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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
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強さに限界は無いのなら

『やっぱテメェとやるとさっさと終わるな』

「僕も何故だかバイオさんとやるとさっさと終わるんですよね」

『気が合うってか?』

「ははは、気持ちの悪いことを言わないで下さい」

『ああ、反吐が出そうだな』

 いつも通りのやり取りをこなしたのち、コクピットシートの背もたれに大きくもたれ掛かり、僕はフゥと息を漏らす。疲れる……ミッション受注者にこのシステムはストレスや疲労が蓄積され過ぎだ。


 あとのアップデートやサーバーメンテナンスで絶対に修正される案件だろうなと思いつつ、『ティア』を選択し、『決定』をタップする。


 転送された先は焼け野原なので、地上戦だ。ティアはどっちでも対応できるから、勝率的に半分半分だったんだろうけど地上戦の方がちょっとだけ勝率が高かったのかな。

『遅いわ』

「言われると思いました」

『私との個人通信でネカマは演じなくて良いから』

「みんな戦闘中の味方には合同通信をしないっていうよく分からない気遣いをしているから、別に良いけど」

『で、機体の状態はどんな感じ?』

「80%程度ってところ。とは言え、最終的には最終セクションでは70%辺りで落ち着くと思う」

『そんなどんぶり勘定でどうにかなるものなのかしら?』

「どうにかしろって言うのが、このミッションの内容みたいだし、文句を言ったところで始まらない。グザファン――ええと、パールコピーだからパーピーで良いか」

『なにその鳥人間みたいな略称。せめてパーコピにしなさいよ。ハーピーって名付けている機体と今後、出会うかも知れないじゃない。その時に一々、このミッションを思い出しかねないからやめて』

 まさかのお許しが出ないパターンだった。でも、アンブッシュコピーの略称も許されないだろうなって思って黙っていたんだけど、ティアは許してくれるかなって気を抜いたのが良くなかったかな。略称云々で喧嘩するほど仲が悪いわけじゃないから、テキトーに流すけど。

「じゃぁパーコピで」

『オーケー。で、パールのコピーへの対策は考えてあるの?』

「ティアに任せて、僕は後ろでゆっくりしておこうかなって」

『殴れるんなら殴っているところよ』

「だってティア強いじゃん。僕が放置プレイしていても勝てそうじゃん。スポーツじゃ無気力試合はご法度だけど、これスポーツじゃないし」

 なんか同じようなことをバイオにも言ったような気がするな

『その私が強かったら自分はなんにもしなくて良いって感じが、物凄く腹が立つ』

「なんで冗談を真に受けるの」

『冗談に聞こえなかったからでしょうが!』

 腹が立つと言われるまでは、若干、一ミリほど、僅かに、放置プレイで行こうかと思ったことは絶対に口にはしないでおこう。


 まぁ、それが許されたら許されたで僕はきっと戸惑っていたはずだから、これはこれで良いんだけど……無駄に空気を悪くさせた点は、僕の悪癖が出てしまったなと。


「ゲームだけど全力でやるよ。手は抜かない」

 大樹さんにもそう宣言してしまっているし、今更、否定はしない。

『でも、昔のスズらしい強さはここ最近、成りを潜めているみたいだけど?』

「それは、君や他のみんなの操縦スキルを上げるために、僕が抑えているから。抑えることと手を抜くことは似ているようで違うんだ。前者は、周囲の強さに合わせることで相乗効果を求めることに注力し、後者は自分の強さに胡坐を掻いて、テキトーなことをして負けても良いやって思う。要するに、一人強い人が居ると、みんなその人に期待する。期待して、自分の突破力や向上心を停滞させる。『あいつがどうにかしてくれる』みたいに勝手に決め付ける。嫌だよ、僕は……そういう、なんか『あいつは勝つ』とか『あいつは強いから負けない』って決め付けられるの。だから、協力プレイがミッションの醍醐味だって言うなら、みんなに合わせて力加減は調節する。そうすれば、みんなが段階的に強くなってくれる。ついでにチームとして纏まる。メンバーの力量も分かる。で、ここ一番で、どうにかしないとマズいって時は、抑えずに勝ちを取りに行く。ゼフォンを倒す時も、そうしたんだ」

 ゼフォンはちょっと、チームとしては纏まっていたけれどあと一歩が届かない感じだった。チーム力が無いわけではないけれど、やはりチームバランスの悪さが目立った。だから、ゼフォンの左腕の破壊には抑えず、全力を出した。負けたくないなら、抑えたままじゃ駄目だと思ったから。

『……部活でもそうよね。一人、強い人が居たら、なんとなくその人が勝つことに期待する。全体のチームプレイが雑になる。サッカーなら、その人に点を入れて貰おうとパスを回すし、バスケットでもそうだし、野球でも四番のバッターに期待する。でも、それは弱い人たちの中に強い人が一人、混じっていた場合かしら。強い人ばかりなら、強い人になろうとする人たちで固まっていたなら、そのトップをいかにして自分たちで自由に動かせるかを考える。そうして、駆け引きの中で、ここ一番って時に、任せるのよ。そのトップに……確かに、私たち全員がまだスズの強さには至れていない。だから、スズが抑えるって言う意味も分かった。でも、いつまでもそうじゃないから』

 体中が最後の一言に痺れる。

『絶対に、あなたと同じところまで上がる。私はそう決めている。必ず、必ずよ』


 凄く、良い。リグリスの秘めている力には落ち込んでいたクセに、ティアの宣言には心が躍る。どちらも真剣にやっていることには変わらない。けれど、リグリスには渇望が足りなかった。

 強くなることを強く求め、渇望し、そして着実に力を付けているだけでなく、必ず上がると言い切るティアの言葉には、説得力がある。そうなる未来を、求めてやまない。

 肌がピリピリする。鳥肌が立っている。なにより、胸が高鳴る。


 僕は今、新しい強者を見つけた。


「じゃ、その時を待っているよ。でも僕も、同じところにずっとは居られないから……僕が上がる速度よりも君はもっと速く上がらなきゃ行けないけど?」

『やってやるわよ、それくらい。遊べる時間が少なくたって、要は密度の問題だもの。一時間を有意義に使い切るか、不毛なことだけで終わらせるか。濃い時間と薄い時間。その二択で常に前者を選び続ければ、私は追い付くわ、絶対に』

 その強い意志に血が騒ぐ。


 いつか、ティアと戦ってみたいな。全身全霊の、全力の、高みに至った最強の、彼女と。


 そして思う。大樹さんはこの感覚がたまらなくて、常に全力を尽くすのだと。さすがに僕では、あの人の境地には立てないけれど、共感は出来た。ただ、やっぱり特殊な性癖であることには違いないので、そこかしこに喧嘩を売るスタイルの大樹さんを目指すのはやめよう。


「さて、と。それじゃ、互いに血が騒いでいるところで、始めようか」

『ええ。付いて行ってみせるから』

「付いて来るだけじゃ足りない」

『なら、追い抜いてやる』


 疼く。ジンジンと疼く。

 僕は両手の指を立てて、鼻筋の頂点から目頭に、そして目尻へと抉るように引っ掻く。爪が付けた痕は赤く腫れ、徐々に青へと変色する。


「ちょっと強く出ようか、オルナ。僕はそんな低いところに立っているんじゃないって、ティアに見せ付けたいから」


 ここと、あとは最終セクション。その二つでは一切合切を無視する。それくらいのワガママなら、許してくれるだろ。もしかしたら、ルーティに怒られるかも知れないけど、要は踏み外さなければ良いだけの話だ。

 もう僕は、踏み外さない。その時に受けた心の痛み、そして周囲に与えた苦しみを理解したから。

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