変わる努力と、不気味な反響
キャッコピがキューキャットに向かっている間にソードを抜いて、その背後を狙う。二機が激しい銃撃戦を繰り広げていると思いきや、オルナの襲撃に反応したキャッコピが振り返りながらその銃爪を振るって来た。当然、爪とソードで鍔迫り合いになるが、こんなものに一々付き合ってはいられ――
アラート音を聞いてから、すぐに機体を後退させたつもりだったが間に合わなかった。
「くっそ」
『なに今の爆発?』
「爪で防いでいたから、そのまま弾き飛ばしてやろうと思ったら、その爪をミサイルとしてぶっ放された」
ソードで触れていたため、キャッコピから離れたミサイルはそのままそこで爆発しオルナを巻き込んだのだ。
『それ、自爆戦法?』
「フレンドリーファイアと同じだよ。自分の攻撃は衝撃こそ来るものの、機体自体にダメージは出ない。損傷ゲージが空になって自動でジョイントが切り離された際の爆発も、相手へのダメージに比べたらこっちのダメージは少ないだろ?」
そもそも、そのジョイントを切り離した部位に近付いて自ら爆発を浴びようとするプレイヤーは誰一人としていないわけだから、上手いこと巻き込んだりする必要があるけれど、この近接戦闘で鍔迫り合いからのミサイル発射は、一切、自分の機体にダメージが入らないのが厄介だ。
『それ、対人戦でも通用するものなの?』
「やる人はやるよ。でも、衝撃はそのまま来るし、爆発で視界はゼロになるからかなり追い詰められていないとやらない」
爆発の煙に呑まれたオルナのモニターからはキャッコピの姿が捉えられない。マップ画面から居場所を把握するが、後ろに回り込まれている。
「だから、君もこれぐらいは、黙ってやられるぐらいならって時に使うと良いかも。仕切り直し程度に使うなら、銃爪の万能性能に混乱もしないだろうし」
振り返り、キャッコピの爪による一撃をソードで弾く。鍔迫り合いには持ち込まない。持ち込んだらまた近距離で爆弾としてミサイルを使われる。
『でも、スズがダメージを受けるなんて思わなかった。スズでも油断する時があるんだ』
「油断っていうか、CPUに対して僕は人並みだからな」
相手がなにをして来るのかを直感的に把握できない。これがCPUじゃなくてプレイヤーだったなら、直前に嫌な予感がしてすぐに鍔迫り合いなんて終わらせて、機体を下がらせてそのあと、発射されたミサイルの対処を行っていた。感情的な操縦に強く、機械的な操縦に弱い。そのことは重々、承知していたけれどこの一発は完全に想定外だった。
『アンカー撃つね』
「頼む」
土煙を両手に握らせたソードを振り回すことで払い、視界が晴れたところでマップ画面を見て、キャッコピに背後を取られないように大回りながらも移動する。実弾の嵐がやや右手側後方からやって来るが、左右に機体を揺らして最小限のダメージで押さえつつ、翻ってエネルギーライフルで反撃する。
『御免、アンカー外した』
「りょーかい」
キャッコピがこれだけ動き回っているから、当てるのは至難の業だ。むしろ当たったらラッキー程度に思っていたし、ルーティのミスに対して強く責める理由も無い。
移動を中断し、オルナを着地させたあと、ブーストを掛けてキャッコピへと真正面から突っ込む。銃爪を構えている。銃撃か、それともミサイルか。僕なら距離を取ってから考えることをもうCPUは決断している。こういうところが厄介だ。やっぱり感情的な操縦じゃないから、全く分からない。
「でも、このまま突撃することも、僕としてはあり得ないから」
左に逸れた直後にミサイル八発が一気に射出された。銃撃だったなら、また小さく損傷ゲージを削られて行っていたが、回避を選んで正解だった。なにせミサイル八発なんて、直撃したら笑えないぐらい機体がボロボロになる。一瞬、パージの無敵時間も考えたけど、多分、失敗していただろうし。
「ルーティ、後ろ取れる?」
『真後ろはちょっと無理。右斜め後ろなら多分』
「ならそのままやりたいように」
『うん』
爪の全てをミサイルとして発射したってことは装填までに残っているのは両手の一本に残されたアンカーと、あと銃弾。ここはなんとしてでもキャッコピはオルナの進撃を止めたいはずだから、アンカーを撃つことは頭に入れておいた方が良い。このエネルギーライフルでの牽制も、割とキャッコピの移動を制限しているし、何発かは命中していることも含めて、無駄じゃない。
『せぇのっ!』
キャッコピの右斜め後ろからキューキャットが爪で襲い掛かる。反応して動いたがキャッコピはこの一撃を完全には避け切れず、右腕が大きく切り裂かれた。
「ナイス」
『アフターケアよろしく』
「次からは自分でなんとかしろよ」
後先考えずの突撃だったらしいので、オルナを急いでキャッコピに近付かせて、ソードで切り掛かって行く。どうにかこうにかキャッコピの二本の爪を凌ぎつつ、しかし何回かは切り裂かれながらも耐え切ったキューキャットが後退する。後退したので、キャッコピの注意が今度はオルナへと向き直る。
爪の装填が終わる。十本の爪と、絶え間ない近接攻撃を繰り返す。鍔迫り合いは一切しては行けない。剛剣とかち合ったら、ほぼ無条件で押し飛ばされるような感覚で戦って行く。ただこれも、キャッコピがソードをぶつける瞬間にミサイルを射出すれば全て無駄になってしまうので、ただの延命措置とも言える。実際、この近接攻撃のやり取りの中で、決定打は今のところ無い。僕が怯えているっていう部分は、一割弱あるかも知れない。
長く続けば続くほど、ミサイルの脅威に曝されている僕の方が疲弊する。CPUはそういう疲れが無いから、この場合、どうにかして近接攻撃を中断して、それでも追撃して来るだろうキャッコピを振り切らなきゃならない。
悩んでいる最中で、キャッコピの左脇腹にキューキャットのアンカーが刺さる。
『良い判断だったでしょ?』
「ルーティに助けられるなんて、明日は雨だ」
『雨だろうとなんだろうと感謝の言葉を示しなさい』
「ありがとうございます」
助かったことは事実だ。これで僕は安心して、オルナをキャッコピの近接攻撃の範囲から逃すことができる。それでもバックダッシュで慎重に距離を開け、いつ放たれるか分からないミサイルや銃撃に備える。
キューキャットがアンカーに繋がっている鎖を巻き取り始め、それに抗っているキャッコピがバランスを崩した。が、同時に四発のミサイルが直線上に立っているキューキャットに向かう。
「アンカーを外せ!」
『それは、こっちが不利になるから嫌だ』
キューキャットが四発のミサイルを真正面から受け、その爆発に呑まれた。残り四発はオルナに目掛けて射出されるが、これはステップダッシュでかわして、次に来た銃撃を避けるためにブーストを掛けて再び大回りに移動する。
「ルーティ?」
『まだアンカーは切れてないから!』
土煙を振り払ったキューキャットの右手の銃爪から伸びる鎖が再び、アンカーを巻き上げ始める。
「左手、盾にしたのか?」
『悪い?』
「いや、素直に驚いている」
『相手が虚を突くことをやったんなら、私だってスズの虚を突くことやりたいし』
「なにその無駄な張り合い」
銃爪の左手を盾にすることで、ダメージを減衰――それでも左手の銃爪は壊れているし、左腕の装甲もボロボロになっている。だけど、右手の銃爪のアンカーは未だ健在だ。だからキャッコピはまだバランスを崩して、その体勢を戻せずにいる。
「浮いた瞬間にそのままアンカーの付いている右手でぶん殴れ。合わせる」
『分かった』
オルナとキューキャット、そのどちらを狙うかを頭部パーツが動いてなにやら悩んでいるようだったが、キャッコピは目に見えてダメージを受けているキューキャットを先に狙うことにしたらしく、アンカーの巻き上げに合わせて、足を地面から離してブーストを掛けた。直後、オルナにブーストを掛けさせてその後ろを追い掛ける。
銃撃を受けつつも、キューキャットは向かって来たキャッコピに対して、アンカーの巻き上げを続けながら右手を大きく後ろに引いて、前方へと突き出す。五本の爪全てがキャッコピの胸部を貫いた。
その数秒後に、追い付いたオルナに二本のソードを持たせ、背後から両方とも貫かせる。そして捻り、左右に切り裂いた。キャッコピから駆動音がしなくなり、そのままの姿勢で機能を停止した。
『ふぃ~』
「あんまり無茶なことは僕以外、しないで欲しいな」
『私たち、これでラストだし。でもスズは次がラストだから、あんまり無茶させちゃ駄目かなーって』
「……ありがとう」
『今の、いつものスズなら感謝してないよね?』
「うるさいなーもう。君たち、僕のことどれだけの卑劣漢だと思っていたんだよ」
『かなり』
「否定はしないけど、変わろうとして、頑張っているところは素直に受け入れて欲しい」
『そう……だね。うん、こうやって茶化すのは良くないよね。スズが変わって来てくれて、私もちょっと嬉しいから、こういうこと言っちゃうんだと思う』
気恥ずかしくなってしまい、次の言葉を探す。
「次でミスったら、全部やり直しなんだよな」
『ミスしないよね?』
雰囲気が一気に変わったことは良いことなんだけど、言葉の威圧感が凄い。
「まぁ、問題無いと思うよ……多分、きっと」
『これ二度目はキツいよ』
「分かっているから、頑張ります」
僕は努めて冷静に言い、コンソールの『完了』をタップする。
オルナが次に転送されたマップは焼け野原だ。ということは地上戦か、と思いつつモニターとマップ画面を確認すると、オルナのコピーは宙に浮いて静止している。
「もしかして、地・空戦、みたいな?」
ゼフォンと戦った際の、あの地上戦と空中戦も混ぜ合わせたマップってことかも知れない。これは勝率云々じゃなくて、ラストセクションだからこのマップなのか……? それとも、僕の勝率が半々だったからこれなのか、まだ情報としては曖昧だな。ここだけはミッション受注者の主観カメラでの動画じゃないと分からないことだったし、三種類の内からランダムで一つ選ばれるというシステムも十分にあり得る。
「CPUのオルナは、どう動くかな」
お手並み拝見と言った具合に、僕は息を強く吐いてから、カウントダウンの数字をジッと見つめる。
《見せて》《私に見せて》《“空間把握の化け物”さん》
突如として、反響した声が届く。通信ではあるが、声質からして、一人なのにどれもこれも被り気味に聴こえて来る。なにより、この台詞は一度、耳にしたことがあって強いデジャヴを感じてしまう。
「なん、だ……?」
《全てのえらーは》《全て一時的に》《しゃっとあうとしています》《でないと私が》《入る余地が》《ありませんでしたから》
再び全ての声が反響しながら、ほぼ同時に耳へと飛び込んで来る。これは軽く眩暈を覚えるレベルだ。情報量はそれほどでは無いが、強い反響の連続で頭が割れそうになる。
《厄介な》《ぷれいやー……!》
「また、入って来たのか……」
そして、僕の言葉に反応するかのように全ての反響と、被り続けていた声は途切れ、スッと言葉が紡ぎ出される。
《もう一度、御手合わせを。厄介なぷれいやー》




