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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
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リグリスの不思議

 一つ決心をしつつ、僕はいつものように『Armor Knight』にログインする。今日でリグリスとミッションをこなすのは三回目だ。今日までスケジュールが纏まらなかったのは、来月の業務日程表が渡されていなかったか、自身の手帳で確認した来月のスケジュールの調整が上手く行っていなかったか、そしてその両方だろうから「遅い」とは言わない。スケジュールを渡されていないのに今日、リグリスがログインすることを事前に分かっていたのは、彼がログアウトする前に入念に「次は、いつぐらいにログインできるか?」と訊き続けていたからだ。これは同時に“約束”ともなるわけで、向こうもなんとか自身が口にした日と時間に入れるように努めて来る。それでも二度ほど僕のメルアドに「今日はログインできそうにない」という物が届いたが、それは渡されたスケジュールを見ればなんとなく、時間外労働という名の残業に追われて仕方無くではないかという想像も付く。たとえそうでないにしても、メールで連絡を入れてくれるだけありがたい。


 僕ならメールすることさえ忘れて、すっぽかした事実に追いやられてその後、一切の連絡を取らずに計画をポシャらせるだろう。それぐらい、赤の他人と約束してログインする時間を合わせるというのは難しく、そしてすっぽかしたあとというのは気まずいのである。僕の場合、今の環境だとすっぽかすどころか約束の時間になっても姿を現さないとなれば、理沙や倉敷さんが容赦無くゲーム内から電話を掛けて来る。望月は嫌がらせメールのように連続して「今どこ?」というメールを送り付けて来るし、それで怯えてログインしたらなかなかログインできる日が無いはずなのに何故かそういう日に限ってログインしている啓二さんに脅される。着実にゲーム廃人としての道を歩まされている。理沙には探している友人が居るから、勝手にやめられては困るという建前があるが、倉敷さんの電話にはガチ勢ならではのパンチの利いた言葉が羅列されて行くわけで、多分だけど僕を最もゲーム廃人へと向かわせる要因になっているのは彼女だと思う。望月の「今どこ?」メールは返事さえすれば止まるし。


 なのでやっぱり倉敷さんは怖い。啓二さんは同族嫌悪よろしく馬が合わない筆頭で嫌いだけど、倉敷さんは嫌いなんじゃなくて怖い。それについては部屋に上がらせて貰った時に「緊張する」という名目で話したつもりだったが、どうやら伝わっていなかったらしい。だからってこれをそのまま伝える勇気は身に付けちゃいない。


「テメェはよくリグリスと合わせられるな。俺じゃ途中でタイミングが外れちまうんだが、合わせ切れていないからか?」

「バイオさんが合わせに行っているんですが、リグリスさんがそれを無視しているんだと思います」

「なるほど、空気を読めないテメェと一緒ってところか。まぁテメェは、しおらしくなってから合わせやすくなったっていう点で、まだマシだが」

 バイオのアンブッシュはサポート型なので、誰かとタイミングや呼吸を合わせないと捕捉している敵機体を落とすのも難しくなる。呼吸はともかくとして、タイミングについてはなんとなく僕は感じ取れるレベルまではみんなに鍛えてもらったのと、以前よりマップ画面でみんなの位置取りを調べるようにしたのでどうにかこうにか、そのぎこちない合わせ方にバイオが強引に合わせに行ってくれている。これがティアやシャロンだと噛み合わないし、ルーティだと数秒ズレる。なので、顔や性格に似合わず人に合わせるのが上手いバイオと組むのが僕は動きやすい。

 リグリスはその次ぐらいだろうか。

「普段からリグリスさんって、猪突猛進なところあります?」

「いや、そんなことは全く」

「幾つか訊きたいんですが、よろしいですか?」

 肯いたところをこの目で確かめてから言葉を続ける。

「マップ画面を見ることは?」

「申し訳ありませんが、視界に入れるってことを意識していてもいつの間にか忘れてしまいますね」

 ならば味方の位置が分からず、タイミングを合わせようとしてもズレが生じてしまうのは、そこに理由があるのかも知れない。一応、個人通信や合同通信で合図やコミュニケーションは取っているけど、リグリスがこっちの位置を把握していなかったら元も子もない。

「じゃぁ見るように心掛けて下さい。大隊ミッションのことはルーティから伺っていますが、その際は思い出したくないことかも知れませんがリョウさんと合わせられていたみたいじゃないですか」

「あれは二分に一回のタイマーで録音した声を個人通信で飛ばすようにネムネムがマクロを使っていたんです。『マップ見ろ』ってのが大声で飛び込んで来て、刹那的にマップを見るようにはなりましたけど」


 それを人は条件反射と言う。パブロフの犬か、あなたは。そんな風に調教されているとは思わなかった。


「二分に一回ですか?」

「ネムネムが言うにはタイマー、設定“二分”、“録音No.102を再生”、再生先“リグリス”、再生方法“個人通信”、通信完了後タイマー同条件で再設置、っていうマクロなんで一度使ったら自動で俺にマップを見ろっていう指示が飛んで来ていました」

「ああ、だからマップを見るということがあまり出来ないと」

「だからってタイマーはやめて下さい。一時期、ノイローゼになりましたから」

 ならば今はそれを乗り越えていらっしゃるということである。

「ネムネムさんに頼んで、音源を貰うのって可能ですか?」

「だからやめて下さい。ネムネム以外と組む時ぐらいは、タイマーは頭に入れておきたくありません」

「だったら、マップを見るということを頭には入れて下さい。けれど、マップをそれほど見ていないにも関わらず、迷いもせずに敵機体の方へと向かいますよね?」

 僕たちがマップで確認を取っている最中に、もうリグリスは動いているのだ。それも一か八かみたいな賭けで動いているわけではなく、敵機体の現れる場所に最短距離で向かう。

「エネルギーを感じた方向に動いているので」


 さぁて、よく分からない単語が飛び出して来たぞ。大丈夫、これぐらいでは僕は驚かない。奇人変人を見るのにはだいぶ慣れて来ているからな。


「エネルギー、ですか? それはその、新興宗教とか」

「違いますよ。エネルギー体です」

 驚きはしないが分からなくなって来た。

「じゃぁ、そのエネルギー体とやらに向かうので、私たちより先に動いていると?」

「ええ。なので、たまにあなた方が物陰から飛び出して来た際、反射的に攻撃動作に移ってしまうことが何度か。寸前で止まることもあれば、そのまま攻撃してしまうこともありますが……ただ、感じ取ったそれが敵か味方かの判断より先に動いてしまうのは俺が一方的に悪いと思っています」

「あ……あー、あれはそのせいだったんですか」

 フレンドリーファイアは無しの設定なので、突然、リグリスの機体から拳を繰り出されても一切のダメージは無いが、一体なにがどうなっているんだという疑念がずっとあった。あれは、反射的にエネルギー体とやらに攻撃してしまうからなのか。で、エネルギー体ってなに?


「エネルギー体は、ゲーム的に言うなら熱源のようなもの。ただ、リグリスさんは感じ取るエネルギー体の形か色か、とにかくなにかで感じ分けて敵と味方を区別しているのだと思う。現実で言うなら、エネルギー体はアストラル体だったりとか強い感情、或いはパワースポットや力を帯びた曰く付きの代物で……あと、幽霊」

 シャロンが困惑している僕の横で説明してくれたが、どこまで本心で言っているんだろうな。僕も読書はする方だけど、シャロンはもっとする方で、しかも色んな本や小説を読んでいるから僕以上にそういったオカルトの知識はあるのかも知れない。


「リグリスさんって、幽霊が見えたりします?」

「それ、現実でもよく訊かれるんですけど物凄く嫌なんでこれからは訊かないで下さい。『私、霊感あるかもー』、『俺、霊感強いからなー』、『やめとこうよ、霊が怒っているよ』、『ここはちょっと霊が多すぎるな』。どれもこれも、俺からしてみればなに言ってんだコイツらなわけですが、ここで俺から質問しますが、霊感ある人がそもそも霊感あると答えて、それを『はいそうですか』と素直に信じます?」

 怒らせちゃったよ、なんだか分からないけど怒っちゃったよ。

「怒るってことは、見えているんですか?」

 シャロンは全く引き下がろうとしない。

「だーかーらー、見える見えないじゃなく俺には産まれてからずっとそこに()るものであり、感じ取るものなんです。“物”であり“者”です。幽体だろうが曰く付きの代物だろうが、在るんです。物心付いた時はよく分かっていませんでしたが、毎日毎日毎日毎日、それを感じ取っていれば日常です。普通です。極々、普通の光景です。霊感強いって言った女や男の大半を信じないのは無いのに在ると言ったり、在るのに無いと言ったりするからです。日常の一部に入っている分、もし在ったとしても言いません。子供の頃は馬鹿にされたり、小学校の教師やその時は友達だった親に怒られたりしますからね。もう、そんなものは話題の外に出ます。なので、幽霊の話は持って来られたら乗りますが、ガチで分かっていない輩だったら放置します。ガチでヤバい物や者だったら、神社や寺に行くように一応、言います。言っても七割が笑いますね。そのあと大抵、不幸に見舞われていますが。三割ほどは信じてくれて助かっているみたいですが」

「あー、うん……そうなんですか」

「それでもエネルギーやエネルギー体って言葉は遣うんですね」

 シャロンは追撃するように言う。

「だってゲーム内には無いでしょう? 在るのは生命エネルギーか敵機体の発する熱です」

 生命エネルギー云々はともかくとして、敵機体の熱を機体に乗っていても感知するのはちょっと特異体質過ぎないですかね。それに敵機体にはCPUは乗っけているけれど、プレイヤーは乗っていないわけで、それはリグリスの言う“物”に近しいような……言わないけど、言ったらもっと怒りそうだから。


 ヤバいなぁ、関わっちゃ行けないタイプの人と関わっている気がするなぁ。ああでも、これもアレだ。“死に近い人”とか“異常性”とか“狂眼”と同じように受け取ってしまえば良いんだ。そうすれば僕は納得できる。


「つべこべ言わずにマップを見て下さい。在るとか無いとか、そういうの良いんで。私、幽霊の類は信じていませんし、運なんてものは自分の行動で引き寄せるか引き離されるかぐらいにしか思っていません。あなたの戦闘スタイルは合わせ辛いんです。なので、マップを見てこっちの声が飛んで来たタイミングに合わせるようにして下さい。こっちもそれで合わせられるんで。それでも、合わせられないだとか合わせる気が無いだとか言うようでしたら、頼んで来たネムネムさんに事情を説明させてもらいます」

 それでも納得できないティアは極めて凶暴な目付きでリグリスを睨んでいた。


「分かりました俺が悪かったですマップを見るように努力しますだからネムネムに言うのだけは勘弁して下さい」


 そしてこの即答と早口言葉のような謝罪に僕は同情する。


 ネムネムさん、リグリスをどれくらい調教したの?

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