-Epilogue 03-
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「人は、傷付けた人のことを忘れやすい。武勇伝に仕立て上げて、自分が正当であると評価してもらいたいから、そういったことを平気でひけらかす。けれど、傷付けられた人は、忘れない。名前を忘れることがあったって、絶対に顔は忘れない。イジメでたとえるなら、卒業アルバムを引っ張り出して来て、誰がイジメの首謀者だったか、誰が裏切ったか、誰が見放したか、誰がその時の担任だったか、名前は忘れたって顔はずっと残り続けるものなんだ。嘲笑していた女子共も、空気に押されて無視していた男も、どいつもこいつも、強烈な発言の数々は残り続ける。だから、君たちも同窓会に行く時には気を付けるようにね。平気な顔して謝って来るかも知れないけれど、それは自身の正当性を守るため。ただの自己防衛さ。だから、平気な顔して受け入れるのも手だけれど、平気な顔して『恨み続けてやる』って言ってやるのも面白いかも知れないよ。だから人を傷付けるのなら、同等の恨みを背負うことを忘れないように。ま、ボクは人に恨まれる側の人間だから、その恨みの量に合わせて、狂って行くんだけれど」
ルキは狂った笑みを浮かべながら、サールサーク卿に向けて言葉を続ける。
「サールサーク卿? さっきも言ったように、ボクの情報は確実だよ。恨まれるのが怖い? 違うでしょ。先に恨まなきゃならないのは君の方だ。と言うより、もう恨んでいるよね? だったらさぁ、今度は恨まれてしまっても良いじゃないか。それぐらいのことをされたんだ。遠因だろうとなんだろうと、彼さえ居なければ、君の人生は順風満帆だったに違いない。だからボクは、君の恨みを応援するよ。その苦しみを、怒りを、欺瞞の正義に詰め込んで、感情的に、高圧的に、嬲り殺してしまえ」
しばらくの間、サールサーク卿はルキに対して異常なまでの怒りや憎しみを込めた表情を向けていたが、やがてなにかを決意したかのように翻り、ギルドフロアをあとにする。折り返すようにして、また別のプレイヤーが『RoS』のギルドフロアを訪れた。
「ようこそ、ネムネム」
ネムネムは周囲を眺め、ルキだけであることを確認すると、スッと表情に冷静さを被せる。
「なにかよう? 朽葉さん」
「ゲーム内でリアルの名前を出すのはNGって、教わったでしょ。少なくともボクはそう教わったけど?」
「私を呼んだ理由はなに? さっさとして、早く」
「もう、折角の同級生にその態度はどうなのさ、――ちゃん? ネムネムとしての自分を捨ててまで、ボクと真剣に話がしたかったってことかい?」
「迷惑なのよ。『Re;Burst』のギルドメンバーにちょっかいを出して、引き抜いて……なにが目的か知らないけれど、私だって暇じゃないんだから、」
「本当の君はどこに居るの?」
ネムネムの言葉を切って、冷めたルキの声が響く。
「……は?」
「だからさぁ、君にとっての本当はどっちなの? こっちが本当? それとも向こう? サブカルチャーには興味が無いけれど、実際、どうなの?」
「なにを言って、」
「理沙ちゃんに言われた通りに、素直に諦めていればそんな孤独を味わうことも無かったのにねぇ」
「理、沙は関係無い!」
その反応を見て、ルキは「くふっ♪」と笑う。
「そんな大きな声を出して、震えなくても良いよ、ネムネム。ボクは歓迎する。そういう気持ち」
ルキはそこでなにかを掴んだのか、同級生の名前では無く、プレイヤー名で彼女を呼ぶ。
「気持ち?」
「鬱陶しいだろう? そういうのはさぁ! そういうのは! 君の手で、摘み取っちゃえば良いんだよ。そうすればほら! 君の中に遺り続けているシコリは無くなって、全部全部ぜぇんぶ、まるで禊を終えたあとのように、心の中が空っぽになってさぁ! そうして改めて世界を見てごらん? 君の望む世界が完成しているよ。だから現状は壊しちゃおう。壊しちゃえば、楽になる。楽になったら、あとは面白いことに満ち溢れているに違いないんだよ」
【To Be Continued】




