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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
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あみだくじ

 現実でナンパされるというのは女の子にとってステータスになるものだと思っていたんだけど、想像以上にグイグイと来られてタジタジだったらしい。なので、大樹さんと啓二さんが目を光らせることとなり、倉敷さんと約束した一緒に泳ぎに行くという余裕というか、そういった雰囲気は無くなってしまった。むしろ集団で行動することを重視するようになったので、全員で焼きそばを食べたあとは泳ぎに行ったり、砂浜で遊んだり、海の家でかき氷やアイスを食べ、レジャーシートに戻って雑談している内に時は流れて、チェックイン予定の時間まであと三十分というところで切り上げた。


 倉敷さんとはあとで二人切りで話をして、約束を守れなかったことを謝らなきゃならないだろう。けれど、ナンパされたあと、どうも理沙も倉敷さんも疑心暗鬼なのか知らないけど、こっちをチラチラ見て来る。視線を合わせようとすると逸らされる。僕だって視線を合わせるのには結構な勇気が居るけど、そうやって避けられると割と精神的にダメージが大きいんだなと知った。なので、普段から視線を逸らしまくっている僕に、呆れながらも構ってくれるみんなはかなり根性があると言って良い。


「そう言えば、助けてもらってありがとうございました」

 砂を落とすためのシャワーを浴びたあと、タオルで体を拭き、着替えている最中に二人に向かって言う。

「持ち場を離れたのは俺の責任でもある。感謝されることではない」

「あの、大樹さんと啓二さんはどこに行っていたんですか?」

「海で遊んでいる女性だけを狙った盗撮魔を見つけて、巡回に来ていた警察に連れて行っていた」

「俺はレジャーシート広げていた近くでビールを飲んで酔っ払っていたのか知らないが、うるせぇから注意にしに行っていた。俺が注意すると青褪めて、片付けていたが空き缶を放置してどっか行きやがったから、それを抱えてゴミ箱に捨てに行っていた」

 正義感を振りかざしているわけではないのだろうけど、この二人が居ると割となんでも問題が解決できてしまうのではないかという錯覚に陥ってしまう。

「あんまり危ないことには首を突っ込まないで下さいよ?」

 しかし、二人にだって限界はあるし限度もある。やり過ぎないことだけが気掛かりだ。旅行ってテンションが上がってしまって、気が大きくなるって言うし、無茶なことをしでかさないか心配になってしまう。


 ……あれ? 啓二さんは心配しなくて良いんだっけ? まぁ、助けてもらったし心配しているフリだけしておこう。どうせバレるだろうけど。


「それにしてもあいつら、ゲームでナンパされている割に、強気に出られなかったのはなんでなんだろうな」

「ゲームは気を付けさえすれば自分の情報をほとんど晒さずに済みますけど、現実だとちょっとした一言で一気に崩されてしまいますから、それが怖かったんじゃないですか? あと、実害を伴う場合があります。無理やり腕を掴まれたりとか、一緒に写真を撮ろうと誘われたりとか、あと痴漢紛いのことをその場のテンションだけで済ますみたいな。それに、現実にナンパされるなんて奈緒も含めて四人とも、初めてだったんですから対応できないのは、無理もないですよ」

「まー女でも強い奴は強いんだけどな。そういや、テメェらは高校生だったか。テメェのせいですっかり忘れていたわー」

「僕のせいですか?」

「テメェ、高校生みたいな目付きしてねぇんだよ。世間を斜めに見ていて、頭ん中はドロッドロ。薄気味が悪い。今回だって、香苗から聞いたが貝殻の破片なんざ護身用に携えやがって、もう考え方がヤバいんだよ」

 それは大人に見られているということに含めて、同時に「ガキのクセに背伸びして大人っぽくなろうとするな」という意図もあるように受け取れた。ただ、ほとんどが悪口なのが腹の立つところである。しかし、ほとんど事実なので言い返せない。

「俺は、友人がナンパされている現場を見て、しかも年上と見てくれから判断できた中で、それでも見捨てずに自分のやり方で挑んだことだけは評価する。だが、彼の言うように貝殻の破片はやめておいた方が良い。君だけでなく、友人も傷付く」

「……はい」

 渋々、肯いておく。


 僕たちは着替えを終えて、旅館のロビーにある椅子に腰掛け、女性陣の着替えが終わるのを待つ。海水や太陽光は肌荒れ云々と言っていたので、水着への着替えと同じぐらい待たされるだろう。あと砂を落とすのも大変だ。この旅館にあるような専用のシャワールームを使えるなら構わないが、通常のシャワールームだと間違いなく目詰まりを起こす。なので、旅館の露天風呂を利用するなら、念入りに砂は落としておきたいはずだ。あと海水と砂は髪の毛にもダメージを与えるし、ほんと女の子って大変だな。倉敷さんは髪も長いし、この辺りは一苦労するはずだ。


「水着に着替えて待っている時よりは気楽そうな顔をしてやがるな」

「だってロビーで待つ上で、暑い要素ってありますか? 空調設備が整っているところで待つ分には幾らでも待てますよ。ソファも椅子もありますし。なんなら雑誌や新聞を読む余裕だってあります」

「テメェはほんと、自堕落だな」

「違います。文明の利器に生かされているんです」

 よく分からない反論をしつつ、啓二さんとああだこうだと言い合っていると、女性陣が行きしなの衣服に着替えてロビーに現れた。

「フロントで手続きをする。倉敷君は、同意書を持って一緒に来てくれるか?」

「はい」

 倉敷さんは手荷物からクリアファイルに収められた同意書を片手に、大樹さんと共にチェックインの手続きをするためフロントへと向かった。これでフロントで二度手間ではあるが預けている荷物も本人確認が取れ次第、手元に戻って来るので、あとはそれを部屋に運ぶだけだ。別に預けている荷物から同意書を取り出し、それを見せても問題は無いはずだが、手続きを円滑に進めるために、同意書はすぐ取り出せる方へと移していたのだろう。


「涼さぁ」

 僕の隣に座っていた理沙が唐突に呟く。

「前だったらあんな風に守ってくれる感じ、無かったよね」

「突然、なにを仰いますやら」

「放置するんじゃないかって一瞬、思った」

「僕がゲームで人生を壊し掛けていた時、自分で自分をなんて言っていたか知っているだろ。僕は“弱者を守る盾”なんだ。昔だろうと今だろうと、やり方は違っても守っていたと思うけど」

「ほんとにぃ?」

 疑うような、それでいて小悪魔のような表情で僕に訊ねて来る。

「ほんとだよ。それに、理沙が他の男と喋っているのとか、想像したくないし」

「涼は独占欲が強いんですなぁ」

 お茶を濁すような言い方をしているが、理沙はどことなく嬉しそうである。


 むず痒い。もっと自然に話を出来ていたはずなのに、僕だけじゃなく理沙も深層を確かめようとしているからか、どことなくぎこちない。


「あんまり心配はさせないでよ。現実の僕じゃ、守れることにも限度があるから」

「分っかりましたぁ」

 なぁんか、恥ずかしさを隠している感じだな。いつもの理沙らしくない。でも、少し間を置けばいつも通りに戻ってくれると信じよう。そうなると、あとは倉敷さんか……。

「チェックインの手続きが完了致しました。わたくし共が皆様をお部屋へご案内させて頂きます。二人、二人、三人の計三室のご予約となっておりますが、お部屋の割り当てはもう成されていらっしゃいますでしょうか?」

 旅館の方が訊ねて来たことについて、啓二さんだけでなく大樹さんまでも含めて、全員で首を僅かに横に傾げた。

「成されていらっしゃらないようでしたら、ご相談の上、再度、フロントの方へお声を掛けて下さい」

 その光景からこちらの状況を察したらしく、旅館の方々は苦笑いを浮かべながらフロントへと戻って行った。


「部屋割りって、女性、女性、男性じゃないんですか?」

「はい! あたし、良いこと思い付いた」

「お前はちょっと黙っておいてくれ」

 僕の問い掛けを即行で潰しに掛かって来た奈緒が提案するであろう怖ろしいことを本能的に察知し、強く強く言葉にする。


 女性二人、女性二人、男性三人。これで割り振ればなんの問題も無い。


「兄妹、兄妹、君とあと二人という組み合わせもある」

 今だけ心の中で罵声を口にしよう。このシスコン! 共同生活を送っているから男女での生活について特段、意識していないんだな!? ついでに妹とこの機会に不仲だった関係を少しずつ改善させて行きたいと見える。

「あー、有りっちゃ有りだな」

 あんたもあんたで異父妹との間にある壁を取っ払いたいという意思が見え見えなんだよ! なんでだよ! どうして僕をそう辛い環境に追い込むんだよ!

「あたしが兄貴と? 兄貴と一緒の部屋よりも涼の兄貴と同じ部屋が良いなぁ」

「お前は僕をどうしたいんだよ」


「だって、一度、同じ部屋で生活していたしそんな変わらないかなーって。まーでも、兄貴とは『Armor Knight』での立ち回りについて色々教えてもらいたいこともあるし、そっちでも良いよ」

 お前、ふざけんなよ。大樹さんが共同生活をしていた家で確かに同じ部屋を使っていたけど、それとこれとは話が別なんだよ。それはカミングアウトしなくて良い情報なんだよ。だってほら、なんかもうそういう雰囲気じゃん。兄妹、兄妹、僕と倉敷さんと理沙みたいな雰囲気じゃん。それ違うじゃん。


「でも、それだと立花君がかわいそうだと思う」

「さすがに男一人は……ね」

「私と立花君で一室っていうのも別に構わないけど。そりゃ、兄さんと沢山、話をする機会だから、そっちにも心が惹かれるけれど立花君がどうしてもって言うなら」

 望月が助け船を出してくれたと思ったら、それは海賊船だったみたいな言葉の引っ繰り返り方が起こったんだけど、どうやら気のせいでは無いらしい。

「それはさすがに涼が倒れちゃうから、幼馴染みの私とでも構わないけど?」

 構うんだよなぁ、大いに構うんだよなぁ。

「それなら私も別に気にしない」

 気にするんだよなぁ、大いに気にするんだよなぁ。


「待って。待って待って待って。なんで僕の意見は無視される方向にあるの?」

「そりゃ立花君の提案って大体、意地が悪いから」

 意地が悪いのは倉敷さんだと思う。


「どうやら、こうして話し合っていても答えは出て来ないな。あみだくじで決めよう」

 大樹さんがロビーにあったメモ用紙とペンでサラサラと綺麗な縦線と書き、しばし悩んだのちフロントへとそれを持って行き、しばらくして帰って来た。

「俺が番号を書いても良いが、憶えてしまっていては元も子も無いからな。もう折り畳んで見えないが、番号の1から3を書いてもらうように頼んだ。1と2は二つずつ、3は三つずつあるはずだ。同じ番号同士で部屋割りとしよう」

 そう言いつつ大樹さんはペンで横線を二本ほど書いて、ペンと共にメモ用紙を隣の啓二さんに回す。啓二さんも横線を書き加え、隣の望月に……とこれを全員がやったのち、じゃんけんで名前を書く順番を決める。悲しいことに、こういう時に直感力は働かない。何故なら、僕は人間関係を大切に思うようになったからだ。なので、じゃんけんでも普通に負ける時には負ける。負けたくない時に限って負けているような気もする。特に今。

「ほら、立花君の番よ?」

 倉敷さんからペンを受け取り、僕は残されたスペースのどこに名前を書き入れるべきか悩む。やっぱり、直感的に“ここだ”というものが浮かび上がらない。いや、そもそも男三人の部屋割りになる確率自体がもう存在していないからなのかも知れない。僕の望む部屋割りが無いのなら、どこを選んだって一緒である。比較的、気楽なのは奈緒と理沙と大樹さん。間を取って、望月。啓二さんと倉敷さんだけは避けたい。人として嫌いでは無いけど、話が絶対に続かないから。


 次の人を待たせるわけにも行かないので、悩みに悩んで決めたスペースに自分の名前を書き入れる。そして大樹さんにペンを渡した。


「それじゃ、どういう部屋割りになったか見てみようか」

 望月を最後に名前を書き入れるのが終わったので、大樹さんが折り畳んでいた部分を開き、全員が自身の名前から連なる縦線と横線を追い掛ける。


 ……あみだくじでイカサマって出来るんだっけ? え、なにこの盛大な時間の無駄さ加減は?


 僕は冷や汗を流し、その結果に『マジかー』と、(うずくま)るのであった。

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