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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
208/645

妹二人

♭♭♭


「香苗さんって、涼の兄貴のこと狙っているんですか?」

 奈緒は畳で横になり、右に左に寝返りを打つようにゴロゴロと転がりながら、鞄の中身を整理している香苗に訊ねる。


「え、いつの間にそういう話になっているの?」

「なんかそんな感じがしたんですけど、違うんですか? 香苗さんって見た目で決め付けてしまっていて申し訳ないんですけど、あんまり自己主張したがらない方だと思っているんです。でも、割と涼の兄貴には自己主張しているように感じられたので」

「自己主張は、確かにあまりしないかな」

 香苗は鞄を閉じて、座椅子に腰掛ける。

「立花君は、イジっていて面白いって言うか、イジりたくなる感じがして、つい。とても嫌がりそうなことは避けているつもりではいるけど……気を付けないと行けないかも知れない」

「じゃぁ、香苗さんは涼の兄貴を狙っていないと?」


「うーん、向こうから『付き合って』って言われたら付き合うかも。そんな感じ。こっちから『付き合って』って言うのは、なにか違う感じがする。負けた気になる……? ううん、違うな。ちょっと難しいね……けれど、私が積極的に動いているように見えたり、喋っているように見えるんだったら、それも少し違うんだよ」


「ふぅむ、違うんですか」

「ぶっちゃけて言うと、あの二人にもうちょっと立花君へ攻めてもらいたいから、焦らせるのが目的かな。焦られるのが目的なのに、立花君が私の方を向いちゃったらそれはそれで仕方が無いとして受け入れる、みたいな? だから『付き合って』って言われたら、付き合う」

 香苗の暴露に奈緒は上半身を起こして、大きく背伸びをする。

「やっぱり、そう思います?」

「幼馴染みさん――理沙は最初からそうだったけど、倉敷さんは最近、怪しいなって」

「怪しいですよね、確実に涼の兄貴に引きずり込まれていると思います」


「まぁ、立花君はアリジゴクみたいだよね。男女問わず、興味を持てば持つほど引き寄せられる。だって、あの兄さんが毛嫌いしながらなんだかんだ気に掛けているくらいだし……普通、あり得ないことだから」

「あたしの兄貴も、涼の兄貴については評価しているんですよね。涼の兄貴だけでなく、そのお姉さんについてもですけど。あの偏屈を通り越した、ただの奇人変人の兄貴が特定の誰かにいつまでも執着するというか、気にするっていうのはあり得なかったと思うんですけど」

 互いの兄について、「あり得ない」と若干ながら貶したのち、互いに小さく笑う。


「私の兄さんも相当だけど、あなたのお兄さんも?」

「奈緒って呼んでくれて良いですよ? それと、質問の答えですけど、あたしの兄貴も相当です」

 気付けば奈緒は香苗の隣の座椅子に腰掛け、人懐っこそうな瞳で彼女を見つめていた。

「変な兄を持つと苦労するよね」

「はい、もうなんか色々大変です」

「でも、妹として兄の面倒はしっかりと見ないと」

「その通りです。あたしはまだ、面倒を見られている側ですけど、いつかちゃんと面倒を見てやろうって思っています」

 『兄』の話題で意気投合しつつ、少しばかり間を空ける。


「立花君、今頃、どうしていると思う?」

「涼の兄貴のことですから現実逃避をまずしていると思います」

「ギャルゲーのイベントを一気に処理している気分だーとか言っていそう」

「ああ、言っていると思いますよ? あと、香苗さんと部屋を替わりたいとも言っていそうです。涼の兄貴は、あたしとだと物怖じしないんで」


「立花君のそういう、自分に対しては気を許す感じ、どう思う?」

「涼の兄貴も大変だなぁと。あたしぐらいしか癒しが無いんだと思います。同い年の異性と同室になること自体、嫌がっていたみたいですし、幾ら幼馴染みとは言え、理沙さんも異性ですからね」

「立花君、やっぱり年下には好かれる体質なんだ?」

「言っていることが破綻している分、年上っぽさがありませんし、ちょっと命令口調で指示を出して来ても、あとでサポートに入ってくれたりしますし、タメ口についても文句は言っても、敬語を強制するように怒っては来ませんし、こっちが多少、強引な命令口調でも『ふざけんなよ』の一言ぐらいで済ましてくれて、ついでに言ったことをたまに実行してくれますから」

「たまに、なんだ?」

「そのたまに、が良いんですよ。なんでもかんでも命令に忠実過ぎる年上の人なんて気味悪いですけど、こっちが天狗にならない程度に俗に言う飴と鞭をくれるんで、話していて飽きないですよ。まぁ、ドン引きするようなことを言ったりもしますし、空気の読めない行動を取ったりもしますけど、それはあたしも同じで、ここも年上っぽさが無いのが良いですね。あと、なんだかんだで話し相手にはなってくれます」

「ちょっと好感度が高すぎる気がするけれど……立花君、本当に年下には好かれるんだ……」


「あたしは涼の兄貴、大好きですよ? あ、ラブじゃないですよ? 若干、ラブよりのライクです」


「……それ、私に話して大丈夫なこと?」

「え、なにか問題ありました?」

 あっけらかんとしている奈緒を見て、香苗は何故だか安堵の息を零す。

「私以外には言っちゃ駄目だよ、そういうの。特に立花君や理沙、倉敷さんには……あと、奈緒ちゃんのお兄さんにも」

「香苗さんだから言ったんです。香苗さん以外にこういうの言えませんよ。羽織にも……あと、花美にも」

「羽織……ラヴィット・ハットの子?」

 奈緒は小さく肯く。


「立花君の無責任が原因だけど、それでも立花君を嫌いにはなれない?」

「無責任が原因なら、責任を取ってもらうしかありません。それに、羽織についてはあたしもちょっとやり過ぎていましたから、あたしにも原因はあるんです。ほんのちょっとだけですけど、原因があるんなら、あたしだって責任を取ります。責任を取って、もう一回、友達になるんです」

 強い眼差しと、そして握り拳を見て、香苗は微笑む。


「それぐらい強い意志があるなら、きっと仲直りできるよ」

「まだまだ、近距離だとボロボロに負かされるんで、兄貴に特訓してもらっている最中なんですけどね……でも、諦め切れませんから……なにがなんでも、また、三人で遊ぶって思っています」

「強いなぁ」

「香苗さんにはそういう人は居ないんですか?」

「私? 私は……因縁とか幼馴染みとか親友とかは居ないし、兄さんのことは立花君が片付けてしまったから……ああ、でも、一つだけ」

「なんですか?」


「兄さんは、まだなにか抱えている。でも、私にそれを話してはくれない。話してもどうにもならないことだから、ってこともあるんだろうし、兄としてのプライドもあって話し辛いってこともあるんだと思う。そういうのは妹の私はお見通し。でも、もしもそれを私に話すことがあったなら…………全力でその悩みを解決するために手伝おうとは思っている、かな。妹が首を突っ込むようなことじゃなくっても、妹に打ち明けてくれることを、私は待つ。そうしたら、兄さんのことをもっと知ることが出来ると思うから……」

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