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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
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向上心は大事

 カウントがゼロとなると、当然のことながら僕は急いでオルナをクーピーから遠ざける。ハッキリ言って、近接戦闘に持ち込む理由は無い。近接特化型とやり合って、良いことなんてなにも無いからだ。むしろ、ここではクーシーに近接を任せて、遠距離から僕が援護する。それで安全に物事が進む。

『スズさん、避けて下さい』

「え?」

 一瞬、リグリスがなにを言っているのか分からず、戸惑ったがクーピーをモニターで拡大してすぐさま理解する。近接格闘術の体勢は取っていない。さっきまで殴って来る気満々だったクーピーは、あろうことか“狙撃銃”を構えている。


「なんでスナイパーライフル持たせているんですか!! それも距離減衰の無いビーム武装!」


 間一髪、かわしたところで僕はリグリスに抗議する。かなり油断していたので、今のはリグリスに言われなければ間違いなく射抜かれていたのだからここは感謝するところなのだろうけど、予想外の武装を持ち込んで来たことにはキッチリと文句を言わなきゃならないだろう。

『テトラと戦って、思ったんですよ。遠距離での手数が足りないと』

「クーシーは近接特化なんですから、それを突き詰めて行ってしまえば良いでしょ!」

『それだと、遠くに逃げられた際に対処できません。それをこの前のミッションで反省したんです。なので、今回はミスが出来ないミッションということで、持ち込みました』


 向上心はあっても、事前に言っておいてくれていないその精神に、思わず胸倉を掴んで殴ってしまいたくなるような、そんな衝動に駆られた。今、ミッション中だからなに一つとして出来ないけど!


 ただ、これは僕の安直さが招いた結果でもある。クーシーは結局、近接特化の武装しかして来ないだろうと思って、完璧に眼中に入れていなかった。どんな武装をして来たのかなんて考えもしなかった。どうせ持ち込んでも、近接戦闘で優位に立てるような武装だろうと、そう決め付けてしまっていた。


「リグリスさんって、狙撃、得意なんですか?」

『たまにネムネムに任されるぐらいには』

「好きか嫌いかで言うと?」

『嫌いです』

「じゃぁ、狙撃もあまり好きじゃないと」

『やれと言われればやれますけど、上手い人には狙撃ポイントを読まれて、逆に狙われます』


 僕と同じで好きか嫌いかで言うと嫌いで、やろうと思えばやれるけれど、狙撃を極めている人には敵わない、と。


 クーシーの機体性能は近接特化ではあるけど、パイロットであるリグリスがオールレンジ気味なんだな。だからスナイパーライフルを持ち込む際に、少しも迷いは無かったはずだ。なにせミッションは協力が主体。遠距離から攻撃しろと言われれば、即座に対応できるようにしておいたんだろう。そんな指示、クーシーと戦ったことのある僕は微塵も出すわけがないのに。


「あー、いやでも、これは僕がリグリスをコテンパンにしてしまった結果だ。あれで、遠距離対策を取ろうとしたから、こうなっているんだ」


 悪いことをしたら全部、自分に返って来る。人を呪わば穴二つとは言わないまでも、とんでもないことをしてくれたな、昔の僕。


 なんでとんでもないことをしてくれたな、と思うのは一目瞭然なことが起きている。スナイパーライフルで牽制したクーピーが、今まさに全速力で距離を詰めて、もうオルナのすぐそこまで迫っているのだ。踵を返してブーストダッシュをするという手もあるが、搭載している武装量の差でクーピーの方が、スラスター性能が同等であっても追い付かれてしまう。

「ああもう、分かりました。相手の狙撃に注意しつつ、近接で殴ります。もう隠していることはありませんね?」

『え、ああ』

「ありませんね!?」

『はい!』

 ブツブツと『ネムネムみたいにキレられたような』と言われたが、多分、ネムネム以上に僕はキレている。なんでって、完全に出し抜かれたからCPUが不安定な挙動を取ったオルナを先に標的としているからだ。このあと、バイオのところで休憩が挟めるとしても、耐久力は極力残しておきたいんだぞ。あと、装甲のゲージも幾らかは回復するけれど、壊されたら仮装甲で、当たったら一発で壊されるようなものに変えられてしまう。

 ヴァルコピーはヴァルフレアの空中機雷とレインボムでどうにかなった。けれど、クーピーとはガチの殴り合いだ。オルナはソードを振り回すわけだからリーチにおいて絶対的な有利は揺らがないけど、クーピーのここまでの洗練された動きと、更には懐に躊躇いなく飛び込んでクリンチにでも持ち込んで、押し倒して来るのではないかというプレッシャーすら受ける。


 動きが馬鹿げている。ナックルダスターを握り込んでいるクーピーは、まさに格闘家そのものの重心の移動、そして左右への揺らぎも交えて、ソードを振り切ったところで不意の一撃が飛んで来て、その度にオルナを無理やり動かしてかわすため、一瞬でも集中が切れたら攻撃が連続的に、そして止まらず叩き込まれることが目に見えている。


『よく避けられますよね、それ』

「見ていないでさっさと横槍を入れて下さい!」

『決闘は基本、見守る主義なんで』

 世の中には決闘罪があるんだよなぁ。

「あんたマジで言ってんだったら、全部、ネムネムさんに言い付けますから!」

『なんか、荒っぽくなってません? あ、いえ、すみません。ネムネムに言い付けるのは勘弁して下さい』

 前半、ほとんど素になり掛けていたがどうにか堪えて女の子声で、脅しに掛かる。と言うか、通信で脅さなきゃならないくらい余裕が無い。余裕を作ってくれなきゃ、更に口調が荒っぽくなるだろう。


 なんなんだよ、このクーシーのコピーは。クーピーなんて、どこかのマスコットキャラみたいな名前付けなきゃ良かった。名前の割にガチで掛かって来るから、頭の中でイメージが乖離して行って、更に混乱してしまう。ああもう、ホントなんなんだよ。なんでこんなにガチな懐への入り込み方して来るんだよ。こう密着されたらソードを振るのが難しいんだよ。だから嫌だったんだよ、こういう機体と戦うの!


「ヴァルコピーはまだ離れてくれるから良かったのに、こっちは離れないからな……離れようとしたら、スナイパーライフルで狙われるし、最悪じゃん」


 苦手度がヴァルフレアの上を行った。もうこの時点で、二度とリグリスと手合わせや戦闘なんてするもんかと心に誓いたくなってしまった。


「って、ヤバ」


 右に避けたら、重心を移動させたクーピーの揺らぎとピンポイントで重なってしまった。拳は既に攻撃モーションに移っている。ソードでどうこうできるほどの間合いも無い。これは一撃を貰う。

 そう覚悟をして、防御へと移ろうとしたところで、クーピーの振るう右腕の肘を、細い線のようなビームが貫いた。その一発でクーピーの右肘が破壊され、オルナに届く前に拳がダラリと下がり、続いてこれ以上の攻撃を危険と判断したらしいクーピーが逃げるようにオルナから距離を取った。


『横槍の入れ方、これで良かったですか?』

「……あれだけ動き回っていたのに、撃ち抜けたんですか?」

『ええ、まぁ、置きエイムをしていたので』


 置きエイム……エネルギー体やらエネルギーの移動先やらと、よく分からないことを言っているけれど、逆に考えれば置きエイムと物凄く相性が良い。シャロンと異なるのは先手は取れず、必ず後手になってしまうところだけど、エネルギーの移動先をなんとなく感じ取っただけで、しかも置きエイムで狙撃をやり遂げるなんて思いもしなかった。この技術は、僕でも真似出来ない。真似したくない。あと、またリグリスと戦いたくない理由が出来てしまった。この人との狙撃合戦だと僕は負ける。ついでに、遠距離での撃ち合いでも敵わないだろう。遠距離で負ける相手なんて、にゃおとミスター・ルールブックとグッド・ラックぐらいだろと思っていたのに、リグリスがスッと割り込んで来た。


「今後一切、私と対人戦するのはやめてもらえます?」

『え、なんでですか?』

 たまらなくウザい。クーシーの武装バランスが近接特化でスナイパーライフルはついでに用意しただけと極めて偏っているのに、プレイヤースキルで両立出来てしまっているという点がたまらなくウザい。僕もスナイパーライフルを担げば両立は可能だけど、この人ほど上手く出来ない。


「あーホント……どこにでも居るよな、こういう……自分は物凄く苦労して仕上げた技術を、なんか取って付けたみたいな感じで越えて行く人。エネルギー体を馬鹿にしていたら、エネルギー体に泣かされているのか、僕。マジか、マジか……ガチで霊感があって幽霊が見える皆さん、御免なさい。調子乗ってました、すみません。けれど、負けたくありません。勝ちたいんで、これからも頑張ります」


 荒んでよく分からなかったテンションを、自身の向上心に転換することでどうにか落ち着かせて、ヒートアップした脳内を冷却する。


 リグリスと今後も戦うかは措いて、まずはクーピーをボッコボコにするため、ここで攻勢に出る。

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