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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
248/645

-Epilogue 02-

「へへへー、勝ちは勝ちー」

 やっぱり、遠距離のトライデントには手も足も出ない。いや、ちょっとは抵抗してみたんだけど、にゃおのエイムは高過ぎて避けようとしたら当たるし、当たらないと思ったら当たるし、なんかよく分からない。先読みもなにもされていないのに、自分からビームに突っ込むみたいな感覚に陥って、混乱する。なんなんだろ、ホント。パージで防いでもみたんだけど、連続で撃たれたら敵わない。

「教えてやっているのに、なんか納得行かないんだよな」

「まーそー言わない言わない。んじゃ、今日はこの辺で」

「そうだな」

「また複雑でよく分かんない話なら聞いてやるぞ。愚痴は嫌だけどなー」

「そうだな。お前みたいに大雑把だと話しやすいからな」

「だからあたしは気が利く女だってーの。それじゃーなー」

 にゃおがログアウトしたのち、僕も特にやることが無かったのでログアウトする。

 意識、そして全ての感覚が人体に戻って来たことを確認し、HMDを外して、『NeST』のケーブルもうなじから引っこ抜き、しばし天井を見上げる。


「終わった?」

「ひゃいっ!?」


 悲鳴を上げてしまった。男なのに、女々しい悲鳴を上げてしまった。

 でも、弁明させて欲しい。一人で暮らしているはずの部屋に、女性の声が聞こえたら、それはそれは幽霊的なホラー要素より人間的なホラー要素で怖いじゃないか。目に見えない幽霊より、実体ある人間の言動の方が怖ろしいってのが僕の自論だし。

「な、なんで倉敷さんが?」

 畳に女の子座りをして、部屋にあった小説を勝手に読んでいた倉敷さんに、僕は心底、ビビっていた。

「前に言ったでしょ。夕食のレシピ、教えるって」

「そういう返事を求めているんじゃない」

「合鍵は旅行で桜井さんから借りたの。今度、こっちに来る時に返すわ」

「そんなの僕は聞いてない」

「言わなかったんだから当然じゃない」

 なんで除け者みたいにされているんだ……そもそも、なんで理沙は倉敷さんに合鍵を預けたんだ? 距離が近いからか? 面倒臭いだろうけどたまに生きているか様子を見に行って欲しいと頼まれているのか? あり得るな、だって理沙だもん。

「電話やメールくらい寄越してくれれば良いのに。『NeST』経由でゲーム内に届くんだから」

「それじゃドッキリにならないじゃない」

「ドッキリさせて欲しくないから言っているんだよ」

 寿命が縮んだ気がする。ゴキブリを発見するよりも怖いんだからな。窓をふと眺めたら知らない人の顔がこっちを見ているみたいな恐怖を通り越して死を覚悟したんだからな。

「やっぱり、立花君はビックリすると女の子みたいな声が出るのね」


「それを言うなぁあああ!」


「あまり叫んだら近所迷惑よ。この部屋、防音じゃないでしょう?」

「……君の部屋ほどじゃないけど、一応、防音能力はあるよ。さっきぐらいの叫び声だったら蚊が鳴くような声程度だよ。大音量でテレビみたらさすがに苦情が来るだろうけどね」

 壁が薄いアパートは選んではいない。生活音が色んな方向から聴こえたら、ノイローゼになりかねない。ただでさえ僕の精神はヤバいと両親に思われていたわけだから、その辺りは気を遣ってもらって探してくれた。

「そう。なら早く夕食を作りましょうか。作るだけじゃ時間も時間だから、食べて帰るから二人分のレシピね」


「君、母親と夕食を摂らなくて良いの?」

「今日はパパが居るから。友達と外で食べて来るって言ってしまったし……食べて、すぐ帰るとも言ったから、そうゆっくりもしてはいられないんだけど」

 家族水入らずで食事をすれば良いのに。

「たまには、二人だけで過ごして欲しいのよ。私の前じゃ話せないこともあるから」

 それは、昔のことを未だに引きずっているってこと、か。


「娘の君が気遣わなくても良いんじゃない? 家族ってのは、辛い時も苦しい時も傍に居るもんだよ。離れていてもそれは変わらないけどさ、出来る限り傍にいられるならそうした方が良いと思う。犯罪に手を染めていない限り、ね」

「あなたって、犯罪にはうるさいわね。真面目君なの?」

「父さんに言われているんだよ。『素行が多少悪くたって構わない、その程度なら親として守ってやる。親のことを嫌いになっても構わない。それでも家族であることには変わりない。だが、犯罪に手を染めた日には縁を切る』って。この前、実家に帰った時もニュースで十代後半や二十代の犯罪が取り上げられていたから、三十分くらい話をされたよ。『お前たちはあんな風になるな。あれほどのことをしでかしたら親でも守れない。責任の重さで、父さんは自殺するかも知れない』と、マジな感じで言うから、そんな父さんの言葉は裏切れない」

「良いお父さんね」

「ちょっと面倒臭いけど、そう思うよ。母さんだって、裏切れない。まだ離れて暮らしてはいるけど、育ててもらっているっていう思いはあるから」

 僕はなんでこんなことを倉敷さんに話しているんだろうと思いつつ、立ち上がる。

「椅子、座る?」

「良い。もう料理を作るから。それよりこれ、差し入れ。この前、相当、疲れているみたいだったから。少しでも元気を出せたらと思って」

 折り畳み式の座卓を用意したその上に、トンッとドリンクが置かれる。

「…………ドラッグストアで買った?」

「ええ」

「値段は?」

「そんなにはしなかったわね」

「なんて言ったの?」

「そうね……男の人が元気になる飲み物ってありますか、って。レジの受付さんが苦笑いをしていたけれど、それがどうかした?」


 どうもこうも、これ精力剤なんだけど……。


 どうしよう、倉敷さんは買い物も料理も出来るけど、違う方向でポンコツだった。でも、ドラッグストアで、しかもそんなに値段のしない精力剤なら、栄養ドリンクにちょっとだけ精力増進の効能を加えましたぐらいでしょ。スッポンエキス云々の物はもっと高いはず。

 だからって、飲むか? 倉敷さんの居るこの場で、飲むか? いや無理、飲めないって。だって気付いたらどうするの? 飲む前に気付いてくれたら、倉敷さんが恥ずかしい思いをしたってだけで済むけど、飲んだあとに気付かれたら物凄い気まずい空気が流れるじゃん。そもそも気付かずに終わってくれると、全てが丸く収まるんで気付かないで下さい。


「そんなに変なドリンクなの?」

 倉敷さんが怪訝な表情を浮かべたので、僕はサッと座卓の上からドリンクを回収し、背中に回す。

「……なに?」

「なにって、差し入れを受け取っただけだよ」

「怪しい。私、なにか間違った物を買ってしまったんじゃないかしら? 確かめさせて」


 無理です、やめて下さい。と言うか、そんな近付かないで下さい、近いです、勘弁して下さい。あーもう、美人だなこの人、ホント。そんな純粋な眼差しでこっちを見ないで欲しい。

 いや、これは隠し通さなきゃならない案件だから、乗り切りたいんだけど、もう髪も瞳も綺麗だし、立っている状態から座っている僕に前のめりに近付いて来られているから胸元辺りも若干、気になって来るし、ああもういい加減に分かれよ、僕。

 この人は性格以外、どこのパーツ見ても、欠点なんか無いんだからここは思い切り視線を外さなきゃならないんだよ。もう瞳に惹かれて、そのまま吸い込まれて行きそうな感覚に陥っているから、手遅れだけどさぁ!


「倉敷さん!」

「わ……ビックリした」

「食べたらすぐに帰るって言ったんだったら、早め早めに物事は進めておくべきじゃない? 料理だって二人前だったら、思ったより手間取るかも知れないし」

「立花君のクセに一理あるわね……ドリンクを調べるのは料理を作ってからでも遅くないわ」

 あ、これ駄目なパターンだ……もうこうなったら、言い訳を今の内に考えておいて、気付かれた時にとにかく喋り続けて、誤魔化す。それで行こう。どうやったって抗えないのならば、もう受け入れるしかない……僕、死なないかな。でも倉敷さんのミスなんだから、そこまで怒られない……はず。

「調理、僕も手伝うよ」

「手伝わないとレシピを教えるって言わないでしょう」

 倉敷さんと一緒に調理するとかそれはそれで、僕の寿命がまた縮まりそうなことなんですが。

「ところで、立花君はもう機体名は決めたのかしら?」

「えー、あーうん、一応」

「どんな?」

「聞いたら、危なっかしいからすぐに変えて来いって言われそうだから黙っておきたいのに」

「人の機体の名前をとやかくは言わないわよ。中二病全開だったら、笑うかも知れないけど」


 悩んだが、けれど結局、また一緒にゲームを遊ぶ時には判明することなんだからここで教えてしまって良いだろう。


「パラノイア。意味は、妄想病とか偏執癖」


 ずっと僕に付かず離れず、醒めない夢の如く、常に惑わし続ける妄想を忘れないように。

 ゲームに傾倒し、危ないところまで足を突っ込み、人間関係を一度ないがしろにするほどに偏り、拘り、執念深く(すが)り続けた自分自身への戒めのために。


 機体名を見れば、痛みを思い出せる。だからピッタリだと、思ったんだ。

 ロボットアニメじゃ、悪役が乗りそうな機体名だけどね。

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