たった一つの言葉が影を落とす
《前回で学びました》
「なにを?」
《私があなたに敗北したのは、機体性能の差であると》
「……へぇ」
《ですが、今回は同じ機体。あなたに負ける道理は、ありません》
これに付き合うのも面倒なのだけど、なかなか興味深いことを言ってくれる。
「勘違いも甚だしいんだよ」
オルナにブーストを掛けて、グザファンの攻撃を避ける。
「お前が、そもそも僕より弱いんだ。だから、機体がそっくりそのままなんだとしても、僕がお前に負けるわけが無い」
圧倒はしなくて良い。泥臭くても勝てば良い。グザファンがオルナのコピー機体で、乗り手の腕前がそのまま力の差になるという点で、妙な怒りや腹立たしさを抱いていたが、そんなものは放り出してしまえ。強さをハッキリさせて、屈服させて、自分が絶対的に強いんだという証明にしたかったが、そんなプライドは放り出せ。
見せ付ける強さはいらない。圧倒的ではなく、必要なのは確実な勝利だ。それなら僕も耐久力のギリギリまで暴れることが出来る。
グザファンが追い掛けて来る。オルナを左に旋回させつつ、モニターにグザファンが入った直後にビームを放つ。避けられたが同時にランチャーの充電を始める。直後にグザファンがソードで切り掛かって来るが、これをやはりソードで凌ぐ。乱雑で、乱暴で、機械的な動きなんて一切無い連撃の数々を凌ぎ切って、溜めたランチャーから高出力のビームを近距離で放出する。僅かに装甲を抉ったが、それでもグザファンは攻撃の手を休めなかったため、ソードがオルナの右肩の装甲を掠めた。
機体の高度を落とす。やや下から、足元を狙って切り掛かる。グザファンが両足を中空で蹴り上げるようにしてオルナの胸部を蹴飛ばし、更に宙返りすることでソードを避けた。けれどオルナのバランスは維持しつつ、宙返りを終える直前のグザファンにエネルギーライフルのビームを三連発ほど浴びせ、続いてブーストを再び掛けて急接近し、もう既に構えていたグザファンのソードにオルナのソードを叩き付ける。
先手を取られ続けるのも性に合わない。だから、今度はこちらから剣戟の嵐を繰り出す。グザファンよりも無慈悲に、正確に、パーツとパーツの繋ぎ目であるジョイント部分を狙いつつ、更にランチャーの充電を再び始めつつ、マルチタスクで物事を進行させて行く。
“直感”が働く。グザファンがカウンターとばかりに繰り出した刺突に、ほぼ反射的な操縦だけでオルナを逸らし、紙一重でかわしてみせる。そこでランチャーの充電が終わったので、再び高出力のビームをお見舞いする。今度は装甲だけでなく、右足の骨格を確かに抉ったはずだ。だから耐久力に直接、幾らかのダメージは入っただろう。
その戸惑いが――戸惑いという感情があるのなら、ここは絶対に下がる。だからオルナを前進させる。
《非常に不可思議でなりません》
振り下ろしたソードが、機体骨格から噴射されて剥離された装甲が生み出す壁に阻まれて、弾かれた。
「パージ……!」
《これを、人間が感覚で使いこなせているということが》
まずい、弾かれたあとのウェイトを殺し切れていない。グザファンは攻撃モーションに入っている。システムアシストで追尾も掛かる。ステップダッシュ程度じゃ、避け切れない。
「っの!」
右上腕部の装甲をパージさせて、グザファンの剣戟を弾き飛ばす。
《やはり、人間として不可思議極まりありません。だからこそ、でりーと対象なのです。あなたは、ぷれいやーでありながらさーばーに負荷を掛け過ぎている》
グザファンが引き下がった。僕もオルナの姿勢を整え、距離を置く。いわゆる仕切り直しだ。
「パージ……パージか。パージされることを頭に入れて、攻撃か……」
《自分だけの特権だと思っていたことを、こうやって当たり前のように使われることに、憤りを感じますか?》
憤り? 焦りはしたけれど、そんな感情は芽生えなかった。だって、パージは誰だって使うことのできる仕様だ。ただその無敵時間を防御に使っているのが僕一人だけかも知れないってだけだった。要するに、誰かに使われる可能性はあった。ティアがシャロンと戦った時だって、「ヴァルフレアのパージに一杯喰わされたわ」とティアはあとになって僕に話したし、だから憤りなんて無い。
「お前、面白いな。愉しくなって来たよ……」
いや、待て。感情を昂ぶらせるな。テンションは上げても良いけど、自分を見失うな。改めて、目標はなにかを胸に刻み付ける。
「圧倒的な勝利じゃない。確実な勝利。プライドなんていらない。みんなとの、信頼関係を……大切に」
放り出したくない。自分から断ち切りたくない。そう思っているんだ。そう願っているんだ。でも、思いや願いは行動にしなければ実現しない。心の弱さを克服する。強くなると誓ったなら、文字通り強くなったとみんなに分かってもらわなきゃならない。でもそこに、力を誇示するような戦い方は求められていない。
《あなたはやはり、でざいなーべびーではありませんか?》
ドクンッと心臓が跳ねる。
「お前にその言葉を遣って欲しくはないんだよ……お前なんかに」
《五年前の実験は、でざいなーべびーのための再調査であり再研究でもあったのでしょう? そして、その実験で産み落とされた“存在”を無かったことにした》
その五年前の実験とやらがなにを指すのかは分からないが、僕を激しく苛立たせる内容を口にしていることだけは分かる。
《でざいなーべびー……優れた遺伝子、選ばれた特徴、秀でた才能、それらを求めるがままに詰め込み、人という形として産み落とす。私が掻き集めた知識に寄れば、赤子をでざいんするかの如く、ぱーつごとのリストで選び、親好みに作り上げるから、そう呼ばれているそうですね。そして、それは試されている。多くの資料が人権問題ということで改竄され、無かったことにされていますが……産み落とされた赤子は、無かったことにはできない。そして、それはおよそ――》
「だからお前にそれを説明されたくはないって言っているんだよ!!」
ソードで空を左右に切って、自身のリズムに合わせてオルナをグザファンへと走らせる
《短絡的な行動ですね》
右のソードをパージで弾かれた。左のソードはグザファンの備えているソードで受け止められる。弾かれた右腕を引き戻すようにして再び剣戟を放つ。これをソードで受け止めて、力尽くでオルナが押し飛ばされた。
「……ちょっと頭に来たけれど、でも自分じゃこれでも冷静だ」
思わず声を荒げて、確かに短絡的な行動を取ってしまった。でも、逆に考えるべきだ。この感情的な反応で、向こうはどう思ったか。
僕が短絡的な行動を選んだ。そのことが、相手をつけ上がらせる。油断させる。
だから、次に短絡的な行動を取るのは、僕じゃない。
《極めて短絡的で、人間らしい。だからこそ、弱い》
グザファンが至近距離まで迫り、勝利を確信した二連撃の構えを見せている。
「勝てると思った瞬間が一番、隙だらけになる。人間臭いな。おかげで、全部、“読み取れる”。君の言う“空間把握の化け物”だけじゃなく、“直感”でも伝わって来る」
右腕のジョイントを切り離し、更にスラスターの片側だけガスの噴出量を上げて、コマのように機体を回転させながら避ける。グザファンは二連撃を空振りしただけでなく、ここまでの接近によって慣性の法則で前進の勢いを殺し切れていないため、この回避だけでグザファンの背後を取った。
《ぱーじ……じゃ?》
「悪いけど、使用回数に制限がある防御を僕はそこまで信用していない」
回転を止めて、グザファンが振り返ったところでソードを投擲し、胸部に命中させる。続いて後背部から長鎗を取り出し、左手でクルリと一回転させる。エネルギーランチャーの充電も開始する。
《また投げて来るつもりですか?》
グザファンが右手のソードを捨て、胸部に刺さっているソードを引き抜いたと同時に、オルナに近付いて来る。
《あの投擲は、距離があればあるほど危険だと学びました》
「そうなんだ。でも、投げないよ。近付いて来てくれてありがとう」
自分からクリティカル距離に入って来てくれたので、長鎗の刺突は綺麗にグザファンの腹部へと吸い込まれる。
《な……》
そのまま捩じり、貫くことで二回分のダメージ。続いてオルナをグザファンに密着させて、蹴飛ばしながら長鎗を引き抜くことで三回目のダメージが入る。グザファンが左手でエネルギーライフルを構えたが、長鎗を切り返して、そのエネルギーライフルごと左手首を切り落とす。
「お前が乗っているのは僕のよく知っている機体だ。重量、スラスター、バーニア、武装、装甲。どれもこれも知り尽くしている。手に取るように分かる。オルナに初めて乗ったお前なんかに、負けてたまるか」
グザファンの右手のソードがオルナの左肩から袈裟に喰い込んで来るが、構わず長鎗の持ち手の位置を調整し、ソードで傷付けた胸部を一突きにする。続いて左肩からジョイントを切り離し、バックダッシュで距離を置いたところで充電を終えたエネルギーランチャーから放たれた高出力のビームは、グザファンの中心部を貫通する。
貫通したってことは、破壊エフェクトだ。これでグザファンの耐久力はゼロになったはずだ。
《……厄介な、ぷれいやー…………! 次、こそは……っ!》
グザファンはそのまま地上へと落ちて行き、以降、動かなくなり瓦礫と化した。
『『天骸』ゼフォンのコアの破壊及びグザファンの破壊を確認しました。我が軍はあなた方によって、『天骸』の脅威を跳ね除けることが出来ました。軍本部より、この功績を讃えて、特別な報奨が出ることでしょう』
「次って……また、なにか突っ掛かって来るのか……“あれ”。本当に、イベントじゃないんだとしたら……」
それはもう、CPUを越えた、学習型AIとしか考えられない。
「デザイナーベビー……か。はぁ、嫌なことを思い出して……後味が悪くなったじゃないか」




