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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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望月は雰囲気に流されやすい

 望月の家にお邪魔する際、彼女の母親がやや慌てていたように見えたが、あれは多分だけど娘が男を連れて来た時の対処が分からずに動揺していたのだと思う。それに比べて、倉敷さんの母親はやや動じてはいたけれど、歓迎して来たからな。娘への愛情の差ではないはずだけど、どうしてこうも違うのか。そして、望月の母親の反応の方が極々、一般的な反応であると思う。年頃の娘が男を連れて来るなんて、母親からしたら気が気で無いだろう。これを雪美姉さん――で喩えても大して僕にダメージが無いので、花美で喩えてみよう。僕が実家に居る時に花美が友達だと言って、同い年の男を連れて来たならば、どうするか。


 うん、僕は全力で妨害する。妹をどこの馬の骨とも知らない男にくれてやるものか。数々の嫌がらせに耐えられるだけの根性を持っていないと、花美との交際は許さない。それで考えるならば、大樹さんは僕の条件をほぼ完璧にクリアしているわけで、雪美姉さんが実家に連れて来たって太刀打ちできないと分かっているから、なにも言わないな。

 要するに花美も大樹さん並みの人を見つけて来て欲しいわけで……チャラ男を将来、連れて来たら刺すかも知れない。


「啓二さんが帰って来るのって何時だよ」

「七時、ぐらい? もう少し早いかも」

「……あのさ、考えてみてよ。七時ぐらいまで居座る娘の男友達って印象最悪だろ」

「私、割と立花君のことはお母さんに話しているから大丈夫だと思うけど」


 どんな風に話していたって、午後七時台まで余所の人に居座られたら迷惑だって言ってんだよ。一緒に仲良く夕食を摂るわけじゃないんだぞ、馬鹿か?


「絶対に家に呼ばれる意味無かったと思うんだよ」

 望月の部屋に通されたけど、母親は気が気じゃないだろ。どうすんだよ、僕。なんにもしないけど、なんにもしていないという証明はどうやって見せれば良いわけ? 望月からの証言じゃ、母親は信じないだろ。ほら、男を庇っているみたいな感じに聞こえるだろうから。

「でも、部屋に立花君が居るって不思議」

 そりゃ毎日の景色の中に居るべき存在じゃない者が居たら不思議だろ。

「音を立てるな、喋るな。ジッと時間が経つのを待て」

「どうして?」


「僕の潔白が証明できないから」


 大きな音やら声やらが出さなければ良い。そうすれば、何事も無かったという証明にはなる。なるが……ああもう、だから家に呼ばれるの嫌なんだよ。こんなどうしようもないこと考えてばっかりで、ちっとも落ち着けやしない。そりゃ余所様の家で落ち着ける方が異常だけども、それでもホッとするぐらいは出来て良いはずなんだよ。出来ないんだよ。この場をどう乗り切るかぐらいしか考えられない。


 さっきだって、望月が制服から私服に着替えるって言うんで部屋から出て、待たされていた時は死ぬんじゃないかって思ったんだからな。その時に望月の母親に話し掛けられたら、なんて言えば良いのか分からなかったんだから。


「なに? この前の旅行で立花君は『お爺ちゃん』って聞いたけど?」

「それを鵜呑みにして、平気で部屋に上げる君もどうかと思う」

「え……? 違うの?」

「違わないけど、僕も高校生の男だから、人並みに性欲はあるものなんだよ。『お爺ちゃん』って言われるように、ちょっとやそっとじゃ感情が揺れないけど」

 そう、昂ぶらない。人畜無害である。しかしながら、ちょっとでも昂ぶらせるような要素が起こったり、目に飛び込んでしまったりしたら、分からない。未だに僕は理沙と倉敷さんの下着姿を見てしまったことを不意に思い出して、なんかこう……ちょっとソワソワする時があるし。

「……なんだろう、急に恥ずかしくなって来た」

「後悔するのが遅いんだよ。連れて来たっていう事実は残るからな」

 思うんだけど、これ、僕は啓二さんに殺されたりしないよな。潔白さえ証明できれば、大丈夫、だよね?


 ……恥ずかしそうにしている望月を直視できない。こういう天然な表情が一番、ヤバい。女の子の魅力のほとんどはこういう一瞬に詰まっているようにさえ思える。


「部屋に上げた本人が恥ずかしがるなよ」

「だって……これ、考えたら私、家に男を連れ込んだみたいで」

「今更……」

 あと動揺するな、モジモジするな、口元を片手で塞ぎながら視線を泳がせるな。いつもの望月らしくない。もっとこう、望月って冷静で大人な雰囲気を漂わせていたはずだ。なのになんでそんな、普段見せないような顔をしているんだよ。

 大人な雰囲気ってだけで、望月も僕と同い年の高校生って点では、変わらないのか……いや、それに今頃、気付くのはヤバいから。

「部屋、あんまり見ないで」

「だからそういうことを言わないで欲しい」

 この、くすぐったい空気は、耐えられない。


「大人……大人? うん?」

 自分がまだまだ子供であることを思い知らされている中で、不意にあることを思い付いた。

「そっか。僕たちで無理なら、大樹さんなら」

 旅行中、大樹さんは啓二さんと同室だったはず。一泊目だったか二泊目だったかは曖昧だけど――曖昧なのは、あみだくじやらなんやらと色々あったせいなんだけど、とにかく同室で時間を過ごしていたのは確実だ。だったら、大樹さんに啓二さんはなにか話しているかも知れない。啓二さんにとって、あの旅行中では一番、歳が近かったから話もしやすかっただろう。ただ、啓二さんが自分の弱みを自ら大樹さんに晒すことがあるだろうか。無いような気もする。それに、ここで大樹さんに頼るのもなにか……うーん。


「立花君」

「え、なに?」


「もうちょっと、こっちに来てくれない?」

「はい?」

「だってこの微妙な距離だと、落ち着かないから。帰り道ぐらいの、あれぐらい近くだったら落ち着くかも」

 それは逆効果だろ。

 これ、望月は相当テンパっているな。こんなことを言い出す辺りでそう判断できる。

「僕たちって友達だよね?」

「友達の境界線は、簡単に踏み越えられる……けど?」

 あの、そろそろ深呼吸でもして状況に適応してくれませんか。雰囲気に流されて、頭の中が機能していないように感じられるから、僕は逆に冷静になれて助かっているわけだけど、このままだと望月がなにかしでかしそうで怖い。

「立花君」

「え、なんで立ち上がったの? なんでこっちに来るの? ちょっと待って、立ち止まってそこで深呼吸して? この雰囲気が明らかに君に君らしくもないことをさせようとしているから、もっと柔軟性に富んだ適応力で、冷静に状況を把握して……」


 なんでそんな、なんでそんな……潤んだ目でこっちを見ているんだよ。


 生唾を呑み込み、いよいよ僕も冷静では居られなくなって来たのではと思い、望月に近付かれるも逃げようともせずにそして動こうともせず、眩暈を覚えるほどの混乱に身を委ねてしまおうかと決意しかけた時、扉を激しくノックする音が聞こえて、我に返る。そのノックに望月も我に返ったらしく、僕から飛び退いて、それから呼吸を落ち着けてから鍵を開けた。


 殺意に満ち満ちた気配を漂わせながら、啓二さんが部屋に入って来る。


「ほぉ? テメェ、俺が居ない間に香苗の部屋に入り込むなんて、良い度胸だなぁ?」

「兄さん……今日は、七時ぐらいになる予定だったんじゃ」

「上がりが早くなった。昨日は倍ぐらい働いたからな。たまにあるんだよ、日によって仕事が少ないってことが。だから機械の点検をして、定時で上がった」

「へぇ、そうなんですか……」


 啓二さんに殺されそうな状況ではあるが、僕からしてみれば雰囲気に流されてとんでもないことになりそうだったところを救われたので、何故か命の危機に対して鈍感になってしまっている。


「なに暢気な声を出してんだ? 今から海に沈められるか山に埋められるか、どっちが良いか選ばなきゃならないんだぞ、テメェは」

「堅気じゃない人みたいなこと言ってどうするんですか」

「俺は決めてたんだよ。最初に家の敷居を跨いだ見ず知らずの男は、存在を抹消するって」

 僕と啓二さんは見知った仲であって見ず知らずではないはずなのでセーフ……じゃなさそうだ。

「立花君は私が家に呼んだの」

「その誘いにホイホイと乗って来たコイツが悪い。香苗はなにも悪くない。だから、今から目にすることは誰にも話すんじゃねぇ」


「え、え、あっ! 僕、ヤバい感じですか?!」

 ようやく命の危機を感じ始めて、驚いて声を上げてしまう。


「死ね、クソガキ」

「立花君を殺す前に、教えて。兄さんが昔にしたやんちゃってなに?」

 僕は殺されることが確定しているらしい。

「話すことじゃねぇ。話したって、どうこうなることでもねぇ。俺の問題は俺が解決する」

「それで解決できるんですか?」

「テメェは喋ってんじゃねぇぞ」

「言っておきますけど、僕だってそりゃもう問題が山積みなんですよ。今この場で殺されるかも知れないことも問題ですし、あと色々と僕の人生には問題ばかりがあって、ついでに僕の性格にも問題があるわけなんですけど、それらはどう考えても一人じゃどうも解決できるようには思えないんです」

「……だから?」

「話すだけ話してみて、それで解決できなきゃできないで振り出しにもどって、一人で解決できるように努めてみたら良いじゃないですか。誰かに泣き付くことが恥って言っていたら、僕なんて恥の上塗りが多すぎてわけ分かんなくなってますからね」

 啓二さんは握り拳を解く。どうやら僕は殴り殺されずに済むらしい。

「テメェを殺すのはやめた。冷静さに欠けていたな。人を殺したら人生は詰みだ。危ねぇところだ」

 ここで止まれるから、啓二さんは頭が良い。衝動を抑え込める。ただ、僕は望月に手を出してすらいないのに殺されるところだったってところだけ除けば、思慮も足りている。


 だから僕はこの人のことが嫌いだけれど、なんだかんだで人間関係は繋がっている。


「話す気になったの?」

「いいや、コイツの言葉を借りるなら、『ちっとも心に響かない』。香苗の言葉も、テメェの言葉も、俺の心には届かない。この問題に誰かを関わらせる気はねぇんだよ。さっさと帰れ、ガキ。話すだけ話す? 誰かに泣き付くことが恥? そうじゃねぇ、俺が話さないのはただ」

「ただ?」


「親友をこれ以上、苦しめたくないだけだ」


 僕は啓二さんの言葉について推理している間に、なにやら荒々しい言葉を吐き捨てられながら家の外へと放り出された。

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