表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
225/645

青春とは

 食材を選び、買い物カゴに入れつつ献立を考える。無難にお惣菜と冷凍食品の唐揚げで良いだろうか。だが、それでは倉敷さんに僕の食生活がダラしないことを見せてしまうことになる。でも、もう自分のダラしないところは大体全部、晒してしまっているので今更な気もする。

 そんなことを思いつつ、卵のパックと牛乳を買い物カゴに加える。卵も牛乳もなんだかんだで使用率が高いというか、大切な時に切れている物の代表だと思う。現に倉敷さんのところでも切らしていたようだし。

「いつもそんな感じなの?」

「夕食のこと?」

「ええ」

「今日は献立が思い付かなかったのと、あと冷蔵庫の中身を切らしていたから。さっきも言ったけど、それは明日の帰りにでも解消するからそんなに時間は掛けないよ」

「時間は別に気にしていないわ。立花君は言ったことをちゃんと守ってくれるから。あなたが言ったこと、じゃなくて私が言ったことを了承した場合に限り、の話よ? だって嘘つきだし」

「倉敷さんを引き止めたのは僕だし、そりゃ言われたことは守るよ」

 前科が酷い分、なかなか“嘘つき”のレッテルは剥がれないらしい。かと言って、まだ嘘をつくことがあるので、“立花君は嘘をつく”ということを踏まえて話してくれていた方が気楽だったりもするので、まだレッテルを剥がして欲しいとは思わない。あと、些細な嘘はついた直後に謝ろうと意識だけはするようになった。たまにしか謝れないから、もっと意識しなきゃ駄目なんだろうけど現状これが限界である。だって僕はまだ嘘をつくことで自分を守りたくて仕方が無いのだ。そう簡単にこの防御を解くのは出来ない。

「ふぅん……なるほど」

「なにがなるほどなのか訊いて良い?」

「今度、機会があったら差し入れでも持って行った方が良いのかしらと思って。料理のレパートリー、増やしたいと思うでしょ? それなら、他の人のレシピも参考にするのが一番だと思うわ」

 大樹さんが共同生活を送っている人――沖名さんも様々なレシピを試していたし、一理ある言葉だなと思った。

「差し入れまでは求めないけど、なにか簡単なレシピがあるなら今度、教えてくれるとありがたいかな」

「覚えておくわ」

 と言うか、倉敷さんって料理も出来るんだな。大樹さんほどじゃないけど倉敷さんもスペックが高いので、なにかしら短所があると思ったのに。


 大樹さんは完璧超人に近い割に人心掌握術は絶対に学べないような純朴な毒舌家だし。

 こういう人は料理だけは出来ないとか、高いところだけは苦手とか、爬虫類系は触れるどころか見たくも無いとか、そんなステレオタイプな短所があって(しか)るべきなんだよなぁ。砂糖と塩を間違えるほどのポンコツっぷりは二次元だけで良いから、せめて料理を作ろうとしたら焦がしてしまった程度のエピソードを知りたいものである。


「立花君って、本気になったことってあるかしら?」

「本気? なにに?」

 全く別のことを考えていたために、倉敷さんの問い掛けへの反応が遅れた上に若干、鸚鵡返し気味になってしまった。

「ゲーム」

「僕はゲームじゃいつも本気だけど」

「んー、確かにそうだけれど――あの人に連れて行かれて帰って来てからは惰性とか使命感以上に強い本気を感じることはあるのだけど、なにかこう……熱が無い感じがして」

「あーアレでしょ。漫画やアニメで言うところの激しい戦闘描写」

「そう。なんか雄叫びを上げながら、物理と精神で殴り合う感じ。そういう感情同士の押し付け合いみたいな、本当の意味での本気は出したことがある?」

「手は抜いていないよ。本気でいつもプレイしている。大体、手を抜いていたら理沙と倉敷さんにはバレそうだし。あと望月もそういうところだけは勘が鋭いからバレると思うし。ただ、倉敷さんの言うような熱を込めての戦いは……そうだね、『スリークラウン』を抜けるって言ったオブシディとの戦いかな。あの時は、色んな感情が爆発して、でもオブシディは冷静だったから、簡単に対処されてしまって敵わなかった。感情的に操縦せずに冷静に動いても今も敵わないんだけどね」

 一人分のお惣菜を買い物カゴに入れたあと、冷凍食品のコーナーに行き、残っていた唐揚げを手に取る。五分か十分くらいで買い物を終わらせるなら、テキパキと行動しなきゃならない。時間に追われているわけじゃないけど、倉敷さんの設けた制限時間前にはスーパーの外に出ておきたい。

「私、立花君が本当の意味で本気を出しているところが見たいのよ」

「なんで?」

「いつもビクビクしていて、人と目を合わせるのも大変そうなのにゲームの中じゃ無類の強さを持っている。でも、それを決して誇らず、謙遜して、ひけらかさない。パッチペッカーの時だって、あれはアイツをビビらせるために挑発的な対応を取ったと私は思っているし」

 大体合っているので、口を挟む勇気も無い。

「だから、見てみたいのよ。謙遜していても実力をしっかりと持っている人が、熱くなって、誰かのために……誰かのためじゃなくて、自分のためでも良いけど、とにかく自分自身の全てを放出して、ぶつかり合うところ。変?」

「変だよ」

「期待しているのに、そういうところ」

 膨れられても困る。

「僕は、もう踏み外してしまったから。それで、頭の中でストッパーが掛かるんだよ。これ以上は駄目だ、これ以上はおかしくなるから落ち着け、って。ブレーキを掛けて、そして冷静に操縦する。反吐が出そうなくらいの最悪最低のパッチペッカーに対してはもうちょっと熱かったかなとは思うけど」

 踏み外すギリギリ前だったし、ストッパーも緩んでいた。だからパッチペッカーに与えられた痛みに少しばかり興奮し、おかしくなりそうだった。

「……じゃぁ、約束してよ。この前の約束を守れなかったんなら、この約束で帳消し」

「どんな?」

「誰かのためになにかを成そうって時は、いつも本気でいて欲しい。ミッションじゃなくて、対人戦での話」

「……もしかしてだけど、サールサーク卿が『RoS』にも席を置くようになったって話を聞いて、思うところでもあった?」

「別にそういうのじゃないわよ。ただ、立花君も同じように『RoS』に、行くのかなって」

「僕は行かないよ」

 即答する。

「『RoS』は、僕の居場所じゃない。じゃぁどこかって訊かれたら、現実のこの町と答える。ゲームは逃げる場所だけど、もうそこにずっと居たいとは思わない。居る場所はいつだって現実。倉敷さんも分かっているでしょ?」

 倉敷さんは小さく肯く。


 それに、『RoS』のギルドマスターのルキとは個人的に決着を付ける必要がある。ひょっとしたら、倉敷さんの言うような熱を込めた本気の戦いになるかも知れない。ゲームで戦いって言い方を馬鹿馬鹿しいと思われても、実際、戦っているわけだし鼻で笑われても構わない。


 レジで支払いを済ませて、買い物カゴの中身をレジ袋に詰めて、倉敷さんと一緒に外へと出る。

「さっきの約束は、有耶無耶にする気?」

「……はぁ、分かったよ。それでこの前の約束の代わりになるのなら、約束する。誰かのために、でしょ?」

「ええ」

「でもなんでそんな約束?」

「みんな、それぞれ色んな物を背負っているから。中二病みたいなことを言ってしまったけれど、分かるでしょ?」

 僕の事情、倉敷さんの事情、理沙の事情、奈緒の事情。挙げたらキリが無い。

「この歳で色んな物を背負っているって言ったらご年配の方に笑われるけど、でも実際、そうなんだからそう言うしかないじゃない?」

「まぁね」

「そういう時にさ、私を助けてくれた時みたいに、香苗を助けてくれた時みたいに、言葉で訴え掛けながら心の底から熱くなって戦ってくれるそんな立花君を、私はもっと見たいから」

「無茶を言い過ぎだし、過大に評価し過ぎなんだよなぁ」

「でも、立花君はカッコイイと思ったのは本当の話だから」

「……は?」

「私を優しく説き伏せた立花君をカッコイイと思ったのは本当の話だって言ったのよ。聞こえているのに聞こえていないフリをするのやめてくれない? そういうの、嫌われるわよ。ちゃんとすぐに反応しないと、鈍感系や難聴系主人公って言われちゃうの」

「主人公って」

「自分の人生はいつだって自分が主人公でしょ。私だって主人公。分かるでしょ?」

「……そう、だね。もう誰かに委ねるのはやめようとは思っているよ。思っているだけで、なかなか実行には移せないけどさ。自分の人生の主役は自分しか演じられない。だから全力で生き抜いて、全力で楽しんで、全力で悲しむ。うん、分かっている」

「なら良かった。じゃ、ここまでで良いから」

 倉敷さんはそう言って雨で作られた水溜まりを避けつつ、見えて来たマンションへと向かって行く。

「あの!」

「ん、なに?」

 そのままマンションの敷地内へと姿を消して行きそうな彼女に僕は、自分でも分からないが何故か引き止めた。スーパーで足早に立ち去ろうとした倉敷さんを引き止めた時と似たような衝動だった。

「その……言うことは、特には、特に、は、無いんだけど」

「……よく分からないわ」

「そう、僕もよく分からない。でも、なにか言わなきゃと思っていて……ああ、そうだ。旅行で見た水着姿と浴衣姿、綺麗だった、よ?」

 あれ……これ、なに言ってんだ? これを言いたかったんだろうか。


 …………うん、多分、これが言いたかった。


「あ、ぅ……あり、がと。それだけ?」

「それだけ。引き止めちゃって御免」

「ううん、嬉しい。今日は気持ち良く眠れそう。じゃぁね」

 倉敷さんは微笑み、そして僕の前から立ち去った。


「……ギャルゲーの主人公って、なんであんなに行動的でゲーム開始時に彼女が居ないんだろうって思っていたけど、多分、そういうことじゃないんだな」


 能動的に動いて来なかったから彼女が居なかった。けれどギャルゲーの主人公は決まってゲームの開始時に「今年は」と意気込む。その意気込み通りに、プレイヤーが主人公を受動的にではなく能動的に動かすからこそ、ヒロインを攻略できるのだろう。


「受け手で居るだけじゃ、駄目なんだ」


 もっと自分をアピールしたいなら能動的に。もっと自分を優先してもらいたいなら、前向きに。ずっと向こうからなにかしてもらう、なにかやってもらうことを期待しちゃ駄目だ。こちらからも動いて、それでやっと対等だ。やっと期待できる段階に入れる。


 寄り掛かるだけでなく、寄り掛かってもらうために。だってそれでようやくスタート地点だ。


 だから多分、僕は今、青春している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ