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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
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スケジュール管理

 アパートに帰って、椅子に腰掛けてパソコンの電源を入れる。続いてポケットからスマホを取り出し、冬美姉さんと花美からのメールを確認後、テキトーな返事を書いて送信する。前々から姉や妹に対する対応って大体こんな感じだし、今日に始まったことじゃない。逆に家族に対して真剣にメールの内容を考えるのはなんだか深刻な状況に陥っているぐらいだろう。毎日、家族に対するメールの文を気にしていたら気味が悪い。一般的には、どうなんだろう。僕の方が異常なんだろうか。こうやって、“一般的に”とか、“自分が異常”みたいな考え方は臨床心理士からは「なにも悪いことしていないのに悪い気になってしまうので良くない」と言われているので、なるべく控えよう控えようと努力していることだけど、やっぱり比較してしまう。


 大きく伸びをして、首を回して体をリラックスさせる。それから瞼を閉じて、ただその暗闇に身を委ねて、精神面も小さくではあるが気遣いつつ、瞼を開き、そうこうしている間に起動を終えていたパソコンのログインを済ませて、机に置きっ放しにしていた『NeST』もスリープ状態から解除して、ゲーム内から届いていたリグリスのメール内容を確認する。

「……ま、あんまりプライバシーには入り込まないでおこうか」

 書かれていたスケジュールやログインできる時間帯からして、年齢は掴めないが働いていることは確かだろう。しかし、なにをしているかについては訊かない。と言うか、興味が無い。なので、パソコンで開いたスケジュール管理ソフトでリグリスの分を入力し、全員の空いている日や時間帯をソフト側に計算させて導き出してもらう。これはスケジュール管理ソフトに組み込まれているマクロの作成から下手くそな僕が組んだものなので、他人が見たら九割が分からないだろうし一割は「なんでこんな面倒臭い組み方してんの?」って言われる代物だと思う。それでも家にあるパソコンのしかもスケジュール管理ソフトなんて他人に触らせること自体が起こらないことなんだけど、もうちょっと組み方を変えれば、もっとスマートになるんじゃないかなと思う。メモリへの負荷も――ソフト一本のマクロ程度でメモリの負荷の心配なんてしなくても良いことだな……このパソコンには、VRゲームをすることでもっと負荷を掛けることをさせているし。


「あー嫌だなぁ、この全員のスケジュールを掌握している感じ。スケジュール合わせをミスったら怖い。だから失敗したくない……失敗しても良いんだけど、なるべく失敗はしないように最善は尽くそう。あと、ギルドマスターみたいなことしていて疲れる。このままギルド設立まで踊らされたら、超絶ブラックな募集要項を作ろうっと」


 『土日祝日は二十四時間ログインが可能な方、又、平日も最低三日はログイン可能な方。操縦技術として最低でもディレイとウェイトを殺せること。尚、募集して来た方とは時間が決まり次第、随時、面接を行います』みたいな。ホント、別のゲームではよくある文面だから怖い。そう考えると、『Armor Knight』のアズールサーバーで大手ギルドだった『スリークラウン』はまだ緩い方だよな。『スリークラウン』のギルドメンバーとして必要なことって『遊びで負けるのは良いけど勝負であるなら必ず受けて、勝つ』だけだったし、誰でも入れて誰でも抜けることが出来て、対人戦ガチ勢のサーバーではウケが良かったのではと思ってしまう。『オラクルマイスター』や『Re;Burst』だって無茶な条件を突き付けないし、ギルドポイントみたいな各ギルドを競い合わせるような制度が無いってだけで、こうも違う。それでもミッションや対人戦に全てを捧げるために現実を放り出したりしてしまう人は居るんだろうな。僕も現実逃避をした一人だからどうこう言う権利も無いけどさ。


 全員のスケジュールの重ね合わせが終わり、空いている日程や時間帯がパソコンの画面に表示され、僕はその表示されている結果を電波経由でスマホのアプリへと送り、スマホ側で妙な処理がされていないかどうかをパソコンとスマホを交互で睨めっこし、全て問題が無く終わっているようなので大きく安堵の息をつく。

「この日程だと夏休み明けになるか……早過ぎるとリグリスとのチームプレイが上手く回らないだろうし、夏休み中はチームでの練習に時間を割く、か……はぁ、一番、チームと呼吸を合わせられない人が、なんでこんな役目を担っているんだ……でも、まぁ……嫌だ無理だと断らずに受けてしまったのは僕だし……そもそも断りにくいことを知っていて押し付けて来たのかもだけど、それでも受けたのは僕だし……」

 特に倉敷さんに頼まれると断り辛いんだよ。前に「『NeST』を貸して」と言われた時には断れたのに、最近はなんか、頼まれたら自分の中で“出来るんじゃないか?”という、変な意欲が湧いて来て、止められなくなる。その結果がこれなんだから、もう自業自得としか言いようが無いのは分かっているけど、あの人はホント、天然でああいう顔するんだもんな。


 困り顔で、けれど上目遣いで、少し申し訳なさそうに、けれど瞳はとても綺麗に輝いていて、仕草がどこかいつもの倉敷さんらしくなくて……辛い。


「早めに免疫を付けないと、泥沼だ。頑張ろう」

 なにをどうやって頑張るかは不明だけど、そう自分に言い聞かせる。

「それにしても、理沙はネムネムのことを知っているんだろうか。あの聴覚なら、現実で出会っている人で一度でもその声を耳にしているんなら、その顔が浮かび上がって来るらしいから、僕にはサッパリだけど……理沙の、知っている人、か。それだと誰なのかを絞り込むことぐらいは簡単そうだけど」

 しばし記憶の海に網を投げ、その底から引き上げる。

「――さんか。あの子だよな、多分。ひょっとして理沙が喧嘩別れしてからずっと探している子って、ネムネムか? だとすれば、僕も知っている子だ。でも、ネムネムからはあの子の雰囲気がちっとも感じ取れなかったけど」

 感じ取れはしなかったけれど、現実でも会ったことがあるような気だけは感じ取った。それでも、理沙ほど確実性に欠ける。それに、理沙自身が僕に相談して来ない。


 僕から訊くべきか? いっつもここで下がって、それでなんとなく後悔してばっかりだし。


 そう思い、僕はスマホでメールを打ち、理沙に送る。すると返事はすぐに届いた。


「『今はそれよりも先にやらないと行けないことがあるでしょ』。自分のことより、周囲のことを気にするのは理沙らしいけど……ちょっとは自分を優先したって良いのに」

 それこそ僕に対しての言葉や行動と同じような姿勢を取ってくれれば、こんな僕でもほんの少しだけ力になることぐらいできると思う……そりゃ思うよ。思いたいよ。幼馴染みが困っているんだとしたら、その悩みを塵や埃ぐらいの量であっても軽減したいよ。だって、そういうものだろ、幼馴染みって。ずっとずっと傍に居てくれた理沙にそれぐらいの恩返しぐらい出来ると、思いたいじゃないか。

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