ゲームコーナー
倉敷さんが検索した攻略情報サイトに載っている内容をみんなで確認し、あーでもないこーでもないと話している内に午後八時半を回った。ここのラストオーダーの時間にはまだ早いが、打ち上げでも宴会でもない中で注文もせずにいつまでも居座り続けるのも良くないということで、食事代は割り勘――しかし、大樹さんと啓二さんが多めに払うという形で支払いは終えた。
「女性と食べに来た時は男性が基本、奢るものらしいけど?」
「へぇ、そういう話をよく聞くけど、倉敷さんもその意見に賛成派なんだ?」
「賛成ってわけでも反対ってわけでもない。自分が大して会話に参加していないのに食べるだけ食べて奢ってもらおうだなんて考えはしたくないし、自分がどれだけ盛り上げても割り勘って言われたら、それはそれでなんか腹が立つだろうし。私の高校の友達は圧倒的に男に奢ってもらえ派が多いみたいだけど」
「……なんて言うかなー。こう、食事を始める前から、自分はもう奢ってもらうつもりですみたいな態度を出している女の子には奢りたくはならない。奢りたくなるのは、会話が弾んで、場が盛り上がったら……とか。あとは、嘘でも良いから、褒めてくれたり良い気分にしてくれると、その食事の時間が楽しめたってことで奢りたく、なるのかなぁ」
「その言い方だと、基本的に立花君は奢らなさそう」
「よく分かったね。奢るとすれば、っていう想定だから現実味を帯びていないから、参考にしなくて良いよ。最後のなんてキャバクラに行って引っ掛かるような男の考えそのものだと思うし」
要するに僕はキャバクラに行ったら引っ掛かるような男である可能性が高い。女の子からチヤホヤされたり、褒められたりすることってあんまり無いから、もう言われるがままにお酒を開けそうだ。興味はあるし行きたいけど、行ったら人生が終わりそうだ。パチンコや競馬、競輪、競艇なんかも似たような感じで、ハマったら抜け出せなくなりそうだ。ギャンブルってのはゲーム性も若干ある分、気を付けなければならない。
「まぁ、女の子と食事ってだけで奢る自分カッケ―、みたいなこと考えている輩よりはマシなんじゃない? 奢るべきかどうかを考えることができるんだから。でも、割り勘って言われたら、その時はショックかも知れないわね。あーその程度にしか見られていないんだ、みたいな気がするから」
「なんかリアルだな。これって、理由も無く食事で男が奢るのが当然っていう考えの賛成か反対かの話だったよね?」
「そうだったけど、そうじゃなくなったかも……気にしないで」
僕はそれほど人生経験が豊富ではないけれど、こういったケースで発言される「気にしないで」は大抵、「気にして欲しい」という言葉の裏返しであることが多い。もっと具体的に言葉にしたいな。そうすれば、こういう風に後ろ髪を引かれるような言葉で会話が終わらないはずだから。
大樹さんたちを追い掛けるようにやや早足でエレベーターまで行き、みんなでゲームコーナーに移動する。
「涼の兄貴ー、これは取れそう?」
「初期位置だろそれ。取れないよ。取ろうとしてもお金が掛かる。それに、なんのアニメかは分からないけどフィギュアなんて取ってどうすんだ」
「そりゃパンツのクオリティを確かめるんだよ」
「お前、妙なところで、なんていうか……悲しいな」
変態じゃないか。しかも堂々と言うなよ。ゲームコーナーは音が大きいからその分、声も張らなきゃならない。時折、ゲーム音よりも人の声が耳にスッと入り込むことがあるから、他のお客さんに聞こえてしまっていたらどうするんだ。
「取れるのは、そこの海の生物の小型クッション、アニメのマスコットキャラのぬいぐるみ、それとそっちのアクセサリーかな。キーホルダーは奥行きで分かりにくいけど、引っ掛ける場所が限られているから取り辛い。取れと言われれば何回かは挑戦するけど、一発では絶対に取れない。いや、どれも一発じゃ取れないけど」
「そんなに取れるもんか? 俺にはサッパリだな」
「遊んでいるイメージがあるのに、こういうのは駄目なんですか?」
「レースゲームと格ゲーしかやってなかったからな……なんだその目? リアルファイトはやってねぇぞ?」
対人戦系統のアーケードゲームは対戦相手がすぐ近くに居る分、リアルファイトが起こることがあったりなかったりするらしい。なので、そういう視線を向けていたが見抜かれ、そして否定された。
「問題を起こさないで下さいね?」
「起こさねぇよ。ゲームで殴り合っても、リアルで殴り合ってなにが楽しいんだよ、マジで」
後半は少々、啓二さんにしては聞き取り辛いくらい尻すぼみだった。気にはなったけど、ここで変に突っ付くのは空気が読めない感じがするからやめておこう。
「涼の兄貴ー、これはこれはー?」
「だーかーらー、さっき言ったやつ以外は取れ……あー、それは取れそうだな」
僕は呟き、奈緒の傍にある筐体を覗き込む。
「フィギュアの箱……引っ掛ける位置は……あー、下がラバーか。滑りにくくしてんだよなー……でも初期位置からはズラされているっぽいな。何人かチャレンジしたのか。おかげで角度も変わっている。これだと右のアームで引っ掛けるのが定石だけど、左があの位置に喰い込めば……でもそれだと倒すだけか。倒したら絶対届かなくなるから担当者呼ばなきゃならないし、それでまた初期位置に戻されたりしたら嫌だし……やっぱり右のアームが大事だな。だとすれば……三回ぐらいか」
「アームってお金を入れれば入れるほど強くなるってほんと?」
「クレーンゲームは大体そう。ただアームパワーには乱高下するタイプの物もあるし、規定金額を越えると急に強くなるやつもあったりで、特徴を掴めなかったら素直に諦めるべきだなー。筐体を使用されている頻度でも変わったりもする。まぁ基本的に弱いよ。僕が小さい頃に挑戦した筐体よりは絶対にアームの初期設定は弱められている。あーでも、子供が一杯来るような、あと景品がそれほど高額じゃないものだったりするとアームパワーを一定のままにしていたりとか、」
「長い。取れるの取れないの、どっち?」
奈緒が訊いて来たクセに奈緒に話を切られてしまった。
「なんで女の子が女の子のキャラクターフィギュアを欲しがるんだよ」
「これこの前に録画して見ていたアニメのヒロインなんだよねー、割とあたしの好みの性格していたから欲しい」
「女の子ってフィギュア持っていたら気持ち悪いって思うもんじゃないのか」
「男が持っていたらそりゃキモいけど、あたしが持つ分にはキモくないからヘーキ」
男には辛いフィギュア事情である。
「立花君、あのぬいぐるみ取れるの? 取れるなら欲しい」
「は? なんで望月が」
「取れるの?」
「……その、取れっていう眼差しが怖いから取ります」
「涼、あのチェーン型のネックレスって取れる?」
「ゲーセンのネックレスなんて大概が安物、」
「取れるの?」
「取ります」
さっきから無茶苦茶なんだけど、なんなの。僕をなんだと思っているんだ?
「あと倉敷さんは?」
「私は……別に」
「その取って欲しいオーラ出されていたら、気になって仕方が無いんだけど」
「……じゃぁ、あのクッション」
幾らぐらいで収まるだろう。それは僕の技術力と、あと運次第になる。でもこういうところで、しかも奈緒はともかく女の子に凝視されている中でアームを動かしたことないから、失敗続きになるかも……あれだけ啖呵を切っておいて、それはちょっと、嫌だな。
「自信を持て。それに関しては、君は得意と言い切れるんだろう? なにも気にすることは無い」
大樹さんには後押しされているが、この後半部分には「君が取れなくても俺が取るから」が含まれていない。僕の操作を見て、把握して、そして試して、覚えて、結果を出すつもりでいる。
それは何故だかなんとなく嫌だと思い、すると自然と全神経が勝手に昂ぶり、集中力が増して行く。
しかしながら、頭では分かっていてもアームの操作を自由自在にとは行かず、全員の要求する物を手に入れるまでには、自身が設けていた金額以上の出費となってしまった。それでも、みんなが喜んでくれたので想定を超えた出費に関しては、今回だけは目を瞑ることにする。今月は買いたいゲームも無いし。
「おい、挑戦三回目でもうキャラのコンボを把握して入力も速くなってんだが、あいつは化け物か?」
僕が苦労していた間、格ゲーで気晴らしをしていた啓二さんをどうやら大樹さんがそろそろ圧倒し始めたらしい。途中で大樹さんの姿が見えなくなったのでどうしたのだろうと思ったら、啓二さんと対戦していたようだ。
「全部、僕が取ることになったんですけど」
啓二さんは取り敢えず、放っておいて反対側に座っている大樹さんに僕は愚痴を零すように言う。
「最初は危なっかしかったが、二回目からは集中も更に増していたように見えた。だから、全て任せた。それに君は取れないからと俺に泣き言を言いには来ない。良い意味でも悪い意味でも」
僕の質問に答えながら大樹さんは啓二さんの操るキャラクターを異常な速度で入力するコンボによって圧倒していた。
「それと、このあとなら時間がある。俺も君の姉について言いたいことは早々に口にして、すっきりしたいところだ」
「分かりました」
ああ、嫌だなぁ、女の姉の話を聞くなんて精神が持つだろうか。吐き気を催さないか心配だ。




