シャロンに遊ばれているような
『コアの破壊と同時に、ゼフォンは自然発火。その後、瓦解しつつあります。しかし、コアの破片を核として新たな『天骸』グザファンの存在を確認しました。炎の揺らめきより生じた機構師団の影をモチーフとし、こちらと同等、或いはそれ以上の機体となっているものと思われます。また、力場の乱れが激しく、空間の断裂も起きています。これらを突破できるのは機構師団を率いるリーダー――ミッション受注責任者となります。リーダーは味方機と合流し、その影であるグザファンを直ちに破壊して下さい』
「炎で作られた影……か。ゼフォンとグザファンは同一の堕天使を差すんだけど、それはコアの破片を核としているという理由で、上手く誤魔化しているというか、『天骸』としての異常な性能や力を表現しているのかな」
僕は自動的に開かれたコンソール画面に映し出されたチームメンバー一覧の中から、シャロンをタップし、続いて『決定』もタップする。
オルナごと僕は焼け野原と化したマップの上空へと転送されて、シャロンの乗るヴァルフレアを横に、そしてヴァルフレアのコピー機体を彼方に捉えつつ、スラスターやバーニアの調子を確かめ、ここまでの操縦で固くなってしまっていた両手をブラブラと揺らしてほぐし、改めて操縦桿を握る。
『やっぱり空中戦になった』
「地上戦と空中戦での戦績や機体の武装構成で判断しているんじゃないでしょうか」
バイオと勝率を荒稼ぎしていた時期があるのだから、そりゃ空中戦になる。こうなった場合、バイオも恐らく空中戦だ。ティアはどうだろう……リグリスとルーティは地上戦っぽいけど、ティアはどっちも勝率が高そうだけど。
って言うか、僕自身の戦績を見ていなかった。どっちだ? 地上と空中じゃ、ペダルの踏み方も操縦桿の引き方や押し方も全く違うから、こういうのは先に知っていた方が適応しやすいから、調べておくべきだったな。
『分かっているよな、テメェ? そこでくたばったらどうなるか』
「そういう脅し文句はもう聞き飽きたので、そろそろ新しい言葉を下さい」
なんにせよちっとも心には響かないので、このままバイオには脅し文句を増やして行って欲しい。新鮮味がそろそろ欲しいのだ。
『スズ? バイオを貶すなら、あとで許さないから』
あー、その脅し文句はちょっと新鮮で、バイオと違ってダメージがあるから、シャロンは増やさないで減らして行って欲しいなー。
「貶しているわけじゃないですよ」
『そう。なら、黙っておいてあげる』
「……なにを?」
心当たりが無い。むしろ心当たりがある方がヤバいのかも知れないが、これはかまを掛けられているのか、それとも事実を暴露されるかも知れないのか判然としないため、物凄く不安である。
『教えて上げない』
え、待って。待って待って。これから二人でヴァルフレアのコピー機体と戦うんだけど、なんで仲間のシャロンにこんな心理的な圧力を受けているんだ? ほんっとうに心当たりが無い。全く無い。
えーとえーと、なんだ? なにをやらかした? 旅行中になにかやったか? 好きな男性のタイプを訊いた気がするけど、それはティアやルーティにも訊いた。だから違う。
じゃぁあれか? お見舞いに来てくれた時に胸を触ったっていう、あれなのか? 他には、なんだ? 「友人になって下さい」って言ったこととかか?
いやいや待って。心当たりが全く無いと自分でドッシリ身構えていたクセに、一つ二つぐらいあるんですけど! なんで僕の頭ってこう都合の悪いことはなるべく思い出そうと努力しないと記憶の奥底に封印するようになっているんだよ!
『始まるよ?』
「いや、そのなんで私がこんな焦らなきゃ、っ!」
コピー機体――ヴァルフレアコピー……いや、それだと長ったらしいな。ヴァルコピーで良いか。口にする名称じゃなくて、僕が敵機体として判断するために用いる略称だし。
まぁともかく、シャロンのせいでヴァルコピーが僕のモニターから消えました。要するに視界から消えました。でも、さっきまではモニターで捉えていたから、マップ画面には光点として表示されているから、すぐさま臨戦態勢は整えられるけど、先手必勝作戦は完全に無に帰しました。しかもこの光点、速過ぎてマップ画面を見続けていたら目を回しそうなんだけど。
「追い付けています?」
『問題無く』
こっちは問題あるんだけど、それを言っていたらヴァルコピーに振り回されかねないから、気合いを入れないと。
取り敢えず、こっちから動くのは不利だ。まず追い付けない。追い付けるのがヴァルフレアだけなら、オルナは近付いて来る瞬間を待てば良い。ティアとシャロンが戦った時だって、ティアのカウンターが効果的だったはずだ。
全ての機体に言えることだけど、攻撃の瞬間が、一番の隙になる。ヴァルコピーはそれが特に顕著なはずだ。
「シャロンさんが追い立てて、僕が狩りに行きます」
『追い立てるもなにも、私には抑える手段が無いからそっちに向かっているけど』
ソードを抜いて、マップ画面の光点を眺め、タイミングを見計らって攻撃モーションに移る。先読みで振るう場合、システムアシストは掛からないので直後に眼前まで飛来して来たヴァルコピーの装甲にソードが掠る程度だった。寸前で回避行動を取られてしまった。シャロンより反応が良い。けど、シャロンよりは思い切りの良さが無い。
だから追撃に移れる。ソードは掠らせるだけだったが、機体を回転させてエネルギーライフルの照準を合わせないままに離脱するヴァルコピーの背中目掛けてビームを撃ち放つ。
「あー外したか」
ボヤきつつ、エネルギーライフルを収納して、両手にソードを持たせて身構えさせる。さすがに照準を合わせないで撃っても当たらないか。上手いこと逸れようとして逆に当たるみたいなオチがあるかなと思ったけど、CPUにそれを期待しちゃ駄目か。
「って言うか、追い付けない速度で戦うのやめて欲しいな」
ヴァルフレアとヴァルコピーがマップを縦横無尽に飛び回っている。特にヴァルフレアの挙動はCPUよりも圧倒的に無茶苦茶なので軌道がギザギザだったり、蛇行していたり、急に上昇や下降を繰り返しているので、ヴァルコピーに追い掛けられようと宙返りで後ろに付くぐらい平気でやってのけるだろうから、ここでオルナを加えてもあんまり呼吸が合いそうにない。
ただ、ショットガンの撃ち合いでは、距離を保ちながらだからそれほどヴァルコピーにダメージを与えられていない。それはつまり、ヴァルフレアもそれほど耐久力を奪われていないということに繋がるわけだけど、これだといつ終わるか分からないからどうにかしてヴァルコピーに一撃をお見舞いし、そしてそこからの連撃で仕留めたい。そうしないと逃げられる。
「確か、ヴァルフレアは速度にリソースを割いているから、耐久力は低めだったはず」
それでもパールと互角に渡り合うくらいには耐久力があるわけだから、攻撃を畳み掛けて一気に削り切ろうとすると、手痛い反撃を受けかねない。
これっていう戦法が見当たらないな。ついでに、僕がどう動いて良いのかも分からない。近付いて来たところで近接攻撃をする、というのは確定だけど追い掛けられないし、だからって同じところに止まっていたら、シャロンへの負担が大きくなる。実質、第三セクションがみんなにとっては最終セクションなので、さっきまでと違って耐久力の維持を意識せずに済むのはありがたい話だろうけど、僕は最終セクションで一対一で自分の機体とやり合わないと行けないわけで、そう大きなアクションを起こすことに気後れをしてしまう。けれど、ヴァルコピーの動きを止めるには僕の協力は必須なはずだ。
『スズ、レインボム!』
だってヴァルコピーはヴァルフレアの武装を全て持っている。シャロンに言われてオルナに空中を急いで駆け巡らせ、大量の爆弾とその爆発から逃れ出るけれど、それを踏まえた上でオルナの移動先に、狙ったかのように空中機雷が待ち構えている。ブレーキを掛けても止まりそうにないので、強引に機体を逸らしながら更にバーニアとスラスターの全ての動作を一旦停止させて、急降下させ、空中機雷群から離れたところで再びバーニアとスラスターを再起動させ、機体のバランスを保つ。
「シャロンだったら、今のはもう確実に僕が突っ込んでいたな」
CPUの配置だから寸前で急降下できたけど、シャロンの置いた空中機雷だったら、ブレーキやらなんやらの判断を付けさせるよりも前に、より確実な位置に仕込んで来る。
CPUのおかげで、シャロンの上手さが目に見えて分かるわけだけど、これをあと三回経験するんだと思うともうめげそうだ。
「空中機雷ですけど、シャロンさんならもっと上手く仕掛けられますよね?」
『……そう、そういうこと。でも、それだとしばらく注意を惹き付けてもらわなきゃならなくなるけど』
「ブーストでスラスターが焼き切れるまで走れば、どうにか。ブーストゲージの回復のためにしばらくスラスターを休ませることになるんで、そのあとは全く追い掛けられないですけど」
『私と同じ機体の速度に追い付けるの?』
「操縦しているのがCPUなら、最適な軌道さえ取れば追い付くことはできなくても、ある程度までは接近できます」
『やっぱり、スズは変な子』
変な子ってやっぱりゲーム的に言う変態とかその辺りを柔らかく表現しているっぽい。リグリスが聞いているからだろうけど、僕にはちっとも柔らかいと感じられないんだから、一々、言わないで欲しいところがあったりなかったり。
大丈夫。シャロンとは合わせられる。正直、ティアより合わせやすい。だから、ここまでのやり取りで不安に思うところはなにも無い。あるとすれば、さっきみたいな僕に心理戦を仕掛けて来るんじゃないかという点。ティアもそうだけど、なんで僕にケアレスミスを引き起こすようなことを言うのか……あれじゃないよね? 僕の女々しい変な声を出させたいからとかじゃないよね?




