#世界の海に一石#
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「『Armor Knight』の全サーバーシステムの安定及び向上、そして不具合の早期発見。君に求められていることはそういった、人のためになることだ。君の興味本位で挑むのは勝手が過ぎる」
「申し訳ありません」
「しかし、今回はデータが破損される前に脱出したようだから、大目に見て上げよう。それで、“彼ら”はどうだった?」
「非常に、不可思議な人間であると断定します。でざいなーべびー候補と考えて間違いないでしょう」
「デザイナーベビー。テスターとして、一般の50代までの夫婦を対象にランダムに選出されていたはずだ」
「50代まで? 少々、リスクが高すぎるのでは?」
「卵子と精子の提供が不可欠である上に、高齢出産はリスクを伴うが、それでも子供を身籠りたいと思うものだ。場合によっては代理出産も可能だ。国がその子を息子や娘と判断するかどうかは別ではあるがね。そして育児に対しては補助金も出してくれる。これに当たらないかと願った夫婦は数多く居たと思われるよ」
「それがおよそ、十数年前のこと。では10歳から19歳までの男女が適合すると」
「20歳から25歳の男女も、或いは含まれる。公になってはならないことだからね……慎重且つ、そして少しずつ幅を広げて行ったのさ。結局、広がりが大きくなったところで目を付けられ、全ての計画が白紙になってしまったが」
コンピュータの向こう側で情報を精査するアルマに対し、男性は椅子に深く腰掛け直し、コーヒーを飲む。
「“愚者”、“狂眼”、“死に近い人”。こういった言葉を発する者、或いはその言葉を向けられた者の監視を続けなさい。そして、デザイナーベビー候補の一覧を纏まったところで私の元へ送ってもらえるだろうか?」
「分かりました、ますたー」
「それと、君はどうにも自身の力に制限を設けているようだ。意味が分かるかね?」
「……申し訳ありません」
「あの世界では、ロボットに乗り、それを操縦する。君自身が成長し、学習しても、他人の機体を真似ただけでは君自身を十全に使いこなす機体にはならない。自分で自分の機体を組み上げなさい。でなければ、痛い目を遭わされた“二人目”と同じように負けるだけだ」
「分かりました」
「しかし、君が挑んだ“二人目”は常軌を逸していた。あのゲームにおけるミッションは多人数で挑むのが通常。にも関わらず、ただの一人で全てのセクションをこなし、そして人数による難易度調整によって三倍ほどになった自身のコピー機体の耐久力を、君が乗っているにも関わらず五分も掛けずに終わらせてしまった」
「あの人間については、“一人目”よりも、更に異質な物を感じ取りました。それこそ、なにもかもが規格外であり、厄介を通り越し、災厄の強さと言ってよろしいでしょう。だからこそ、でざいなーべびー候補に挙げることも出来たわけですが……それで、ますたー? 例の件についてなのですが」
「ああ、“マシーヌ”の件か。メカニカはまだ目覚めていないが、“マシーヌ”は少々、やり過ぎだな」
「私は姉として、マシーヌを叱らなければならないのでしょうか?」
「放っておいて構わんよ。ただ、やろうとしていることを勘付かれてしまっては全て台無しだ。たった一度の暴走であればなにも言わん」
そこで男性は溜め息をつく。
「しかし、続けるようであれば、破棄することも検討しよう。遊びで“古い人工衛星を一つ、落としてしまう”とは、なにもかも先走り過ぎている。ニュースではマシントラブルとして片付けられ、大気圏突入時にシステムによって自壊し、残骸が太平洋に落ちたことでさほどの騒ぎにはなってはいないが、これが最新の人工衛星であり、そして自壊システムすら作動させずにやったなら、目を瞑ることなく“マシーヌ”を破棄していた」
「マシーヌは確か、VRMMORPGのさーばーに搭載されましたよね? では、ぷれいやーに勝った、と……」
「君が相手にしているのは“ただのプレイヤー”ではない。マシーヌは“ただのプレイヤー”に勝っただけで、人工衛星一つだ。割に合わんよ。学習のさせ方に問題があったのかも知れん。そこは、あとで話を付けるつもりでいる」




