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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
268/645

認められていることが、大切なのだと

***


「お前、望月と付き合ってんのか?」


 ここ数日、望月と話をして、午後六時ぐらいまで図書室で時間を潰し、風紀委員長の仕事を終わらせた彼女と一緒に、彼女の家へと帰っている。理由は単純明快で、上手い具合に仕事を終えて帰って来た啓二さんとどうにかもう一度、話が出来ないものかと試みているからだ。午後七時までに帰って来なかったら、素直にアパートに帰ることにしているが、このことについては望月が母親にちゃんと話も通しているらしく、僕は望月家で一時間ほど借りて来た猫の如く待ち続けるということを続けている。クラスメイトには「友達」で押し通せているし、望月も妙な噂にならないようにかなり気を遣っているようで、女子からも変に突っ掛かられたり、ヒソヒソ話をされるということもなかった。


 けれど、上級生にはそれは通用しなかった。まぁ、お約束である。だから一年先に産まれたとか、二年先に産まれたからとか、そんな理由で先輩風を吹かせたり、偉そうな態度を取るような年上は嫌いなのだ。前々から僕はどうにも、その手の年上に目を付けられやすいようだから……恐らく、理沙と仲良くしていたことも要因の一つなのだろうけど、それで彼女に冷たく当たったり、責任を押し付けるというのも、それはまさに責任転嫁というものなので、言っていない。そもそも、僕がハッキリと物を言えないところにも原因はあるわけだし。


「いや、」

「上級生の質問に『嫌』って答えるのはどうなんだよ?」

 『いや、別にそんなことは無いですよ』と答えるつもりだったのに、一番先頭にある言葉だけを聞いて『嫌』と言ったのだと勝手に決め付けられた。僕の言い方にも問題はあるけれど、やっぱりこういった類の人間は、年上、同年代、年下でも嫌いだ。

 彼らはどうしてか、早々の答えを求めて来る。ゆっくりと喋ることを許してくれない。一言目だけで勝手に全てを決め付ける。その先に、本当の言葉があるということも知らないで、(はや)し立て、侮蔑し、馬鹿にする。

 僕だって、そういった人を軽蔑している。蔑んでいる。だから、向こうもこの態度を譲らないのだろう。歩み寄るという答えを互いに出しているのに、歩み寄らないから互いに反目するのだ。

 そもそも、生き方が違う。僕は誰かに守られて生きている。自分自身を守ろうと必死に生きている。でもこの人たちは、誰かを攻撃して、誰かを傷付けて、誰かを勘違いさせたりして、その様を見て笑ったり、無茶振りをすることで互いに楽しんでいるかのように振る舞う。グループの枠から外されたくないという理由だけで、無茶振りに応える取り巻きも取り巻きだが、一人で行動することが最も安全で、安穏としていて、落ち着いていられるなんて考えている僕も僕であるとは思う。


 だからって、それに反省して歩み寄りたくもないわけだが。


 望月に対して、上級生は恐らく、なにかしらの恋心を抱いているのだろう。恋心でないのなら、良い女、みたいに品定めしている辺りだろうか。クラスメイトとやる上では大して嫌な気がしないのに、全くの外側からそういう風に友達を見られているというのは、物凄くイラッとすることなんだな。今度からみんなとはそういう話はやめよう。

 現状、そのみんなの元になんのトラブルも起こさずに帰れるかどうかが問題であるのだが。


「少し、」

「少しってなんだよ?」

 『待って下さい』も聞いてくれないのか。こっちが言葉を言い切るまで、待てないのか。そんなに時間に追われているのなら、こんな風に僕に突っ掛かって来ないで望月を振り向かせるような努力をすれば良いのに。それに、これを認めている取り巻きも取り巻きだ。なんなのだろうか? 年下だからって、これぐらいのことは許されるだろうと、そんな馬鹿みたいなことを考えているんだろうか? これが社会人だったらパワハラだ。訴えられてもおかしくない。

 けれど、高校は一つの社会、小さな社会と言われてはいても、残念ながら無法地帯である。教師は警察ではない。教師を警察と捉えれば、むしろ役立たずにしかならない。生徒会は言うほどの権力を持ってはいない。そして、こういった学校に通う生徒も、我関せずを貫く。大体、通報とも言うべき教師への進言が、『チクったこと』と処理されて、逆に軽蔑されるというのは、通常の社会であれば起こり得ないことである。

 やっぱり生き辛い。空気のような存在で居た頃の方がずっと、ずっと生きやすかった。けれど、それはそれで寂しさもあった。極端に変わったわけではないはずなのに、少し変わっただけで、何故か生き辛さを感じる。信じられないほど呼吸をすることさえ苦しい。

 そして、こうなっていることを妥協していそうな自分にも腹が立つ。「しょうがない」だとか「目を付けられやすいから」ってだけで、全て処理しようとしている自分自身に、一番の苛立ちを覚える。

 なのに、言葉は思うように出て来ない。言葉に出来ない。だって、いつもの僕の言葉の切り出し方を否定されているのだ。「いや」や「でも」、「だけど」といったいつもの言葉を遣わずに、ポーンと言いたいことをパッと言える性格ならこんな苦労はしていない。そりゃクラスメイトと話す上では僕も少しずつフランクになりつつあるけど、こんな顔も見たことさえ曖昧で、初めて話す人を相手にして、フランクな態度を取れるわけがないのだ。

 結論として、僕はにっちもさっちも行かなくなっている。

「おい、コイツ震えているぜ?」

「もしもぉーし? 聞こえてますかー?」

「耳が悪いんじゃねぇの?」

 ああ、鬱陶しい。話をすることさえ、面倒臭くなる。

 だって話したところで分かってくれないだろ。話したところで、なんにも変わらない。馬鹿にされて、笑われて、それでなんか向こうが勝手に満足する。勝手に僕が弱虫であると決め付ける。その決め付けたことを吹聴する。


 レッテルというのは、一度貼られたらなかなか剥がせない。怖ろしいほど、深層心理にまで働くほど強い強い暗示だ。意識し始めたら、そこで終わりだ。無意識だろうと勝手に働いて行く。だからここで僕が自分を弱虫だと思ったなら、僕は一生、弱虫というレッテルに振り回されて、生きなければならなくなる。


「お前、人と話すの向いてねぇよ? だから、」


「人が喋っている途中で話をし始めるあなたたちの方が、人と話すのが向いているって言うんですか?!」

 苛立ちだ。これは、啓二さんになかなか真相を語ってもらえないところから来る、強い苛立ち。それをこんな人たちにぶつけたってなんの意味が無いのに、なんで僕はまたこんな大声を出しているんだ。

「なんでもかんでも自分中心で物事が動いているなんて思わないで下さい! なんで僕があなたたちの質問に一々答えなきゃならないのか意味が分かりません! 否定しようとしても勝手に最初の言葉だけでなにを言うかを決め付ける! 言葉の先を待たない! それで、どうやってあなたたちと会話をそもそも成り立たせれば良いんですか?! 答えてみて下さい! どうやって、一体、どうすれば僕は! あなたたちにまともに話を聞いてもらえたのか! 一から十まで説明できないのであれば、そもそも話す必要性すら感じられません!」

 こんなことを言いたいんじゃない。こういうことをしたいんじゃない。

 ただ、僕は『こういう性格の人も居るんだ』と思ってもらいたいだけなのだ。ゆっくりと言葉を選んで、声を出す人も居るのだと、分かってもらいたいだけなのだ。けれど、これでは「なに自分が代表みたいな口振りなんだ」と逆に嫌われる。そして、上級生に突っ掛かったという事実が、僕に別のレッテルが貼り付けられる可能性すらある。

 けれど、言ってしまったことを全て消し去ることはできない。苛立ちを発散させるなんて、馬鹿なことをした。本当の本当に、それが悔しい。


 啓二さんに話をしてもらえないということが、悔しくってたまらない。


「なんだお前! 上級生に喧嘩売ろうって言うのか!?」

 ほら、こういうことになった。こういうことになりたくなかったから、頑張って自分を守って来たのに、たった一つの苛立ちから来る言葉の暴力で、全てが台無しだ。

 ……言葉の暴力。そうだ、僕は言葉が刃物になり、暴力になることを知っている。なのに、苛立ちだけで自分を見失って、大声を出してしまった。反省だ。これもまた反省しなきゃならない。


「おい、立花を見つけたぞ」

「立花君、こっちこっち」

「一度言ってみたかったんだよなぁ、こういう言葉。ウチのクラスメイトになにか用っすか?」

「用なら俺たちが聞いてやりますよ、先輩」


 けれど世の中というのは、悲観的な妄想の通りには行かなくなることもある。


「あーもう面倒臭ぇ」

「あいつらにこのこと喋られたらまずい」

「行くぞ、ほら」

 上級生が僕の前から走り去る。

「大丈夫? 立花君がなんか、ガラの悪い上級生に連れて行かれるところを見て、それでみんなに話したら探しに行こうってなって」

「クラスが一致団結すんのも、なんか青春しているみたいで良いしな」

「最近、立花はなんとなく“人と関わることを頑張っている”ように見えるし、放っておけるわけねぇからな」

 人気者にはならなくて良い。目立ちたがり屋ではない。


 だけど、“クラスメイト”であると思われていることが、たったそれだけのことが、どうにも……言葉にならないほど嬉しくて。


「あり……がとう」

 それに対して強がらずに、お礼を素直に言える程度には僕も、人付き合いも面倒臭くて、大変だけど悪くはないな……とは思えるようにはなった。


 個人的に悪いことが重なり続けているけれど、これが谷底であるのなら、あとは這い蹲って、それから情けなくも這い上がるだけなのだろう。だから僕は、駄々っ子のように、今日もまた望月の家に寄ることを、決めた。

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