任を押し付けられたんだろうな」

 あの性格に、あの目付きだ。責任を押し付けるには丁度良いだろう。人は集団でなにかに失敗をした時、一番叩きやすい人物に責任の全てを押し付ける傾向にある。企業でも足切りやトカゲの尻尾切りがあるくらいだ。無論、小学校や中学校、高校、大学にもある。無い方がおかしい。

 陰で生きるのは、今の僕の置かれている高校での立ち位置と比べて、どれほどのものなのだろう。やはり生き辛いのだろうか。


 貼り付けられたレッテルに、決め付けられた生き方に、足掻いてみても逃れられないのだとしたら……啓二さんの方がよっぽど生き難かっただろう。それでもあの人は、あの年齢まで戦って来たのだと思うと、“愚者”になったこと以外で僕が今まで攻撃的に言葉を向けていたことが、恥ずかしくなって来る。


「恵まれている、恵まれていない、そんなことで区別はしているつもりはないけれど」

 啓二さんは恵まれていなかったのだろうなと、思ってしまうことが……そんな自分が、なんだか悲しくなる。


 スマホが鳴ったので、再び布団に寝転びながら電話に出る。


「もしもし」

『も、もしもし』

「……どうしたの、倉敷さん? そんな不安そうに声を出して」

『面倒臭いと言われたら、どうしようかなと思っただけよ』

 いや、面倒臭いけど? 倉敷さんって結構、面倒臭いよ? でも、トークアプリを使わずに電話やメールを寄越せと言ってしまった手前、それを撤回なんてできない。撤回する気も今のところ起きてないけどね。だって電話を掛けて来たの、あの日からだと今日が初めてだし。それまではずっとメールでのやり取りだけだったし。ゲームでも僕がログインしている時間帯にログインして来ないし。

「いやぁ、倉敷さん。前に君は、周囲に趣味を暴露したって言ったよね?」

『言ったけど、それがなにか?』

「それで君を笑う人は居なかった?」

『居たけど、それ以上に私は受け入れられたわ』

「……恵まれているって思う?」

『思うわよ』

「じゃぁ、『この子、恵まれていないなぁ』って思う?」

『思うわよ』

 なんとも正直な答えだ。

「それを申し訳ないと思う気持ちは?」

『無いわね。だって、そんな感情を抱いたままじゃ接することが出来ないじゃない。同情して欲しいわけでも慰めて欲しいわけでも、賛同して欲しいわけでもないでしょ、そういう子は』

「そりゃそうだ」

 同情するなら……なんだっけ? とにかく、そんな感じなんだろう。

『……なんか、以前と比べて物凄い、ダラーッとしてないかしら?』

 気怠げに喋っていることがバレている。

「電話越しだとあんまり緊張しないからさー。あーでも、知り合い限定の話。知らない人からの電話なんて、死ぬ気で出なきゃならない時や死ぬ気でしなきゃならない時ぐらいしか出ないから」

『どんな電話よ……』

 そりゃ一人暮らしをしていたら、色々とハガキは来て、そこに書かれている電話番号に掛けなきゃならなかったりもするし、家電製品のトラブルがあったりしたらその手のメーカーに電話もしなきゃならない。思うけど、これでよくもまぁ僕は一人暮らしを出来ているなって思う。

「まぁそれは措いといて。君は、全ての人が平等だと思う?」

『そんなわけないじゃない。産まれた時から人は不平等よ』

 そこは僕と意見が合う。


「じゃぁさ、レッテルや決め付けは? 自身のアイデンティティすらも脅かすほどの強い暗示を持つ、周囲からの言葉の数々は?」

『あのね、立花君』

「うん?」

『そんなものを気にしていたら、生き辛いでしょ。レッテルを貼られているのなんて分かっているし、『倉敷さんはこういう性格だから~』って決め付けられていることだって知っているわよ。それが暗示だって言うんなら、乗ってやる。でも、それら全てを気にしていたら、生き辛いでしょ?』


「……そうだね」

『レッテルを剥がそうと必死になって、決め付けられていることを否定しようとして、こんなのは自分じゃないって自分が自分を否定して、そっちの方がアイデンティティを脅かしていると私は思うわ』

「なら、君は怖くないって?」

『なにがあったって私は私。倉敷 萌木。自分の性格は自分が知っている。他人になんて言われたって、そこから形が変わって行ったって、私は私。変化って怖いけど、でも、私は楽しむべきことだと思うわ』

「楽しむ……僕には無理だなぁ」

『変化が怖いのは私も同じ。だからこそ、その恐怖に自分から飛び込んでみるの。ゾクゾクして、たまんないわ』

 ホラーは苦手なクセに、どうしてそういう恐怖に立ち向かえるのか。この人、良い意味で肝が据わっているんだよな。ほんと、なんでそれでホラーが怖いのか分からないくらいに肝が据わっている。

「人に色々言われることが、苦痛に思うんだよ」

『そりゃそうよ。それがコミュニケーションだもの。痛くって、苦しくって、悲しくって……でも楽しくって、面白くって、憎めない。人と接することがどれだけ怖くても、話すことが嫌いって人は、多分そんなに居ないと思うわ』

「人付き合いの苦手な僕からしてみたら、倉敷さんの言っていることは大方、正しいよ。接すること自体が怖い人だって居るんだ。実際、僕も人と接するのは苦手だけど話すのはそれほど、嫌じゃないから」

 人と接するという第一段階を突破するのがどれほど大変なことか。フランクに話し掛けられて、気付けば友達の輪を作ることのできる人たちにはきっと分からない。

『それで? なにかあったの?』

「別に、なんにもないよ」

 レッテルに怯えず、人の評価に立ち向かい、自分自身を見つめている倉敷さんは強い。けれど、僕のような人の考え方もそれなりに分かってくれている。それなりに、ね。完璧を求めるのは行き過ぎた希求だ。

「大切な誰かを喪う覚悟って、どんなのだと思う?」

『やっぱりなにかあったんじゃないの? 立花君がこんな連続に、わけの分かんない質問を投げ掛けて来ることってそんなになかったと思うわよ?』

「答えてよ」

 ちょっと語意を強め過ぎた。倉敷さんならなんでも答えてくれるみたいな、そんなワガママを押し通そうとしている。

 深呼吸をして、表に出過ぎたワガママを胸の中へと収納する。

『私にも分からないわ。でも、ママやパパは知っているかも……結局、そういうことよ』

「……そうだね、そういうことだよね」

 喪うことから最も遠くに居る子供に過ぎない僕たちには、そんな覚悟はちっとも分かりゃしないのだ。分かろうとしても、分かることが出来ない。想像はしてみるが、怖くて途中でその想像を消し去ってしまう。


 でも、大切な誰かを喪うことをリアルに感じることの出来る大人たちは、その覚悟を、その恐怖を、常々に抱きながら立ち向かっているのだろう。


「御免、質問は終わり。倉敷さんはなんの用事で?」

『用事が無くちゃ、電話しちゃ駄目なのかしら?』


 その……なんて言うか、テンプレ過ぎてドン引きなんですけど。


「あのね、倉敷さん」

『ええ』

「用事が無いのに電話されたら、どう思う?」

『腹が立つわね』

「僕は今、その気持ちを胸に抱いていると思ってくれるとありがたいんだけど」

 電話ってのは用事がある時に使うものだろ。理沙でも愚痴の一つでも持って来るぞ。なんにも無しで電話を掛けて来るな。

『嫌かしら?』

「嫌ではないけど……嫌ではないんだけど、うーん、電話を切ったあとに『あー面倒臭い』って言いそう」

『もう言っているじゃない』

 面倒臭いな。

「なんにも無いんならこのまま切るけど?」

『……ちょっと待ちなさい』

「なんで?」

『その……お休みなさい』

「寝るにはまだ早い」

『寝る間際の電話は避けようと思ったのよ』

「……ああ、まぁ、心遣いありがとう。お休み」

 僕は倉敷さんが通話を切ったことを確認してから、こちらも通話を終了させる。

「ははっ、あ~面倒臭いな……ほんっと、倉敷さんは面倒臭い」

 けれど気分は少し上向きになった。ダラけていた体を叩き起こし、夕食の支度を始める。


「性格の捻じ曲がっている僕を諦めさせるのは至難の業だよ、サールサーク卿。『松本』って苗字はありふれているけれど、『御巫』って苗字はそうは居ない。ネットで調べれば、意外と早く突き止められてしまうかも知れないよ?」

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