思わぬ頼み事
「お待たせ」
なにはともあれ、ログイン広場で三人と合流する。
「あ、スズ。丁度良かった」
「なにが?」
僕はルーティに訊ねつつ三人より前に出て、その陰で隠れて見えなかった話し相手の存在を知る。
「あなたは……」
「あなたがスズさん? こうやって話をするのは初めてですよね? どうも、こんばんは。ネムネムです」
リョウとしてログインしていた際、グッド・ラックに連れられてネムネムとは顔を合わせているが、そして大隊ミッションでは多大な迷惑まで被らせてしまっているが、スズとして会うのは初めてだ。なので、そういう方向で話を合わせなければならない。
「初めまして、スズと申します。アズールサーバーでアイドル活動をしている方とこうして話が出来るなんて、光栄です」
そんなサブカルチャーにさほど興味は無いのだが、彼女が彼女なりにこのゲームでやりたいことをやっていることはやはりリョウとして出会った時に知っているので、そこを否定することだけはやめておこう。
「有名な方ですよね? そんな方がどうして……もしかして、『Re;Burst』への勧誘ですか?」
「違う違う。まぁ、ちょっと勧誘はしてみたいかなとは思いましたけど、今回は見送ります。もっと別に、頼みたいことがありますので」
「頼みたいこと、ですか? あなたみたいな方が、私たちに?」
「私のギルドメンバーにリグリスってプレイヤーが居るんですけど――そちらの三人とは既に顔を合わせていると思いますけど、スズさんとは全くの初対面となりますから……ほら、挨拶」
言いつつネムネムは自身の後ろでコンソールからブラウザを開いてネットサーフィンをしていたリグリスに声を掛け、その背中を文字通り押して、僕たちの前に立たせる。
「……どうも」
「愛想の無い奴で御免なさい。ちょっと前の大隊ミッションで『スリークラウン』に酷い目に遭わされたので、未だに根に持っていて……まぁそれは私も同じなんですけど……なので、『スリークラウン』のメンバーとしてあのミッションに参加していたプレイヤーとだけは外したいとも思ったんですけれど、そもそもあなた方は『スリークラウン』に協力はしていましたがギルドメンバーでは無いようですから。私としてはそこで自分を納得させましたが、リグリスはまだ納得出来ていないようなので、こうして私が連れ添ってお願いする形となったわけです」
「ええと、どのような目に?」
「問答無用でリョウ……さんがけしかけて来まして、リグリスがボコボコにされちゃったんですよ。なんの理由も無く、脈絡も無く襲われた側としてはたまったものじゃないですよ。少しばかり私はその操縦技術が素晴らしいものだと思って、今後の参考にしたいとも考えていたんですが、そんな気持ちも綺麗サッパリ無くなってしまいました。あんな酷いプレイヤーは、初めてです」
どうやらカンカンに怒っているらしい。そりゃそうだ。リグリスの機体に唐突に襲い掛かって、嘘をついてボッコボコにしたのだから。むしろこういう評価が妥当だ。
「それは酷い。リョウさんってブラリ推奨プレイヤーですよね? 私も気を付けるようにします」
話を合わせる。僕の事情なんて二人は知らないし、あの時は僕も滅茶苦茶だった。だったら、二人の評価に基づいた対応を取る。
「そうして下さい。あと、『スリークラウン』はもう解散したそうです。大隊ミッションでのリョウ……さんとトモシビさんの暴走が大きな原因だそうですけど、本当のところはどうなのかは分かりませんが」
ティアがなにやら言いたそうな顔をしていたが、彼女の性格上、話の整合性の取れないことをポロリと口にしてしまいかねないので、ここは僕だけで話を終わらせたい。ルーティもシャロンも話の行方を見守っているように感じるし。
「それで、お願いってなんでしょうか?」
「話が逸れてしまってどうもすいません。では、お願いをさせて頂きます。あなた方が特殊ミッションに挑むという話を風の噂で耳にしまして、ここに居るリグリスもそのミッションに参加させて頂けないでしょうか? ランクは既に達していますので、特殊ミッションにはランク上げの必要無く参加できます。ただ、昔とは仕様が変わったそうなので、少々、不安がありまして」
「俺の保護者でも無いクセに」
リグリスがボソッと呟いた直後にネムネムがその頭をポカンッと叩いた。
「こんな、ちょっと捻くれたことを言ってしまうところはありますが、それっぽい敬語を遣うことは出来るはずなので、お願いできませんか?」
リグリスが一人称は『俺』であっても、それっぽい敬語を遣うことぐらいは知っている。僕もそれっぽい敬語なわけだし、口調云々を理由に断ることは出来ない……が、ここは三人の意見を仰ごう。
「どうします?」
「私は少し……だって、一人増えたらその分、動きに乱れが出るかも」
「私も今から一人の機体の特徴や短所を覚えて、どうこうするっていうのは……大隊ミッションの時はネムネムさんと合わせていたから、そこまで機体を見られなかったし」
「二人の意見に賛成よ」
しばし逡巡したのち、ネムネムたちに向き直る。
「分かりました。特殊ミッションの件、お引き受け致します」
「「「はい?」」」
後ろの三人が自身の意見とは真逆の答えをした僕に対し、疑問符を付けて困惑していた。
「本当ですか? ありがとうございます」
「ただ、確実にクリア出来るとは言い切れません。私たちはここに居る四人と、あと一人を加えての五人での攻略を考えていました。そこに一人加わるということは、各々の戦い方や得意な地形、不利な状況になった際のサポートの順序といったものにもう一人分加わるということになります。リグリスさんの機体の特徴も頭に入れなければなりませんし、不利な距離や、そして短所も考慮した動きも必要となります。そしてリグリスさんは私たち五人分のそれらを叩き込まなければなりません。今日から始めて、ゲーム内時間で一時間や二時間ぐらいでなんとかできるようなものでもありません。ミッションは野良とは違って、チームを組んで受注するものが大抵を占めますので、その場で初めて顔を合わせたメンバーでも作戦会議はします。今回は特殊ミッションで、仕様も以前と変わっていると聞いていますし、これをクリア出来ないとKnightにも乗れません。正直、引き受けたくはないと言いますか、そちらのギルドメンバーでこなしてしまった方が速いのでは、とも思いました」
ここで一呼吸置く。
「けれど、頑張れば出来ることを避けたくはありませんし、駄目元でもお願いされたことには出来る限り応じたいとも思います。内輪でクリアするだけならきっと、誰でも出来ることです。でも、それだといつまでも内輪で遊び続けるだけになってしまいます。私はもっと外に外に、意識を傾けてこのゲームを遊びたい。なので、ちょっと無茶かも知れませんが、リグリスさん? 私たちと上手く動きを合わせられるようにして特殊ミッションをクリアしてしまいましょう。挑戦する日時は、まだ少し先なので、今すぐというわけには行きませんけど」
「分かりました。突然の申し出を受けて下さり、非常に助かります。俺は少々、物覚えが悪い方ですが、ここまで言われて足が竦んで引き下がるような性根の弱さは持ち合わせていないので、皆さんの邪魔にならないよう、逆に皆さんの戦力として数えられるように尽力させて頂きます」
「それでは、決定ですね。リグリスさんのログインできる時間帯やスケジュール等をあとで教えて欲しいので、フレンド登録の方、よろしくお願いします」
早速、リグリスとフレンド登録をしようとしたところで、三人に後ろに引きずられる。
「なんですか?」
「なんでオッケーしたの? 意味が分からないわ」
「私にも分からない」
「説明してよ、スズ」
「いえ、言ったままですけど。内輪だけでなんでもかんでもやっていればそりゃ楽しいですが、新しさがありません。いつか飽きてしまいます。野良で遊ぶより内輪だけで遊び続けていたら、いつかダラけてしまう。楽であれば楽であるほど良いことではありますが、楽ではない攻略もそれはそれでゲームの醍醐味だと思いますよ? それに、『Armor Knight』で遊ぶ上で、リグリスさんやネムネムさんと顔を合わせる機会は次第に増えて行きます。ここで断って、ぎこちない関係のままで居るよりも、受けることで良好な関係を築くことで、『なんとなく会いたくないな』や『なんか遊び辛いな』という感覚から逃れることも出来ます。それに……ネムネムさんとはどこかで会っているような気がするんで、下手なことを言うと、嫌なことになりそうなので」
「そりゃ……そうだよ。ネムネムさんはきっと――」
ルーティがなにか言い辛そうに言って、そして後半部分はまるで聞こえなかったが、以前は全く知らない相手だと思っていたのに、どうやらテキトーに口走ったことが存外、当たってしまっていたらしい。あとでルーティに問い質した方が良いのだろうか、教えてくれるかな。教えてくれそうにないんだよな、この感じだと。
「はぁ、もう引き受けてしまったものね」
「バイオの断りも無く」
「そこは……あとでフォロー頼みます。でも、バイオさんもそれほどリグリスさんを毛嫌いするとは思いませんけど」
話は纏まらなかったが、強引に纏めた。その責任は僕が背負うことになるわけだけど、仕方が無い。リグリスにはリョウとして悪いことをした。本当の本当に、悪いことをしたと思っている。その罪滅ぼしの気持ちが、彼女たちが遠慮しているのにも関わらず強引な参加の許可を出してしまった理由であるのかも知れないが、しかし僕はリグリスに少しばかり同情してしまったという面もあるのではないかと思っている。
つまり、女の子に振り回されている感が強い彼を、なんとも放ってはおけなかったのだ。普段、現実でネムネムさんに振り回されていそうな気配がした。要するに、あの二人は現実でも知り合いなのではないかと僕の直感に頼った結果である。
けれど、悪い判断だったとは思わない。チームを組んでミッションを攻略するのが通常であるのなら、リグリスも同じランクだし、同じミッションに参加する権利はあるのだ。それにリグリスはむしろ僕たちには必要である。
パールは近距離、ヴァルフレアはヒット&アウェイ、オルナは中距離、キューキャットとアンブッシュは支援寄り。なので、もう一枚ほど近距離を任せられる機体があると安定感は高まる。まぁ、ここに至って遠距離を担当できる人が居ないのはもう諦めるべきことなので、近距離に強い戦い方を取って行くべきだろう。




