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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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驚かれるほどのことじゃない

「立花、さっきは大変だったな」

「まー遅刻しちゃったし……病院行っていたから遅刻したんだけど、それが癪に障ったなら仕方無いよ」

 休み時間になって、席の離れていた僕を気遣ってくれているグループの一人が声を掛けて来たので、反応したら顔が青褪めて行った。

「なんだ……立花がおかしい。雨……降ってないな。おかしいな、これから豪雨にでもなるのか?」

 僕は雨男じゃないし、その反応は軽くショックである。

「さっきも普通に喋ってくれたぞ。いつもなにかに怯えていて、物凄い言葉を選んで、オドオドしていたのに、なにがあった?」

「なにも無い、けど」

「立花が落ち着いて話してくれるって本当?」

 三人目がやって来て、確認を求めて来る。

「僕って、いつもこんな感じじゃなかった?」

 バナナの皮でも置いていそうな勢いで素っ転びそうなところをギリギリ耐えて、三人目が動揺の色を示している。

「これは立花の影武者だ。俺には分かる。あの温厚で物静かで人見知りで、いつも緊張している立花が」

「あのさ……さすがに怒るよ?」

「悪気は無いんだ。悪気は無い……ちょっと動揺しているだけだ。いや、ホント、ようやく喋るようになってくれたか」

 なんか三人揃って感動しだしたんだけど、これどうやって収拾をつけたら良いんだろう。

 どうしたものかと悩んでいたら廊下で望月が手をクイクイとさせているので、僕は席を立って廊下に出る。

「カウンセリングに行ったって、トークで残していたけど、なにか不安なことでもあったの?」

「心配するほどのことでもなかった」

「まぁ、立花君はどうでも良いことで不安になったりしそうだからね」

「貶しているように聞こえるけど」

「違うの?」

「カウンセリングで話したら、割とどうでも良いことのように思えるようになったから、どうでも良いことだったのかも知れない」

 人類滅亡、地球の終わり。そんなことで不安がっていたなんて、言えない。

「体調が悪くないようなら良いけれど。それじゃ」

「あー……えっと……お気遣い、感謝、します?」

「なんで疑問形? でも、口にしてくれるだけマシかな」

 望月は次は移動授業のようで、筆記用具と教科書を抱えて廊下を歩き、そして階段を上がって行った。


 僕、なにか変わったんだろうか? 肝心なことを訊き忘れてしまった。今、この場だと一番訊きやすい相手だったのに。


「立花君」

 廊下から教室に戻ると、女子に声を掛けられる。

 え、なに、次から次へと……疲れるんだけど。

「なにか、悪いことでもした?」

 女子と接点があまりないのに、どうして悪いことをしたんじゃないかと疑って、問い掛けているんだろうか僕は……。

「さっきの問4の答えを見たんだけど、途中でどうしてああなるのか分からなくて、ちょっと教えてくれない?」

「それくらいなら、出来るけど」

「ほんと? ここなんだけど」

「あー……そこの説明は書くの面倒臭くて省いたんだよ。だから正確には、こっちの数式をまず解くんだ。それで、ここの数式で解いた答えをこっちの数式に放り込んで、これも解く。ちょっとシャーペン貸してくれる? ありがとう。そのあとに問題文から――」

 こういう時、真剣に対応しないと女子から軽蔑の目で見られるに違いないので、そうならないように懇切丁寧に教える。親切心よりも、恐怖心で教えていることなんて、みんなには伝わらないだろう。伝わらないでくれ……化けの皮が剥がれる前に、この女子から離脱したい。

「で、こうなる。どう?」

「おーなるほど。へー、教えるの上手いじゃん」

 数学限定で奈緒に勉強を教えていたのが役に立った。中学と高校では勉強に差があるけれど、教え方はそれほど差が無い。ただ高校では複雑化するので、そこだけ注意したんだけど、どうにかなったみたいだ。

 これでどうにか、女子からの評価は平均。あるいはそのちょっと下を維持したままで居られるはずだ。普段から空気扱いされているのはヒシヒシと感じるので、さすがにそれ以下にはなりたくない。

「おーい、立花」

「な……な、に?」

 リア充グループの一人だ。嫌いなんだよなぁ、話すことさえしたくない。僕はそんな熱い青春を送っていそうな人の傍に居たくないんだよ。

「さっきのすげーな。一発かましてやったって感じ?」

「そうじゃ、ないけど」

「お前のことちょっと見直したわ。今日、カラオケ行かね? 女子も付いて来るって言ってんだけど」

 それは財布になれってことでしょうか。


 ふと思う。ここで僕が怯えて、肯いてしまったらどうなるか、と。


「その……お誘いは、嬉しいんだけど……無理、かな」

「どして?」

「僕を……最初に、構ってくれたのはあっちに居る三人だから……その、そっちを優先したい、から。御免」

 こうやって、変わったと言われて、なんとなく自分がグループから離れて、這い上がって行ってしまったら、あの三人は僕をどう思うだろうかと、考えた。絶対に良い気はしない。むしろ、腹が立って来るだろう。

 でも、そんなことは一番の理由じゃない。僕は、心の内を晒してくれて、そして気遣い、構ってくれているあの三人を、裏切れない。ああいう風に、僕に全てを見せてくれたクラスメイトから離れるなんて、そんなのは無理だ。どれだけクラスでの僕の評価が上がろうと、グループから離れて別のグループに入ろうって気にはなれないし、この誘いも……あんまり、好きじゃない。僕だけを誘うのは、勘弁して欲しい。誘うなら、僕を構ってくれている三人も一緒にが良い。

「んー、それなら仕方無いな」

「え、あ……え?」

「いやーそういうの大事じゃね? むしろお前だけ誘って悪いな。やっぱ、最初に落ち着けるグループってのが一番だってのは俺も分かるし」

「そう、だね。大事だと思う」

「だからまた今度な。あと、女子でお前と喋ってみたいって奴は割と多いから、そこんとこも勘違いしてんじゃねぇぞ」

 そう言って、クラスメイトはリア充グループへと戻って行った。

 視線を教室を見回すように動かす。僕と目が合った女子は、ちょっとだけ友達と話して、なにやら盛り上がっている。リア充グループに入って行ったさっきのクラスメイトも、目が合うと分かりやすく手を振ってくれる。


 え、なに、勘違いしているのはそっちだ。僕、クズなんですけど。僕の本性はクズなんですけど……。

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