削り切る
攻撃はパターン化してしまえば、さほど難しいことじゃない。ターン制のRPGはこちらのターンと敵のターンがハッキリしている分、万人受けし易い仕様となっているが、アクションゲームは得手不得手を唱える人が多く、敷居が高いようにも見える。けれど、開発側も鬼ではないので、必ずどこかに敵に隙を作る。上に行けば行くほどその隙は一瞬になってしまうが、中間ぐらいまでなら必ずその隙は露骨に見せびらかされる。RPGのターン制とやっていることは同じだ。敵の攻撃している最中は攻撃せずに防御や回避に努め、それが熾烈であるのなら逃げ続ける。そして、一通りの攻撃が終わった直後に、一発二発と攻撃を当てて行く。そしてまた敵のターンがやって来る。アクションゲームだってこれの繰り返しだ。
だから、ロボットアクションゲームであるこの『Armor Knight』でもそれは通用する。攻撃後のゼフォンに生じる、これを担当した開発側の露骨な隙。そこを狙う。それ以外は回避や攻撃の妨害に当てる。幸い、こっちは近距離特化だから火力が高い。隙を突いた一発二発が敵にとっては非常に効果的に入る。
ただし、それで敵が素直に倒れるかと言えば、そうも行かない。
アラートが鳴りやまない。ゼフォンのコアを攻撃するたびに、相手の攻撃も更に苛烈を極めて、薙ぎ払いや叩き付け、掬い上げはモーションは溜めが短くなり、そのどれもに火球攻撃がプラスされた。これはコアのゲージが半分を過ぎてからで、あとは移動する回数も増えた。つまり、こちらの攻撃できる回数が減った。ついでにゼフォンはなんだか全身が赤く染まり、そのアイカメラからは眩しいほどの紅の輝きがモニターに刺すように映る。逆にエッダの数は一気に減った。これはゼフォンの攻撃回数が増えたことで、諸共に巻き込まれて破壊される数が増えたためだろう。
『あと四分の一ちょっとか? 避けるのも結構、笑えなくなって来たぞ』
「ですね」
『でも半分から四分の一に減らすまで、結構掛かりましたよ? ここからもっと攻撃が激しくなるんなら、この倍くらいは時間が掛かるって考えた方が良いんじゃ』
キューキャットをオルナの横まで退避させたところで、ルーティが冗談抜きの真面目な通信を入れて来る。
『間延びするってことは、その分、こっちの耐久力が減る危険性が増すってことでもあるから』
『そうよ。だから、ここは一気に畳み掛けたいところよ』
『ですが、全員で突撃すればそれはそれでリスクがあると俺は思います』
各々の通信を聞きつつ、マップ画面で位置を把握しつつ、ルーティとリグリスの今までの操縦を含めて、結論を出す。
「一気に攻めます。リグリスさんは、ゼフォンの移動先が分かりますか?」
『分かるというより、跳躍した直後にどこに降りるかまでは感覚で掴み取れますが、それだとチームの足並みを乱すのでは?』
「いえ、移動先がそこまでハッキリと分かるなら十分です。シャロンさんも……行けますね?」
『それは、問題無いけど』
シャロンの“異常性”は一つ先を見る。だからゼフォンが移動する先をリグリスよりも更に速く読み取ることも出来るはずだ。
「ルーティさんとバイオさんで次に地上の薙ぎ払いを行った手に目掛けてアンカーを打って下さい。そして全力で巻き取り、引っ張って下さい。これまでのゼフォンの動きを見ると、半重力のような状態とはいえ、私たちの機体より大きいのに動きに重みが感じられません。腕の一振りも、重みがあるというよりも柔らかく思えます。なので、二機の重みで引っ張れば腕を地面に引き寄せることが出来るのではと考えています」
『もう一方の腕はどうすんだ?』
「それは私がなんとかしますので」
『テメェはそう言って、大抵のことはなんとかするんだから、気持ち悪いよな』
「両腕を止めたところで、コアをティアさんが叩いて下さい。残り四分の一。数回の斬撃で逃げ続けられてしまえば、長引きますが、ルーティさんとバイオさんがアンカーで腕を引っ張っていられる時間分は、移動しようとしても出来ないのではと」
つまり、腕を地面に拘束させる。釘のように打ち付けられないが、引っ張っていればその力の分だけ、ゼフォンは移動により強く力を入れなければならない。その手間が、僅かでも攻撃回数を増やす時間になる。
「そして、移動先でシャロンさんとリグリスさんでフィニッシュです。ルーティさんとリグリスさんの操縦がどこまで向上しているかを私なりに見て、この策は通ると判断しました。ラストスパート、一気に駆け抜けます。ミリ残しでもしたら、恐らく更に攻撃が酷いものになるので、ここで削り切ります。削り切れなかったら……まぁ、その時はその時で」
穴だらけの作戦ではある。でも腕やゼフォンに重みを感じないというのは、ここまでの戦闘でほぼ確実なものだと思っている。さすがに“空間把握の化け物”でも、重みまでは分からないが、腕の中に複数の空間があることは掴めた。いつぞやのおもちゃの車では肉抜きが流行った。それが現実でどこまで作用したかは分からないが、みんながそれで速くなると信じて疑わなかった。ただ、穴を空ければ軽くなり、コースから飛び出す車もあった。ゼフォンは腕だけに関わらず全身に穴が幾つもあり、空間がある。それら全てが炎を噴出させるための機構であるのなら、デメリットとしてなにかは必ず生じるものだ。それが軽さだ。
『来るぞ。行けるな?』
『はい』
ゼフォンが両腕を左右に広げて、僅かに溜めてから前方の薙ぎ払い攻撃へと移る。
『地上と上空』
シャロンが先を読み取り、僕たちは中空へと退避し、そこでアンブッシュとキューキャットがアンカーを射出し、振り切った右腕の手に突き立てた。僕はそれを見つつオルナを上空へと走らせ、熱風で揺れる機体のバランスを維持させつつ、ソードを二本引き抜いて、スカスカの左腕の肘関節に突き刺し、喰らい付く。
右腕を戻すゼフォンに合わせてアンブッシュとキューキャットが地上に降り、アンカーの巻き取りを始めたようで、ゼフォンはなにやら予想外の抵抗を受けていることに気付いたのか、奇妙な雄叫びを上げている。
「火球攻撃は意地でも避けて下さい」
僕はルーティとバイオにそう伝えつつ、ゼフォンの肘を更に切り裂き、そのまま腕に纏わり付くように剣戟を続ける。右腕を引っ張られ、左腕の肘を守る手段はどこにもない。だから僕はここで大立ち回りが出来る。熱によるスリップダメージは全てカット出来ている。左腕が動いても、決して突き立てたソードからオルナの手を離させない。どうやらこれがどうにも気に喰わないらしく、ゼフォンは攻撃モーションの無い振り払いを上空で何度も何度も続ける。けれど、そんな振り払いにブーストとバーニアを調整しつつ、更に突き立てたソードが勢いで引き抜かれてしまわないように、一瞬の隙を突いて、別の位置に再び突き立てる。今度は保険として二本目も突き刺し、絶対に引き剥がされてたまるかという意思を見せ付ける。
『あれ、マジでやってんですか? 俺じゃ不可能ですよ。振り払いに合わせて機体のバランスを保ちつつ、尚、張り付くなんてどんな操縦してるんですか?』
『スズはちょっと、変な子だから』
リグリスとシャロンの通信には、返事は出来そうもない。
『斬って斬って、斬って斬って斬って、斬りまくってやるわ!』
パールがゼフォンのコアに到達し、長刀で一度、二度、三度、四度とクリティカル距離から斬撃を与える。当然、刀剣類の中でもクリティカル距離において絶対の攻撃力を持つ長刀の斬撃をそこまで受ければゼフォンのコアもみるみると減少して行く。
「っと……、左腕でコアを守る気? それはさせられないんだよ」
ここまで左肘に剣戟を浴びせ続けて来た理由は一つしか無い。
「関節部位は、このゲームじゃどの機体でも弱点だからね」
装甲を剥ぐだけ剥いだ左肘の関節。ソードを一本、引き抜いたところでバランスを崩し掛けたが、どうにか持ち堪えさせる。けれどソードでは届かない。
「やっぱり、用意していて正解だった」
ソードを収納し、後背部から引き出した鎗で、揺れるモニター越しでも狙いを外さず関節部位を刺し貫く。ゼフォンの左腕は、上腕部を残して地面へと落ちて行く。
『これで、十回目!』
右腕を戻せず、左腕は上腕部を残して切断され、長刀の十の斬撃をコアに浴びたゼフォンは大きな唸り声を上げながら、ここ一番の馬力を発揮したらしく、先ほどまで安定して纏わり付いていたのに、噴出した炎と熱風、更にはただの一度の振り回しでオルナが引き剥がされてしまった。
キューキャットのアンカーも引き抜かれ、アンブッシュのアンカーは途中で千切れ、解放されたゼフォンが跳躍してモニターから消える。
でも、これで終わりだ。
『わざわざ目の前に来てくれてありがとう』
『デカい分、コイツのエネルギーの行く先は丸分かりでしたよ』
着地したゼフォンの衝撃波は地上だけを駆け抜ける。なので、ルーティとバイオが中空に離脱している今、損害は出ない。
なにせ、コアを眼前に見据えたヴァルフレアは二本のショットガンをコアに向け、中空に跳んだクーシーはその勢いのままゼフォンのコアへと驀進している。
「近距離型で固まっても第二セクションは突破可能ってことですね」
『あなたが居ないとまず無理でしょ。馬鹿なの?』
何故だか分からないけれどティアに貶された中で、ヴァルフレアの散弾は全てコアへと浴びせられ、離脱したそこに驀進していたクーシーが渾身の拳を放ち、コアのゲージは空っぽになった。




