思い出した弱点
『平原において強力なエネルギーを感知。衛星より現地を確認するも、エネルギーを放出する物体を発見することは出来ませんでした。その代わり、強力な磁場によって生じる空間の歪みを観測。現在、その歪みより所属不明機の一部が現れつつあるとのことです。我々はこれを天骸と断定。ただし、歪みは比較的小さく、現れる天骸も中型機であると思われます。機構師団は直ちに現場に赴き、『天骸』――ゼフォンを破壊して下さい。尚、ゼフォンの周りには未知の機体であるエッダと呼ばれる我々の機体と同程度の機体の存在も確認されております。破壊は容易ですが、強襲に注意して下さい。また、ゼフォンを破壊するためにはエッダの数を減らすことが必須となります。そして、歪みより現れているゼフォンの一部より測定装置の限界をはるかに上回る熱量も検知しています。機体の炎への影響を抑えるため、放熱のパフォーマンスが高く、冷却可能な装甲が求められます。装備に不安が残るならば即時撤退の判断を下すこともまた一つの勇気となります』
ゼフォン及びグザファン破壊は平原という『天骸』対応のマップとなるが、同時に大隊ミッションでもあったセクションごとのノルマを達成して行かなければならない。それがアナウンスのあった通り、まず最初にエッダの数を減らすというもの。続いて、ゼフォンが姿を現した際に平原全体を覆うほどの炎が吹き荒れるらしく、ここで全ての装甲を炎熱耐性が30%以上で整えていないと、炎熱によるスリップダメージが、マップのどこで待機していても耐久力を削って行く。逆に30%以上であるのなら、このスリップダメージは発生しない仕様となっている。
『炎』のエンチャントやパイロキネシスの火炎放射器に比べれば、優しい方だろう。あれらは炎熱耐性を高めにしていても当たってしまえばスリップダメージが確実に入って来る。30%って部分も、まだ装甲のレパートリーが利くのでそれほどの縛りとはならない。即時撤退云々のアナウンスがあったのは、このスリップダメージ対策をしていなければ時間を掛ければ掛けるほど不利となり、またどう考えても勝ち目が無いからだと思われる。いわゆる初見殺しであるのだが、そんなものはこのゲームにおいては日常茶飯事というか、初めて挑むのならば一回ぐらいは壊滅する覚悟をして挑むのが通常というものだ。
今回は事前に情報を仕入れているため、全員揃ってこの30%の炎熱耐性にはしてあるので、初見殺しをスルー出来る。初めてのミッションで阿鼻叫喚となる様っていうのはそれはそれで楽しいけれど、ゲームに割く時間が今回みたいに限られている場合は効率的な攻略を優先する。
でも、チームバランスが笑えないくらい悪いので、効率的では無いし、それなりに苦労はしそうだけど。
『エッダってあれよね? 骨のやつ』
…………あっ!
「そういやティアってエッダが苦手だったっけ?」
『なんで半笑いなの?』
いや別になんにも。完璧な人だと思っていたけど、ホラー要素には弱いんだったってことを思い出して笑いそうになったわけじゃないよ? なぁんだステレオタイプな弱点があるんじゃんってちょっと馬鹿にしているわけじゃないよ?
『なにか悪意のある笑い方だったんだけど?』
「大丈夫? 戦える?」
大隊ミッションで相手した時は、大騒ぎというか悲鳴染みたものを通信で聴き取っていたんだけど、あの時、ちょっと半泣きだったよね?
『ここぞとばかりに人の弱点を突付いて来るスズは性格が悪いわ。大丈夫よ、ちゃんと特訓したから』
「特訓?」
『この日のためにホラー映画をレンタルして、観賞して来たの。ふ、ふふふ、もう大丈夫よ』
笑い方が奇妙なので、ちょっと違う方向でのメンタルがやられちゃってないですかね。
「もし無理だったら下がって良いよ。カバーは出来る。まぁ、エッダは情報の通りだと、際限無く湧くみたいだけど」
『だから半笑いはやめて』
いやぁ、良いなぁ。人の弱点を突付くことのできる瞬間ってのは楽しいし面白いなぁ。今度、現実で会うことがあったら怖い話でもしてあげようかなぁ。
『今、なにか私を陥れようと考えているなら反省することね。でないと、みんなにスズに酷いことされたって言うから』
「僕を社会的に殺すのはやめて下さい」
早口でそう返事をする。
『分かれば良いのよ』
そして個人通信は切られる。
リグリスさんも居るから、タメ口と素の声はここまでだ。間違ってリグリスに個人通信で素の声とタメ口で話し掛けたら、僕がリョウであることがバレてミッションどころでは無くなりそうだ。だって、相当恨まれていると思うから。
『おい、なにちんたらしてんだ。行くぜ?』
カウントダウンは数秒前に終わっていたらしく、僕はバイオの挑発に『分かっています』と答えつつ、オルナを前方へと走らせる。
骨をイメージした機体――エッダは珍妙な動きをしながら、僕たちの介入を待っている。この動きはややゾンビに似ている。それくらい関節部位が柔らかく、そして奇怪な動きを取る。爪による攻撃が主体であるため、遠距離からの攻撃が非常に有効であるのだが、場合によっては予想外の方向からその爪が飛来するだけでなく、どうやらこのエッダは遠距離攻撃に対して、ルーティのキューキャットのように爪をアンカーとして発射したり、小型のミサイルとしても射出するらしい。なので遠距離攻撃が有効であっても、気は抜けないというわけだ。
僕のチームに遠距離主体で戦う機体は一機だって存在しないわけだが。
「ルーティ」
『索敵でしょ?』
「バイオさん」
『分かってんだよ。言われずとも今、やるっつーの』
敵機体の数や位置を把握するために必要なのは、機体で視認することとダメージを与えること。なので遠距離攻撃で銃弾をばら撒いたり、ビームを連発することは対人戦においても時折、用いられる戦法である。が、今回も相も変わらずキューキャットは獣型頭部だし、アンブッシュも昆虫型頭部なので、いつも通り索敵をしてもらう。索敵範囲にさえ敵機体を入れてさえいればチームにその情報がマップ画面に光点として表示される。
……そんな光点が表示される前にエッダに殴り掛かっているリグリスの機体――クーシーは放置して良いかな。この人、ほんと意識してくれているのか不安になる。でも、位置取りは悪くない。別に突出しているわけではなく、前線に立っていたエッダに問答無用で殴り掛かりに行っただけで、下がろうと思えば下がれる位置だ。本能で動くのも大概にして欲しい。
「リグリスさんのサポートをお願いします」
『あぁ? 俺に頼んでテメェは楽をするってか?』
「そうしないとティアのサポートに回れません。バイオさんの方がリグリスに近くて、私がティアに近いので」
『あーそうか。なら、ちょっとばかしエッダの動きを止めて、あのガキをちょっとは楽にさせてやるか』
モニターから見えていたアンブッシュがクーシーへとブーストを掛けて移動し始めたのを見届けたのち、僕もオルナにブーストを掛けさせてティアの乗るパールまで駆け付ける。駆け付けた直後、エッダが攻撃モーションに移ったため、即座にソードを抜いて振り下ろされた爪を受け止め、そして弾き返す。続いてもう一方の手で脚部収納からダガ―ナイフを取り出し、弾き飛ばしたエッダへと二本ほど投擲して下がらせる。
「いつも通り動けていないみたいですけど?」
『そんなことは無いわ』
そんなことあるんだよなぁ。パールの傍までオルナが向かって、その直後にエッダから奇襲を受け掛けたってことはそれだけパールがエッダの処理に二の足を踏んでいる状態にあるからだ。いつものティアならバッタバッタと切り倒しているから、こうやって合流しても大概、綺麗に片付いている。位置取りだってちょっと先行し過ぎで、数の暴力に遭うギリギリ手前ぐらいだ。
「私と一緒に後退して下さい。エネルギーライフルで引き撃ちして、大群から誘き出したエッダを各個撃破して行きます」
リーダーではないけれど、それぐらいの指示は出せる。と言うか、自分が危ないのと、ついでにティアもこのままだと危ないのでさっさと下がりたいだけというのが心情なので、こんなものは指示厨でもリーダーシップでもなんでもない。
『分かった……』
渋々といった具合でティアが了承し、パールが長刀を片手に持ちつつ、エネルギーライフルを抜いたところまで見届けてから、バックダッシュを掛けつつオルナもソードを片手にエネルギーライフルを抜いて二機でエッダに向かって引き撃ちを行う。
引き撃ちは基本的に追撃阻止で使ったりするけど、こうして敵機を誘き出す際にも有効だ。相手がプレイヤーであれば訝しんで突出して来ないけれど、このエッダに搭載されているCPUはそれほど有能では無いらしく、上手い具合に数機だけがブーストを掛けて迫って来る。
『うっくっ……』
「え、今のティアの声ですか?」
『うるっさい! このぉ! ホラー映画みたいな人骨じゃなければ! 人体模型や骨格標本ならちっとも怖くないのに!』
ああ、動いていなければちっとも怖くないのに動いていると駄目な感じなんだな。人体模型は昼間は動いていないけれど、夜になったら廊下を徘徊していると聞いたらなんだかしっかりと見ることが出来なくなったり、ベートーヴェンの絵も見ている分には怖くないのに、目が動いたような気がしたら急に怖くて見られなくなるみたいな。あるよね、そういう思い込み。
でも、僕の小学校には人体模型も骨格標本も無かったけどなぁ。子供が怖がるから置いちゃ駄目みたいなクレームがあったりなかったりして、撤去する場合もあるらしい。その代わり、二宮金次郎は薪を背負って本を読んだ姿勢の像だったけど。
エッダがパールの引き撃ちを掻い潜って、頭部に備わっている口をカタカタと揺らし、そして一際大きく開いて、雄叫びを上げた直後、僕の耳に悲鳴が響き渡る。その悲鳴に驚きながら、パールに向かって行ったエッダの真横からソードを突き立て、そこから銃口を当てて、零距離射撃を数回行い、最後にソードを引き抜いて機能を停止させる。
「今のは合同通信でした? それとも個人通信?」
『ギリギリ、個人通信……シャロンやルーティから通信も無いし』
要は全員に聞かせたいか一人に聞かせたいかの違いなんだけど、それら全てを意識の外に追いやれば通信はシャットアウトできるので、誰にも聞かせずに悲鳴は上げてくれないか。直前まで僕と話していたせいで、個人通信が切れなかった……のかなぁ。
「一人で勝手に叫んでいてくれません?」
『一人で叫んで、それで怖さが半減できると思う? 怖い時に叫ぶのは、誰かに聞いてもらって人気を感じて安心するためなのよ』
そんな超理論は頭に入らないが、パールは復讐とばかりに迫って来ていた別のエッダを長刀で一刀両断し、それでも這い蹲って動こうとするそれをエネルギーライフルのビームを何度も喰らわせて、破壊する。
「吹っ切れました?」
『プツーンと来た』
カチンと来たなら分かるんだけど、造語はちょっと思考が追い付かなくなるからあまり使わないでもらいたい。
しかし、さっきまでの動きが嘘のようにパールは調子を取り戻し、いつも通りの操縦で向かって来るエッダを次々と相手取って行く。
『あっはははは! 骨が! 骨が動いているんだけど! 超笑えるんだけど!』
ティアがおかしくなっていることについて二人だけの秘密になりそうなのが、現在における唯一の懸案事項である。口が堅くとも、もしもこの時のことをルーティやシャロンについて訊ねられたら嘘をついてティアを庇うんだろうけど、まず間違いなくバレるから、そうしたら喋らなきゃならなくなって、そしたらティアにゲーム内だけでなく現実でもなにを言われるか分かったもんじゃないのが……嫌です。




