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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第五章 -Advance-
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三人目

 理沙とほのぼのとした会話をしている内に時間は過ぎ、倉敷さんと交代になった。このシステム、相手に負担しか掛けないから帰りではこんなことにならないよう奈緒にはキツく言っておかなければならない。


 それにしたって、辛い。キツい、苦しい。


 嫌だなぁ、倉敷さんの隣に座っているのって。だって僕とじゃ釣り合いが取れていない。それに、この距離感は耐えられない。病室で手と手を重ねた時も結構な距離だったけど、あの時は緊急事態だったしそれほど気にしていなかったけれど、緊急事態でないのなら気にする。ただでさえ、この前の倉敷さんのマンションに赴いた時だって、緊張から逃げ出してしまいそうだったくらいだ。それをまた味わわなければならないなんて、緊張し過ぎてお腹の内側がキリキリと痛む。

 あーもう、綺麗過ぎるんだよ。なんでこんな美人なんだよ。そして、なんで話し掛けて来ないんだよ。なんでさっきから若干、俯き加減で表情に余裕が無いんだよ。そういう人じゃなかったじゃないか。もっとこう、上から目線ではないけれど、それなりに喋る人じゃん。そっちから話題を振ってくれないと、僕はまた変なことを訊ねそうだから黙って待っているというのに、この雰囲気は喋っているよりもはるかに苦しいものがある。

 でも、話さないで良いというのはそれはそれで気負わずに済むという点では良いのかも知れない。いや、でも、うーん……。

「倉敷さん?」

「はい、なんでしょう?」

「なんで敬語?」

 その反応はなんだ? え、「私とあなたとでは住んでいる世界が違うのよ」的な? そういう意味での敬語? そんな感じなの?

 でも、この突然、敬語を出してしまうことについては彼女の家にお邪魔した際に露見していることだしなぁ、さすがにそこまで壁を作られているわけじゃないとは思う。

「そ、そもそも立花君が話さないのが悪い」

「え、この雰囲気の悪さは僕のせいなの?」

 責任転嫁も甚だしい。だったら僕の隣に来なければ良かっただけの話じゃないか……けれど、来たんだよなぁ……なんで来たんだよ……。

「だってそうじゃない。女の子を飽きさせないために男は必死になって話題を出すものでしょ?」

「僕、そんな喋る方じゃないって分かっているんじゃ」

「そうだとしても、こういう時は男から話題を振るものなの!」

 全国の男に訊きたいことを捲し立てて来たが、しかし、その調査結果を予め僕が知っていたとしてもこの人は自論をゴリ押しして来るのは分かっていることなので、もう敢えてそこにツッコミを入れたりはしない。

「僕と倉敷さんで共通の話題ってなにかある?」

「そりゃ少しはあるでしょ! 探してよ、探してみなさいよ」

 少し命令口調なのが癪に障るのだけど、ちょっと調子を取り戻して来ているんだろう。そういうことにしておこう。

「えーっと、それじゃ質問なんだけど、いつもは僕に色々と言って来る倉敷さんがどうして今日はそんなに物静かなの?」

「それは……その、そういう日もあるってことよ」

 答えになっていない答えを出されてしまったら僕は質問の答えから会話を広げようにも広げられない。それって僕に限らず、ほとんどの人がそうであると思いたい。

「みんなと大富豪をしていたみたいだけど、負け越してばかりだったんだって?」

「ああいう頭で考える遊びは苦手なのよ」

「いや、『Armor Knight』も頭で考えるゲームだけど」

「あれは別の頭の使い方をするでしょ。操縦もそうだけど、その時、その場合の判断っていうか。トランプだと手札をどう残したら良いのか考えるのは苛々するし、ババ抜きで相手の顔を一々、確認するのも面倒臭いし」

「カードゲーム全般が無理なんだ?」

「なんかこう、組み立てられないのよ。勝ち筋みたいな、そういうプランを」

「……ひょっとして落ちゲーも無理なタイプ?」

 落ち物ゲー。いわゆる上からブロックやゼリーみたいなものが様々な形で落ちて来るので、自由に重ねることで消して行く。ブロックなら列が揃うと消えて、ゼリーの場合は色が揃うと消える。対戦だとブロックは積みの速さ、ゼリーだとそこに色の積み方も加わって非常に高度な戦いとなる。

「大っ嫌い。積み方に形があるって言われたって出来ないし、連鎖を繋げるっていうプランが組み立てられない」

「じゃぁルービックキューブは?」

「絶対に揃わない」

 なんだろうな。頭より体を動かすタイプなのかな。頭脳タイプじゃなくて脳筋? でも、僕みたいな勘に特に優れているわけでもないし……倉敷さんのゲームタイプが分からない。向いている向いていないの差が大きい人だと思う。苦手な物は苦手、得意な物はとことん得意みたいな。

「ローグライクゲーは?」

「嫌いじゃないわ。目標の階に到達するまで一から始めるって部分が大きいわね。持ち込み可能なダンジョンに潜るのも徐々に楽しくなって来るし」

「ハック&スラッシュは?」

「作業ゲーって言われるけど、レベルが上がるごとの戦術の幅が増える感覚は、独特ね」

 ん~、つまりこの人自身が言っていた「作業ゲー」とか『御遣いゲー』が好きなのかも知れない。だったら『狩りゲー』も得意そうだな。あれも頭使うというより、咄嗟の判断力が全てだし。

「って言うか、そんなことを訊いてどうするの?」

「倉敷さんがどんなゲームが好きなのか興味があったから」

「そ、そう」

 好きなゲームのジャンルで分析なんてやめにしよう。僕が倉敷さんの立場になって考えてみよう。相手が分析する目的で色々と質問していると知ったら、それまで話していたこと全てが、“会話”ではなく“情報”になってしまう。それって、なんだか自分を見られていないような、或いは見られているとしても目の前の自分について知ろうとしてくれていないというか、深みを探りに来すぎていて気持ちが悪い……ような気がする……多分。

 大体、新幹線を降りたあとにだって話をする機会は幾らでもあるわけで、僕はその度に倉敷さんを分析するような質問を繰り返すのか、っていう部分に不安があった。なんかちょっと、嫌だなぁって。もっと普通に話をしたいな、と。

 怪訝そうに倉敷さんは僕の様子を探って来る。

「嘘はついてないよ。あと、そんな風に見られても、深い意味は無いから」

 僕の腹の内を探ろうというのが見え見えだ。

「ほんと?」

 反射的に視線を逸らしてしまった。


 この人は、卑怯だ。上目遣いで見つめながら、ついでにちょっと寂しげにそんな言葉を向けられたら、頭がどうにかなってしまいそうになる。そのまま見つめていたら瞳の奥に吸い込まれて、頭の中身が全部、(とろ)けてしまいそうだったので、反射的に視線を逸らしたのはきっと僕の防衛本能が働いたのだ。美人の怖ろしさを思い知った。

 美女一人で国が滅びかねないとか、傾国の美女とか、そんな昔の話なんて眉唾物(まゆつばもの)としか思わなかったけど、今日になってその話を信じることにした。


「あ、視線逸らした」

「い、今のは仕方が無いことなんです」

「なんで敬語?」

 テンパらせたのは倉敷さんなのに、どうしてそんな疑問をぶつけて来るんだ。あーもう、違う違う違う。消せ消せ消せ。消去消去消去。削除削除削除。浮かれるんじゃない。さっきの表情一つで、なにもかも放り出しそうになるんじゃない。

 こんなのは僕らしくない。僕らしくない、僕らしくない。


 脳内の妄想を全て消し去って、ようやく高揚感から離脱し、小さく息をゆっくり吐いて感情を落ち着かせて行く。


「さっきから挙動が怪しいんだけど?」

「僕はいつもこんな感じだから」

「なら、旅行先で職務質問だけは受けないでね。ああ、この歳だと補導になるのかな」

「気を付けるよ」

 さて、話は一段落したけれど……あとで「私だけ訊かれていない!」という事態は起こらないだろうし、そしてこの人がそんなことで怒ったりもしないだろうとも思っていて、なにもかも僕のただの妄想に過ぎないんだけど、一応、訊いておこう。これで三人に同じ質問をしたってことで、三人の間で変な空気にはならないだろう。僕が変な人だと思われてしまいそうだけども。

「倉敷さんの、」

「ん? なぁに?」

「……倉敷さんの好きな男性のタイプは?」

 なんの不安も抱いていない、更に甘い感じの返事にやられてしまいそうになったが、言い切っておいた。

「そ、れはなにか深い意味があるの?」

「は……? え、あ、いや、そんな深くは考えなくて、良いかな」

 思わぬ質問に、狼狽する。なんだかちょっと睨んでいるし、やっぱり訊くべきじゃなかったかな。いや、これ睨んでいるって言うのかな。ちょっと頬が朱に染まっていて、両手はギュッと膝の辺りで拳を作り、瞳には動揺の色もある。それを見ていると、なんだかこっちまでドキドキする。恥ずかしい、みたいな? それとはまた少し別の、言葉では言い表すことのできない感情がなにやら渦巻いているようにも受け取れる。

「しゅ、趣味が合う人、かな」

 語意を強めにしつつ、倉敷さんから答えが返って来た。

「そんな漠然としていて良いの?」

 理沙にも訊いたことを僕は倉敷さんにもやはり訊ねていた。だって、心配になる。こんな綺麗な人が、趣味が合うってだけでどこの馬の骨とも知らない男と付き合うなんて、許されないだろ。待て、待て待て待て。違う。許してないのは僕だ。そういう妄想をしたら嫌になって、誰もがそう思うだろうという勝手な決め付けをしてしまっている。

 ならば、この気持ちは嫉妬なのかな。倉敷さんと仲良くする僕以外の男に向けているのだから、恐らく間違いない。

「私は、かなり神経質だし、身持ちが堅いから大丈夫なの」

「自分で断言できるなら、僕も安心できそうだけど」

「なんで立花君が安心するの?」

「……あれ? なんでだろう…………待って、上手く考えを纏められそうにない」

「そんなに急がなくて良いから。なんなら、半月ぐらい待てるし」

「さすがにそこまでは待たせないから。旅行から帰る時までには、纏めるから」


 思わぬ課題が出来てしまった。

 けれど、これはきっと大切なことなんだ。「安心できそう」と安易に口にしたけれど、僕は倉敷さんが「身持ちの堅い」ことに、どうして安心するのか。

 恐らくだけど、さっき感じた嫉妬と深く関わることだとは思う。

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