理想像にどれだけ近付けるのか
アンブッシュコピー――アンコピは正直なところ、さほど怖い相手では無い。そりゃ嫌がらせ武装満載なので、中距離で一対一で戦えばそりゃもう翻弄さるし、奇襲だって警戒しなければならない。でも、『セカンドストーンヘンジ』と違ってこの空中マップには明確な障害物が存在せず、なにより視界削減のマップ効果が無い。つまり、アンコピはどこにも隠れられないし、どこから攻撃を仕掛けて来ても対応できてしまう。このマップでは奇襲という奇襲が不可能だ。多脚型のメリットである障害物に張り付くといったことも、このマップでは不可能なので、ただただアンコピの武装は僕からしてみれば、デメリットばかりが目立つ。
乗っているのもバイオじゃないし。“愚者”だった頃のバイオはアラート音より前に攻撃を入れて来るという潜伏攻撃が厄介だったけど、CPUにそんな機能は備わっていない。たとえ僕の“直感”がCPUに対して鈍っても、アシストに重きを置いた機体を前にしてオルナがやられるというイメージが湧かない。
……そういや、ヴァルコピーには“直感”が働いたな。でもあれは、“空間把握の化け物”による情報だったのかも知れない。宙返りしようとするヴァルコピーの距離と、姿勢制御から把握したんだ。それを僕は“直感”だと思った……それとも、ゲームに左右されない、現実で生きて来た時点で培って来た“直感”はたとえ鈍るのだとしてもCPUにすら通用する瞬間があるとでも言うんだろうか。
「僕って、チート使いみたいなレッテルを貼られていないか心配だな」
パージの無敵時間で防御したり、あり得ないタイミングで攻撃を避けたり、剛鎗を投げる方向を先読みして外さないようにしたり……GMに目を付けられていたら、どう弁明したら良いか分かったもんじゃない。
それを言うならグッド・ラックのあり得ない距離からの射撃もどうなのかって思うけどね。あいつ――あの人はナンパさえなければスペック高いんだよ。曲げる位置やらなんやら全て把握して、障害物や遮蔽物から敵機体をあぶり出す。しかも精確無比と来ている。あれもあれでチート使いみたいに思われてそうだよ。
「アンブッシュってなにを搭載してます?」
『索敵、シュートネット、ナイフ、エネルギーランチャー、エネルギーライフル、煙幕、ジャマーとあとは多脚からのアンカーはCOMランクが上がったあとに備えたな』
「嫌がらせだけは完璧じゃないですか」
『うるせぇ』
言った傍からマップ画面がジャミングされて、ノイズしか走らなくなっているし。
「ランチャーとライフルがあるなら、アンブッシュコピーが視界に入ったら、直線は避けつつ逸れながら近付いて、ってところでしょうか。ナイフとアンカーが気になるところですが、状況によりけりですね。煙幕を張られて逃げられてしまったら、深追いするより相手からの遠距離攻撃に気を付けて、右か左に大きく逸れて退避して仕切り直しましょう。シュートネットが怖いですし……まぁでも、上手く一発でもシュートネットを浴びせることが出来たなら、あとは作業です」
『まぁ俺もシュートネットみたいな束縛系の武装に捕まったら、あとはどうしようもねぇだろうなとは思うことは度々ある。アシスト型やジャマー型は、見つかったら戦うより逃げなきゃならねぇから、その足を取られたら、あとはまともに戦ってもジリ貧だからな』
「意外と自分の機体の分析は出来ているんですね。それで、なにかKnightに乗ることになった時、どう対策するかは考えているんですか?」
『俺も馬鹿じゃねぇからな。ある程度は機体の理想像は描いている。問題は、その理想に俺が乗った時、まともになるかどうかってところだが、そんなもんはこれを終わらせたからジックリ考えて、Knight手に入れて、時間がある時に試せば良いだけの話だ。詰まる所、さっさと終わらせんぞ』
理想した機体に自分が乗った時、どれだけその理想へ近付けるか。バイオには、癪ではあるがその言葉から考えさせられることが多々ある。年上嫌いの僕でも思うところがあるのだから、大人ってのはきっと子供には分からない、或いは子供に伝えるべき様々な教訓を背負い込み、無意識に口に出して諭す人を差すんだろう。
「でも、まだまだ子供が良いな、僕は」
呟きつつ、アンコピにオルナを突撃させる。エネルギーライフルの構えを見て、機体を逸らし、エネルギーランチャーを起こしているのを見て、事前に高度を落として撃たれた直後に再び逸れるように動いて対処する。これで距離はほとんど詰まった。次にエネルギーライフルで牽制を掛け、僅かにアンコピが姿勢を保ちつつ動いたところを見逃さず、ブーストを更に展開させてオルナを回り込ませる。
後方を取られたことを感知したアンコピが肩から煙幕を放出する。マップ画面はジャミングで使い物にならないし、これで視界も封じられた。
「でも、これはやられたことがあるんだよ」
この視界ゼロの中でやられたことは、シュートネットかナイフによる突貫。少なくとも、バイオは逃げなかった。その行動理念からこのCPUが一時的に改良を加えられているのならば、ここで逃げるという手は取らない。遠距離からチマチマとビームを撃って来るようなまどろっこしいこともして来ない。
シュートネットか、ナイフ。その二択。
けれど、この二択については“直感”が働かない。やはり、あの時、ヴァルコピーの動きを読み取れたのは視覚から“空間把握の化け物”が作用したのだろう。視覚情報が皆無な中では、どちらにせよ両方とも頼りにはならない。そもそも、こんな感覚を頼りに操縦をし続けたいとも思ってはいないけど。
「見えます?」
『見えてんよ。突っ込んで来るぞ』
だから外部からの情報に頼る。突っ込んでいるのなら、シュートネットは無い。ナイフを握っての突撃だ。
「あとは、アラートに頼る」
バイオとの戦いではアラートは使い物にならなかったけれど、アンコピとの戦闘でさすがにそれは無いはずだ。だからこそ、鼓膜を揺らしたアラート音に即座に反応して機体を動かし、煙幕へと飛び込んで来たアンコピを至近距離でモニターに収め、抜いていたソードでナイフによる一撃を防ぐ。しばし、激しい剣戟を繰り返し、鍔迫り合いの最中でアンコピがシュートネットを構えた。
『そいつはさせるわけには行かねぇなぁ!』
構えた直後にアンブッシュが煙幕内へと飛び込んで来て、アンコピのシュートネットごと右腕をナイフで刺し貫く。これに合わせて、オルナと鍔迫り合いをしていた左手の動作に誤差が生じた。その一瞬を見逃さずに、アンコピを袈裟に切り裂く。
「装甲の上からだと、まだ足りないですね」
『そりゃそうだ。そう簡単にヴァルフレアとクーシーのコピーが撃墜できたか?』
一撃で落とせるほど耐久力を下げているわけもない、か。ともかく煙幕内から逃げようとするアンコピにオルナで体当たりをさせて、阻止する。
『離れろ』
「はい」
オルナを引き剥がそうとアンコピが激しく空中で機体を回転させるが、その振り払いに合わせてオルナを離脱させる。直後、電磁の網がアンコピを包み込み、逃走を阻害する。
「まだやるんですか?」
『一回、追い詰めたら温情なんて掛けてやるかよ』
「バイオさん、素が出てる素が出てる」
注意しつつ、アンブッシュがどうあってもアンコピをここで離脱させたくないらしく、シュートネットを乱射してひたすら、移動の阻害を掛けている。あれ、やられた方はたまったものじゃないからな。タイミング良く抜け出すか、避けるかしないとずっとループ状態だ。でも、アンブッシュもアンブッシュでループネットの装填時間と合わせると、ずっとシュートネットしか使えないわけで、シュートネット自体にはそもそもの攻撃力が備わっていないから、ただ捕まえているだけじゃいつまでも勝負がつかないため、そこに僕が介入する。
アンブッシュのシュートネットの効果が切れたタイミングでアンコピのスラスターに剣戟を浴びせ、続いて翻ってナイフで応戦しようとするアンコピの旋回に合わせて、こちらはその裏を取るように飛行する。前を向いている敵機体に回り込む戦法は良くやって来たが、後ろを向こうとしている敵機体の後ろを取るために回り込むことは今までやったことが無かったけれど、どうやら上手く行ったらしい。
スラスターに更に剣戟を加え、もう一撃と言ったところでアンコピの多脚から鋭いアンカーショットが射出され、オルナの右足の装甲を貫き、耐久力が削られる。そしてアンカーを巻き取る際の抵抗で更に装甲の損傷ゲージが減って行き、耐久力も微減してしまった。
ちょっとずつ耐久力と装甲が削られて行っているな……回復と合わせても、割に合わないか。
そう思いつつもオルナにソードを収納させて、両手でアンカーから伸びている鎖を掴み、巻き取りに対してこちらは力強く引っ張る。アンコピのバランスが崩れた。そして引き寄せたことで、アンコピは完全にオルナとの攻撃に備えるためにナイフを抜いた。
アンブッシュがその後ろでナイフを引き抜き、アンコピの後背部にナイフを突き刺し、抉るかのように手首を捻り、そして力強く左へと流し切る。
煙幕が晴れたところで、プスプスとアンコピがあちこちから煙を噴き出しながら――特にアンブッシュの最後の一撃で負った大きな損壊の跡から大量に噴き出しつつ、機能を停止させて地上へと落ちて行く。




