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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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自分を守る方法が変わったのかも

 女子に数学を教えている内にチャイムが鳴り、二時間目が始まる。現代文の教師は面白味のある人で、所々で教科書で扱っている作品や作者のエピソードを混ぜ込んでくれるので眠くならない。普段から勉強には力を入れるタイプだけど、夜遅くまで起きてしまうこともあるので、どうしても眠くなることがあるのだ。これは学ぶという環境では絶対に逃れられないことなので、睡眠以上に興味を与えてくれる国語の教師はかなりの腕前だと、生徒ながらに思う

 二時間目はあっと言う間に過ぎた。その次の休み時間で、教え切れていないところをなんとか教え終わり、三時間目の英語に繋ぐ。その英語も、可もなく不可もなくな教師のおかげでスムーズに授業が進行したので、これもさほど苦にはならなかった。


「立花ー、次は体育だぞ。ヘバってないで行くぞー」

「ああ、うん」


 この高校では男子は体育館二階に備え付けの更衣室を使い、女子は教室を利用する。体育館にも女子更衣室はあるのだが、それは水泳部が利用し、他の運動部はそれぞれの部室を使う。女子だけが更衣室を使えないってわけではなく、単純に男女の更衣室が近いので、両方の更衣室を同時に使おうとするとすぐにキャパをオーバーするのである。待たずとも男は外でも着替えられるが女子はそうも行かない。順番を待っていたら授業には確実に間に合わないので、こういうシステムになったのだと思われる。


「こんなことなら、最初の一人目を無視しておけば良かった」

「心の声が漏れているぞ。話せるようになった分、言葉による爆弾投下率が上がっていることに注意しろ」

 言われてみれば、高校でそんなに話すことが無かった分、僕は空気を読まずともなんとかやり過ごして来た場面が何度かあったかも知れない。それは同時に、「話せる」ようになって来ているので、空気を読まない発言か、素の自分を出してしまう率の上昇に繋がる。


 言われなきゃ気付かないとか、僕らしくない。こういうことは臨床心理士にも、注意深くするようにと言われているんだから、僕がちゃんと気を付けなきゃならない。


「僕の根っこが捻じ曲がっていることを知っているのって、三人だけだったっけ?」

 体育館二階に行き、体操服に着替えつつ、僕は訊ねる。

「俺たち以外とお前、ちゃんと関わったことあるか?」

 無いな。断言できるほど無い。


 どうしよう、これからの高校生活で化けの皮が剥がれない確率ってどれくらいだ? 絶対、ボロを出してしまう……生き辛い……息苦しい。つまり、哲学だ。


「哲学で済ませられたら、こんな困らないんだよな」


 自分で散々、哲学で片付けようとしているのにそれを放棄するようなことを口走る。いやだって冷静に考えて、「哲学」で済ませてもなんにも解決してないから。ただ思考停止して、放り出しているだけじゃん。僕はもっと、こう生きやすいようにならないかと願ってやまないっていうのに。


 ウダウダと文句を頭の中で垂れ流しつつ、体育の球技選択で余り物となったので強制的に入らされた軟式野球をやって、着替えてようやくお昼休みになった。


「どこで喰う?」

「僕はみんなに任せるよ。合わせる方が、良いと思うし」

 目立ちたくないし、リーダーみたいな存在にもなりたくないので、ここは遠慮する。なんでこういう時だけ大和撫子みたいな空気の読め方をするのか、謎である。僕には僕自身の謎が多すぎて、もう今日は疲れ果てているみたいだ。

「んー、体育終わりで着替え終わった女子が居る教室に入るのは勇気がいるし、ここは中庭のテキトーなベンチを使うか」

「だな」

「立花も弁当だろ?」

「弁当じゃなくてコンビニのおにぎりだけど、持ち込んでいるから問題無いよ」

 食堂を利用するのなら、このコンビニのおにぎりをどうしようかと迷うところであったけど、普段から教室でお弁当を広げて食べていることを思い出した。夏休みで忘れ過ぎだ。不必要な情報だと切り捨てていたせいだ。これからは大事にしよう。


「あ、僕、ちょっと寄るところがあるから」


「おう、ベンチは取っておくから終わったら中庭に来い」

「ありがとう」

 日頃から感謝の気持ちは伝えてはいないが、気遣ってもらった時にすんなりとお礼の言葉は言えたので、ここでもつっかえずに言うことができた。

 僕は校舎に入って、望月のクラスに顔を出す。なにやら女友達と話し込んでいるので、呼び出したり中に入るのも躊躇われたが、訊きたいことはさっさと訊いた方が心身共に落ち着けるので、意を決して彼女の元まで行く。


「望月、ちょっと良い? 廊下で話すぐらいなんだけど」

「ん……廊下で待ってて」

 僕は踵を返して教室を出て、窓から中庭を眺め、みんながベンチを確保してお弁当を広げているところを見つけ、「ああ、あそこに行けば良いのか」と思いつつ、待つ。

「話ってなに?」

 やがて望月がやって来て、後ろから声を掛けられたので振り返る。

「僕、なにか変わったところある?」

「んー……んーんー」

「悩んでいるフリして答えはもう出ているって感じがする」

「正解。立花君は、ちょっと物怖じしなくなった、かな? 夏休み中に色んなことがあったおかげじゃない?」

「確かに大樹さんに連行されたり、旅行したりしたけど……」

「人と接する量が増えて、人付き合いを嫌でもしなきゃ駄目だって、無意識に思うようになったとか。兄さんといつも喧嘩腰で話しているのも効果があったりするかも」

「年上との交流回数は増えたけど……大樹さんに連行された先でも、否応無しにあんまり親しくない人と話すことはあったのも確かだけど……なんだかなー」

 情熱やらなんやらを教えられ、どうしてその道を進もうと決めたのかを語られ、ついでに沖名さんには人と話す時のコツみたいなのも教えられたから、強ち間違ってはいない。ついでに啓二さんといつも喧嘩腰で話していることで度胸も付いたかも知れない。


 だけど、素直に受け入れたくないと思っている自分が居る。


「こういうの、僕らしくないんだよ」

「変わって行く自分に、付いて行けていないだけだと思うよ?」

「だと良いけど。また僕のテンションがおかしくなっていて、馬鹿なことをやらかさないかって、思ったり」

「その時は私が気付く。高校では私がそういう役割だし、萌木も居る。ゲームの中なら絶対に桜井さんが気付いてくれる。そこは、信じて」

「信じてはいるけど……そうだな、もう一回、ちゃんと考えるよ」

「今のところ、その兆候は無し。立花君は悪い意味で空気の読めないところを維持しつつ、良い意味で会話は安定し始めている」


「要するにクズな部分は変わっていないと」

「そういうこと」

 言われ慣れているのと、自分でも変わっていないと思っている部分をしっかりと認識されているなら、疑り深い僕でも彼女の言葉にも信頼が持てる。


「人の言葉の裏側を見ようとする疑心暗鬼さが減った気がする」

「良いことじゃないの?」

「僕は性格が捻じ曲がっているんだよ。疑り深さだけが、僕自身を守るものだ」

「じゃぁ、守る方法が変わり始めているとしたら?」

「あー……あー、そういう穿った見方も出来るのか。お昼休みに御免、話はこれだけだったんだ」

「気にしないで」

 教室に戻ろうとする彼女の後ろ姿を見て、ふと思い出す。

「あーっと、あと一つ。僕のことで、なにか訊かれることあったりして困っていない?」

「訊かれることはあるけど、別にそれで困ったことなんてない。でも、付き合っているかどうかを訊かれるのはちょっと面倒臭いなって」

「迷惑を掛けているみたいで、悪い」


「気にしないで。私は他の質問には『立花君はタイミングさえ気を付ければ、話し掛ければ受け答えはちゃんとしてくれるし、性格もとっても良くて、落ち着いた人だからみんなもタイミングだけ、気を付けるようにして話し掛けてみて』って言っているから」


 気にしているからこその、最大の復讐をなさっていた。正面からではなく、真横から殴られた気分だ。


「なんで、そんなこと言ってんだよ……」

「その方が、面白そうだから。素の自分を出さないように頑張って」


 君のせいで、より一層の努力が必要になった、と言おうとしたらもう望月は教室に戻ってしまっていた。僕は天井を眺め、やや子供みたいに地団太を踏んだのち、鞄を肩に掛け直し、中庭へ行ってみんなと合流した。

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