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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
218/645

相変わらずのグッド・ラック

***


「ここ数日、君たちの顔が見えなくて、ぼくの心は酷い痛みを伴った。だから、ぼくは気付いたんだ。これが恋、だと」


 楽しかったのか楽しくなかったのかよく分からない二泊三日の旅行から帰って来た次の日に『Armor Knight』にログインし、奈緒と啓二さんと大樹さんを除いた四人――啓二さんは仕事、大樹さんはバイト、大樹さんがログインしないので奈緒もログインしないから四人なのだが、あれやこれやと特殊ミッションに向けての各々の機体の特徴や弱点、そしてチームプレイなるものを研究していたのだが、グッド・ラックと出くわしてしまった。

 グッド・ラックが相変わらずであると『Armor Knight』も相変わらずなんだろうなと察しが付くので僕としては一つの基準としているのだが、僕を除いた三人は早々に委縮してしまっているので、放置するわけにも行かない。

「ただの病気かも知れませんので、診察を受けることをお勧めします」

「そうだね、これは恋の病という病気だ」

「……冗談抜きでウザいので勘弁してもらえますか?」

「ああ! 愛が重い!」

 いつも通りの感じなので、僕は三人に視線で促し、先に行ってもらう。あとは僕がテキトーにグッド・ラックをあしらえば良い。

「あなたに愛も感じていませんし、恋してもいませんが、あまり騒いでいるとウルドレッテさんやネムネムさんに怒られてしまいますよ?」

「確かに、ネムネムはともかくウルドレッテに怒られるというのは、ぼくのプライドが傷付くことだ。君にチクられない内に、ここは手を引かせてもらおう」

 手を引くもなにも、全くそのような話にはなっていないと思うのだけど。

「ああ、そうだ。君はリョウ君を知っているかい?」

「名前なら先ほどの三人から聞いています。ギルド間の大隊ミッションで、なにやらやらかしたそうで、総スカンを喰らっているようですね」

「ふぅむ、やはりそういう見解か。ぼくはワクワクしたのだがね。以前の、尖った彼が帰って来たと思い、この手で射抜いてしまいたいくらいだった。けれど、個よりも全を優先させてもらった。一対一ならば迷わず挑み掛かっていたが、あれはギルドとして参加させてもらったミッションだったのでね、仕方の無い話さ」

「……あなたの中で、リョウさんというプレイヤーはとても大きな存在に感じられますが」

 グッド・ラックに唐突に僕は訊ねていた。スズとしてなのか、それともリョウとしてなのかは分からないが、ずっと気になっていたことだ。どうして、グッド・ラックは僕のことをずっと評価し続けているのか。なにがあっても、その胸の中にある評価を落とさないのか。

「彼は突き抜けている。実に、見ていて清々しい。邪悪さもあそこまで行けば清々しい。けれど、やり過ぎは良くないとは思うよ。そういった点では大隊ミッションのことはやり過ぎだとぼくも思うけれど、それで彼のプレイヤーとしての資質まで、ぼくは貶したりはしないのさ。リョウとはこのゲームを始めた時期がほぼ同じでね。ぼくと違って、大きく育ったものだ。さすがに偉大という言葉は、向けられないかな」

 紫炎をゲームに誘い、そしてオブシディとゲーム内で出会い、ギルドを作った。だから、同時期にゲームを始めたのならばグッド・ラックには、僕も割とお世話になったことがあったかも知れない。あんまり記憶に無いのは、プレイングよりも女性プレイヤーへの迷惑行為の方が印象が強いせいだろうか。それにしても、その迷惑行為をいつ頃から始めたのかすら曖昧なのが、他人に興味を持っていなかった頃の僕らしさでもある……が、誇れることではない。

「サールサーク卿も本音と建前を使い分けているだけさ。彼も内心ではリョウ君を評価しているよ。評価していないとそもそも、目を付けるはずが無いのだから。まぁ、もうリョウ君とは大隊ミッションの一件で、絡むことはしないだろうね。まぁ、それでも、ぼくやミスター、ウルドレッテはさほどリョウ君に対して恨みみたいなものは抱いていないよ。恨んでいるとすれば、サールサーク卿を筆頭にネムネムとリグリス、あとはラヴィット・ハット。そして『スリークラウン』の面々と、巻き込まれたさっきの三人とバイオぐらいじゃないかと個人的には思っているね。長い間、ゲームをやっていれば誰だってやらかすものだ。そのやらかしたことをいつまでも引きずってグチグチ言い続けるっていう段階をぼくみたいな古参はもう通り過ぎているからさ」

 それは逆に、感情が希薄になってしまうというか、新しさが減ってしまってちょっとしたことには一々反応するのも煩わしいと思い始めていて、飽きそうになっている状態でもある。けれど、こういったゲーム内でプレイヤー同士が繋がりを作ってしまうと、なかなかそのゲームから抜け出せない。

 ひょっとしたら、グッド・ラックも惰性で続けているだけなのかも知れない。なにか、大きなことがあったらやめてしまいそうだ。

「難しいことはよく分かりませんけど、一つ気になったことがあるんですが、どうしてウルドレッテさんに怒られることが、グッド・ラックさんのプライドに関わることなんでしょうか?」

「ん、ああ。ギルドに入ったからには従うさ。たとえ罵倒されようとも、それはもう慣れたことさ。ぼくはぼくを演じていれば良い。けれど……ぼくにも事情がある。彼女だけには、そう頭ごなしに怒られたくないという、抑え込んでいる自我に、どうしようもなく黒く薄汚いぼくに、その声が(さわ)る。つまり、ギルドメンバーとして遊んでいる内は大目に見るけれど、グッド・ラックとして、そしてウルドレッテとして関わる場合は、私情がどうにも邪魔をするってところかな。それより、そんなにぼくのことを気にしてくれるなんて、やっぱり君はぼくのてん、」

「ありがとうございました。それではさようなら」

「ああ、ぼくの天使が去って行く!」

 この辺りで話を切らないと、もういつまでも喋ってしまいそうなくらいグッド・ラックには謎があり過ぎるので、待たせている三人のことも考えて出撃ゲート前から立ち去る。通常、厄介なナンパであればここで諦めずに付いて来るのだが、グッド・ラックはやはり追い掛けては来ない。


 なんだか少し、気掛かりだな。黒く薄汚いとか……闇が深そうだ。まぁ、ゲームをやり込んでいるプレイヤーの大抵は闇が深いものなんだけど。

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