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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
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勢いで話してはならない

 部屋のベルを鳴らして、理沙と倉敷さんに顔を確認されたのち、中へと通される。


 不審者か、僕は? 最大限、気を付けているみたいだから別に良いけどさ。


「大樹さんとどんな話をしていたの?」

「極めてプライベートな内容だから、話さない」

「嘘か真実か、顔を見るだけじゃ内容までは分からないかぁ」

 理沙は敷かれている布団に寝転がる。

「……ちょっと待ってくれないか。僕は頭がどうにかなってしまっているみたいだ。なんで川の字で寝る感じになっている?」

「涼が大樹さんと話している間に仲居さんがやって来て、敷いてくれたんだけど?」

「だからなんで川の字なんだって言っているんだよ。僕を間に挟む形にするとかなんなの? 新手の嫌がらせなの? 僕を殺す気なの? 布団を部屋の隅っこに動かすから」

 理沙、僕、倉敷さんという別々の布団を敷く上での典型的な川の字スタイルであるのだが、これだと僕は右を向いても左を向いても落ち着いて寝られやしないので、中央の布団を動かそうと手を掛ける。

「修学旅行じゃよくあることじゃん」

「修学旅行でも男女で寝ること無いんだよなぁ」

 理沙に難癖を付けられるが、これは無視した方が良い。

「立花君、私たち一緒に寝るのが嫌なの?」

「赤の他人が聞いたら勘違いしそうな台詞を吐いて僕を動揺させようったってそうは行かない。これに関しては僕は絶対に譲らない」

「そういう手段を取るということは、私たちに邪念があるということかしら?」

 邪な気持ちが無くとも、誰だってこうしないか? こうするだろ、多分。

「えー、涼が私たちが寝ている隙にゴソゴソするなんて信じられない」

「もしかして私たちの布団に入り込むつもりだったの?」


 これが男へのセクハラにならないんだったら世の中、終わっている。しかし、僕たちは高校生であり労働者ではない。だからって男性の権利や女性の権利が存在しないわけではないが、「セクハラに苦しんでいる」という言葉を持って行くべき場所が見当たらないのである。家族か? それとも学校か? なんかまともに受け取ってもらえなさそうだな。


「涼が私に変なことをするとは思えないけど」

「立花君ってヘタレだし」

「……へぇ、そこまで言うならこのままで行こうか」

「「え?」」

「驚いたってもう遅い。もう動かすのはやめた。一日ぐらい睡眠不足になろうが、人間は生きて行けると徹夜してゲームをクリアしたことのある僕は知っている」

 ただし、睡眠不足がとんでもない病気も呼び込むことも知っているので、睡眠時間は大切であることも知っている。しかし、旅行であるのならちょっとぐらい徹夜しても良いかというよく分からないテンションに至っているのもまた事実ではある。

「え、待って。今の、本気で言っているの?」

「本気で言ったから布団を動かすのをやめたんだけど?」

「涼、考え直す気は?」

「無いよ」

 二人が互いに視線を重ね、それからなにを言うでもなく急に俯き、そしてチラチラと僕を上目遣いで見ては、すぐさま逸らすようになった。どうやら僕をからかっているつもりだったのに、予定が外れて戸惑っているらしい。悪戯も度が過ぎると想定外のことになることをここで二人には知ってもらうしかない。

「た、立花君は寝ている隙になにかするような人、ではないわよね?」

「知らない。深夜テンションと呼ばれるものがあるから、寝付けなかった場合、僕もそのテンションでなにかやらかすかも知れない」

「ま、またまたぁ、涼のクセに冗談が過ぎるよ」

「冗談じゃないから先に言っておくけど、なにかしでかしたら御免」


 そして三人して黙り込み、空気が最悪になった。


 僕は悪くない……けれど、ここで素直に隅っこに布団を持って行けば良かったのに、からかわれて、そのままその勢いに乗ってしまった。反省しよう。けれど、もうこの雰囲気は立て直せそうも無いし、僕もここで引き下がるような気も起きないので、崩壊した空気の中でなんとか呼吸だけはして生き延びたいものである。


「寝る前にもやることあるけど、そんなに硬直されていたら僕も動いて良いか分からなくなるからそろそろ動いてくれなきゃ困る」

「ね、寝る前にやることってなんでしょう?」

 今の言葉のどこに敬語になるほどの緊張を受けるほどのものがあったんだと言いたいところだが、倉敷さんは布団の上でペタンと座り込んで動こうにも動けない感じらしい。

「いや、寝る前に歯を磨かなきゃならないし、着替えも鞄のどの辺りに入れていたか確認しておきたいし」

「あ、そ、そう。そうよね、それしかないわよね」

 あとはトイレやらなんやらと色々あるが、むしろそれら以外になにかあるのなら訊きたいところなのだけど。

「あーそれと、倉敷さんと新幹線で話していたことの答えがなんとなく出たから言っておこうかな」

 僕は枕元に自身の鞄を移動させ、その中にある着替えを確かめ閉じる。そしてスマホを取り出し、冬美姉さんへのメールを打ちながら、今日一日考えたことと大樹さんと話したことでなんとなく思ったことを滔々と言葉として零して行く。

「倉敷さんが身持ちの堅い人だと知って安心したのは、僕が少し独占欲が強いから。別にどんな男と仲良くしていようと別に僕にはこれっぽっちも関係の無いことなんだけど、それを嫌だと思うのは、僕よりもそっちの男との時間を割くのが多くなってしまうんじゃないかという不安から。要するに、僕に今と同じぐらい構ってくれるか、他の男よりも構ってくれないと僕が闇堕ちする。だから、他の男ともっと仲良くなりたいと思ったんならその時は僕にちゃんと話を……って、倉敷さん?」

 ふとスマホから視線を動かし、倉敷さんの様子を窺うとポーッとした表情で上の空であった。声を掛けたが反応が無いのはちょっと心配である。

「なんか変なこと言ったかな?」

 このままではなんとも崩壊した空気の中で僕が息を吸うことさえままならなくなるくらい、どうしようもない雰囲気が漂ってしまうので理沙に助けを求める。

「全然、変なことは言っていないよ。要は私と同じってことでしょ?」

「いや、理沙と同じはおかしいから。理沙は理沙で僕が闇堕ちしないように気を付けて欲しいし、倉敷さんは倉敷さんで、同じようで違うように気を付けて欲しいから」

「なんで私たちが気を付けなきゃならないの」

「だって僕の与り知らぬところでの出来事じゃ、僕は口も手も出しようが無いだろ。だから二人に気を付けて欲しい」

「うん、やっぱりちょっと涼は性格が捻じ曲がっている。自分でどうにかしようと思わないってところが特に。それに」

 理沙がズイッと顔を近付けて来る。

「涼だって気を付けて欲しいんだけど? 女の子と知らない内に勝手に仲良くなったりして、私たちと話す時間や遊ぶ時間を減らしでもしたら許さないんだから」

「あのさぁ、僕と仲良くなりたい女の子が居ると思う?」

「現に倉敷さんとは私が知らない内に仲良くなったよねー」

 痛いところを突かれた。

「それは……ネカマをやっていることを白状して、誠実に生きたいと思ったからで」

「私と知り合ったあとに、香苗と友達になったのは?」

 さっきまでポーッとしていたのに、息を吹き返したかのように倉敷さんが追い討ちを掛けて来る。

「それは、えーと……えーと、ネカマプレイがバレていたし、あとは理沙の一件もあったのと……えーと、それでなんで望月と友達になったんだと問われると、友達になれるかなーと思ったからで」

 倉敷さんと知り合ったのはネカマプレイを白状するためであって、別にそこからここまでの仲に進展させようと思った言動を取ったことは一度も無いわけで……けれど、望月となるとこれはまた難しいわけで。

 そうなると、望月は僕の中でイレギュラーだな。こうやって質問されたら、なんで友達になろうと決心できたのかが悩んでも出て来ない。ただ、なんか……打ち解け合える間柄にはなれそう、みたいなところがあったというか……いやだってネカマプレイがバレていたし、同じ高校だし、そんなゲームの遊び方をしているとバレたら僕の高校生活終わるし。


「口止めのためかな」

 言って、あっこれ絶対に駄目なパターンだと気付いた。


「……立花君、それは香苗に向かって絶対に言っちゃ駄目だし、それ以外の理由が絶対にあると思うわ」

「そのためだけに友達になったんなら、ただのクズでサイッテーな男ってことになっちゃうから、もっと言葉は考えて選ぼうよ。ここに香苗ちゃんが居なかったのが、本当に良かった」

 案の定、引かれていた。でも、これはパッと思い付いた言葉をそのまま口にしたせいだ。二人はなんにも悪くない。

「はい、御免なさい。僕が悪かったです」

「はぁ……でも、立花君の口から『僕は悪くない』じゃなくて『僕が悪かったです』って言葉が出るだけマシなのかしら」

「まだ聞くことがあるけどねー『僕は悪くない』」

「声真似までする必要無いだろ。あー、なんか嫌な汗掻いた。歯を磨いて、もう寝る。なんか疲れた」

「あの、立花君? 布団は?」

「もう動かす気になった?」

「その案件はもう終わっている。言っておくけど、布団云々の話は絶対に僕は悪くないから」


 そう、理沙と倉敷さんに挟まれる形で布団で寝ることに関しては、絶対に僕に非は無い……多分!

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