メンタルケア
「はぁ~あ、どうしよ」
『なに、どうしたの?』
どうやら僕は気持ち的にルーティに溜め息を届けたいと思ってしまっていたらしい。
「にゃおに特訓していることがバレた」
『あー、ティアに?』
「そう……あれ? ルーティに話したっけ?」
『現実で特訓してもらっているって教えてくれたけど』
「あいつはなんでルーティには全部、話すんだ」
『おかげさまで、スズの素行については全て私の耳に入るのです』
「……まぁ、朝早くから電車乗って、遠くの中学校通って、妹と仲良くしてくれているから、僕のことが筒抜けってことに文句を言うつもりは無いけどさ……」
むしろバイトの復帰について手助けをしてくれるらしいから、なにされたってしばらくは怒れない。えーっと、確か来週だったな。謝る内容と話すことと、ちゃんと纏めておかないと。
『ま、にゃおは私には言っても大丈夫って思ったんじゃない?』
「それは僕の特訓を君は受けたくないということ?」
『そうじゃないけど、ってか私も受けたらって言われたし、出来ることなら特訓してもらいたいところだけど、あれこれ自分の好きな戦い方を研究している中で、外からああしたらこうしたらって言われたら、気付いたらテンプレの戦闘スタイルになっちゃうから、まだもうちょっと模索したいかなーって』
なんだ、僕が思っていたよりルーティも上を目指す気満々じゃん。
「その時が来たら言ってよ。アドバイスは出来るから」
『深すぎる知識でね』
「深すぎるはよけい」
『そうかなー。浅く広くじゃなくて深くて広いからなー、スズのゲーム知識は』
「ゲーム限定みたいな言い方だな」
『ゲームと、一部知識への造詣が深いって言い直そうか?』
「あーはいはい、分かった。この話は不毛過ぎるから終わり」
『じゃぁ他になに話す?』
「君、自分の機体のコピーをぶん殴れる?」
『……実はちょっと抵抗がある』
やっぱりなー、ティアと話している中でルーティはそうだと思った。機体に愛着が一番強くて、偽物があっても自分が乗っている物が本物だと自分自身が分かっているなら、それを見逃すみたいな心の広さがある。一見して騙されやすそうだけど、僕の八百回を超えた嘘を乗り越えて生きているので、僕の場合は数秒で見破り、他の人なら目を見ていればいずれ分かってしまうらしい。いやぁ、頑張って嘘八百並べ立て続けた甲斐があったなぁ……なんて冗談でも言った日には拳骨だけでは済まされないだろう。
『スズ、この次で一対一で戦うんでしょ? なら、遠くからの攻撃で時間を掛ければノーダメージだよ』
「変な気は遣わなくて良い。リグリスさん辺りで予定は狂っているし、それに無気力試合はスポーツではご法度だよ」
なんだろう。前と言っていることを変えて言ってしまったな。
『これはスポーツじゃないし』
そして、これも僕が思っていることなんだけど、ルーティに言われてしまった。
「どっちにしても、ルーティの機体の総合力を見たいから、僕はルーティに合わせるよ。それと、キューキャットのコピーが自分と違う戦い方をしているのなら、それも参考として取り入れることを考慮すること。CPUに出来て、プレイヤーに出来ないってことはないんだから」
『りょーかーい』
キューキャットのコピーだから、キャッコピで良いか。なんかキャッチコピーの略みたいになっているけど、そもそもキャッチコピーに略称なんてないから、頭の中で混乱することもない。
マップは勿論、地上。以前と比べて空中戦でもルーティは良い操縦が出来るようになっているけど、それでも地上戦の勝率の方が高い。
コピー機体と対峙して気を付けるべきは、銃爪。あれは万能武装だ。爪がミサイルとして撃てるし、実弾による銃撃も可能。そして近接武装にもなるし、手の甲で防いだなら盾としての判定として耐久力へのダメージも減らせる。ついでにアンカーも射出できる。それを両手に搭載しているんだから、全てを十全に使えるようになれば機体性能はアシスト特化型から、万能型にシフトする。
ただ、ほぼ万能に使えるということは器用貧乏にもなり得る。全ての攻撃距離を把握して、全てを適したタイミング、適した環境下で使えるのなら脅威になるけど、僕でもそんなのは不可能だ。だから、ルーティにはミサイルと盾として使うことは控えるように言っている。その二つを頭に入れなければ、近接武装と銃撃、そしてアンカーによるアシストの三つに操縦に集中できる。
逆にミサイルと盾は使い辛くなってしまうけど、遠距離攻撃は銃撃で賄えるし、盾としての性能もキューキャットの武装重量であれば、身軽で素早く動ける分、回避を詰めることでさほど重要ではなくなる。まぁ、タンクとして戦いたいとなるなら、防盾を使った方が手っ取り早いし。
一つ、困ったことがあるとすれば頭部パーツを獣型の猫から変えてくれないところかも知れない。なんか「可愛いから」って理由で使っていて、僕も索敵機能としては優秀だしと思って放置しているけど、索敵の頭部パーツは損傷ゲージが低めに設定されていて、場合によっては別の頭部パーツにも変えてもらいたいこともある。でも、それだと「“キューキャット”としての構想が崩れてしまうから嫌」らしい。キューキャットって、そもそも“キュートなキャット”から付けた名前らしいし……機体に可愛いとかあるんだろうか。
ティアは装甲度外視で綺麗とか美しさを追い求めているしなぁ……女の子の感性って分からない。逆にシャロンは実戦向き過ぎて、女の子らしくない。バイオに鍛えられ過ぎたせいだろう。それか純粋に、“速いのが好き”なのかも。
カウントダウンが終了し、モニターに映っていたキャッコピが動き出す。
『それじゃ、行こっか』
「はいはい」
『はいは一回!』
「今は注意しなくても良いだろ」
通信で気を取られるかと言われれば、こんなことはルーティと一緒に遊んでいると日常茶飯事なので、もはや集中力が途切れる云々を通り越して、逆に喋ってくれないと不安になるレベルまで来ている。それくらいルーティと話すのは楽しいし、遊んでいて一番気楽だ。それに、協力プレイとしてもタイミングを合わせるのもそんなに難しくない。ルーティがピンチなら素直にピンチだからヘルプに入れるし、僕が囲まれていたら素直にルーティが遠くから攻撃して注意を惹き付けてくれるのでオルナをその一瞬で暴れさせることも出来る。
お互いになにが出来て、なにが出来ないのか。どれくらいの速度で動けて、どれくらい距離が離れていると都合が悪いのか。そんなのはもう、体に染み付いている。
『来るよー』
「見えてるって」
キャッコピがミサイルを撃った。遠距離ならそれが正しい。だからエネルギーライフルで一つ、二つと撃ち落とす。でも五発全てを撃ち落とせるほどエイムには自信が無いので、残り三つは軌道から逸らして回避する。追尾型じゃないのがありがたい。
代わりに銃撃を数十発ほど貰ったけど、ミサイル一発のダメージに比べれば蚊に刺された程度なので、無視する。この間にキューキャットはキャッコピに同じく銃撃を浴びせられているし、それで向こうの注意を惹き付けてくれたおかげでオルナも前進させることができる。
難しくはない。だから気楽に戦える。やっぱり、最後にルーティを選んで正解だった。メンタルケアという部分でも、非常に助かるから。




