-Epilogue 01-
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「このタイミングで、この角度から刀を振るわれたら、どう対処する?」
《んー、真剣白刃取り?》
「無理だろ。ちゃんと防ぐか避けるかしろ。まぁ、この角度から来たなら僕は防ぐ。避けても追撃が怖い。刀は切り返しが早いから」
対人戦ではあるものの、にゃおのトライデント――獣型から人型に変形してもらっての近接戦闘を教えているが、思った以上に近距離での対応の鈍さに呆れてしまった。だから実戦向きな特訓ではなく、互いに攻撃のほとんどをせずに、近距離でソードの角度や、トライデントの立ち位置などを調整しつつ、その時その時にどうやってトライデントを逃がすか、攻撃を防ぐかを見ている。
《下がって、呱砲を撃つ?》
「充電時間を考慮しろ。間に合わないだろ。撃つならエネルギーライフルだ。と言うか、下がったら近接戦闘の特訓にならないだろ。今までの戦法が染み込んでいて、反射的に距離を置こうとしてしまうのは仕方の無いことだろうけど」
《あーそっかぁ……なら、ソードでこう防いで、鍔迫り合いか、弾き飛ばすか……んー、でもなぁ、そのあとの二撃目があたしに不利だしなー》
「刀は速度が出るからな。それに、コキュートスは何本も刀を持っているから、二刀流でも挑んで来る。手数が違い過ぎる。だから、防いだなら防いだで相手の隙を突いて、下がらせる……いや、そもそも、防ぐのが間違いか……? コキュートスをシミュレートするなら、もっとエグい角度から斬り掛かって来ることを想定して、」
《リョウの兄貴ー、なんか今日は集中力無い感じだなー》
ふと、にゃおにそんなことを言われてしまい、僕は小さく息を零す。
「ちょっと、嫌なことを思い出したんだよ」
《あれか? デザイナーベビーか?》
「お前、こういう時だけ鋭いよな。そうだよ」
《リョウの兄貴んところで、結構な話し合いがあったって理沙さんから聞いたぞー》
それまで教えているのか、理沙は。
「まぁ、デザイナーべビーに関しては……花美が、ちょっと」
《花美ってデザイナーベビーだったのかー?》
「違うよ。テスターにならないかって話が挙がったんだけど、両親が突っぱねたんだ。だから花美は違う。勿論、雪美姉さんも違う」
突っぱねたあとにハッスルして花美を身籠ったっていう経緯については想像もしたくないのだが、しかしそういう経緯が無ければ妹は産まれて来てくれなかったわけで、なんとも複雑である。
「両親が結構、揉めたんだよ。それを憶えているから、嫌なワードなんだ。言葉として遣われるだけでも、イラッて来るぐらい。にゃおは僕を心配して訊ねてくれたから、イラッとはしないけどね」
デザイナーベビーは産まれながらにして重みを背負う。親の期待はデザイナーベビーってだけで、僕たちの比では無いし、なにより普通の子供たちと常に比べられ続けるのだ。そして親も比べることをやめはしない。
そう思うと、“あいつ”も同様の苦しみを抱いていたのかも知れないと……ほんの少しだけ同情してしまったのだが、そのせいで僕に拘り、そして傷付ける理由にはならないから、こんな同情は捨て去ってしまった方が良いのかも知れない。そんな奴に、感情を揺らすのは間違っているのかも知れない。
でも、まだ僕は“あいつ”を許せずにいながらも、その同情心を消し去ろうと努力しても、無理なのだ。ここが僕の弱いところだ。人を気遣い過ぎて、同情する必要の無い奴にまで同情してしまう。
ちゃんと話し合えば、全ての結果云々を抜きにして、また昔みたいに遊ぶことが出来るのでは、と思ってしまう。向こうはきっと、そんなこと塵一つも考えちゃいないと、分かっているのに。
「……そういや、大樹さんなんて思いっ切りデザイナーべビーみたいな生き方しているけど、違うのか?」
《ウチの兄貴は隔世遺伝だよ。じーちゃんの血を濃く継いでんだ。なんかもーウチのじーちゃんもあんな感じだったらしくて、両親が気味悪がっていた時期があったってのは事実。あたしもちょっと怖いと思ったのも事実。でも、そんなのは昔の話。今は壁なんて無いよ。あたしも、前に進みたいしー》
あそこまで完璧なクセに、天然で毒舌だからな。そりゃ気味悪いと思うし、怖がるのも無理はない。僕だって一時期、雪美姉さんのことはよく分からなかったし、花美には怖がられていたし……でもそんなものは時間が解決するものだ。
「じゃ、話はこれくらいにして特訓の続きをするか」
《えーまだ話していたいのにー》
「特訓したいのかしたくないのかどっちなんだよ……でも、怖がらずに訊いてくれて助かった。この前、特殊ミッションを攻略してからずっと胸につっかえていたんだよ。誰かに話したかったんだ。それがお前っていうのが、癪だけど」
《あー一言よけいだなー。こう見えてあたしは気が利く女なんだぞー》
にゃおが気が利く女だったら、世間の大半は気が利く女ってことになる。それぐらい大雑把な性格をしているだろ。
デザイナーベビーの話なんて、理沙に話せば心配するし、望月は親身になってくれるけど加減を知らないし、倉敷さんは理屈やら理論やらで僕を押し潰そうとするだろう。啓二さんに話すなんて死んでも嫌だし、大樹さんは現在進行形で雪美姉さんとの恋愛の駆け引きに苦労しているし、やっぱり奈緒ぐらいが丁度良かった。
「じゃぁ、その気が利く女に免じて、特訓はここまで。これからは実戦ってことで。時間も時間だしな」
《やったー。遠距離ならリョウの兄貴をぶっ倒せるー》
「さっきまでの特訓はなんだったんだよ……」
呆れている僕を気にも留めず、トライデントが一気に空中を駆け抜けて行って、遠くへ行ってしまった。
学んではいるだろうから、あんまり文句を言っても仕方が無い。それに、トライデントとの戦いは僕からしてみれば、遠距離特化型の機体とどう立ち向かうべきかを考えさせてくれるので、お互いに特訓できるということでトントンにしよう。




