ただ純粋に強さを見せ付ける
戦闘開始と共にスラスターを噴かせ、更にブーストを掛けて大きく前に出る。ただ前に一心に向かう。
パーコピは一撃が怖い。長刀のクリティカル距離は把握していても、その距離を常に維持して連続で繰り出すことは人間技とは到底思えない。けれどCPUは人間では無いので、割と素直にこのクリティカル距離から攻撃モーションに移る。システムアシストが掛かった長刀から追尾をどう対処するかは人それぞれになるけれど、そのどれもが全て相手の力量次第になる。
相手が完全にこちらの隙を突いていたならば回避は困難であるし、弾く、或いは鍔迫り合いに持ち込むことだって長刀の特徴を知り尽くしているのならば、そこからの二撃目、三撃目で酷い目に遭わされることだってあり得る。ただこれらは全ての近接武装に言えることであるので、ならばなにを注意するんだと訊かれれば、ダメージの大きすぎるクリティカル距離による一撃をなんとしてでも阻止することに限られる。
力量の伴っていない人が相手ならば、大して気を付けることは考えない。けれど力量が伴っているならば、注意する。今回はその中間だろうか。ティアのクリティカル距離を見極められる“視覚”が無いのなら、CPUも連続でそんな驚異のダメージを叩き出せばしないだろう。ティアほどの力量を持ったCPUと戦わされるなんて、それこそ罰ゲーム並みの嫌らしさになるが、今現在であるならばやれと言われればやれる。
理由は簡単。まだティアは僕には届いていないから。泥沼の戦いにもならない。陰湿にネチッこく攻めて、それで終わる。終わらせられる。
「だから、CPU相手に近付くのなんて、怖くもなんとも無いんだよ」
エネルギーライフルを構えている。機体を右に滑らせる。銃口がそれに合わせて逸らされた。未来予知というか、先読みというCPUに与えられたこちらの機体への操縦情報からの調整だ。射撃の瞬間にブーストを解き、両足を地面に接触させてビームの角度を読み取り、機体の体勢をバーニアの制御でやや無茶な姿勢に変えることで強引に避け、続いてブーストを掛け直し、崩れたバランスのままパーコピに突撃する。完全に体勢を立て直すということは出来なかったが、パーコピが長刀を抜いたところを見逃さず、そしてその攻撃を凌ぐためにオルナを体当たりさせて、互いに地面へと崩れ落ちる。ここからの体勢の立て直しをマクロに任せ、オルナの右腕がどうやらマクロでの操縦中においてもフリーであったのでエネルギーライフルを抜いて近距離で二発ほどパーコピにビームを浴びせる。
パーコピはこの二発のダメージなど気にせず、むしろ一切の攻撃を切ることで、オルナより先に立ち上がることに専念し、上体を起こしたオルナを見下ろす形でパーコピは姿勢を完全に回復させていた。
それでも、なんにも怖くない。
構えられた長刀だが、握っている右腕目掛けてビームを放ち、斬撃の軌跡を逸らす。オルナを断ち切るはずの斬撃がギリギリで逸れ、切っ先が地面に喰い込んだ。そこでオルナを一気に立ち上がらせ、ソードを抜いて攻撃モーションに移る。しかし、僅かにそこまでの動作が遅かった。切っ先を地面から抜いたところでパーコピが逆袈裟斬りを仕掛けて来た。だからソードはパーコピではなく真下から真上に振り上げられた長刀と激突し、結果的に鍔迫り合いへと移行する。
「CPUと駆け引きなんてしたくないんだよな」
何度かの弾き、弾かれ、そしてまた鍔迫り合いを繰り返したが、いつまでもこんなことはやっていられないので力強く弾いたところでエネルギーランチャーを起こす。パーコピは隙を見つけたとばかりに飛び掛かって来たが、それを合間に割って入ったパールが阻止する。そしてパールの陰から機体を出して、エネルギーライフルよりもはるかに強力なビームを撃ち放つ。パールと鍔迫り合いをして、更には釘付けにされてしまっているパーコピにこれが直撃する。
けれど、ビームの角度が良くなかった。右肩を狙っていたが、右腕になってしまった。パーコピがジョイントを切り離したので、やりたいことは達成されたが少しモヤッとする。でも、これで両腕で長刀は握れなくなった。片腕だけでもかなりの高ダメージを叩き出すが、刀は本来、両手で扱う。二刀流というスタイルも存在するにはするし、永山さんはまさにそれを採用していたわけだけど、長刀でそれをやろうとはしていなかった。要するに、デメリットの方が大きい。
『私を無視してない?』
「来るのが分かってなけりゃ、あそこでランチャーの充電なんてしない」
『って言うか、接近が速過ぎ』
「君が遅過ぎ」
パールがパーコピと二度、三度と鍔迫り合いを再び繰り広げているが、一々、決着がつくのを待ってはいられないので後背部から鎗を引き抜き、文字通りパーコピの横を取って、横槍を入れる。
二機による攻撃全てを捌き切れないため、パーコピはこれを避ける。
「刺突だけじゃない」
パーコピを貫くはずだった鎗は空を貫いているが、そのままパーコピが逃げた方へと薙ぐ。穂先の刃が逃げるパーコピの装甲を捉え、引っ掛かったので、力任せにそのまま鎗を払い切り、地面に強く叩き付け、機体は大きく跳ねながら地面を転がって行く。
『血も涙も無いわね』
「だってティアじゃないし」
『それでも、自分の乗っているコピーがここまでボコボコにされているのを見るの、ちょっと嫌だわ』
「メンタルを抉って来るのは分かるけど、そういう仕様だから」
『機体に愛着があるほど、攻撃できなくなることを仕様とは言わない。まぁ、私は違うけど』
パールが起き上がろうとするパーコピに追撃に行ったので、オルナもそれに続かせる。
「そういや、みんな愛着がある割に素直にコピーを殴っていたけど、あれって我慢してやっていたのかな」
『と言うより、人が一生懸命に組み立てた機体をそう簡単にコピられて憤っているんだと思うわ。みんな、そういう感じじゃない?』
ルーティは含まないで欲しいけど、ティアの言葉で納得してしまう。自分が一から考えて、遠距離用の武装はこれが良いんじゃないか、装甲の損傷ゲージとか、耐久力、重量と様々なことを頭で考えながら、とにかく自分の目指す形へと機体を作って行っているのに、それを容易く目の前に「はいこれ、敵ね」と配置されたら、なんか腹が立つのは分かる。こっちは散々、悩んでこの武装でこの戦闘スタイルで、と見つけて行ったのに敵として出て来るのはそういった一切の悩みも無いコピーなのだ。そんなものは、偽物だと断言したいがためにぶち壊したくなる。
特にティアはその意志が強いだろう。一度、パッチペッカーの思惑で自分の機体を模倣されたことがあるだけでなく、自分自身すら偽者扱いにされてしまったことがあるのだ。だから、徹底的に叩き潰すという感情がそのままパールの動きに出ていて、流れるように放たれる一閃は起き上がったパーコピの頭部を綺麗に切り落としている。
後方からビームを撃って援護しつつ接近し、長刀を振り上げた直後に長鎗でパーコピの腹部を刺し、次に捻りながら穿ち、そして一気に引き抜く。
パーコピは機能を停止し、その場で煙と火花を散らしながら瓦解して行った。
「しゅーりょー」
赤く腫れ、青く変色していた筋を指でなぞったところから肌色へと戻って行く。
『……あのさぁ、その三連撃ってどうやっているの?』
「一撃目のダメージ判定のあとにある無敵時間が終わった直後に、二撃目を入れているだけ」
『いや、それが分かんないから訊いているのよ。私だって立て続けに攻撃を入れることはできるけど、そんな一連の動作では無理よ』
「ゼフォンのコアには連続で斬り続けていたじゃん」
『でも無駄があったはずよ。ディレイとウェイトを出来る限り殺しても、その三連撃の速度には及ばない。刺して、貫いて、引き抜くって動作で三つのダメージ判定があるなんて……いえ、大抵は一撃目を受けたところで逃げようとするから二撃目には移れないはずだから、鎗自体が壊れ性能ってわけでも無いか』
「速く決めたい時くらいだけど、焦って返り討ちもあるから。普段はソードだし」
大樹さんには通用しないから、有名プレイヤーのほとんどには通用しないと思う。ただ、リョウじゃなくスズが三連撃を繰り出すっていう意外性で、一回は成功するかも知れないけれど。
『なんにしたって……強すぎる』
「そうだよ。だからもっと褒めて、敬って欲しいね」
『それはさすがに無い』
ティアがそういう態度を取ったら逆に僕が怯えるから、冗談で言ったんだけど、ちょっとだけ落ち込んでいる僕はしっかり躾けられてしまったんだろうか。女性陣が、僕の考えた雇用する側の態度を取っていない。むしろ、犬や猫の飼い主みたいになっている。普段から犬だとか猫だとか言われ続けて来ているけど、今ほど自分が調教されているのではと疑ったことはない。
『でも、まだまだ遠いのは分かった。スタートダッシュには追い付けなかったし、私だったらコピーを逃がして立て直すところを、スズは鎗で追い討ちを掛けて無理やり逃がさなかったし……瞬間の判断と、逃がさないと決めたらとことんまで攻めるその技術も、私には足りない。すっごく良い勉強になったわ』
「だからって今後、僕に対人戦を申し込みには来ないでね。ただでさえ、にゃおの特訓で大変なんだから」
『にゃおの特訓? 聞いていないわね、そんなこと』
言ってませんでしたからね、そんなこと。
「言わなくても良いかなーって」
『そんなズルいこと、にゃおはオッケーでどうして私は駄目なわけ?』
「うーんと、えーと、えーと」
『……この話は、ミッションが終わってからにするわ。ルーティが待っているだろうし……でも、絶対に納得する説明をしてもらうから』
むしろ後回しにされる方が、怖い。どうしよ、言い訳を考えながらミッションを完了しなきゃ行けないの、僕?
「墓穴を掘ったのは僕だしなぁ……ああ、嫌だな、怖いな、話したくないな、着拒しようかな、メールも迷惑メール設定にして、あとアプリでの連絡も既読スルーしようかな、でも、それをやったあとにティアが部屋に乗り込んで来たら……死ぬな、僕。それなら、やっぱり話さなきゃ駄目か」
項垂れつつ、僕は『ルーティ』を選択し、『決定』をタップした。




