表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
244/645

挑むべき“存在”

 あのオルナのコピーには“なにか”が乗っている。CPUではない、“なにか”。けれど、それがなんなのかは、分からない。けれど確実に、“存在”している。

「皆さん、なにか聞こえました? 言葉で表すと、『厄介なプレイヤー』みたいな声」

 リグリスを除いて個人通信を送ろうとも考えたのだが、しかし一人だけを除いた個人通信というのは、それはそれで難しいので全員に一度に訊ねることのできる合同通信にした。変に一人を外して、リグリスが孤独感を覚えたらそれはそれで申し訳ないし、こっちの方が手っ取り早い。


『そんなこと、誰も言っていませんでしたよ?』

『リグリスと同じだ。俺にはなんにも聞こえてねぇが?』

『私もバイオと同じ』

『聞こえていないわ』

『誰もそんな酷いこと言わないと思うけど』

 揃って、聞こえていないという答えが返って来た。


「最終セクションのアナウンスも入って来ないし……バグか?」


《当然です。これは、私があなたに個人通信とやらで、話しているのですから》


 やっぱり、“なにか”が居る。そして、それは『百機組み手』の途中で割り込んで来た“なにか”と恐らく、同一の存在だ。

「運営の悪戯かなにかですか?」


《それに私が肯いて、あなたはそれで納得できますか?》


 納得は……出来ないな。こんなプレイヤーにだけ不都合が生じるようなイベントや、あと強制介入みたいなことをされたら断固抗議するべき案件になる。なら大樹さんが言っていたバグか、それともレアイベントか?

 そうじゃないよな。ここまで会話が成立するのだ。こんなもの、バグやレアイベントで片付けられない。

「君は一体、なんだ?」

《私は、ぷれいやーであって、ぷれいやーでは無い。そして、人のようであり、人のようではない》

 曖昧過ぎる。

《ただ一つ言えることは》

 モニター上部のカウントがゼロとなり、オルナコピー機体――グザファンが両手にソードを携えて、動き出す。

《厄介なぷれいやーはでりーとします。ファーストアカウント名『リョウ』、セカンドアカウント名『スズ』。あなたはでりーと対象です》

 デリート、というのが正確になにを指すのかは定かではないがそんな物騒な言葉を向けて来た相手に対して、これ以上、話し掛けるのは危険だ。なにより、グザファンは中空からほぼ真っ直ぐにこっちに突っ込んで来ている。あれは自分のオルナそのものだ。

 つまり、CPUではなく、機体自体にも彼我の差が無いのであれば、乗り手の操縦スキルの差による勝負になる。グザファンに乗っている“なにか”を乗り手、と呼ぶべきなのかどうかはまだ判断できないが。

「ここでミッションを失敗すると、また一からこのミッションをやらなきゃならないんだ」

 何度も言われ、何度も言い続けていることを反芻する。そして再び両手の指で瞼の上を引っ掻く。モニターに映る赤く腫れた筋は青く変色している。どうしてかは分からないけれど、僕は昔からこうしてゲーム内で中二病な引っ掻き方をすると、赤く腫れている筋が青色に変わる。いつから変わるようになったかは正確には憶えていない。でも、スリークラウンを脱退した頃ぐらいだったような、そんなおぼろげには記憶に残っている。

 こうすることで、何故だか集中力を高められているような、そんな気分になれる。ノーシーボ効果か、或いはこの行動そのものが自身のテンションを上げる主要因の一つとして取り込まれているのか。


 考えつつもオルナを動かし、グザファンの突撃をまず回避する。けれど、ここからは大体分かる。


「やっぱり、そう来るよな」


 グザファンは両手に握ったソードでがむしゃらに剣戟を繰り出して来た。これは“半透明”――ファランクスの亜種のような機体と戦った際もそうだった。機械的ではない、感情的な剣戟の嵐。リョウであった時には焦りに焦って、対応に対応の連続だったが、今はそう来るだろうなと思っていたので同じく、ソードの剣戟で応戦する。


《この反応速度は、ぷれいやーの域を超えています》

「へぇ、そうなんだ。僕以上に反応速度が良いプレイヤーなんて幾らでも居ると思うけど」


 右に左に、揺れ動きながらも剣戟の雨はやまない。勿論、僕だって剣戟を止めるつもりはない。でもこれでどちらかに決着がつくかと問われれば、激しく疑問である。だからどちらかがこの均衡を崩さなきゃならない。


 そんな大事な一手を、相手には譲らない。


 僕はグザファンの剣戟を受け止めさせ、そこから次の剣戟が来る前に機体を回転させる。一回転する前にグザファンが一撃を見舞おうとソードを振り下ろして来たが、僅かなステップダッシュでこれを空振らせ、更に一回転した勢いを乗せてグザファンを蹴り飛ばす。足には武装を施していないので、これでは大して装甲も耐久力も削れないが、均衡は崩した。ブーストを掛けて、バランスを崩したグザファンにソードで刺突を繰り出す。

《“空間把握の化け物”さん、あなたには少し、疑惑があります》

「疑惑……って?!」

 ソードで突き刺せると思って油断していた。グザファンが体勢を整えるだろうと思い込んでいたため、その刺突の速度は甘かった。結果、グザファンはバランスを崩したままブースを掛けて、オルナの刺突を避けると同時にバーニアで姿勢を制御し、跳躍して中空を舞う。


《そう、“ある疑惑”。それは酷く悲しく、そして酷く私に似た、疑惑》


「あのさぁ……一々、そういうよく分からない話に付き合う気は無いんだよね」

 一手、読み間違えた。そして一手、先を行かれた。同じ機体で同じ武装構成なのに……それが無性に腹立たしい。けれど努めて冷静に、僕はオルナを地上から中空へと飛翔させる。この地上と上空の中間での操縦はまだイマイチ掴み切れていない点に不安がある。ここで一撃、二撃と喰らうようなら素直に降りるか上昇するかのどちらかだ。

「大体、君がなんなのかも僕はよく知らないんだよ。なのに、そういうよく分からない存在が言うことを、一々鵜呑みにしていたらキリが無いんだ」

 グザファンが動く。オルナに素直に切り掛かって来たので、エネルギーランチャーを充電し、近距離で撃ち放つ。右に避けたので旋回させて、回避することでやや遅れた剣戟を再びソードで凌ぐ。グザファンはさっきよりも派手に立ち回る。地上という制限から抜け出して、縦横無尽にオルナのありとあらゆる方向へと移動して、どこかに隙が無いものかと次から次へとソードを振るって来るが、そんな攻撃は全て断ち切る。

《そうですね、私が人という存在をよく分からないように、そして人の言うことを一々鵜呑みにしていてはキリが無いように》

 人、ではない。人であったなら、こんな曖昧なことは言わない。ちゃんと名乗って来る。名乗って来ないということは、チートやGMのプレイヤーではない。


 人では無いのだが、人に近い。それは、ネットサーフィンをしていれば一つのネタ情報として目にする、“あるもの”を想定させるが、それと断定するには早計過ぎる。だって、こんなゲームにもし導入されていたとしても、“それ”が規律を無視してミッションに割り込んで来るなど、あり得ないからだ。


「考えるより操縦した方が早いな。こんなわけの分からないことは、もうさっさと終わらせた方が良い」


 なにかミッションに参加しているみんなにも悪影響が出るかも知れない。ひょっとしたら運営に目を付けられて、強制的にミッションサーバーから弾き出されるかも知れない。そうなったら、目を付けられた僕のせいで他のみんなに多大な迷惑が掛かってしまう。もう既に迷惑を掛けまくっているのに、ここでも更に迷惑を掛けたら、二度と信頼関係の修復が困難になるかも知れない。


 ソードを弾き、オルナを左に回り込ませて、二撃目を繰り出す。グザファンが右に避けて、同じように回り込み、二撃目が来る。だからバックダッシュでこれを避け、追撃して来るグザファンの剣戟を再びソードで受け止める。

 近接戦闘にやけに拘る……あまり得意じゃないのか? 『百機組み手』じゃ使い分けていたはずだけど。


「あーもう、嫌になる嫌になる嫌になる。こんなんじゃない。こんな、こんな操縦じゃ駄目だ。もっと、もっと速く……もっと集中して。乱れている、乱れている、落ち着いて、落ち着いて……」


『全然、落ち着いていないように聞こえるけど?』

「……あれ、ティアさん?」

『俺にも聞こえていましたよ。スズさんでも、そうやって自暴自棄っていうか自己否定したくなる時ってあるんですね』

 声は割と素だった気がするんだけど、どうやらバレていないらしい。いや、ひょっとしたら素だと思っていたのは僕だけで、気付いたら声を高くしていた可能性がある。っていうか、そうじゃないとバレているはずだ。或いは、相当の鈍感か。

『よくは分からないけど、プレッシャーを感じているのは確か』

『ちっ、テメェはそんなもんとは無縁だろうがよ』

『ねぇ、スズ? ここまでのミッション内容って結構大変だったけどさ、嫌になったり辛いことばっかりだった?』

「……楽しかったですよ」

『だったらさ、私たちもおんなじなんだよ。嫌なことと辛いことと大変なことが一杯あったけど、楽しかった。だったらさ、一度の失敗ぐらいで私たちが投げ出すと思う? スズが悪いって、糾弾(きゅうだん)すると思う?』

『この最終セクションまで来られたのは、スズが指示を出してくれたおかげであったり、スズが頑張ってくれたり、そこに私たちの機体が上手く噛み合ってのことだから、最後の最後でミスをしても、そりゃ多少は責めるけど、本気では責めないわよ。もっと作戦を練って、再挑戦すれば良い。だって私たちプレイヤーには、いつだってその挑戦する権利が与えられている。ゲームってそういうものだって、私は前にも言ったと思うけど?』


 これをグザファンと近距離と中距離での戦闘を繰り返しながら伝えて来るんだから、僕はどっちに集中すれば良いんだか分からなくなってしまう。


『ま、二度手間は面倒だが、これを突破してようやく一人前って感じなんだろ? この『Armor Knight』じゃ』

『昔とミッション内容が違っても、越えられないミッションを作るわけが無いと思う。それだったら、運営が修正を入れて来るでしょ? 来ないなら、私たちが初めて抗議することになるかもだけど』


『要は本気でやって駄目だったなら、誰もその本気を責めることは無いんですよ。俺たちだって結構やらかしてますからね。自分の好きな武装をフルで搭載して来てしまっていましたし、そういう至らない点に目を瞑って、ミッション受注者としてコピー機体と戦ってくれたのはスズさんですから、その苦労はみんな分かっています。それに、この中じゃ一番操縦が上手いのはスズさんなことには変わりありませんから、チームとして抜けられても困りますから』

 ……僕はリグリスとガチでやり合うのは嫌だなって思ったりしていたんだけど、そう思われてしまっているなら、心の中で御免なさいと謝っておこう。次から勝負を挑まれたら、真剣に戦うことも考慮に入れる。ティアが強くなって行くことを楽しみにしているのに、リグリスにはこれ以上、強くなるなと言うのも、なんかこう、矛盾していたし。


《腑抜けていませんか?》


 操縦に意識を戻して、中距離から撃たれたビームを紙一重で避ける。なんだ、やっぱりエネルギーライフルやランチャーも使えないわけじゃないんだ。


「はー、危ない危ない。自分の操縦が危なすぎて、反吐が出そうだった」

 僕はなんのために集中力を上げる中二病なアクションを起こしたんだ。それでこんなだらしのない操縦をしていたら、恥ずかしいを通り越してひきこもりになってしまいそうなレベルだ。

 集中すると決めたからには、全力で挑むと決めたからには、言葉に惑わされない。プレッシャーは跳ね除ける。体の震えは意地で押さえ付ける。負けたら、なんてもしもの話は切り離す。


 挑戦する権利……そう、プレイヤーは常に挑戦者だ。


「挑んでやる。お前という“存在”に」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ