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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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全て「哲学だ」で済まそうという精神

「より生き辛い環境になってしまった。どうしてだ……喋っているだけで生き辛いってなんだ……呼吸するだけで辛いよりはマシだけど……哲学か?」

 そう呟きながら席に戻る。


「俺は感動したぞ、立花。さっきのはよく言ってくれた」

 ほら、生き辛い。


「だってこのグループから一人でもリア充になったら僕、卒業するまでじゃなくて一生、恨むと思うから」

 ……あっ、これは言わなくて良いことだったな。


「ああ、立花だ」

「立花だな」

「影武者じゃない、立花だ」

「え、なんで?」

「その若干、ヤバいところが立花だろ」

「そうそう、そのなんかちょっとクズいところが立花だ」

「まー俺たちは、たまにそうやってボロを出す立花を知っているから慣れたけど、他の奴らはドン引きするだろうから気を付けろよ」


 生き辛くはあるが、このグループで喋る上では、なんとなく気は楽になった。ヤバいところとかクズいところとかドン引きとか、よく聞くワードで安心する僕も僕だが、しかし“分かってくれている”というところがありがたい。これで空気が読めていないような発言をしてしまっても、少しは許される。全てが許されるわけじゃないから、そこだけは勘違いしちゃ駄目だけど。


「女子が喋りたがっているって聞いたんだけど、あれ本当? 信じちゃったら、勘違いも甚だしい馬鹿な男のレッテルが貼られるから、なんとかして確認できない?」

「まー割と女子が『立花君は?』と聞いて来ることはあった」


「なんで僕なんだよ。面倒臭い」

 また素が出てしまう。


「女子と話すことを面倒臭いとか言ってんじゃねぇ」

「立花にとっては面倒臭いんだろうけど、俺たちにとっては嬉しいことなんだぞ。そして、女子には良い顔してないと残りの高校生活は針の筵だぞ。奴らの情報網はヤバい」

「それは……なんか御免。あと、針の筵という話も分かるよ……でも、なんで僕?」

「望月辺りから話が回って来ているんじゃないか?」

 あー、そのせいか……それだと、望月にも迷惑を掛けていそうな気がしないでも無い。僕がそれを気にすることなんてこれっぽっちも無いはずなのに、何故だか悪い気になってしまう。

「立花にも遂に春が来たんだなー」

「……違うよ、鬱陶しいだけだ」

 素を出しても良いのなら、一応ながら溜めていたことを発散し、感情が落ち着いて来る。

「でも、僕が素を出すと女子の情報網でみんなの評価も下がりかねないから、化けの皮が剥がれないようには頑張る。あと、僕だけでグループの評価を上げようとしないで、みんなも女子と話す機会を増やすように努力するべきだと思う」

 このグループは、僕中心で回っているわけじゃない。僕は、あくまで端役なのだ。それが目立つのは、良くない。グループ内での喧嘩にすら発展する。誰がリーダーとか、誰が目立っているとか、そういうのに巻き込まれるのは御免だから、グループの中で話題の振り方が上手く、みんながリーダーと決めているクラスメイトに従う。これは気遣ってくれた時から決めていたことなので、今更、再確認することでもないんだけど。


「立花君、さっき数学を教えてもらったって聞いたんだけど、私も分からないところがあって、良ければ教えてくれない?」

 二度目の悪夢が訪れる。三人に助けてくれと視線を送ってみるが、みんなどことなく朗らかに僕を安心して送り出そうという意思が見え隠れしている。なにその、保護者みたいな立ち位置……高校じゃこのグループが確かに僕の保護者に間違いないけど、だったら助けてくれたって良いじゃないか。

「僕が教えられるのは、僕の分かっている範囲だけだし、あまり頼られるのは」


「でもさっきは教えてあげていたよね?」


「あんまり教え方は上手くないから」

 ゲームじゃ初心者に嫌われるので教えるのを避けていたくらいだし。でも、現実で、しかも勉強となると教え方も違うから一概に一緒とは言い切れないわけで。


「でもさっき、とても教え方が上手いって聞いたよ?」


 『逃げる』コマンド押したら『回り込まれた』みたいな気分である。

 特例、特別扱いはルールの崩壊に繋がる。即ち、ここで僕がこれを拒否したならば、「立花君は特定の女の子にしか優しくしない」という噂が全学年の女子へと行き渡る。


「……分かったよ。でも、もう休み時間も少ないから、途中で終わってしまったら悪いけど、次の休み時間に延長するから」

「え?」

 なにその予想外みたいな反応は……変なことを言っているんだろうか?

「途中で終わったら、分かり掛けていたところも分からなくなるから、教えるって決めた範囲はちゃんと教え切りたいから」

「立花君が優し過ぎて困る。え、ヤバい。そんな性格だったの?」

 言っている意味がちょっと分かんない。でも、絶対に素を出しては行けないということだけは分かる。だって三人が首を横に振っている。「よせ」、「落ち着け、耐えろ」、「素を出しては駄目だ」という視線をヒシヒシと感じる。こうやって周りで教えてくれれば、空気の読めない発言や素を出さずに生きて行けそうなんだけど、世の中ってそんな上手い具合には出来ていないから、困る。

「僕は、普段は物静かだけど、話す時はこんな感じだけど?」


「オッケー、あとでみんなに伝えておくから。それで、分からないところなんだけど」

 なにがオッケーで、なにをみんなに伝えておくのだろうか。一抹の不安を抱えながら、手招きされるがままに女子の机に向かい、広げられている数学の教科書とノートを見させられる。


「えーと、ここ?」

「教えてもらえるかな?」

「うん、教えられるけど……これ、一つ前のところから引っ張って来なきゃ駄目なんだけど、そっちは?」

「実はちょっと自信無くて」

「ならそこから教えた方が、地盤が安定する。時間は掛かりそうだけど問題無い?」

「当然」

 女子という生き物はよく分からない。もっとこう、なんて言うの? 理沙や倉敷さんや望月みたいな分かりやすい性格をしていてくれないかな。あの三人はほぼほぼ同年代の女の子だけど、クラスメイトの女子より思考を掴みやすくて分かりやすいんだぞ。


 でもほんと、分かりやすいって大事だ。隠して、偽って、誤魔化すよりも、真っ直ぐで、素直で、ハッキリしている方が話しやすい。現状、ビクビクしながら教えなきゃならないのが辛い。空気も読まなきゃならない。息苦しい。


 充実した高校生活に足を踏み入れたのかも知れないけど、結果的に生き辛くなってしまった。


 こんな中でみんな必死に生きていたんだ? そりゃ嫌なこと一つでなにもかも放り出してしまいたくもなるよ。そしてなんで僕は充実した小学校生活と、VRゲームに傾倒するまではまともに送っていた中学生活を憶えているのに、充実した高校生活に足を踏み入れるだけで窒息しそうになっているんだ?


 わけ分かんないな……哲学だな。もうなんでも哲学で済ましてしまえば良いや。

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