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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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バイオとサールサーク卿

 今日一日で、いつものみんなとは違う男のクラスメイトに十回は話し掛けられた。女子はその倍の二十回だ。これは絶対に望月のせいだ。

 でも僕は、勘違いはしない。話し掛けて来るだけで好意なんてものは寄せられていないのだ。あくまで話しやすい男子だろうということで話し掛けて来たり、数学を教えてくれる都合の良いクラスメイトっていう立ち位置だ。こんなことで一々、モテ期だとかみんなに好かれているみたいな勘違いを起こしたら、それこそ今後の高校生活が危うい。なので、女子からの謎の人気は一ヶ月ぐらい経てば落ち着くだろう。話してみて合う合わないは向こうにだってあるだろうし、僕に話し掛けてみて「あ、やっぱり駄目だ」って思った女子だって多いはずだ。


 なので、嵐が過ぎ去る――じゃなかった。『立花君に話し掛けてみよう』ブームの終息を待つ。


 倉敷さんの件でも嵐が過ぎ去るのを待っているのに、高校でもブームが過ぎるのを待つってのはおかしな話だ。原因は望月にもあるにはあるが、彼女に苛立ちや怒りを募らせたところで、現状の打開にはならないので我慢する。けれど抗議ぐらいはしたって良いだろう。一応ながら困っているという気持ちを伝えるのは大切なことのはずだ。


 そういった旨をトークにしたためて送ってみたところ『悪い噂を流さなかっただけありがたいと思って』と返されてしまった。


 これを見て僕は唸った。だって、トークの返事はまさにその通りだったからだ。女子の噂はヤバい。悪戯でも、ちょっと悪口を乗せると途端に伝播する。なので、彼女の悪戯心が僕の悪口を具現化させる形で働かなかったことに、本当の本当に感謝しなければならないという、被害を受けているのは僕なのに、何故か僕が黙らなければならないというよく分からない事態に頭を悩ませた。


 結論からして、望月には『僕で遊ぶのは程々にして』と怒りの程度を下げて、頼み込んでいた。ヘタレたと思う。でも、今後の高校生活と天秤に掛けたら、こうなった。これじゃ卒業するまで望月に頭が上がらないということになってしまうが、けれど、ブームの終息と共に彼女の悪戯心も治まりを見せるだろう。見せてくれなきゃ困るんだけど、でも望月だし、大丈夫だと思う。ある意味、理沙より常識人だから。と言うか、常識人であって欲しい。


「人生で一番、変化に苦しんだ日でした……」

「まだ二十にもなっていないクセに人生で一番とか語ってんじゃねぇぞ」

 一日のストレスを発散するのはやっぱり、ゲームだ。夕食の準備はもう終えているので、さっさと武装の改修を進めてしまおうと思ったのだが、ログインしたらバイオしか居なかったので、仕方無くバイオと一緒にミッションをこなした。ここで仕方無く、バイオと遊べる辺り、昔と比べたらマシになっているのかも知れない。


「バイオさんって、悩み事とかこれっぽっちも無さそうで良いですね」

「ああん? 悩み事はあるに決まってんだろうが。悩んでねぇのは、物心付く前のガキぐらいだろ。大体の奴らが悩んでいるか病んでいる」

「社畜、ブラック、日本人は働き過ぎ、みたいなことネットでよく見るくらいですから……」

「んなもんをその歳で読んでいたら、働く気が失せてニートになるぞ。社会の歯車になることに反発したって、金は入って来ねぇ。反発する前に働け。金を稼げ。信用された分だけ金が出されていると思え。でなきゃやってられない時もあるからな……」

「もうバイトしていますから、反発しながらも頑張っていますよ」

「バイトの責任は軽い。正社員の責任は重い。動かす額が変わる。ま、しがない工場で働いている俺でも、責任は乗っているもんだと最近気付いたからな」

「工場勤務でも正規雇用ですから。働けているんだから良いんじゃないですか? 女性は寄り付かないと思いますけど」


「合コンでも企業名で格付けして来るからな。顔が良くても、企業名でアウトなら一夜のお遊びで終わりだ。女の神経は意味が分かんねぇ」

 企業名アウトでも顔が良かったら一夜でも遊ぼうというその貞操観念が低いというか、ちょっと緩い女性は稀にしか居ないってことを伝えたいんだろう。男もそうだが、女の子も千差万別なのだから、出会うこと自体が少ないはずだ。高校生の性の乱れが深刻と言う割に、僕の高校ではそんな噂、聞いたこともない。

 ひょっとしたら、噂を聞くそもそものホットラインが無いからかも知れないけど、言うほど周囲であーだこーだ言っている男女を見たことないし、ごく一部なんだろうなぁと思い込んでおく。その方が精神衛生上、良いから。

 ほら、なんかアレじゃん? あいつとあの子は付き合っているとか、そういうの聞いたら頭の中は「あいつらもうエロいことしてんのかな」で一杯になりそうだ。女の子に対してもそういう目でしか見ることができなくなってしまう。高校一年生の二学期だから、まだそういう話題が飛び込むことが無いから、全て想像に過ぎないけどいつか絶対、現実にこう思うようになると考えると、予め自身の心に言い聞かせておいた方が、動揺せずに済むはずだ。


「バイオさんって、誰か特定の異性と長く付き合う気ってあるんですか?」

「……ねぇよ。俺は二人分の人生を壊した遠因になっているからな」

「……はい?」

「要は俺が自分のことを許せるようになってからじゃないと、誰とも付き合う気はねぇってことだ」


 二人分の人生……? 壊した?

 多分、無意識に零した言葉であって僕を信用して口にしたわけじゃないんだろうけど……気に掛かる。


「で、次のミッションはどうします? 暇人のバイオさん」

「暇人じゃねぇよ。今日は上がりが早かったんだ。テメェだってゲームしかやってねぇ暇人だろうが」

「良いんですか? 暇人対決をしたら私が絶対に勝ちますけど?」

「戦う気すらねぇよ。なに勝手に対抗意識を燃やしているんだ。そういうところがウゼェ」

 ウゼェと言われても全く心に響かない。バイオのことを僕は心底、どうでも良いって思っている証拠である。だからこそ年上であっても、これだけ礼儀知らずに話せる。

「おら、さっさと次のミッションやるぞ。さっきメールが来て、もうすぐ妹もログインして来る。待たせることにはなるだろうが、テメェとなら即行で終わらせられるだろう」

「私もバイオさんとなら大抵のミッションを即行で終わらせられる気がします」

 主に同じ空間に一緒に居たくないという理由だけで、集中力が高まるので効率が良い。バイオも同じように思っているので、更に時間効率が良くなる。ついでに歩調を合わせやすいから、テキトーにやっていても早く終わる。さすがに長めのミッションとなると時間が掛かるので、短いものを選ぼう。シャロンを、あまり待たせたくない。主にこれからの高校生活で支障を(きた)しそうだから。


 僕はシャロンと友達のはずなのに、力関係が対等でない気がするのはどうしてだろう。


「CPU専用機体を20機撃墜のミッションで良いですか? Armorの頃より、機体の耐久力も上がっているのでこれぐらいの数が丁度良い……か、と…………?」

 ミッションを受注しようと思ったところで、出撃ゲート前にミッションを終えて転送されて来たのだろうサールサーク卿が現れ、僕とバイオを一瞥して、明らかな意思をもってこちらに歩いて来る。

「なん、でしょう?」

「君に用は無い。これからも頑張ることだ」

「はい。ありがとうございます」

 サールサーク卿は僕がリョウであることは知らないので、スズに向けてのエールを送ったのだろう。それにしては敵意を剥き出しだった。他のプレイヤーにも似たようにエールを送ったなら、怯えて声も出せないんじゃないかと思うほどに、ドス黒く……粘り気のあって、ドロッとしたものが心の奥から溢れ出ているような、そんな印象を受けた。


「用があるのは貴様の方だ、バイオ」


「なんだ、テメェ? 俺はテメェに用なんかねぇよ。散々、ブラリ推奨プレイヤーだと吹聴しやがって。最近はマシになったが、テメェのせいで苦労させられたんだ」

「苦労? 貴様が? そのような言葉を安易に遣うな」

「……おい、喧嘩を売ってんのか? 売っているよなぁ? さすがの俺でも分かるぞ。テメェ、初心者向けギルドのサブギルマスにしては、随分と黒くてドロッとしたもんを内側から垂れ流してんじゃねぇか。なんだ? ブラリ推奨プレイヤーだと吹聴した俺が、まだ残っていることが気に喰わないのか?」

 サールサーク卿は結構な古参ではあるが、そのプレイ時間に拘らず、そしてその腕前に怯えることもなくバイオはサールサーク卿を睨み返していた。

「私が気に喰わないのは、貴様の生き方そのものだ」

「生き方? はっ、会ったこともねぇ人間にそんなこと言われたくもねぇなぁ」

「会ったことならある」

「いつ、どこで? 嘘を言ってんじゃねぇぞ」


「貴様が私の人生を壊した。いや、彼女の人生を壊した。こう言えば、貴様には伝わるか、バイオ?」


 その一言で、さっきまで啖呵を切っていたバイオの表情が一気に凍り付いた。


「証拠が、どこにあるってんだ? 根拠は?」

「私という存在がここに居る。私が、証拠だ。私は知っている。貴様の生き方も、そして、“あの時に殴られたこと”も含めて、貴様への恨みはこうして残ったままだ」

「なぐ……お前、まさか」

「たとえ遠因であろうと、私はずっと恨み続ける。貴様のことを胸に刻んで、生き続ける。貴様への呪いは、貴様への遺恨(いこん)は、膨らむばかりだ」

 そう言って、サールサーク卿はバイオの前から立ち去った。


「なんだったんですか、さっきの話は?」

「…………もう、今日はやめだ。気分が悪い、吐きそうだ」

「え、ちょ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。テメェは気にするな」


 『大丈夫?』と訊くと『大丈夫』と返って来る。大丈夫じゃない人ほど、心配させたくないからオウム返し気味になる。

 僕は訊き方を間違えた。


「辛くないですか?」

 そう訊ねた時にはもうバイオはログアウトしてしまっていて、僕の言葉はきっと届かなかった。

「今の顔……バイオさんらしくないほど、凍り付いて……気分が悪いってだけで、ログアウトするような人でもないと思うのに」

 悩みつつログイン広場まで移動すると程なくして、シャロンがやって来る。

「兄さんは?」

「さっきログアウトしました。聞いていませんか?」

「聞いてない」

「家では一緒じゃないんですか?」

「部屋は違うでしょ、さすがに」

 そりゃそうだ。僕の家だって姉が思春期に入ってから一人ずつに部屋は分かれた。バイオとシャロンは異父兄妹なので、同室にすることはより気を遣ったはずだ。そもそも最初から同室にしようとは思わなかったかも知れない。だから相手がいつログアウトしたかなんて、同じ家に暮らしていてもすぐには分からない。

「兄さんが、またなにか?」

「なにもやっていません。なにもやっていませんけど……なにかをやってしまったかのような、顔をして、ログアウトしました。さっきまで、シャロンを待つ間にもう一つぐらいミッションをやると言っていたんですが」

「それはちょっと、気になるかな。うん、あとで兄さんに訊いてみる。だから今は、ミッションを一緒にしてくれない?」

「シャロンがそれで良いなら、構わないですけど」

「スズの言い方からして、すぐログアウトして訊きに行っても、兄さんは答えてくれないから。ちょっと時間を置いて、気持ちを整理させた方が良いのかなって。どんなことがあったの? 一から説明してくれる?」

「それは勿論します」


 サールサーク卿とバイオ。二人とも、ゲームを始めた時期はズレている。なのに顔見知りなのか? 現実で会ったことがあるとか、言っていたな。じゃぁサールサーク卿が先にゲームを始めていて、そこにバイオがシャロンと一緒にあとから始めたって感じか。それも随分と時間が経ってからだ。

 なのにサールサーク卿はバイオのことをブラリ推奨プレイヤーとしか認識していなかったはずだ。大隊ミッションの時だって、特にサールサーク卿がバイオに話し掛けるようなことは無かったと思う。ゲームの中では互いに互いのことを知らないはずだった。


「誰かが、バイオの現実での名前を……教えたのか?」

 そしてたまたま、サールサーク卿とバイオには、現実に因縁があったのだ。そうでなければ、サールサーク卿があそこまで豹変するものか。

 苗字は望月、でもその前は大河内。そのどちらかの時に、現実で顔を合わせたことのある人物。それがサールサーク卿。ここまでは推理できる。


 でもこの先は、なにも分からない。だって、なにも話されてはいないから。なにも、語ってはくれていないから。

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