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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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あれ?

 カウンセリングを終えて病院を出たところでスマホを開き、トークアプリを起動させる。メールを送るよりも手軽で使いやすいという望月からの熱心な勧誘により、仕方無くインストールしたアプリであるが、海水浴に行く前ぐらいからちょこちょこと使い始めている。登録している人数は少ないけれど、望月の言うように、メールを送るよりも“会話”しているような印象を強く受け、前回に書いたこともスクロールして確認できるので、一々、送信Boxを確認しに行く手間も省けるのも嬉しいところだ。


 ただ、既読スルーがご法度であるみたいな雰囲気があるのが辛いところか。変なタイミングでトークを終わらせなければ良いのだが、人ってのはそれぞれスケジュールや、これまでの人生の中で培った生活習慣の上で成り立っているところがあるので、時間帯を考えて早めに切り上げるという気遣いは必要かも知れない。幸い、僕に関しては、みんなが物凄く気遣ってくれるので、既読スルーだけで怒ることはない。倉敷さんが若干、怒るけれどそれでもあの人の性格からして抑えてくれているので、ありがたく思わなければならないだろう。


 なので、その倉敷さんが僕が送ったトークに対して既読スルーをしていることについては、怒ってはならない。分かってはいることだけど、ドリンクを差し入れに持って来た日から一週間ほど経っているのに未だにトークを返して来ないので、さすがに怒って良いんじゃないかとも思うのではあるが、こんなメールやらアプリやらで一喜一憂するよりかは電話を掛けるか、直接会った方が手っ取り早いようにも思える。


「でもなー、僕は怒っているというより心配している方なんだよな……」


 ドリンクが精力増進の効能を含んでさえいなければ。ただこの一言に尽きる。彼女が帰宅後、トークで色々とフォローしてみたのに、それ全部、既読スルーだからな。まさか恥ずかしさで自殺でも考えていやしないかと……さすがに自殺は言い過ぎか。なんにしたって、心配している。僕は別に悪くないのに、なんで相手の心配をしなきゃならないんだという胸の内に秘めている不満は口にせず、やはり嵐が過ぎ去るのを待つしかないようだ。『Armor Knight』でも、ログイン時間をズラされているからか会えていないし。でも、この一週間は実力テスト期間だったから、勉強に追われてログインできなかったとも考えられる。僕もゲームより勉強の方を優先させていたので、ログインしてもそんなに長くは遊べていなかったし。


 だからって、露骨に避けられていることだけは分かるのだが。


 嫌だ嫌だ。あんな飛び抜けて綺麗な人に避けられると、平均的に綺麗な人に避けられるよりも自分の価値が低いんじゃないかって思っちゃうから。


 トークアプリを終了して、大きな欠伸をしてから高校へと向かう。今日は人類が滅亡するのではと思ったり、地球が崩壊するカウントダウンが始まったんじゃと思ったり、倉敷さんのことで心がソワソワしていたので、一時間目だけ休んでカウンセリングを受けに行った。予約は入れていない上に、今日の午前は予約を入れていない人のカウンセリングはしていなかったのだが、時間が空いているということで特別に受けられた。けれど、「次はありませんよ」と言われたので、そのことにはしっかりと謝り、二週間後の週末に予約を入れた。


 誰かを特例で許すと、他の人までその特例に(すが)ろうとするし、あやかろうとするらしい。だからこそ「次はありませんよ」なのだ。物事にはルールがあり、誰かを特別扱いしたり特例ばかりを打ち出すと、一気に今までのルールが崩壊する。今回はその特例、特別扱いを受けたわけで、二度目があろうものなら、あの人の信用や病院全体へのイメージの低下に繋がる。仕事だってアポイントメントを取っていない人との会議や取引なんて、世間知らずや常識知らず、あり得ない行動と受け取られる。なので、このことには本当に、気を遣っていただいたということを胸に、感謝しておく。


 個人的には休み時間に高校に到着し、職員室と保健室を経由して教室に戻るのがベストだったのだが、制服姿で時間を潰せる場所が僕には限られていて、ついでに補導を受ける可能性も踏まえるならば、ゲームセンターやらゲーム屋やらに足を運ぶこともできず、なんだかんだで高校に直行してしまい、一時間目の終了二十分前ぐらいという非常に微妙な時間に到着してしまった。


 職員室に行き、近場の学年主任の教師に朝に連絡を入れた生徒である旨を伝えて、保健室へ行き、そこの用紙に学年とクラス、出席番号と名前を記入して、その下にある遅刻理由、又は症状の項目に『持病の経過確認』とだけ記し、保健の教師の判子を押してもらい、その紙を手に教室に向かう。

 『カウンセリングを受けに行った』、『精神的に消耗しているために病院へ行った』と書いたら、イジメやらなんやらを疑われるし、教師陣にこれから腫れ物扱いを受けそうだったので、敢えて書かなかった。あとは、病院の診断書に嘘を書くこと、書かせることはやってはならないことだし頼んでは行けないことで、ありのままを書かれるので、これまた腫れ物扱いを受けること間違い無しだから、貰わなかった。


「病院行って高校来ることってこれが初めてなんだよなー、はー、なんか緊張する。一回目をクリアすれば二回目からは緊張しない、よな……いや、そんな何度も遅刻するつもりないけど」

 ブツブツと呟きながら廊下を歩き、自身の所属するクラスの教室の前で立ち止まり、深呼吸をする。入るタイミングってのが僕にはイマイチ分からなかったので、教師の声も聞こえなくなったところで扉を開ける。


 視線が集中する。刺さる。痛い痛い。心臓が跳ねる。体温が上昇する。首から上が他の部位よりも熱を持ったような感覚を誤魔化しながら、若干、震えている体を無理やり動かして教師に遅刻届を手渡す。それから軽く頭を下げてから、自身の机に向かう。


「立花」

「は……い?」

 振り返る。

「丁度、みんなに問題を解かせていた最中だ。立花には問4の答えを書いてもらおう」


 そういや、数学は前日に答案が返されて、今日から通常授業だったっけ。


 僕のクラスを担当する数学の教師は意地の悪いことで有名だ。体罰というほど酷いことはしないが、非常に厳しい。宿題を忘れれば拳骨を落とし――あれ、これって体罰か? ともかく、拳骨もだが、授業中に私語は厳禁で、ちょっとでもうるさいと叱り付けて来る。そしてこのように、時折、嫌がらせをして来る。明らかに答えられないだろうと思われる生徒に、問題を解かせようとする。それは本当に稀なことで、いつもは机の順だったりその日の出席番号だったり、黒板係から選ばれるわけだが、不機嫌な時にはそうやって、なんだか分からないけれど憂さ晴らしをしようとする。だから生徒からは嫌われている。


 なのに保護者には良い顔をする。平気で目上に媚び(へつら)う。テレビでこういった話を聞くたびに、そんな教師は居ないだろって思えていたのは高校を入学するまでである。こういう、どういう信念で生徒に知識を与えようと思って教師になったのか分からない人の存在を僕は身をもって体験しているのである。


「時間はどれくらいですか?」

「あと五分だな」

「問4って、前のところから何ページ進んだところですか?」

「ここだ」

 教師は自身の持っていた教科書を僕に見せて来る。

「……分かりました」

 僕はドギマギしながらそう返事をして、そのまま黒板に向かう。

「どうした?」

「いえ、もう解けたんで答えを書こうかと」

 幸い、教師も問4までの問題を板書している。これのおかげで、さっきチラッと見た程度で、もしかしたら解答が違うかも知れない不安を払拭できる。問題を読み直し、さっき導き出した答えと合っていることを確かめた。あとは書いている内に違っていたら軌道修正出来るだろう。

「五分あるんだぞ?」

「もう解けてしまいましたし、机に行って、またここに戻って来るのは二度手間なのでもう書きます」

 怯えながら答えつつ、僕は数式を使い、文字も加えつつ解いて行き、答えを書いてチョークを置く。指に付いた粉を払いつつ、教師に会釈をしてようやく机へと至り、椅子に腰掛けた。

 筆記用具や教科書、ノートを鞄から出して一息ついたところで問1から問3までの解答も書き終えられたらしく、数学の教師が生徒の解答に対して解説を加えて行く。

「えー、そして立花の答えは…………正解、だ。添削するところも無い、な」

 そりゃ添削されるのが怖いから丁寧に書きましたから。目立つ場でちょっとでも間違ったことを書きたくないし、なにか言われたくもない。平穏が一番だ。その平穏を安定させるためには、完全では無くとも、付け加えたり間違いが指摘されるようなミスはしない。だって怖いから。

 他の授業だったらミスしてしまうこともあるけど、怖いのはこの数学の教師だけなので、この人に当てられた時は、絶対に間違えない。ゲームのおかげで数字に強くなり、そして数学が得意になって本当に良かったと思う。でも、こういう唐突な当て方は心臓に悪い。たまたま解ける問題だったから良かったけど、次からはこうとは限らない。ちゃんとこれからも予習は続けないと……。


「……なんか、ザワついてない?」

「そりゃ突然、問題を当てられたのに即行で解いて席に着きゃ、ザワつくだろ」

「ビッ……クリした」

 そういや、隣の席は僕のことを気に掛けてくれたグループの一人だったっけ。

「あの先生、マジで嫌がらせが好きだからな。ちょっとでもプライドが傷付いたんじゃね? ざまぁ」

「目を付けられそうで怖い」

「前々から立花って目の敵にされていたけどな。今まで当てられて間違えたことないし」

 あー……そういやたまになんの関係も無く、当てられることがあったけど、あれって僕がビクビクしながら授業受けているから、僕が問題を答えられない生徒だと思っていたってことなのか。面倒臭いなー、通知表にはちゃんとした評価を付けてもらいたいところだ。今回は遅刻だから、ちょっと下がっちゃうだろうけど。

「それだと、尚更、数学で良かった。得意な方だから、乗り切れそうだ」

「ん……あれ?」

「どうかした?」

「立花……普通に話せているんじゃね?」


 …………はい?


 僕が首を傾げたところで、一時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

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