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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
206/645

判明

「――それでは、ごゆっくりおくつろぎ下さい」

 旅館の方が部屋の説明を終えて、なにやら複雑そうな顔をして扉を閉めた。その複雑そうな顔をした原因は、後ろで部屋の広さと綺麗さに感動している二人の女の子のせいだろう。そりゃ女の子二人と一緒に男が一人、部屋に混じるとそういう顔をするよ。


 あみだくじは奈緒、望月。大樹さんと啓二さん。そして僕、理沙、倉敷さんとなった。理沙と倉敷さんですらこの結果には驚いていたので、恐らく本当に僕と同室にはならないと思っていたに違いない。一言で表すならば、誰も望まない結果となった。

 こんなもの、あみだで決めたことなんだから、冗談で押し通せばなんとかなりそうなものだったのに、みんな律儀にこの結果に従った。これがあみだくじの魔力である。全員で「あみだくじで決めよう」という提案を受け入れ、そして提案した側もそれを認めた以上、どのような結果になっても文句の一つさえ口にせず従う。賛成した手前、異議を唱える隙を与えられず、提案した手前、出てしまった結果について撤回する術を持たせない。くじ引きとは、あみだくじとは、そういう強い魔力を帯びている。だから僕も、こうなってしまったことを受け入れるしかないのである。何故ならば、全員が異を唱えなかったから。日本人は周りの雰囲気に呑まれやすい性質とよく言われ、時折、ネタにもされたりするが、僕だけは個を大事にして生きてやると思っていたのに、あみだくじの前では全てが無力だった。なんなんだろうな、あの独特の空気感……空気感という言葉を僕が遣う日が来るとは思わなかった。

「なんだろう、ギャルゲーで溜め込んでいたイベントを一日掛けて処理しているみたいな……」

 今日一日で、理沙、望月、倉敷さんとのゲームで言うところの『強制イベント、スキップ不可』な出来事が連続して起こり過ぎている。こうも詰め込まれてしまったら、もう頭が働かない。女の子との接点が中学三年生くらいからほとんど無かった分の反動が来ているのなら、この先にあるだろうそういった数々の出来事は、ここで消化し尽くしてしまうのではないだろうか。要するに、灰色の青春が手招きしているように感じられる。だからって今、青春しているかと問われれば甚だ微妙なのだけど。

「また変なこと言っているし」

 理沙に呆れられたが、こうなったら現実逃避するしかないだろう。誰だって現実逃避するだろう? この根暗で物静かで人見知りな僕が、女の子二人と同室とか地獄だろ。向こうだって気まずい雰囲気が流れたらどうしようとか考えるだろ。気を遣って、よく分かんない雰囲気になるだろ。理沙のおかげで僕にはまだ救いの手が差し伸べられる可能性があるが、倉敷さんについてはそれが無い。いや、理沙と仲が良いから、僕が空気のような存在になる場合もある。


 なんでこういう微妙な部屋割りになった時って、なんとかして話し相手や仲間っぽい人を探そうと努力するんだろう。見知った仲でもこんななのだから、高校生活の上で控えている修学旅行で一体、僕はどのようなことをやらかすのか……不安の種が増えてしまった。


「望月と部屋を変わって良い?」

「立花君、霧崎さんの妹さんと一緒が良いの? ロリコンなの?」

「なにを言われたって、奈緒と同室の方が僕は穏やかな気持ちになれる」

 奈緒はテキトーにあしらえば良いし。いや、テキトーって言っても、あまりにもテキトー過ぎるとあいつは怒るから、ちゃんと構ってもやる。そういった、子供扱いをあいつは嫌うだろうけど、いつものノリで話していればとにかく気楽であるし、なにも意識することも無いしで、とにかく理沙と倉敷さんの居る部屋で長時間、過ごしたくないのである。「ごゆっくりおくつろぎ下さい」などと言われたが、真っ平、御免なのだ。

「一度決まったことを変えたら、大樹さんは怒ると思うけど?」

「この際、怒られて投げ飛ばされても良いかなって」

「私たちと同室なのがそこまで嫌だとは思わなかったわ」

「むしろ喜ぶことじゃないの?」

「大多数の男と一緒にされたら困る。僕は少数の男だ」

 堂々と言うことじゃないのに、堂々と言っている時点で僕のテンションが限りなくおかしくなっている。

「立花君、ちょっと深呼吸しない? 前みたいなテンションだから」

 それは倉敷さんにも伝わっていたらしく、僕は言われた通り、深呼吸を繰り返す。


 それほど人と関わりたくないのに、関わらなければならない状況。それに対して僕はストレスを感じている。理沙が居ようが、それは変わらない。一人切りで、静かな部屋で過ごしたい。でも、それはどうやら無理なようだ。

 外出している。旅行に来ている。それだけでも結構、負担が掛かっている。でも、これは渋々了承したけれど、僕が望んだことだ。断ることだって出来たけれど、断らなかった。だったら、現状を受け入れるべきだ。


「でもやっぱおかしいと思わない? 現状を受け入れるべきだと判断したけど、なんか納得行かない」

「涼の直感ならあみだくじで、大樹さんや香苗のお兄さんと同じ番号を選べたんじゃないの?」

「そこまで万能だったら今、こうして変なテンションになっていないよ。深呼吸をして少しだけ落ち着いたけど」

「狙って私たちの部屋割りに入ったわけではない、と?」

「倉敷さん? 僕がそんな狙って女の子の部屋を直感的に選ぶような甲斐性のある男に見えるかい?」

 ああ、と倉敷さんは呟き、納得したらしい。

「なっちゃったものはしょうがないんじゃない? みんな、誰一人として文句も言わなかったんだから、一人だけ特別扱いは駄目」

「それは僕も思う。みんなに甘えちゃ行けない。でもさ、ちょっと愚痴りたくもなるじゃん? 僕は男で、君たちは女の子なんだから……なにかあってからじゃ遅いよ」

「なにかする予定なの?」

「いいや、別に」

 倉敷さんの問いに即答する。

「……涼の言い分は分かるけど、たまぁにイラッと来る部分が出て来るのが、なんかこう……涼だなぁって、思わされるというか」

「即答できる辺りは信頼できるけど、それはそれで腹が立って来るわ」

 なにやら二人は僕の言動にイラッと来るものがあったらしい。

「悪気は無い……悪気は、無い……と、思う。自分でも、そういう風にしか言えないのが残念なところなんだけどさ。うん、ほんと、悪気があったら嘘を並べ立てて部屋から出ていると思うし……」

 しかし、どれだけ愚痴を並べ立てても、なにかが変わるわけではない。

「分かった。まだグチグチ言いたいことはあるけど、呑み込む。二人も僕への文句を沢山、呑み込んで来てくれているんだし……」

 誰だって文句や苛々を呑み込んで、その日その日を生きている。僕だけずっとワガママを突き通せるような甘い考えは捨てるんだ。そう、僕はなにもかも甘えが多すぎる。もっと、現実を直視しよう。

「この部屋割りが一日限りなのか、明日になったらまた変わるのかは別として、今日はよろしくお願いします」

「……立花君、なんかエロいこと考えてない?」

「普通に挨拶しただけでエロいとか、逆に倉敷さんはなにを考えているのかを問いたいところだね」

 別に正座して三つ指立てて、礼をしたわけでもないのに「エロい」とは、普段の倉敷さんがなにを妄想しているかを疑う。それじゃ僕のやることなすこと全部、エロが目的で原料となっているみたいで不愉快だ。

「いえ、その、御免なさい。なにをよろしくなのか分からなかったから」

「それは確かに言えるかも」

「じゃぁ僕はなんて言うべきだったんだよ」

 見解の相違というやつか。チェックインして早々にこれだと、夜まで耐えられるだろうか。

「言っておくけど、僕に(よこしま)な気持ちは無い。人畜無害なヘタレだから」

 頭の中は妄想に引っ掻き回されているけれど、その衝動に駆られて動こうなどという勇気は無い。自分でヘタレと言うのは、かなり、いや相当な精神的ダメージがあったものの、これは言っておかなければならないことだ。


 そう、なんにもしない。なんにも出来ない。お子様レベルの恋愛感情しか抱けない僕には、そこまで至る勇気も行動力も無い。それで性の衝動に駆られたら、それはただのケダモノだ。そうして分かっているからこそ、理性だけは、本能や欲望には屈しない。“歪曲化”していた僕も、そこまで女性にどうこうしようなどという危ない感情を抱かなかったし。むしろ、ゲームでの“痛み”に興奮していた変態だったし。


「立花君立花君」

「二回呼ばなくても聞こえているけど、なに?」

「それ、人畜無害とかヘタレとか聖人って言わない」

「……え?」

「高校生男子が性衝動に駆られたり、性欲が有り余って興奮したりしないとか、世間一般的にはあり得ないことだよ、涼」

「じゃぁ僕のこれはなんて言うの?」

「「()れているって言うの」」

「……枯れ?」

「性に対して興味があっても、興奮しない、衝動を抑えることができてしまう……その、一部に生物学的反応が起こらないことは、枯れているって世間一般的には言ったりするわ」

 生物学的反応という分かりにくいようで分かりやすい造語のような造語じゃないような言葉を遣って遠回しに説明していても倉敷さんはどこか恥ずかしそうだった。

「要はお爺ちゃんなの。涼の大事な部分が」

 これは「男性に対するセクハラだ」って叫ぶべきところなのだが、言われたことへのショックが大きすぎて、言葉が出ない。

「お爺ちゃん?」

 だから反芻するように、鸚鵡返し気味の言葉を零す。

「そう、お爺ちゃん」

「立花君はお爺ちゃん」

 畳み掛けるように言われ、僕は項垂れる。


 お子様ではなくお爺ちゃんだった。悲しい事実がここに判明した。

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